ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.87「紐解かれた逆転」

「なんでフルスリが……っ!? いや、あの子も研究所にいたのなら、そりゃ奪われてたんでしょうけど……」

「悪い、ソラ! 勝手にボールから飛び出しやがったんだ!」

 

 

 “ひみつきち”の入口から顔を出して、リクが眼下に向かって叫ぶ。

 パタパタと楽しそうに滑空するフルスリを見下ろせば、必然、視界にはソラたちの驚く顔も映り込んだ。

 

「リク! そっちは!?」

「ああ、アネキんとこから奪われたポケモンは大体見つけた! けど、ロコンの容態がよくないんだ! 応急処置はしたけど、ちゃんと町で手当てしないと……」

「──っ」

 

 その言葉に、ソラは思考回路をフル回転させる。

 

 この状況、少しの躊躇も逡巡も、こちらを侵す“もうどく”となるだろう。

 素早い決断が必要になる。そう考えている内にやがて、はしゃぎながら地表へ着地したこうもりポケモンの矮躯が目に留まった。

 

 

「りりっ? りーりっ! りー、りりーっ!」

「チィッ、次から次へと……! ゴロゴムシ、さっさと片付けろ!」

「ごろぉ~っしゅ!」

 

 

 自身が追い詰められていると分かり、したっぱは苛立ちを抑えきれずにいた。

 フラストレーションの行き場を求めて声を荒げ、男が指し示した先──首を傾げながらこちらを見やるフルスリへ向けて、ゴロゴムシが動き出す。

 

 その瞬間、考えるよりも先に舌と手が動いた。

 少女の指はゴロゴムシに向けられ、舌は己のポケモンに指示を出すべく回り始める。

 

「──“かぜおこし”! 相手の動きを止めて!」

「けーりぃんっ!」

 

 

《はるりんの かぜおこし!》

 

 

 依然、ベロバーから受けた“ないしょばなし”の影響は健在だ。

 それを抜きにしても、相手は進化後のポケモン。ヴォイド団の秘術による能力補正もあり、そう簡単に破れる耐久性はしていない。

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

 

「ご、ぉおおっしゅ!?」

「動きが……!? くそっ、猪口才な!」

 

 だが、それでもタイプ相性までは無視できない。

 ひこうタイプのわざは、むしタイプのポケモンに対して“こうかばつぐん”なのだ。

 

 元々そこまで“すばやさ”の高くないゴロゴムシは、吹き荒ぶ風に全身を絡め取られ、それ以上の前進を封じられてしまう。

 忌々しげに上空を睨めば、そこには悠々と翼をはためかせるはるりん(ハルドリ)の姿があった。

 

 

「ほっけりー♪」

「ナイスよ、はるりん。──リク、フルスリはわたしたちでなんとかするわ! そっちはロコンや他のポケモンたちを確保して、離脱準備お願い!」

「お──おう、分かった! すぐ終わらせる!」

 

 

 意図を汲み取ったリクが、再び“ひみつきち”の中へと消える。

 元々、薬の作成(クラフト)や手当てには一家言ある家の人間だ。傷ついたポケモンたちの応急処置や救出は、彼に任せておけば問題無い。

 

 故に自分たちがするべきは、相手の足止めと、フルスリの救出。

 そうと決まればと、傍らに立つ名無しの少年にも声をかけようとして──

 

 

 

「あのっ、できればあなたにも協力してほし──」

「りりーっ!!」

 

 

 

 少女の声を掻き消すほどの鳴き声が、小さな乱入者から上がった。

 

 

《フルスリの このは!》

 

 

 目をキラキラと輝かせ、フルスリが楽しそうに跳躍。

 ちっちゃな翼をパタパタ揺すり、何枚かの葉っぱを生成・射出した。

 

 その行動自体に、悪意はさして存在しない。

 ただ「なんだか面白そうな事をやっているので、自分もやってみよう!」くらいものでしかないのだ。

 

 果たして目論見通り、斬性と速度を与えられた葉っぱは、“かぜおこし”の力場を切り裂き突き抜け、ゴロゴムシの顔面にヒットする。

 風が自己崩壊を起こして崩れ去り、一瞬、その場に沈黙が訪れて……

 

 

 

「……ごむっしゃぁーッ!!

