ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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2025/10/31
フレア団の活動時期(XY本編)を10年前から5年前に変更。


Lv.82「後始末と尋問」

「馬鹿なっ!? 大義あるヨミの戦士が、こんなジャリボーイ如きに──んぎゃっ!?

「きぃいいいっ! あんたたち、絶対に許さな──ぎゃあっ!?

 

 

 手持ちポケモンを倒され、なおも迫ろうとするしたっぱ2人の顔面に、それぞれのポケモンたちが着弾する。

 “ひんし”状態のパタパムとハヤシタを、ちゆりんとウェボムが蹴飛ばし弾き飛ばして、そのまま2人にぶつけたのだ。

 

 “ふいうち”同然の“なげつける”攻撃に、ヴォイド団のしたっぱたちはたまらずもんどり打って、そのまま動かなくなる。

 どうやら、自分のポケモンともども“きぜつ”したらしい。見たところ、他の手持ちもいないようだ。

 

 

「ちゆっ!」

「むっきゅ!」

「……やり過ぎたかな?」

「いいっていいって。別に殺すつもりも無いんだからな、こっちは。後は、シェラさんの方だけど──」

「あっ、そっちも終わったー? こっちも今片付いたトコだよ♪」

 

 

 軽快で陽気、こんな状況に似つかわしくないくらい明るい声色。

 この場でそんな話し方をする人間など、1人しかいない。

 

 思えば、ここまで自分たち側の戦闘に必死になっていて、向こう側に意識を割くリソースはちっとも残っていなかった。

 それでもそんな声が飛び込んでくる辺り、きっと無事に終わったのだろうと、そう安堵して振り返ると──

 

 

 

「いやーっ、ソラちゃんリクくん凄いねー♪ シェラちゃん、もし2人が危なそうだったら“てだすけ”しようかとも思ってたんだけど、その必要は無かったかな? さっすが、頼りになるねぇ☆」

 

 

 

 ……シェラが相手取っていた筈のヴォイド団4人が、ものの綺麗に地面に転がっていた。

 彼らが従えていたのであろうポケモンたちも、1匹残さずノビている。

 

 対するシェラのヨルノズクとクロバットは、多少の傷こそあるものの、いたって元気そのものだ。

 何なら、互いに毛繕いをし合う程度には余裕もある様子。

 

 

「シェラさん! よかった、元から心配はしてなかったけど、そっちは大丈夫だったみたいだな」

「ごめんなさい。こっちは2人でも苦戦してしまって……」

「いやいや、勝てただけでも凄いよ☆ 見たとこ、ソラちゃんたちはおっきい怪我とかはしてないんだよね? こっちを害する気で襲ってきた相手に、大事も無く勝てたんなら、それが一番だよ♪」

 

 

 腕を組み、うんうんと頷きつつそう語るシェラ。

 

 実際、相手は広範囲への攻撃にトレーナーを巻き込んだり、“ふきとばし”でポケモンが引っ込んだ隙を狙ってトレーナーを直接攻撃したりと、尋常の決闘(バトル)では考えられない暴挙を働いてきた。

 もしも何かが掛け違えば、ソラかリクのどちらか、或いは両方が大怪我を負ったり、最悪の場合──命を落としていた可能性すらあり得るだろう。

 

 

「とりあえず、この人たちは動けないようにしとかなきゃなんだけど……ウェボムちゃんの糸で、どうにかできるかな?」

「あ、できると思います。ウェボム、あいつらを糸で縛れるか?」

「むっきゅ!」

 

 

《ウェボムの いとをはく こうげき!》

 

 

 ウェボムが生成・排出したクモ糸を手繰り、近くの木の何本かに、ヴォイド団と彼らのポケモンたちを縛り付け、動けないようにする。

 この時、全員を一箇所に纏めるような事はせず、複数の木(それも彼我の距離が離れているのが望ましい)に分散して縛り付けておくのがポイントだ。

 

 

「これでよしっと♪ そう簡単には(ほど)けないよう、きつ~く縛っといたから、逃げられる心配は無いかな☆」

「クモポケモンの吐く糸は頑丈ですからね。地上でも、色んなものに活用されてるって聞いた事があります」

「だね☆ さ~てっとぉ……」

 

 

 そうして一通りの作業を終えた後、シェラは徐ろに、ヴォイド団の面々を縛り付けた木の1本に近付く。

 その木に拘束されていたのは1人だけ。最初に接敵した際、6人の代表であるかのように振る舞っていた男だ。

 

 パッと見たところ、装いや所持ポケモンは他の面々と大差無い。

 彼もまた助祭──代表ヅラをしていた割には、さして立場も高くないしたっぱなのだろう。

 

 

 

