ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

90 / 125
Lv.88「一難去って急展開」

「れぇおん!」

「──れおピ! ごめんね、傍にいてあげられなくて……無事でよかった」

 

 

 戦闘が終わった後、リクが“ひみつきち”内部から回収してきたモンスターボールの内の1つが、独りでに開く。

 中から飛び出してきたのは、ソラが2番エリアで捕獲し、“ギムレの洞穴(ほらあな)”での冒険をともにした、シシコのれおピだ。

 

 やはりヴォイド団に痛めつけられていたようで、その体に癒えていない傷は多い。

 けれどもソラを見るや否や、一目散に飛び込んできて、嬉しそうに胸へ顔を擦り寄せてくる。

 

 他のポケモンたち──1番エリアなどでソラが捕獲し、ルスティカ博士の研究所へ送った面々も、なんとか無事が確認できた。

 彼らも自分たちが助かった事を悟ったのか、思い思いにボールから飛び出し、ソラの周りに集まってくる……のだが。

 

 

「なんか……最後に会った時より、ちょっと強くなってる?」

「しゅっぼ~♪」

「……らる」

 

 

 スボミーやラルトス、その他のポケモンたちも。

 ソラが旅の中で捕獲し、研究所に送る前に見た時よりも、ほんの少し──いや、それなりに技量(レベル)が上がって、成長しているように見えた。

 

 流石に、びぃタロたち手持ちポケモンほどではないが、戦闘に耐え得る十分な性能(スペック)を身に着けている事は明らかだ。

 まるで、ルスティカ博士が預かって以降にも、誰かの手で鍛えられたかのような……。

 

 

「多分、アネキにトレーニングつけてもらってたんだろ。アネキ、トレーナーとしてはへっぽこだけど、ポケモン育てさせたらピカイチだって話だからな」

「あ、そっか……そういえば、そんな話もしてたっけ」

「まぁ……それでも、数の暴力には勝てなかったみたいだけどな。ロコンもこんな風になっちまってるし」

「こぉん……」

 

 

 リクの腕の中で、弱々しい鳴き声を漏らしているのは、ルスティカ博士のロコンだ。

 応急処置の甲斐あって、致命的な負傷こそ回復したものの、本格的な治療をするには、こんな野外では設備も薬も足りていない。

 

 れおピたちも彼女ほど衰弱していないが、それでもヴォイド団との戦闘や、彼らから振るわれた暴力によって受けた傷は多い。

 どちらにしても、1度ウツシタウンまで戻る必要があるだろう。

 

 

「クソッ、クソッ……! 我らの神聖なる使命を邪魔しやがって……! お前ら、タダじゃおかねぇぞ!」

「むしっきゅ!」

「よーしよし、ありがとなウェボム。こいつらは後で、シェラさんたちにしょっ引いてもらおうぜ」

 

 

 “ひみつきち”を隠れ家にしていた3人のヴォイド団したっぱ(内2人は気絶中)は、先ほどと同じ要領で別々の木に縛り付けておく。

 その間に、一通りポケモンたちを確認したソラは、彼らにボールへ戻ってもらうよう指示し、集めたモンスターボールをバッグの中へ。

 

 ボールはソラが、ロコンはリクが抱え、いつでも町へ戻れる状況。

 そうして作業を終えた2人は、どちらが示し合わせたでもなく、この場に立つ()()()()へと目を向けた。

 

 

 

「……そっちは済んだか? なら、おれはもう行くぞ。じきに神官が来るなら、おれがここにいる意味は──」

「りーりぃ!」

「……お前のご主人様はあっちだろう。あいつらに恵んでもらえ」

 

 

 

 手持ち無沙汰に腕を組み、近くの木に背を預けている名無しの少年。

 

 彼も彼で、したっぱたちが使っていたポケモンたちの拘束やその見張りをしていたのだが、その間にも彼は、度々こちらを()めつけてきていた。

 彼の目は険しく、ソラを監視するかのように、そしてどこか、彼女を責め立てているかのように細められている。

 

 ……のだが、その足元を飛び跳ね、きのみをねだるフルスリの姿がどうにもノイズっぽい。

 どうやら先の戦闘を経て、すっかり少年に“なついた”らしい。

 