 

 

 

《こうかは いまひとつ のようだ……》

 

 

 くさタイプのわざは、むしタイプのポケモンに対して“こうかいまひとつ”。

 

 当然、大した痛打(ダメージ)などになりはしない。

 むしろ、秘薬で理性を狂わされた相手をより怒らせ、興奮させるだけに終わった。

 

 

「へっ、バカが。そんなチャチな攻撃でゴロゴムシを止められる訳無いだろ! 纏めて薙ぎ払え、“むしのていこう”だ!」

「ごろぉーむしゅ!」

 

 

《あいての ゴロゴムシの むしのていこう!》

 

 

 怒り狂うゴロゴムシが地面を踏み締め、背の甲羅を光らせる。

 直後、さながらミサイルのように甲羅から迸り、また射出されたのは、パタパムの時にも見た緑色の光の弾幕だ。

 

 淡い光たちは1度、天高く放たれたのち、弧を描くようにして地表へ降りてくる。

 暗い木立の中を照らす光のシャワー……などと言えば聞こえはいいが、そんな生易しいものではない事をソラは知っている。

 

 

「っ、またあのわざ……! はるりん、旋回して回避! あなたの翼じゃ、掠るだけでも拙いわ!」

「ほけーっ!」

 

 

 翼を畳み、可能な限り被弾確率を減らしながらに、はるりんが光弾の雨の最中をすり抜けながら飛び回る。

 同様にソラも光弾を回避していくが、やはり先の戦闘同様、それらの光は着弾とともに粘性を帯び、ベッタリと地面にへばりついていた。

 

 しかし一方で、回避ができなかった──否、そもそも回避するという発想すら湧かなかった者がいる。

 

 

りりっ!? りー……りり?」

 

 

《フルスリの とくこうが さがった!》

 

 

 当然、フルスリである。

 攻撃されているにも拘らず、ポケーっとその場で光を眺めていた彼は、案の定“むしのていこう”の雨に直撃してしまった。

 

 衝撃をまともに受けたフルスリは、流石に面食らったようで、痛みに顔をしかめている。

 だが、すぐにケロッとした様子で立ち直り、さながら「なんだったんだ今のは」と言わんばかりに目を瞬かせていた。

 

 彼の興味はむしろ、自身の体にベトッと貼り付く粘性のナニカにあるらしい。

 翼を伸ばせば伸ばすほど、足を上げれば上げるほどに粘り、体に“からみつく”それを不思議そうに眺め、キャッキャッと喜んでいる。

 

 しかしそれは、“むしのていこう”によって体を縛られ、まともに動けない状態にある事を意味していた。

 

 

「まずはそこのウザったいポケモンから黙らせてやる! 秘薬漬けにするのはそれからだ。ゴロゴムシ、“ころがる”!」

「ヤバ──っ、“でんこうせっか”で食い止めて!」

 

 

《あいての ゴロゴムシの ころがる!》

 

《はるりんの でんこうせっか!》

 

 

「ごろごろごーろぉーっ!」

「ほっけ──りぃっ!? りぃ……っ!」

 

 

 甲殻を丸め、球状になって転がりながらフルスリへ迫るゴロゴムシ。

 

 その動きを止めるべく、はるりんが横合いからの突撃を仕掛けるも、ずっしり重たい装甲をそう簡単に食い破れる訳も無し。

 早々に攻撃を弾かれ、中空をもんどり打つ小鳥ポケモンを他所に、重量級の突貫が間抜けな顔を晒したままの矮躯を轢き潰した。

 

 

「り、りりぃ──っ!?

