ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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2025/10/31
フレア団の活動時期(XY本編)を10年前から5年前に変更。


Lv.80「悪しき狂想」

 その時のニュースを、5年経った今でも覚えている。

 

 

 

『──ホロキャスターを持つポケモントレーナーたちよ、心して聞いてほしい。これよりフレア団は最終兵器を復活させ、我々以外を消し去り、美しい世界を取り戻す』

 

 

 

 誰が何をしでかして、その結果として何が起き、最終的にどうなったのか。

 そのほとんどが、今でも謎に包まれており、一般には解明されていない事も多い。

 

 あまりの謎の多さに、何らかの勢力(カロス政府や国際警察、中にはフレア団の残党の仕業なんて言う人もいる)によって情報が検閲されている……なんて陰謀論すら出回ったほどだ。

 

 ただ分かっているのは、当時のカロス地方における通信インフラ「ホロキャスター」の開発者が、各地で事件を起こしていたテロ集団の首魁だった事。

 そして、大規模破壊兵器を用いて、カロス地方──ひいては、世界全体に対する攻撃を行おうとしていた事。

 

 

 

『何も生み出さない輩が明日を食い潰していく……このままでは、世界は醜い争いで覆われてしまうでしょう。繰り返します! フレア団は最終兵器を使い、世界を一新します!』

 

 

 

 だが少女は、その時のニュースを、5年経った今でも覚えている。

 

 地中から現れた巨大な“最終兵器”によって、セキタイタウンの建物が軒並み破壊され、まるで災害に見舞われたかのような光景を。

 “最終兵器”に注ぎ込む為のエネルギー源として、10番道路の列石に縛り付けられていたポケモンたちの苦しむ姿を。

 

 そして、その“最終兵器”より撃ち出されたエネルギーが、“最終兵器”自身へと命中し、セキタイタウンの大穴へと崩れ落ちていった──その一部始終を映した、ニュース映像を。

 

 誰が何をしでかして、その結果として何が起き、最終的にどうなったのか。

 そのほとんどが、今でも謎に包まれており、一般には解明されていない事も多い。

 

 ただ──

 

 

 

『フレア団以外の皆さん、残念ですが──さようなら』

 

 

 

 ソラは、とても恐ろしいものを見たと。

 事態が収束するまでの間、布団にくるまって震えていたのを、5年経った今でもよく覚えている。

 

 

 

 

 

 

「ハ──所詮はジャリボーイ、我らの実力に臆したか! ならば畳み掛けろ、パタパム!」

 

 

 “むしのていこう”を受け、粘ついた光に囚われる一同へ、更に“おいうち”をかけんとヴォイド団が迫る。

 ソラたちが相手取っている2人の内、男の方がソラたちを指差し、その指示に従うようにしてパタパムが宙を舞う。

 

「“まきつく”だ!」

「ぱぁーむっ!!」

 

 

《あいての パタパムの まきつく こうげき!》

 

 

 小柄ながらもしなやかな、へびポケモン然としたフォルム。

 あの胴と尾に巻き付かれ、絡め取られてしまえば、そう簡単には抜け出す事など叶わないだろう。

 

 そして、相手が今にも飛びかかろうとしている対象は、びぃタロ。

 彼は今、“むしのていこう”から受けた粘着質なむしエネルギーによって、脚部と地面が縫い付けられてしまっている。回避は困難だ。

 

 

(今、びぃタロに動けなくなられるのは拙い──っ)悪いウェボム、頼む!」

「むきゅっ!」

 

 

 リクの意図を察し取ったウェボムは、嫌な顔のひとつもせず、それに応える。

 

 自身に“まとわりつく”粘り気を燃やして引き剥がし、一息で跳躍。

 びぃタロへ絡みつこうとしていたパタパムの眼前へと割って入り、逆に自らがその攻撃を受けた。

 

「む、ぎゅい……っ!?」

「ぱたらららぁーむ……!」

 

 

《ウェボムは あいての パタパムに まきつかれた!》

 

 

 細く長い胴体が、尻尾が、ほのおグモポケモンの小さな肢体すべてを捉えるようにして巻き付き、締め上げる。

 

 それによって受けるダメージそのものは、決して大きくはない。

 けれども、全身に絡みつかれる事による拘束状態(バインド)と、それに伴う継続的な負荷(スリップダメージ)は、とてもじゃないが馬鹿にできたものではない。

 

 

《ウェボムは まきつくの ダメージを うけている》

 