「く、そっ……! お前たち、こんな事をしてタダで済むと思うなよ……!」

 

 

 

 そして6人の中で唯一、意識を残した状態で無力化された者でもある。

 

 彼だけが未だ意識を残しているのは、シェラがそうなるよう加減したからだ。

 どうして手加減してまで意識を残したかと言えば、当然、ヴォイド団に関する事を聞き出す──言ってしまえば尋問の為である。

 

 

「我らを倒したところで無駄だ。我らと同じく、“ヨミガミさま”を信奉せし同志たちは、既に各地で決起している! お前たち“マハルの民”と、この地のポケモンどもの命を捧げる事で、“ヨミガミさま”は再び地の底より蘇り、この世界に君臨なされるだろう!」

 

 

 敗北し、拘束された状況でなお、したっぱの男は不敵な態度を崩さないでいる。

 

 これが“ヨミガミさま”なる存在への狂信に由来するものなのか、それとも何か別の思惑があるのかはまだ分からない。

 とはいえ会話ができる以上、今は情報を“しぼりとる”事を優先すべきだとシェラは判断し、尋問を続ける事にした。

 

 

「ふぅん……。じゃ、ルスティカちゃんを襲って、あの子のとこのポケモンちゃんたちを奪ったのも、その為なんだ?」

「はっ、尋問のつもりか? ああ、そうだ。ポケモン博士ならば、研究用のポケモンを多く持っているだろうと思ってな。その中でも見込みのあるポケモンがいれば、()()を施して我らの(しもべ)に。そうでないポケモンは殺し、“ヨミガミさま”に捧げる贄とするのだ!」

「お、まえ……っ!」

 

 

 その言葉に激昂したのはリクだった。

 思わずと言った風に飛び出した彼は、そのまま木に縛られている男の胸ぐらを掴み、怒りの形相を露わとする。

 

「そんな事の為に、アネキを傷つけたのかっ!? そんな……そんな事の為に、ロコンたちを殺そうってのか!?」

「そんな事……? クハッ、やはりお前たち“マハルの民”は愚か極まりない。自分たちの存在が偽りだと、まだ気付かないか」

「なんだとっ!?」

 

 胸ぐらを掴まれ、怒鳴られている状況にも拘らず、男の態度は変わらない。

 状況を後ろから俯瞰して見ているソラには、それが何故だか奇妙に見えて仕方なかった。

 

 

「この世界は元々、我ら“ヨミの民”が新たな支配の地として定めた土地。それを100年かそこら先に降り立ったというだけで、お前たち“マハルの民”が我が物顔で繁栄している! お前たちは偽りの民、“ヨミガミさま”の在るべき地を掠め取った簒奪者なのだ!」

「っ、勝手な事言いやがって……!」

「違うな、これは大義であり使命だ! 我らは、未だ地の底に幽閉されし“ヨミガミさま”を復活させ、この世界を我らのものとする為に戦っている! お前たち“マハルの民”やポケモンどもを殺し、その血と魂を“ヨミガミさま”に捧げ、復活の糧とするのだ!」

 

 

 意味が分からない。

 ソラは、そう思った。

 

 こんな状況で威勢を保てている理由も、()()が人やポケモンを傷つけ、あまつさえ殺す理由になる事も、まるで理解できなかった。

 

 

(“ヨミの民”……神話の時代に、この世界の人たちと争い、負けて、そして追いやられた人たち。その事に思うところはある。地上でも、戦争とか差別とか、似たような話は歴史の中にいくらでも存在する。けど……)

 

 

 彼女は“マハルの地”の事を、まだ何も知らない。

 

 当然だ。意図せずしてこの世界に迷い込んでから、まだ10日しか経っていないのだ。

 たったの10日、たった3つの街を行き来した程度で理解できるほど、この地下世界は狭くはない。

 

 それ故に少女は、この世界の文化や人の考え方、価値観に口を出す事は無かった。

 あまつさえ、それを自分から働きかけて否定したり、改めさせようとするなど、論外であるとすら思っていた。

 

 それは自分が、地上という隔絶された異邦より来た部外者であると自認しているからだ。

 この世界の事を何も知らず、この世界に働きかけられるだけの力も実績も、そして信用も無い。

 

 そんな自分が、マハルの人たちに対して、地上の価値観を振りかざすのは()()

 そうした自覚の下で、ソラは“リンネの儀”に挑戦し、旅の中で“マハルの地”の事をより深く知っていこうと考えていた。

 

 でも、だからこそ。

 

 

 

(わたしはこの人たちの考えを、正しい事だとは……どうしても、思えない)

 

 

 

 自分たちの目的が為、人やポケモンたちを傷つける。その命を害そうとすらする。

 そしてそれを、正義であるかのように誇り、悪びれもしない。

 