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

 

 こうもりポケモンのフルスリは、くさ・ひこうタイプ。

 当然、いわタイプのわざ──それも高い“こうげき”から繰り出されるそれを受けて、無事でいられる筈が無い。

 

 体を縛る“むしのていこう”の粘着力ごと吹き飛ばされて、小さな体がくるりくるりと宙を舞う。

 そのまま背後の木に叩きつけられた彼は、人生で初めて受けた大ダメージに目を白黒とさせて、もはや虫の息にも等しい有り様だ。

 

 そして、“ころがる”は1度繰り出すと、攻撃が失敗するまで繰り出し続け、その度に威力が上昇するわざである。

 フルスリを轢き飛ばした甲羅の砲弾は、一旦その場で旋回するように転がった後、トドメを刺すべく再び走り出した。

 

 

 

「フルスリっ!? 不味い、ゴロゴムシを止めないと……!」

「遅いわ! 奴を黙らせたら、次は貴様らも“ヨミガミさま”への贄と──」

「──“ピヨピヨボイス”」

 

 

 

《ガプリコの ピヨピヨボイス!》

 

 

 ……ところで、今この場の攻防は、フルスリを落とすべく動くゴロゴムシと、それを食い止める事に焦点が向けられていた。

 だから、ソラたちの意識の外から放たれたそれは、対処の暇を与える事なく突き刺さる。

 

 

「かろかろっ、ろーりーんっ♪」

「ごろっ──ご、ごろぉおおっ!?

 

 

《あいての ゴロゴムシは こんらんした!》

 

《あいての ゴロゴムシは こんらんしている!》

 

《わけも わからず じぶんを こうげきした!》

 

 

 或いはそれは、この戦闘が始まる際の光景の焼き直しでもあった。

 

 意識の間隙に差し込まれた音波攻撃は、ゴロゴムシを“こんらん”させ、勢い余ってすっ転ばせる。

 転んで体を強打した際のダメージが、再度繰り出されようとしていた“ころがる”を無理やり中断させた。

 

 

「畜生、またか! 何度も何度も妨害しやがって……!」

「今の攻撃、またあなたが……って、いない!?」

 

 

 ハッと気付いてソラが隣を見やれども、そこには少年とガプリコは影も形も無く。

 先の“むしのていこう”の弾幕を避ける為に、どこかに移動したのだろうか? 少女がそう考えた矢先に。

 

 

 

「……すぐに熱くなって視野が狭くなる、“たんじゅん”な連中で助かった。少し下がって俯瞰しているだけで、勝手におれを意識から外してくれる」

 

 

 

 木の幹に叩きつけられ、“ひんし”寸前の状態で転がるフルスリの傍。

 名無しの少年は、誰も彼の動向を追っていなかった数瞬の間に、その場所まで回り込んでいたのだ。

 

 

「貴様、いつの間に……っ!?」

「ガプリコ、また遊んでやれ。今度はこっちから引き剥がすだけでいい。すぐに終わらせる」

「かろっ!」

 

 

 少年の近くにいたガプリコは、指示に応じてまたもゴロゴムシの眼前まで躍り出る。

 また先ほどのように、“こんらん”して制御できなくなった相手を翻弄し、撹乱するつもりなのだろう。

 

 自分の相棒が動き出した事を一瞥した後、少年は足元のフルスリに視線を落とす。

 すっかり衰弱した彼に対して、懐から取り出した黄色い大ぶりのきのみを投げて寄越し、それを受け止めたフルスリから困惑の目を向けられた。

 

 

「り、りぃ……?」

「食え。お前たちの好きな“オボンのみ”だ」

 

 

 そう言われ、まじまじと手元のきのみを見る。

 ひくひくと鼻を震わせ、それが自分の好物である事を知ったこうもりポケモンは、嬉しそうに“オボンのみ”を頬張り出した。

 

 食べれば体力(HP)が回復する不思議な果実は、幼い彼の傷ついた体を、みるみる内に癒やしていく。

 むしゃむしゃと美味しそうに食べるその姿を、血のように赤い目が淡々と見下ろしていた。

 

 

「それを食えば少しは体力も癒える。……まだ戦う気はあるか?」

りっりっりっ……り?」

「まだ遊びたいか、と聞いている。お前の“せいかく”は概ね理解した。まだ暴れ足りないのだろう?」

「りり!」

 