 

「きゅ、むしゅぅ……っ、むきゃみっ……!」

 

 事実、巻き付かれたウェボムの漏らす声は、苦痛に満ちたか細いものだ。

 長期戦ともなれば、まず確実に、決着よりも先に彼女の体力が尽きるだろう。

 

 

「ハハッ! 他人のポケモンを優先して、自分のポケモンを捨て石にするか! 美しい友情だなぁ、まったくお笑いだ」

「……っ」

 

 

 男がしたり顔を浮かべ、嘲りの声を投げかけてくる。

 女の側も、言葉こそ発していないものの、こちらを嘲笑するような顔つきを隠しもしていない。

 

 そんな彼らの態度に、ソラはただ唇を噛む。

 リクが何故、そのような判断をしたのか。それを理解しているからこそ、反論のし様も無かった。

 

 2人の手持ちの中で、最も成長(レベルアップ)しているポケモンは間違いなくびぃタロだ。

 同時に、唯一進化を経験しているポケモンでもある彼は、ソラたちの最高戦力と言って相違は無い。

 

 だからこそ、びぃタロをここで倒させる訳にはいかない。

 リクはそう判断してウェボムに指示を出し、彼女もまたそれに従った。

 

 けれどもそれは、ヴォイド団の男が嘲る通り、自分のポケモンを盾代わりに使う行為でもあるのだ。

 

 腰のボールホルダーで揺れるモンスターボールが、やけにうるさい。

 その振動が、少女の焦りをより誇張していくようで……

 

 

 

「そう暗い顔すんなよ、ソラ」

 

 

 

 狭まりかけた視界を、傍らの少年が言葉で以てこじ開ける。

 目に映る彼の姿は、自分と同様、粘着質な光弾に纏わりつかれ、思うように身動きが取り難い状態にあった。

 

 

「別に、捨て石とか盾とか、そういうつもりで庇ったんじゃねぇよ。おいらたちが勝つ為に必要な事だ。ウェボムだって、その事は分かってる筈だ」

「でも……」

「こういう時こそ冷静(クール)になれよ。それがあんたの強みだろ?」

「……うん、分かってる」

 

 

 背に張り付くじっとりとした焦りを、深呼吸で冷ましていく。

 脳に酸素を巡らせ、“よわき”から凝り固まっていた思考を、徐々に揉み解す。

 

 そうして定まった視界の中に──ふと、違和感を抱いた。

 

 

(……あれ?)

 

 

 正確には、これまで漠然と感じていた違和感に、かっちりと名前がついた、と言うべきか。

 

 少女の意識の焦点。

 それは、ヴォイド団の繰り出した2匹のポケモンへと向けられていた。

 

 

「……気付いたか?」

「多分、リクとは別の意味で。わたしはあなたほど鼻は利かないから」

「それもそうか。……あいつらのポケモンから、()()()()がプンプンする。ポケモンがあの匂いを生み出してるというよりは……多分、()()()()()()んだと思う」

 

 

 彼が何を言いたいのかは、容易に理解できた。

 

 これまでにリクが何度も主張してきた「嫌な匂い」──嗅覚に鋭い彼が不快だと語るそれを、そっくりそのまま嗅がされたと思しきポケモンたち。

 それが決してポジティブな意味では無い事など、どんな馬鹿にも察しがつくだろう。

 

 

「……わたし自身、ポケモンに詳しいとは胸を張って言えないし、彼らの気持ちが完璧に分かる訳でも無い。でも……分かるの」

 

 

 そして、もう1つ。

 ソラだからこそ知覚できる視点があった。

 

 

(ポケモンは嘘をつかない。彼らは、自分の感情や意図を隠す事は無い)

 

 

 父・クレオメ博士の教え。

 少女の価値観にすっかり染み付いたそれは、彼女がポケモンを理解する為の重要なファクターとなっていた。

 

 故に、分かるのだ。

 ハヤシタとパタパム。ヴォイド団の2人が従えるポケモンたち──彼らは。

 

 

 

「あのポケモンたち……()()()()()()。まるで、何かに駆り立てられているみたいな……ううん。恐怖や怒りで我を失ったみたいな、そんな感じがする……!」

 

 

 

 見開かれた瞼。血走った目。揺れる瞳孔。

 剥かれた歯は噛み締められていて、その隙間から荒い呼吸が出入りする。

 

