ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.81「(いか)りの閃光」

「決めるよ、びぃタロ! “グロウパンチ”を重ねて“れんぞくパンチ”!」

「エビぃア!」

 

 

 先の攻防の折、“むしのていこう”による拘束は失われた。

 もう、今の彼らを阻むものは何も無い。

 

 心底から滾るパワーを両腕に乗せて、びぃタロが地面を蹴る。

 彼の“すばやさ”であれば、この程度の直線距離、“アクアジェット”を使わずとも一瞬で肉薄するのは造作も無い事だ。

 

 

「調子に乗りやがって……! パタパム、迎撃しろ!」

「ハヤシタ、あなたもよ! パタパムに“てだすけ──」

「させるかっ! “ミサイルばり”だ!」

「むきゅーっ!!」

 

 

《ウェボムの ミサイルばり!》

 

 

 ハヤシタが太鼓を叩こうとした刹那、無数の針弾幕が飛来する。

 

 “すなかけ”の影響からは未だ脱し切れていない以上、“ミサイルばり”の命中はそれほど期待できたものではない。

 けれどもここで重要なのは、命中する事ではない。相手の動きを邪魔する事なのだ。

 

 

「ででっ……で、でっと……っ!?」

「くっ……! “ミサイルばり”が邪魔で“てだすけ”できない!」

 

 

《こうかは いまひとつ のようだ……》

 

《2かい あたった!》

 

 

 辛うじて、2発は命中する。

 だがそれ以上に、命中しなかったものも含めて、相当数の針がハヤシタの周囲を飛び交った。

 

 そんな状況で、落ち着いて太鼓を叩く暇などある訳が無い。

 結果として、動きを封じられたハヤシタの下へと、ウェボムが飛びかかるように接敵し──

 

 

「エッ──ビぃぃぃぃぃアッ!!

 

 

 その隙を、青の拳が穿つ。

 

 

《びぃタロの れんぞくパンチ!》

 

 

「ビぃッ!!」

「ぱみぃ……っ!?」

 

 

 ガラ空きになったパタパムの懐へ、まずは1撃。

 

 “れんぞくパンチ”はノーマルタイプのわざ。

 しかし、そこに重ねられた“グロウパンチ”はかくとうタイプのわざであり、むし・ひこうタイプのパタパムには“こうかいまひとつ”──どころか、ダメージが1/4まで軽減されてしまう。

 

 それに加えて、最初に受けた“いかく”の影響で、びぃタロの“こうげき”は1段階下がってしまっている。

 そんな状況で撃ち込んだ一撃だ。与えられる痛打など、たかが知れている。

 

 だが。

 

 

《びぃタロの こうげきが あがった!》

 

 

 2撃。

 

 

《びぃタロの こうげきが あがった!》

 

 

 3撃。

 

 

《びぃタロの こうげきが あがった!》

 

 

 4撃!

 

 

《びぃタロの こうげきが あがった!》

 

 

「なっ……ダメージが、どんどん上がっていく……!?」

「“グロウパンチ”は、打ち込むほどに“こうげき”が上昇するわざ。それを連続で打ち込めば、“こうげき”は際限なく上昇するわ!」

 

 

 それは、シェラとの決闘の儀(ジムバトル)で会得した技術(テクニック)だ。

 

 彼女から学んだ“わざの組み合わせ”を、びぃタロはたったの半日で習熟しつつある。

 彼の持つ潜在的な才能(ポテンシャル)は、進化による素質の開花──“種族値”の向上と合わせて、彼の実力を一気に押し上げていた。

 

 

「っ、小娘が舐めてくれるな! “むしのていこう”で動きを封じろ!」

「ぱっ……ぱ、ぃあーっ!!」

 

 

《こうかは いまひとつ のようだ……》

 

《4かい あたった!》

 

《あいての パタパムの むしのていこう!》

 

 

 再び、黄緑の閃光が放たれる。

 粘着質な光の弾は、至近距離であるが故に、そのすべてが対面のびぃタロへと命中する。

 