 

 戦う気があるか、と問われた時こそ首を傾げたが、遊びたいか、と問われれば答えは決まっている。

 一通りきのみを食べ終えて、ニパッと笑みを咲かせるフルスリを前に、少年は頷き、己のジャケットの中に手を突っ込んだ。

 

 

「なら、()()を見ろ」

「り? り、りぃ──

 

 

 その瞬間を、ソラも確かに目撃していた。

 はるりんに対して、ガプリコとともにゴロゴムシを撹乱するよう指示する合間、少年たちの方を見た彼女は、彼が取り出したものに目を見開く。

 

 巻かれた状態で取り出された()()は、慣れた手つきで即座に封を解かれ、すぐに全貌を露わとする。

 意味の分からない文字や記号、図形などが、まるでひとつの模様であるかのように組み合わされ、その構図全体で何かを表現しているかのよう。

 

 それでも、()()が何なのかを、ソラは知っていた。

 だって少女は──今日の昼前に、シェラ(ジムリーダー)から()()を受け取ったばかりなのだから。

 

 

 

「あれ──まさか、()()()()()……!?」

 

 

 

 “マハルの地”において、ポケモンにわざを習得させる為のツール。

 そのわざの何たるかを、文字や記号による構図として記した巻物、即ち“わざ巻芯(マシン)”だった。

 

 

「り……り……り……」

 

 

 開かれた巻物を目にした瞬間、フルスリはそれまでの感情豊かな態度を止めて、じっと構図を凝視し始める。

 そこに記されている内容を理解し、隅から隅まで記憶するべく、眼球だけが忙しなく動き続けていた。

 

 そうして記されたすべてを読み解き終わり、その目が瞬いた直後。

 少年の手に握られたわざマシンは、火元も無いのに端の方から火が灯り、あっという間に燃え進んでいく。

 

 彼はそれを平然と足元に捨て、雑草などに燃え移るより先に踏み躙り、無理くり消火する。

 やがて、使い終わったわざマシンが完全に灰となったのを確認して、改めて戦場へと向き直った。

 

 

「覚えたな? よし、行け。使い方は分かる筈だ」

「り! りりぃ~、りーっ!!

 

 

 “オボンのみ”をたらふく食べた事で、傷も大方回復した。

 もはや己を阻むものは何も無いと、元気いっぱいに跳ね飛びながら、フルスリは少年の指し示す方へと走り出す。

 

 つい数分前が初対面。それ以前の因縁も無く、ただきのみを恵んでもらっただけの関係。

 にも拘らず、1人と1匹は旧来の友であるかのように「指示を出す側」と「指示を受ける側」に分かれる事ができていた。

 

 

「はるりん、フルスリを支援して! できるだけゴロゴムシを足止めするの!」

「けり!」

 

 

 彼らが何をするかは分からない。

 だが少なくとも、この状況を打破し得る一手を打たんとしているのだろう事は分かる。

 

 故にソラは、次第を問う事もせず指示を飛ばし、はるりんはそれに応えた。

 小さな翼が、ゴロゴムシの周囲をグルグルと飛び回り、依然“こんらん”したままの相手を執拗に掻き乱す。

 

 

「どいつもこいつも、チョコマカと……! 性懲りも無く突撃してくるか!」

「ガプリコ、“てだすけ”だ」

「かーろ!」

 

 

《ガプリコの てだすけ!》

 

《ガプリコは フルスリを》

 

《てだすけ する たいせいに はいった!》

 

 

 前脚で逆立ちしたガプリコが、浮かせた後脚同士の蹄を合わせ、器用に拍子を打つ。

 その軽い音のすぐ横をすり抜けて、瞬間的な膂力と速度を上昇させながら、フルスリが夜闇の中を駆け抜けた。

 

 

「何をする気かは知らんが、ゴロゴムシの守りを突破できるものか! “ころがる”で迎え撃──」

「フルスリ」

 

 

 赤い目の光が、敵の姿すべてを捉えながらに貫く。

 己と同じ色の瞳であるにも拘らず、その目に射抜かれた助祭(したっぱ)は、それ以上の言葉を出す事ができずにいた。

 

 そして、そんな隙だらけの視界に。

 喜色満面の緑が、真っ直ぐに飛び込んでくる。

 

 

 

「──“()()()()()”」

「りっ、りぃいいい──っ!!