 さながら、パニック映画の登場人物が演じる強迫観念(パラノイア)のようだ。

 敵を排除しようとする野生のポケモンでさえ、あれほどの狂奔に浮かされる事は無いだろう。

 

 もしもそれが、リクの言う「嫌な匂い」によってもたらされたものであるならば。

 そしてそれが、ヴォイド団なる彼らの手によるものであるならば。

 

 

「ハッ、何を言うかと思えば……こいつらは、神の戦士たる我らの忠実なる(しもべ)、即ち神の(しもべ)も同義! 我らの()()によって神の加護を授かり、神の戦士の名に相応しい強壮を得たのだ! お前たち凡百のジャリボーイなぞ、歯牙にもかけぬ力をな!」

 

 

 その事を指摘され、男は憤るでも侮蔑するでもなく、むしろ誇るように語り始めた。

 まるで彼らにとっては、それが正しい事であり、必要な事であると言わんばかりに。

 

 

「我らはこの力で、今ある世界を粛清するのだ! お前たち“マハルの民”、そしてポケモンどもの命! それらを“ヨミガミさま”に捧げ、信仰を証明する。それこそが、ヴォイド団の使命!」

「“ヨミガミさま”は偉大な存在だわ。あくまで助祭(したっぱ)に過ぎない私たちにも、強壮の加護をお与え下さった。私たちは選ばれし存在……深淵の神にお仕えする戦士なの! あなたたちのような木っ端が、我らの大義を邪魔立てするなんて片腹痛いのよ!」

 

 

 女の側も同様に、恍惚とした笑みを携え、どこか悦に入りながらそう謳う。

 熱に浮かされたかのように、己の正しさと使命を誇示する様は、どこか演劇の役者めいたものを感じさせるようで。

 

 秘術、というのが具体的にどういうものかは分からないが、恐らくはリクの言う「匂い」や、ソラの見た「我を失っている感じ」に関係のあるものなのだろう。

 様子を見る限り、ポケモンの心身に負担のかかるものである事は明らかだ。

 

 そして、彼らが度々口にする言葉。

 “マハルの地”の人々やポケモンを殺し、自分たちの神に捧げる──それこそが彼らの使命であり、大義であるという。

 

 

(……なんで、こんな事ができるんだろう。なんでそれを、平然と誇れるんだろう)

 

 

 何故、彼らがそのような思想を持つに至ったのか。

 何故、彼らはこのような事態を引き起こしたのか。

 

 それを知る術を、今の少女は持ち得ない。

 けれども。

 

 

「我らとて、鬼畜外道ではないからな。降参するというならば……そうだな。お前たちを思う存分痛めつけた後、お前たちのポケモンをすべて我らに差し出す程度で許してやろう。どうだ、悪い話ではないだろう?」

「……やっぱり」

「む?」

 

 

 再び顔を上げ、目の前の相手を見据えた、その時。

 ソラは──その目に怒りの炎を灯し、歯を食い縛りながらに、2人を睨みつけていた。

 

 

 

「やっぱり、許せない! 使命だか大義だか知らないけど、そんな事の為に、自分たちのポケモンをそんな風にして……それで、他の人やポケモンを傷つけるなんて! わたし、あなたたちみたいな人の事、絶対に許せないんだから!」

 

 

 

 それは、紛う事無き義憤だった。

 

 ルスティカ博士を傷つけられた怒り。彼女のポケモンたちを奪われた怒り。

 そしてそれらの為に、自分たちのポケモンにさえ、非道な真似をする事への怒り。

 

 そのすべてが一気に爆発して、少女の脳を縛ろうとしていた焦りや混迷を、一切合切吹き飛ばす。

 懐で大きく揺れるモンスターボールを手で抑えつけ、少女は眼前の敵へと意識を集中させた。

 

 

「ハッ! そう吠えたところで、お前たちに何ができる!? 現に我らは、お前たちを追い詰めているではないか!」

「それはどうかな。おいらたちはまだ、勝つ事を諦めちゃいないさ。──そうだろ、ウェボム!」

ぎゅっ……む、しっきゅーっ!!

 

 

 呼びかけに応え、締め付けられながらもなお、足掻き続ける赤いフォルム。

 その眼前では、パタパムがギラギラとした目でこちらを()めつけていた。

 

 まだ反抗する力が残っているのか。

 そう言いたげに目を細ると、彼女を締め付けている己の肉体により力を込め──

 

 

「どんなに“めいちゅうりつ”が下がってても、その距離じゃあなぁ! ──“ひのこ”だ!」

「むしゅっ──むきゃー、まっ!!