「ビっ……!」

 

 タイプ相性の観点から、被ダメージは微々たるものである事は先にも語られた通り。

 だが、そのネバネバとした光弾が体に纏わりつき、動きを鈍らせる事で、“れんぞくパンチ”はそこで中断されてしまう。

 

 

《こうかは いまひとつ のようだ……》

 

《びぃタロの とくこうが さがった!》

 

 

「今だ! 動きを封じている内に、その雑魚エビを──」

「ええ、今よ」

 

 少女と、したっぱの男の目が合った。

 彼の視界に映る少女は、まだ諦めてなんかいない。

 

 

 

()()()!」

「エビっ──ビぃっ!

 

 

 

《びぃタロは オトーのみで すべての ステータスが もとに もどった!》

 

 

「エビウぅ、マっ!!」

「なっ、きのみだと……!?」

 

 

 ルスティカ博士と再開した時、彼女が貪り食っていたきのみの盛り合わせ。

 その中に混ざっていた“オトーのみ”を、ソラはこっそりと拝借し、相棒に持たせていたのだ。

 

 能力が2段階──所謂“がくっとさがった”タイミングで食べる事により、自身に起きている能力変化のすべてを打ち消す。

 シュワッと弾ける“オトーのみ”の果汁は、びぃタロに活力を与え、その体を縛るネバついたエネルギーを引き剥がすだけの余力をもたらした。

 

 

「くっ……だ、だが! 能力変化がリセットされたという事は、そいつの“こうげき”も下がっている筈! 相性差がある以上、そう簡単にやられは──」

「そっちこそ、忘れてない?」

 

 

 グ、と拳を握る。

 深く腰を落とし、更なる拳撃の構えを取るかいでんポケモンもまた、己の主と同様、闘志を失わないままにそこに立っていた。

 

 

 

「下がった“こうげき”は、また上げ直せばいいだけ。もう1度──“グロウパンチ”を重ねて“れんぞくパンチ”ッ!!」

「──ビぃアぁぁぁアっ!!!」

 

 

 

《びぃタロの れんぞくパンチ!》

 

 

 果たしてそれは、あまりに単純(シンプル)で、強引(パワフル)で、そして無我(バカ)だった。

 

 頑張って上げた“こうげき”が下がったならば、上げ直せばいい。

 タイプ相性なんて知った事か。繰り出す度に“こうげき”の上がる“グロウパンチ”を擦り倒せば、嫌でも威力は上がっていく。

 

 後はそれを、“れんぞくパンチ”に乗せて連打すればいい。

 一体どれだけ? それは当然、倒せるまで!

 

 果たしてそれは、あまりに無我(バカ)で──そして、有効な手立てだった。

 

 

「エビぃッ!!」

「ぱたっ……!? ぱみ、ぃあっ!? む、ぅう……!?」

 

 

《びぃタロの こうげきが あがった!》

 

《びぃタロの こうげきが あがった!》

 

《びぃタロの こうげきが あがった!》

 

 

 回数を重ねる毎に、“こうげき”は上昇し、それに応じてわざの威力も上がっていく。

 “こうかいまひとつ”によるダメージ軽減を加味しても、先の連打と合わせて、パタパムの体力は相当に削れつつあった。

 

 そもそも、“ウェボム”の“ひのこ”をまともに食らっているのだ。

 その時点で既に、体力(HP)はそれなりに消耗させられていた。そこに怒涛の連撃が重なれば──後は、言わずとも分かるだろう。

 

 

「びぃ──!」

「ぱ、ぱた……」

「舐めるな、と……言った筈だ!」

 

 

 4撃目、トドメの一撃が振るわれようとした、まさにその瞬間。

 したっぱの男は、己が導き出せる限りの最善手を閃き、即座に叫んだ。

 

 

 

「“ふきとばし”だ! そいつを引っ込めろ!」

「ぱ、た──ぃあーむっ!!