 そんな彼らの物言いに、少女は()()()()()()が想起されて仕方がなかった。

 

 自然と、握り拳が作られる。

 無意識下で握られた拳は、いっそ痛いくらいに力が込められていて……

 

 

 

「……だいじょーぶっ☆ 怖がらないで?」

 

 

 

 少女の頭が、そっと撫でられる。

 突然の事に驚きつつもそちらを見やれば、シェラが優しく笑いかけてきていた。

 

「そんなに手を強く握ってちゃ、手のひらが怪我しちゃうよ? 大丈夫、この人たちはシェラちゃんやソラちゃんに負けて、こうして縛られてる。この人たちはこれ以上、何もできないんだから、ソラちゃんが怒ったり怖がる必要はありませんっ☆」

「シェラさん……でも」

「この後、神殿(ウチ)の神官の子たちが合流してきて、この人たちを捕まえちゃうよ。だからシェラちゃんたちは、ルスティカちゃんのポケモンちゃんたちを取り返す方に集中しちゃお☆ 決闘の儀(ジムバトル)と同じ、頭やわらかで行こーね♪」

 

 そう言って頭を撫でられ続けている内に、段々と気持ちも落ち着いてくる。

 くつくつと煮えつつあった頭が少しずつ冷えていき、握り拳もゆっくりと解かれていく。

 

 彼女の言葉と手つきには、人を安堵させる不思議な力があるのだろうか?

 或いは年の功……いや、これを口にすると後が怖いので、そこについては深くは考えない事として。

 

 

「……すみません。ちょっと、色んな事をグルグルと考えちゃってて」

「気にしない気にしない☆ こんなコトが起きたんだもん、パニックになっちゃうのは当たり前だよ。大事なのは、そこで考え過ぎて足を止めないコト。パニックになった結果、考えなきゃいけないコトにまで頭が回らなくなったら元も子もないもんね♪」

 

 

 ぱ、と撫でる手を止めた後、今度はリクの肩をそっと叩いてやる。

 振り返った先の温和な微笑みに、彼も自然と脱力して、引っ掴んでいたしたっぱの男を解放してしまう。

 

 

「あ……シェラさん。(わり)ぃ、おいら……」

「リクくんの気持ちも分かるし、そんなに気に病むコトは無いよ♪ 早く皆を助けたいもんね、そういう気持ちは大事だもん☆ でもっ、それはそれとして──」

 

 

 誰の目にも留まるように、右手を開いてみせる。

 彼女の手のひらにその場の注目が集まった直後、一瞬の内に手を握り、また開く。

 

 すると、どうだろうか。

 ほんの一瞬前まで何も持っていなかった筈の手の内に、小ぶりな巾着袋が現れた。

 

 まるで手品のような手練だが、それに対する一同の反応はそれぞれ異なるものだ。

 

 ソラは凄いと思いつつも、どうして今そのような事をするのかと首を傾げる。

 リクも驚いたものの、直後にその巾着袋の正体に気付き、露骨に表情を歪めた。

 

 そして……

 

 

 

「──なっ!? 何故それをお前が持っている!?」

「さっきリクくんがあなたに掴みかかった時に、ちょちょいーっとね? “わるいてぐせ”とは言わないでほしいな♪ シェラちゃんとしても、()()についてはふかぁ~く聞いてみたいしね☆」

 

 

 

 したっぱの男は、自分の懐にある筈の()()がシェラの手の内にある事に気付き、焦りを見せた。

 対するシェラも、表情こそ笑ってはいるが、その目はちっとも笑っていない事が明白に見て取れる。

 

「なんだろう、あれ……袋? 何が入ってるの?」

「……あれだ」

「え?」

「あの袋の中から、甘ったるい嫌な匂いがする。あれが、おいらがここまで嗅いできたおかしな匂いの元なんだ」

 

 そう語るリクの顔は、見るからに不快そうだ。

 鼻が効く故に、その匂いもダイレクトに嗅ぎ取れてしまうのだろう。自分の鼻を摘んでさえいる。

 

 

 

「あの、シェラさん……それって一体……」

()()だよ。それも、とびっきりご禁制のヤツ」

 

 

 

 一瞬、その言葉の意味が分からなかった。

 けれども、シェラの目を見れば、彼女が嘘や冗談を言っている訳では無い事は容易に理解できた。できてしまった。

 

 

 

「この“マハルの地”じゃ、ずーっと昔に撲滅された筈の違法強化薬(パワードラッグ)。なーんであなたたちが持ってるのかな? まさか、自分たちのポケモンちゃんたちに()()を投与してるなんて言わないよね?」

 

 

 

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