 寄越せ寄越せとせっつく鳴き声に溜め息をつき、かれこれ3個目になるきのみを取り出し、投下する。

 黄土色のそれを受け取ったフルスリは、嬉しげに齧りつき──すぐに顔をしかめた。

 

 

「りびぃ……」

「“ヨロギのみ”だ。“しぶから”味は大して好みじゃないだろうが、それでも食って大人しくしてろ」

 

 

 “なみだめ”になりながらも、“ヨロギのみ”を手放す事はしないフルスリ。

 如何に微妙な味だろうと、きのみを粗末にするのは許せないらしく、抱えたそれを渋々と齧り出した。

 

 

「ハァ……やっと静かになったな」

(“ヨロギのみ”は、“こうかばつぐん”のいわタイプのわざから受けるダメージを和らげる……。あの子(フルスリ)、さっき“ころがる”を食らってたっけ)……優しいんですね」

「勘違いも甚だしいな。別に、ポケモンを痛めつける趣味が無いだけだ。そこのクズどもと違ってな」

 

 

 視線の先が移り、今度は木に縛られている助祭(したっぱ)の側を“にらみつける”。

 3人いた内、唯一意識が残ったまま拘束されてているその男は、自分がもはや何もできない事を分かっている為、憎々しげに睨み返す事しかできていない。

 

 敵はすべて倒し、囚われていたポケモンたちも救出した。

 しかし、それで万事解決……とする前に、確かめなければならない事がある。

 

 

「結局、あんたは何者なんだ? おいらたちの味方なのか? それとも敵か?」

「……それは今、聞かなければいけない事か? そのロコンを早く町に連れていかないといけないんだろう?」

「それはそうだけど、あんたの目的が分からない事にはな。……“リンネの儀”に挑んでるんなら、“船出仕合”のあったカロンタウンから西に向かう筈だろ。なんでここにいる?」

 

 

 そう語るリクの視線もまた、穏やかとは程遠いものだった。

 

 彼からしてみれば、謎の輩どもに姉を傷つけられ、彼女のポケモンも痛めつけられ、あまつさえ自身の“ひみつきち”さえ利用されたのだ。

 そんな状況で現れた、思惑不明の謎の存在に、どうして警戒心を抱けずにいられようか。

 

 けれど、それでもだ。

 

 

 

「……やめて、リク」

 

 

 

 服の裾を掴まれ、リクがそちらを見る。

 果たして彼の傍には、悲しげな表情をしたソラが、縋るような目を向けてきていた。

 

 

「この人は悪い人じゃないわ、絶対。だって、わたしやリクがポケモンを助けに来たのに、それを邪魔しなかった。ううん、それどころか“てだすけ”してくれた。それに、フルスリだって“なついて”る。ヴォイド団の連中とは違うわ」

「け、けどよ……」

「お願い。……こんな状況で、敵じゃない人まで疑わないで」

 

 

 何を根拠に……と、そう切り捨てるのは簡単だ。

 しかしリクは、決してそうはしなかった。

 

 10日かそこらの付き合いだが、それでも彼女が何を恐れ、何に怯えているのかは容易に推測できた。

 

 だから彼は、ソラが恐れている不信(もの)に気付いている。

 だから彼は、ソラが自分の懐疑(それ)に怯えている事を悟った。

 

 彼の腕の中では、ロコンが苦しそうにしている。

 彼女の為にも、ここで揉めている訳にはいかないと、分かっていた筈なのに。

 

 

「……悪い、2人とも。おいら、冷静じゃなかった」

「ううん。……わたしも、リクがなんで疑ってたのかは分かってる」

 

 首を緩く振れども、気まずい雰囲気は無くならない。

 そこで、微妙な沈黙を破るようにして、苛立たしげな溜め息が吐き出された。

 

 

「……状況が状況だ、疑ってかかるのが普通だろう。むしろ、信じる根拠なんて無いのに『疑わないで』なんて抜かすお前の方がどうかしてる」

「うっ……。それは、そう、ですけど……」

「敬語もやめろ。畏まられると不愉快だ。どうせ歳も近いだろ」

 