 

 

 

《フルスリの やつあたり!》

 

 

 ()()()()()

 

 ……前提として、コロムシから1度の進化を経たゴロゴムシの体長は、それなりに大きい。

 巨体、と表現できるほどのものでこそ無いが、それでも1mほどはあるだろう。

 

 そこに、身を守る為の分厚い甲殻がビッシリと備わっている。

 その体重は、並大抵のむしポケモンよりも確実に大きいものだ。

 

 少なくとも、人間の子供程度の筋力では、彼らを持ち上げる事はできないだろう。

 ましてや、フルスリのような小さく膂力も低いポケモンが、ゴロゴムシの体を浮き上がらせる事などまず不可能だ。

 

 であれば──()()は、なんだ?

 

 

「ごぉ────!?!?!?」

 

 

 技術など何も無い、ただ真正面から突撃し、真正面から“たいあたり”しただけの攻撃。

 それを“こうげき”のあまり高くない、そもそも技量(レベル)もロクに鍛えていないフルスリが、秘薬による強化を受けたゴロゴムシに対して行った。

 

 にも拘らず、ゴロゴムシの大きな体は、衝突のインパクトによって浮き上がり、大きく後方へと撥ね飛ばされた。

 そのまま背後の木にぶつかるだけに終わらず、その木をぶち破り、大きな穴を開けて、更に後方へ。

 

 最終的に2つの木をぶち抜いて、3つ目の幹に叩きつけられたところで、その動きは止まる。

 ズルリと、滑り落ちるように地へ崩れたゴロゴムシには、もはや起き上がる力など少しも残っていなかった。

 

 

《きゅうしょに あたった!》

 

《あいての ゴロゴムシは たおれた!》

 

《ヴォイドだんの したっぱと ヴォイドだんの したっぱとの》

 

《しょうぶに かった!》

 

 

「ば……バカ、な。一撃、だと……!?」

「……“やつあたり”。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わざ」

 

 

 小さく落とされた呟きは、声の主たる少女本人でさえ驚くほどに震えていた。

 

 地上ではネットを介して色んな試合を見てきただけに、そのわざについての知識も持ち合わせている。

 知名度の低いマイナーなわざだけに、実際に使われたところを見た回数はそれほど多くないが、それでもそのわざを選んだ意図は理解できる。

 

 

こいつ(フルスリ)とは、ついさっき初めて会ったばかり。信頼関係など無いに等しいからな。当然、威力は最大レベルだ。そこに“てだすけ”の補正も加われば、ゴロゴムシ程度の“ぼうぎょ”など造作もない」

「りり! りーりーりー!」

 

 

 なんて事の無いように語る少年の足元で、フルスリがぴょんこぴょんこと跳ねている。

 それがきのみをねだる仕草だと察したらしく、彼の懐から“モモンのみ”が取り出され、足元へ無造作に落とされた。

 

 そうして、嬉しそうにきのみを貪るこうもりポケモンから目を外し。

 名無しの少年の真っ赤な瞳が、ソラを鋭く射抜いた。

 

 

「だが……お前は何者だ? “やつあたり”のわざ巻芯は、この地(マハル)では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()筈だ。何故、このわざの存在と、その効果を知っている」

「……っ! それ、は……」

「……素人上がりの駆け出しトレーナー。ロトムの入った妙な機械。そして、本物の“かすがいのはね”。まさか、お前……」

 

 

 暗い木立の中にあって、爛々と輝く瞳。

 細められた眼光は刃の切っ先にも似て、少女はまるで、自身が糾弾されているかのように錯覚する。

 

 そして。

 

 

 

「“()()()()()()”からの迷い人か?」

 

 

 

 同時に、ある種の確信を得る。

 彼は──この世界にまつわる()()を知っている。

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