ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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あんまりストック溜まってないけど今日からちょっとだけ連日投稿します。


Lv.84「再会」

「あいつ……“船出仕合”でソラと戦った、あん時の……!?」

「ど、どうしてここに!? カロンタウンから巡礼を始めたなら、わたしたちと同じで、プルガーシティの方へ行く筈なのに……」

 

 

 ソラたちが見上げる先、“ひみつきち”の入り口がある樹冠に立ち、こちらを見下ろす1人の少年。

 

 “船出仕合”の時は、結局名前を聞けず「名無しの少年」名義で終始していたが故に、彼の名前は分からない。

 けれどもその姿、その雰囲気は間違いなく、あの時の彼──“名無し”の少年そのものだった。

 

 

「……答える義理は無い」

 

 

 それだけを呟いて、少年は木の上から飛び降りる。

 樹冠から地表まではそれなりの高さがあるが、彼はなんて事の無いようにひらりと着地し、静かに立ち上がった。

 

 そして、その手に握られているのは……

 

 

(……! 木彫りのモンスターボール……そうか! わたしがヴォイド団のボールに既視感を覚えたのは……)

「言った筈だ。お前たちは下がっていろと」

 

 

 同じ目だ、とソラは思った。

 

 あの時と同じ服装、あの時と同じ所作、あの時と同じ木製のモンスターボール。

 そして──

 

 

 

「これは、“リンネの儀”……巡礼とはまったく関わりの無い事だ。お前たちのような、半端な覚悟の連中が下手に首を突っ込めば、怪我どころでは済まないぞ」

 

 

 

 あの時と同じ、こちらの心の奥を見透かすような、澄み切った風の赤い瞳。

 

 ロトムの焚く“フラッシュ”の影響下にあってなお、夜の木立は薄暗い。

 その上、ヴォイド団のしたっぱ2人を挟んで立っている為、彼我の距離は遠く、したっぱたちが障害となって視認性も悪い。

 

 にも拘らず──彼の真っ赤な目は、離れた位置にいるソラからもクッキリと捉える事ができていた。

 そしてそれ故に、彼の冷ややかな瞳は、少女の心をぞぷりと突き刺し、その背筋を寒からしめているようで。

 

 

「っ、半端じゃない! わたしたちも、わたしたちなりの覚悟があってここまで来てます!」

 

 

 だが、その眼差しに気圧され、足を止めている場合ではない。

 こちらとて、関わらなければならない、戦わねばならない理由があるのだ。

 

 頭上のちゆりんが、その事を思い出させてくれる。

 苛立ちから、彼女がバチバチと帯電させている電気袋。そこから漏れる“せいでんき”の刺激が、少年に気圧されて鈍りかけていたソラの思考を現実へ引き戻す。

 

 

「博士のポケモンが、彼らに奪われたんです! わたしたちはそれを取り返しに……っ、そうだ! 木の中の“ひみつきち”に、ポケモンたちが捕まっていたりしませんでしたか!?」

「……ポケモンを取り返しに、か。酔狂で無謀な話だ」

 

 

 そう吐き捨てて、少年がにわかに目を細めた。

 その見定めるような、どこか値踏みするような視線は鋭く、そして冷たい。

 

 だからと言って、ソラも退く気はさらさら無い。

 冷や汗が頬を伝いながらも目を見開き、決して逸らす事の無い少女の気迫に、彼は「フン」と小さく鼻を鳴らした。

 

 

「……木の中の空間に、モンスターボールが大量にある。それと、檻の中──」

「悪いが──お喋りはそこまでだ!」

 

 

 少年の声を掻き消して、ヴォイド団のしたっぱが“ほえる”。

 彼ら2人の手には、いずれも“きのみ”から作られたと思しきモンスターボールが1つずつ握られていて、今まさに投じられようとしていた。

 

「ゴロゴムシ、こいつらを黙らせろ!」

「お前もだ、ベロバー! ガキどもに邪魔させるな!」

 

 

《ヴォイドだんの したっぱは ゴロゴムシを くりだした!》

 

《ヴォイドだんの したっぱは ベロバーを くりだした!》

 

 

「ごろむっしゅ!」

「ばぁ~~~!」

 

 ボールから飛び出し、少年(あちら)ソラたち(こちら)の二正面に相対するよう現れた2匹のポケモン。

 

 その内の1匹は、地上でもその存在を知られている、いじわるポケモンのベロバー。

 もう1匹は、ソラの知らない未知のポケモンだが、その性質については容易に推測する事ができた。

 