 

 メッタメタに説き伏せられて、“きゅうしょにあたった”ソラが縮こまる。

 彼女のか細い頷きを認め、名無しの少年は小さく舌打ちを落とし、後ろの木から背を離した。

 

 

「手短に答えてやる。だが、その前に……ソラ、だったな。お前も答えろ。お前は、“タイヨウの地”の人間だな?」

「……えっと、その“タイヨウの地”の人間っていうのは……もしかして、わたしが“星見人”かどうかって事?」

「そうだ。……“マハルの地”の外の世界には、頭の上に大地が存在せず、代わりに“タイヨウ”という巨大な火の玉が浮かんでいると聞く。それを、おれたちの伝承では“タイヨウの地”と呼んでいる」

「“タイヨウの地”……太陽、つまり地上って事ね。でもそんな話、博士やシェラさんからは何も……」

「言っただろう。()()()()()()()()()、と」

 

 

 その言葉の真意は、今の少女には分からない。

 首を傾げつつも、聞かれている事への答えを出さねばならない。

 

 リクを見れば、こくりと頷きを返してくる。

 答えるかどうかはソラに任せる、という事だろう。

 

 

「……ええ、そうよ。わたしは、あなたたち“マハルの地”の人たちが“星見人”と呼ぶ存在。色々あって、地上からこの世界に迷い込んじゃって、今は帰る方法を探す為に“リンネの儀”に挑戦中なの」

「……そうか……。……“タイヨウの地”は、本当にあったんだな」

「信じるの?」

「疑う意味は無いし、ほぼ確信している。こっちからはこれでいい。満足だ」

 

 その一瞬だけ、彼の目つきは緩み、柔らかなものであったように見えた。

 だが、その緩みもすぐに消えて、元の相手を刺し殺さんほどの鋭さが戻ってくる。

 

 

「それで、おれがお前たちにとっての敵か味方か、だったな。そんなものは知らん」

「知らん……って、あんたなぁ」

「おれは別に、お前たちの邪魔をしている気も、お前たちに助力してやっているつもりも無い。今回はただ、都合がよかったからお前たちを利用しただけだ」

 

 

 名無しの少年は2人に背を向け、その場を離れようとする。

 そんな彼の後を、フルスリがきのみ(1/3ほど食べ進められている)から口を離して追おうとするが、すぐに「来るな」と制止されてしまう。

 

 

「おれがここにいるのは、ヴォイド団らしき連中をこの辺りで見かけたと聞いたからだ。だからカロンタウンを引き返してきた。そうしたら案の定、木の上で秘薬の実験をしようとしていたから、それを妨害した。それだけだ」

「……あなたは、彼らが何者かを知っているの?」

「聞いてどうする。深入りするつもりならやめておけ。命がいくつあっても足りんぞ」

 

 

 ひゅう、と風が吹く。

 冷たい夜風は、その場の面々の肌を撫で──そして、名無しの少年の装いを微かに揺らす。

 

 ロトム図鑑より放たれた“フラッシュ”の光は、今なお彼の姿を照らしていた。

 風に揺れたターバンの陰に、薄っすらと()()()()()が垣間見える。

 

 ()()()()()()()()()

 そして、徹底的に隠された素肌。

 

 

「……あなた、まさか……」

「……。おれの目的はただひとつ。ヴォイド団を潰し、奴らの企みもすべて潰す。すべてだ。今回も、囚われたポケモンを助けに来た訳じゃない。ポケモンが犠牲になる事で、奴らの計画が成就する可能性が少しでも増えるなら、それを妨害するまで」

 

 

 彼の身に何が起きたのか。

 それをソラたちは知らない。知る由も無い。

 

 だが、如何に感情に疎い人間とて、その語りを聞けば分かる。

 彼の言葉に、彼の声に、どんな思いが秘められているのかを。

 

 

 

「もう1度言うぞ。ヴォイド団に関わるのはやめておけ。奴らと戦うだけなら、まだいい。だが、もしもまかり間違って奴らに与する事があれば──その時は、おれがお前たちを潰す。完膚なきまでに」