 

 

《ウェボムの ひのこ!》

 

 

 今度こそ、火球は放たれるべき相手へと放たれた。

 

 “まきつく”攻撃によって、相手と至近距離──それこそ肉体が密着するほどのゼロ距離にまで近付けたからこその、奇策。

 牙と牙をと打ち付けて生成された火花は、火球へ育ち切ると同時に、「射出」とすら呼べないほどの位置で爆発する。

 

「ぱ、いむぅ──!?」

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

 

 鼻先で炸裂した炎は、むしタイプのパタパムには効果てきめん。

 いくら“とくこう”が下がっているとは言っても、“こうかばつぐん”タイプ一致の攻撃をこんなゼロ距離で受けてしまえば、大ダメージは不可避が道理。

 

 そして、顔面の間近で爆発が起きれば当然、その衝撃と爆風で、首は後方へのけぞるもの。

 そこに、拘束から抜け出せるだけの間隙が生まれるのだ。

 

 

《ウェボムは まきつくから かいほうされた!》

 

 

「むしゅっきゅ!」

「っ、何をしているの……! ハヤシタ、その羽虫に“フェイント”よ!」

「ででっとぉーっ!」

 

 己を締め付けるパタパムの胴から解放され、まんまと脱出に成功するウェボム。

 

 もっと痛めつけるつもりでいたのをフイにされて怒ったのか、それとも格下のガキと侮っていた相手に意表を突かれたのが癪だったのか。

 ヴォイド団の女は半ば焦ったように声を荒げ、自身のポケモンに追撃の指示を下す。

 

 だが、彼らは知る(よし)も無い。

 

 

 

「させない! ──“アクアジェット”を重ねて“れんぞくパンチ”!」

 

 

 

 ソラという少女は、どんなに苦戦し苦悩しようとも──()()()を掴む機敏に関しては、他の追随を許さない。

 

 

「エッ──ビぃアぁッ!!」

 

 

 体より湧き出す水流が、体表のベタベタとしたむしエネルギーを綺麗さっぱり洗い流す。

 その勢いを押し留める事はせず、むしろ流れを後方へ吐き出す事によって、ロケットさながらのスピードで前に向かってかっ飛んだ。

 

「でっ──!?」

「ビぃイッ!!」

 

 

《あいての ハヤシタの フェイント こうげき!》

 

《びぃタロの れんぞくパンチ!》

 

 

 全身を流れる水のエネルギーは、びぃタロの両腕にも宿り、繰り出す拳の速度を飛躍的に向上させる。

 

 まず1撃目は、相手の“フェイント”に受け流され、不発に終わる。

 だがそこへ2撃目、3撃目が立て続けに捩じ込まれ、ハヤシタの矮躯を敵陣営へと大きく後退させる。

 

 

《2かい あたった!》

 

 

「チィッ、猪口才ね……!」

「ジャリボーイの分際で、まだ抵抗するか!」

 

 手痛い一撃によって、ハヤシタとパタパムはともに、自分のトレーナーたちの下まで戻らざるを得なくなる。

 侮ってかかっていた相手からの思わぬ反撃を受け、ヴォイド団の2人は苛立たしげに少年少女を睨みつけた。

 

 

「やったな、ソラ! シェラさんとの決闘(バトル)で学んだ“わざの組み合わせ”、もうモノにできたのか!」

「半ばぶっつけなのは変わらないけどね……! けど、1回でもコツを掴めたびぃタロなら、また再現できると信じてたから。でしょ?」

「ビーぃ!」

「ほら、びぃタロだってこう言ってる。……ウェボムもありがと。あなたが庇ってくれたおかげで、状況を打破できたわ」

「むっきゅ! むしっきゅ~♪」

 

 

 鼻息荒く自己を誇示するびぃタロに、ソラから感謝されて嬉しそうに体を揺らすウェボム

 彼らの繰り出したわざの余波(爆発による熱波や、水流から生じた水飛沫)のおかげで、ソラたちの体についたネバネバも脆くなり、簡単に剥がせるようになっていた。

 

 ここに、状況はリセットされた。

 依然として脅威は続いているが、それでも()()は確実に変わりつつある。

 

 

 

「行けるな?」

「うん。頭も冷えて、そろそろ()()になれそうな感じ。勝つよ!」

「応!」

 

 

 

 2人のポケモントレーナーは決意を新たに、今一度、目の前の敵へと対峙した。

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