 

 

 

《こうかは いまひとつ のようだ……》

 

《3かい あたった!》

 

《あいての パタパムの ふきとばし!》

 

 

 残された力を振り絞り、翼が振り抜かれる。

 それによって生じた風は、一種の内に局地的な突風へとすり替わり、自分よりも大柄な筈のびぃタロをも吹っ飛ばすに至った。

 

「ビ……ぃイ、アぁ──っ!?」

「びぃタロっ!?」

 

 吹き飛ばされた先にいたのは当然、彼のトレーナーであるソラ。

 しかし、1人と1匹がぶつかり合う事は無かった。

 

 青色の体躯が衝突する刹那、腰のボールホルダーに収められた彼のモンスターボールが、独りでに震え出す。

 そうしてびぃタロは、ソラが触れる間も無く開いたボールの中へと吸い込まれ、綺麗に収まった。

 

 

(しまったそうか、“ふきとばし”……! 場に出るポケモンごと状況をリセットする気ね!?)

 

 

 “ふきとばし”を受けたポケモンは、強制的にモンスターボールへと戻されてしまう。

 その後、トレーナーの手持ちポケモンの中から、ランダムで別のポケモンが場へ登場させられてしまう、厄介なわざだ。

 

 言わずもがな、ソラの最高戦力はびぃタロである。

 そんな彼が、自身に乗った能力上昇ごと控えに戻ってしまえば、戦闘で生じるロスは必至。

 

 そればかりか……

 

 

「次のポケモンを待つ事は無い! パタパム、“エアカッター”で小娘を引き裂いてしまえ!」

「ぱたぃっ、あーむっ!!」

 

 

《パタパムの エアカッター!》

 

 

 再び薙がれた翼は、今度こそ殺傷力のある風を生み出した。

 触れるものすべてを切り刻む不可視の刃を前に、ただの人間の少女が避けられる術も無し。

 

 掟破りの直接攻撃(ダイレクトアタック)、それも明確な殺傷の意図の下で振るわれたそれに、ソラはどうする事もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ぢゅっ」

 

 

 そう。

 ソラには、己に迫る致命を回避する術は無かった。

 

 あくまでも、()()()()、である

 

 

「ぇ──?」

「ぴ、ぢゅうっ!!」

 

 

 風刃の群れが、少女に到達するよりも早く。

 己へ向けられた殺意に、少女が反応を試みるよりも早く。

 

 誰の手を借りる事も無く、ボールホルダーから飛び出した影ひとつ。

 

 果たして()()は、ボールの中にいた頃から既に、外へ飛び出したくて仕方が無かった。

 それを、ソラが必死に抑えつけながら、目の前のバトルに挑んでいたのだ。

 

 だが、その枷も今は無い。

 “ふきとばし”によってびぃタロがボールへ収まり、次のポケモンを繰り出す必要が出てきた以上──()()が己を留め置く必要など、最早どこにも無かった。

 

 

 

「ぴっ──ぢゃあッ!!」

 

 

 

《ちゆりんが せんとうに ひきずりだされた!》

 

 

 風の刃をぶった切り、突き抜け、打ち消しながら現れたのは、でんきタイプのこねずみポケモン。

 ひこうタイプのパタパムにも有効に渡り合える彼女の名前(ニックネーム)こそ、ピチューのちゆりん!

 

 

「ぱみ──」

「ぢゃあっ、ぢゅーっ!!