 

 

 

 それは、()()だった。

 ヴォイド団への怒りと憎しみが、彼の一言一言から伝わってくる。

 

 自分たちと歳はそう変わらないだろう少年が、何を体験すればここまでの気迫を出せるのか。

 ソラとリクは、ただ唾を飲み込む事しかできずにいた。

 

 

「……」

「……少し喋り過ぎた。今聞いた事は忘れて、さっさと巡礼の旅に戻れ。この場の事は、神殿(ジム)の連中に任せておけば──」

「っくっくっく……くはっ、はははははっ!」

 

 

 嘲笑。

 少年を──否、この場の面々を明確に嘲り、哄笑を上げる声。

 

 眉を潜めた誰もが視線を集中させた先、それは木に縛り付けられた3人の助祭(したっぱ)の内、まだ意識が残っていた最後の1人だ。

 それまでの憎々しげな表情はそこに無く、代わりに勝ち誇ったかのような嘲笑があった。

 

 

「何を言うかと思えば、まったくお笑いだ。お前のようなガキに、ヴォイド団の偉大な使命を阻む事ができるものか! “()()()()()()()()()()()()()()、我ら“ヨミの民”は必ずやこの地を支配し、お前たち“マハルの民”の命を、残らず深淵の神へと捧げるだろう!」

「こいつ……負けて縛られてんのに、なんでこんなに勝ち誇れるんだ?」

「負けた? 負けただと? ハッ! 確かに我らはお前たちに負けただろうさ。だが、この場の我らを倒したとて、ヴォイド団は止まらんよ! それにこの作戦には、()()()()()のお1人も参じておられる! お前たちに勝ち目など無い!」

「……三司祭だと?」

 

 

 突如、名無しの少年の顔色が変わる。

 この場を去ろうとしていた筈の彼は、男の言葉を聞くや否や、取って返してこちらへ戻ってきた。

 

 

「来ているのは誰だ!? 今どこにいる!?」

「ね、ねぇ。三司祭って誰なの?」

「ヴォイド団の幹部だ! その名の通り3人いて、名前は直属の助祭(したっぱ)と、他の幹部以外には知らされていないが……お前は、誰が来ているのかを知っているのか!?」

「生憎だが、我らはただの末端。司祭さまの名をお聞きし、またお呼びする名誉は与えられていない。だが、今回の作戦にあたって、あの方はオヤブンポケモンを戦力としてご用意なされた!」

「オヤブン……!」

 

 

 その言葉に、ソラは息を呑んだ。

 

 オヤブン。

 ひとつの群れを統率するほどに強力で巨大な、野生ポケモンたちのボス。

 

 “ギムレの洞穴”でのテレネットとの戦いは、少女の記憶にも新しい。

 ヴォイド団の幹部は、あれと同じような野生のボス個体さえ捕獲し、あまつさえ使役しているというのか。

 

 同時に、リクが「あっ!」と声を上げた。

 何かを思い出した。そう言いたげな表情には、明らかな焦りがある。

 

 

「ソラ! アネキが言ってた、1匹だけいたっていうデカブツ! 研究所の中に入れないくらいデカくて強かったってヤツ!」

「え? ……あっ!?」

 

 

 一瞬だけ呆けるも、その言葉の意味はすぐに分かった。

 

 ここに来るまでにソラたちが対峙し、戦ったヴォイド団のしたっぱたち。

 彼らが使っていたポケモンはハヤシタ、パタパム、ベロバー、そしてゴロゴムシ。

 

 いずれも、ルスティカ博士が言うような「強いデカブツ」には該当しない。

 シェラが相手取っていた4人についても、それほど大きなポケモンが繰り出されていれば、目の前の相手に必死だったソラたちとて、すぐに気付くだろう。

 

 ば、と名無しの少年の方を見る。

 彼はこちらの意図を汲み取るも、フルフルと首を横に振って答えた。

 

 

「こいつらの手持ちは確認したが、それらしきポケモンはいなかった。気絶した2人が出しそびれたボールの中にもな」

「それじゃあ、今オヤブンポケモンを持ってるのは──!?」

『──緊急! 緊急! 近くの神官は全員ウツシタウンに集まれ!』

 