 

(『ゴロゴムシ』……聞いた事の無いポケモンだけど、あのフォルム……。多分、コロムシの進化系ね)

 

 

 旅立った当初、1番エリアで最初に遭遇した(そしてその時は取り逃がし、後で捕獲した)マハルの固有種、ダンゴムシポケモンのコロムシ。

 

 あの丸っこくもちもちとした体を二周りほど大きくした上で、柔らかだった甲殻をより硬質に、角ばらせたような外見をしていた。

 目もキリリと厳ついものに変わっていて……しかし今は、恐らくヴォイド団の使う例の秘薬によって、狂騒に駆り立てられている様子。

 

 ともあれ、その見た目から推測するに、コロムシから進化したポケモンなのだろう。

 そしてソラの記憶している限り──“マハルの地”で、彼女が進化後のポケモンと戦闘するのは、これが初めての経験となる。

 

 

(当然と言えば当然だけど、進化後のポケモンを連れてる人もいる……それも、敵対的な人物が!)リク、あなたは“ひみつきち”へ! 中のポケモンたちを助けてあげて!」

「──! 分かった! ここは任せるぞ、ソラ!」

 

 

 勝てるのか、とか。少年(あいつ)の目的も分からないんだぞ、とか。

 そういう言葉を出そうと思えば、いくらでも出す事はできた。

 

 けれども今は、そんな()()で時間を潰している場合ではない。

 そう判断し、リクは“ひみつきち”のある木に向けて、一目散に駆け出した。

 

 

「行かせるかっ! ゴロゴムシ、奴を追っ……」

「そっちこそ行かせない! 行って、ちゆりん!」

「ぴっちゅ!」

 

 

 その身の大柄さが故に、やや鈍重さが見られるゴロゴムシ。

 のっそりと動き出し、リクを追おうとするダンゴムシポケモンの背中に、すかさずちゆりんが“とびかかる”。

 

 同胞を傷つけられた事への怒りが、彼女のでんきエネルギーをより強く、激しく漲らせていた。

 硬い装甲をも貫き“まひ”させる、会心の“ほっぺすりすり”が繰り出されようとした──その刹那。

 

 

「甘く見るなっ──“ねこだまし”だ、ベロバー!」

「ばばっ、ばぁああ~~~!!

 

 

《あいての ベロバーの ねこだまし!》

 

 

「ぢっ──ゆ、ぅう……っ!?」

 

 間に挟まるようにして割り込んできたベロバーが、ちゆりんの鼻先で手を叩く。

 パァン!と小気味いい乾いた音が響いて、たちまち目を白黒させたこねずみポケモンは、ほんの一瞬だけ頭の中が真っ白になってしまう。

 

 だが、こういった場面では、その「一瞬」こそが命取りとなるのだ。

 

 

《ちゆりんは ひるんで わざが だせない!》

 

 

 “ひるみ”──わざの出だしを潰され、一時的に行動が封じられた状態。

 己の鼻先で打たれた柏手に、ちゆりんは“ひるみ”を誘発され、まんまとゴロゴムシへの攻撃を阻止される。

 

 彼女の頬で“スパーク”していたでんきエネルギーも、怯まされた拍子にすっかり霧散していた。

 それでも空中で態勢を崩す事無く、なんとか着地には成功するが……しかし結果として、そこで動きを止められてしまう。

 

 

 

(不味い、ゴロゴムシを止められない!)リク……っ!」

「ハッ、そこであのガキの背中が砕けるのを見てろ! ゴロゴムシ! “ころが──」

「ガプリコ、“ピヨピヨボイス”」

 

 

 

 後少しで、ゴロゴムシがリクの背中に突撃せんとしていた、まさにその瞬間。

 ソラとヴォイド団の攻防にすかさず割り込む、1人と1匹の影があった。

 

 

「かぁーっ、ろぉおお!!」

 

 

《ガプリコの ピヨピヨボイス!》

 

 

 この場の注目がソラやリクに向いている隙を突いて、少年のボールから飛び出してくるガプリコ。

 くろヤギポケモンの口から放射される音波は、誰も彼もが意識しない死角から、今まさに丸まろうとしていたゴロゴムシの顔面に浴びせかけられた。

 

 

「ご、ろぉ──っ!? ろ、ろろっ……ごろむしっ……!?」

 

 

《あいての ゴロゴムシは こんらんした!》

 