 

 

《ちゆりんの ほっぺすりすり!》

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

《あいての パタパムは たおれた!》

 

 

 ウェボムとびぃタロ、2匹のポケモンがここまで削ってくれたのだ。

 “こうかばつぐん”、タイプ一致のヘッドバットが叩き込まれ、満タンにチャージされたでんきエネルギーが、これでもかと注がれた。

 

 

「ぃ、ぁあぁ……」

「なっ、パタパムっ!?」

 

 

 黒焦げになって地に伏せる、よくりゅうポケモンの哀れな姿。

 それに関心を寄せる事も無く、ちゆりんは華麗に着地し、威風堂々と腕を組んでみせる。

 

 

「ちゆりん……いえ、助かったわ!」

「ぴーちゅ!」

 

 

 一体、何が起きたのか。

 それを即座に察し取って、ソラは何故を問う事無く、彼女を指揮する方針に切り替えた。

 

 少し考えてみれば、すぐに分かる事だ。

 だって、彼女(ちゆりん)は……

 

 

「何をしているの!? そんな小娘1人相手取って──」

「余所見してる場合かよ! ウェボム、“いとをはく”だ!」

「むしゅ!」

 

 

《ウェボムの いとをはく こうげき!》

 

《ハヤシタの すばやさが さがった!》

 

 

「ででっ……!?」

「──!? しまった!」

 

 ソラたちの側に意識が割かれた一瞬の隙を狙い、ウェボムが口からクモ糸を射出する。

 放たれた糸は、“めいちゅうりつ”が下がった状態でなお命中し、ハヤシタの腕に巻き付き、その動きを縫い留めた。

 

 ハヤシタのとくせい“びびり”は、むしタイプのわざを受ける事で“すばやさ”が上昇する。

 だがそれは、あくまで攻撃わざを受けた時。へんかわざの“いとをはく”では起動せず、むしろ通常通りに“すばやさ”が下降するのだ。

 

 

「今だぜ、ソラ!」

「うん──ちゆりん!」

「ぴちゃーっ!!」

 

 

 ソラの掛け声に合わせて、ちゆりんが跳躍。

 宙を舞いながらに、己の頬の電気袋を激しく帯電させて、でんきエネルギーの充填を開始する。

 

 ……少し考えてみれば、すぐに分かる事だ。

 

 ちゆりんは“ゆうかん”なせいかくであり、とても仲間思いのポケモンである。

 それは“船出仕合”や、シェラとの決闘の儀(ジムバトル)において、先に倒された仲間(はるりん)の仇を取るべく、戦意を露わとしていた事からも伺える。

 

 そんな彼女が、だ。

 ソラが捕まえた自分と同郷(1番エリア)のポケモンたちや、一時的にでも道を同じくしたほるっち(ホルビー)れおピ(シシコ)を傷つけられ、奪われておいて──

 

 

 

「“でんきショック”!!」

「ぴっ──ちゅぅぅぅぅぅうううううっ!!!」

 

 

 

 どうして、悪漢どもへの怒りを抱かずにいられようか。

 

 

《ちゆりんの でんきショック!》

 

 

「お前も合わせろ、ウェボム! “ひのこ”だ!」

「むっ、きゃーっ!!」

 

 

《ウェボムの ひのこ!》

 

 

 雷光が解き放たれたタイミングに合わせて、ウェボムも三たび、火球を放つ。

 相手の動きを縛り、回避を封じた状態で放てば、下がった“めいちゅうりつ”など問題にもならない。

 

 

「不味っ……避けなさい、ハヤシタ!」

「で、ででっと……」

 

 

 前方より電撃、後方より火球。そして自分は、糸で拘束されて行動不能。

 そんな状況で、真っ当な回避行動など叶う筈も無く。

 

 

《きゅうしょに あたった!》

 

《きゅうしょに あたった!》

 

 

「でで──でたァーッ!?!?!?

 

 

 黄色と赤の閃光は同時に直撃し、爆発。

 もうもうと立ち込める黒煙が晴れ、向こうの景色が露わとなった時……そこにはもう、誰も立ち上がってなどいなかった。

 

 

《あいての ハヤシタは たおれた!》

 

《ヴォイドだんの したっぱと ヴォイドだんの したっぱとの》

 

《しょうぶに かった!》

 

 

「──ちゅっ!」

 

 

 当然の結果と言わんばかりに、こねずみポケモンはサムズアップをひとつ。

 ビシッと立てられた小さな指が、少年少女の勝利をこの上無く、文句のつけられないほどに証明していた。

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