 

 その時だ。

 シェラに持たされていた通信機から、緊迫した声が響いた。

 

 声の主についてソラは知らないが、恐らくシェラの部下、プルガージムの神官だろう。

 しかし、問題はそこではない。

 

 彼の声の背後から聞こえてくる悲鳴や轟音、そしてポケモンの唸り声らしき──

 

 

 

「『──ブッ、モォォォォォオオオオオオオオオオンッ!!」』

 

 

 

 ……果たしてその“とおぼえ”は、町の方角から、そして手元の通信機から、まったく同時に轟いた。

 

 はるりんの“エコーボイス”もかくやというほどに、木立中の空気がビリビリと震え、肌さえ刺激する。

 弾かれたように町の方を向く少年少女たちの手元では、なおも神官の声が聞こえてきた。

 

 

『ウツシタウン内に巨大なポケモン出現! オヤブン個体と思われます! 至急、至急応援を!』

「あのっ、すみません! シェラさんはどうしてますか!?」

大神官さま(ジムリーダー)はまだお戻りになられていません! この通信が聞こえていましたら、大神官さま(ジムリーダー)も至急──』

『うん、ごめんね。シェラちゃん、今ちょーっと手が離せないカンジなんだ☆』

 

 

 神官の叫びへ被せるように放たれた、シェラの声。

 いつもの軽やかで明るい筈の調子には、どこか重々しく、彼女もまた焦っているような気配が感じられた。

 

『シェラちゃんが来れない間、神官の皆はウツシタウンで防衛お願いっ☆ なるべくすぐ終わらせてそっち行くから、それまでできるだけ時間を稼いでほしいな♪』

『それは──っ、いえ、分かりました! 大神官さま(ジムリーダー)のドードリオをお借りしてもよろしいですか?』

『もっちろん! ちゃんと言うコトを聞いてくれるハズだから、ガンガン頼りにしちゃって♪』

 

 まさしく一刻を争う事態なのだろう。

 肝心のジムリーダーが現場へ来ない事への動揺が感じられつつも、話はサクサク進んでいく。

 

 シェラの思惑は分からないが、だからと言ってまごまごしている訳にもいかない。

 リクと視線を交わして頷き合い、ソラもまた通信機に向かって叫ぶ。

 

 

「わたしたちも町へ向かいます! 捕まっていたポケモンたちはどうすればいいですか? 衰弱していて手当てが必要な子もいるんです!」

『現在、オヤブンは1番エリア方面へ誘導しています! 町の中の後方部隊に合流して、彼らに預けてください! そこから先は、我々の指示に従って!』

「分かりました! リク、行こう!」

「おう! ……悪い、そういう訳なんだ。おいらたちはここを離れるけど、できればしたっぱ(こいつら)を見ておいて──」

「……いや」

 

 ソラたちの焦燥を嘲るように見ていたしたっぱの顔面に、少年の足がめり込む。

 靴の跡をくっきりと顔面に刻み込まれて、男は白目を剥いて意識を閉ざした。

 

 

「おれも行く。ポケモンたちも気絶させたから、第三者が来ない限りは目覚めないだろう」

「そ、そうか……。ともかく、戦力が増えるならありがてぇ。いいよな? ソラ」

「勿論! ……もう少しだけ、わたしたちに協力してほしいの」

「分かっている。急ぐぞ」

 

 

 頷き、3人は各々の荷物やポケモンを纏めて駆け出した。

 その後をロトム図鑑が追い、やがて木立の中を暗闇が訪れる。

 

 向かうはウツシタウン。

 何としても、町への被害を食い止めねばならない。そんな焦りが、少年少女の胸中に渦巻いていた。

 

 ……だから、リクは気付かない。

 いや、気付きかかってはいたが、それを気に留める余裕が、今の彼には無かった。

 

 

 

(今の甘い匂い、どこから……いや、考えてる暇は()ぇ!)

 

 

 

 ヴォイド団の使う秘薬、その甘ったるい匂い。

 それが、今いる場より更に東──“死出の森”の方角から微かに漂ってきていた事に。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。