 

 “ピヨピヨボイス”は必ず命中する音系のわざ。

 その威力の低さ故に、大した痛痒(ダメージ)こそ受けなかったゴロゴムシだが、わざの追加効果として“こんらん”してしまう事までは避けられなかった。

 

 そしてその“こんらん”は、やはりゴロゴムシに攻撃を中断させ、その場でふらつかせる事に成功する。

 図らずも、先のちゆりんとベロバーの攻防を、立場を逆転させて再現した形になった。

 

 

「なっ、“こんらん”だと!?」

「……行け! そこから先の面倒までは見ないぞ!」

「……!」

 

 

 たった一瞬の攻防。されど一瞬の攻防。

 そうして培われた「一瞬」は、4匹のポケモンによる戦場を形成し、彼らをその場に縫い止めさせる。

 

 同時にそれは、一切に目もくれず駆け出していたリクを、単身その戦場から離脱させる事にも繋がった。

 

 

(あいつ……おいらたちを援護した!? いや──)助かった! 行くぞウェボム!」

「むきゅ!」

 

 

 背中に名無しの少年の声を受けながらも、振り返らずに走り抜けるリク。

 頭の上にウェボムを乗せたまま、彼はとうとう“ひみつきち”のある木まで辿り着いた。

 

 そこからはもう早い。なにせ、この“ひみつきち”は彼が作ったのだから。

 半ば前方へ飛び込むようにしてツタのはしごを掴み、するすると樹冠の中へと登っていく。

 

 当然、ヴォイド団の面々にとっては看過できない事態だ。

 だがしかし、そんな彼の背中を撃とうにも、名無しの少年とガプリコがその前に立ちはだかる。

 

 かと言って逃走を図ろうとすれば、目の前にはソラとちゆりんの姿。

 必然的に、彼らはこの場での戦闘を余儀なくされていた。

 

 

「あなた……もしかして、わたしたちを……?」

「……勘違いするな。こういう状況に持ち込んだ方が無駄も無いし、リスクも少ない。そう判断しただけだ」

 

 

 ヴォイド団の面々を挟んで、視線と視線が一瞬交わされる。

 だが、少年の目はすぐに逸らされ、目の前のしたっぱたちへと向け直された為、彼がどんな感情を秘めているのかは計り知れなかった。

 

 

「それよりボサッとするな。相手はたかが助祭(したっぱ)だが、秘術の強化もある。お前の実力が船出仕合(あのとき)の延長でしかないなら、手を焼く程度には強いぞ」

「わ、分かってます! さっき痛い目を見たばかりだし……油断なんかしません。ちゆりん、連戦だけど行ける?」

「ちゅーぴっ!」

「さっきから舐めやがって……! お前はそっちのガキをやれ。俺たちはこっちの小娘をやる」

「ああ、分かった。ヴォイド団を侮るとどうなるか、教えてやる! すべては深淵の神が為に!」

 

 

 ソラとちゆりん、名無しの少年とガプリコ。

 彼らに挟まれる形で立つヴォイド団のしたっぱ2人に、ゴロゴムシとベロバー。

 

 これにて参戦陣営は確定した。

 先の戦闘とはまた異なる趣の複数乱戦(マルチバトル)。ソラにとって2戦目となる戦いの火蓋が、ゆっくりと切られるのだった。

 

 

《ヴォイドだんの したっぱと ヴォイドだんの したっぱが》

 

《しょうぶを しかけてきた!》

 

 




マハル図鑑 No.014
【ゴロゴムシ】
ぶんるい:ダンゴムシポケモン
 タイプ:むし
とくせい:むしのしらせ(ぼうだん)
ビヨンド版
 甲羅が より 硬くなった。石や 段差で デコボコした 道でも 転がって 移動できる。
ダイブ版
 転がる スピードを 制御できず 崖の 上から 落ちてくる ゴロゴムシに 注意しよう。

《進化》
コロムシ
→ ゴロゴムシ(Lv.10で進化)
  → ???(???で進化)


マハル図鑑 No.174
【ベロバー】
ぶんるい:いじわるポケモン
 タイプ:あく・フェアリー
とくせい:いたずらごころ/おみとおし(わるいてぐせ)
ビヨンド版
 怒りや 悲しみ 驚き などの マイナスな 感情を エネルギーとして 欲しがっている。
ダイブ版
 群れで 暮らす 事が 多いが エサになる マイナスエネルギーは 独り占め しがちだ。
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