ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.91「Raid Battle」

 戦況が一変したのは、どこからか真っ赤な()()()が投じられた直後の事だ。

 

 それまで、追い詰めていた……とまでは言わないものの、それでも神官たちは、暴走するオヤブンナミノルロスをどうにか抑え込む事ができていた。

 ウツシタウンに住み着いていたジャラランガも戦列に加わり、後はシェラ(ジムリーダー)か、そうでなくても有力なトレーナーが増援に来てくれれば、決着へ持ち込む事ができただろう。

 

 ……()()がなんであったかを、その時の彼らには推し量る事ができなかった。

 しかし確かな事として、()()がナミノルロスの体に突き刺さった瞬間、赤いエフェクトがオヤブンの全身を包み込み──やがて。

 

 

 

「ブモォッ──モゴァ、ガァァァアアアアアアアアアアンッ!!!」

 

 

 

《オヤブンの ナミノルロスの いわくだき こうげき!》

 

 

「攻撃が来るぞーっ! 防御態勢ー!」

「くそっ……すまない、トゲチック! 頼む!」

「ちちっ、くーりィっ!」

 

 

《トゲチックは このゆびとまれを つかった!》

 

《トゲチックは ちゅうもくの まとに なった!》

 

 

 元々筋骨隆々だったナミノルロスの肉体は、今や秘薬の投与によって更に隆起し、更に真っ赤な()()()──“きょすうのはね”の力により、更なる肥大化を果たしていた。

 振り上げられた右腕の筋肉は明らかに収縮していて、強力な攻撃の前兆である事をこれでもかと主張している。

 

 そこへ割り込むのは、小さな羽を背に持つ真っ白な天使風のポケモン。

 神官の手持ちの1匹、しあわせポケモンのトゲチックが、ちっちゃな指を艶やかに振り、相手の敵意(ヘイト)を一身に受け止めんとした。

 

 

「ブモガォォオオオッ!!」

「く、りぃっ──! ち、くっち……!」

 

 

《こうかは いまひとつ のようだ……》

 

 

 ナミノルロスの放った“いわくだき”はかくとうタイプのわざ。

 対するトゲチックはフェアリー・ひこうタイプ。いずれも、かくとうタイプのわざを半減する事ができる。

 

 本来であれば、半減に半減が重なり、実ダメージは1/4にまで軽減されるだろう。

 事実、そうなった。タイプ相性は厳格に作用し、トゲチックは本来受けるダメージを大幅に削減する事に成功した。

 

 けれど。

 

 

「ガオモォオ──ッ!!」

「な──トゲチックっ!?」

 

 

《トゲチックは たおれた!》

 

 

 それまでに積み重なった痛痒(ダメージ)、疲労。それも勿論あるだろう。

 だが、それを加味してもなお、通常あり得ないほどのダメージによって、しあわせポケモンは一撃で地面へと叩き落された。

 

 拳を真っ正面から受け止めた勢いのまま、後方の地面へ着弾し、砂煙を起こす。

 そのあまりの衝撃に砂煙はすぐに晴れ、クレーターめいて凹んだ中心部に、“ひんし”の小さな体が露わとなった。

 

 

「そんなバカな……!? タイプ相性の上では、こちらが有利な筈だぞ!?」

「いいからお前も下がれ! 今のでお前のポケモンは最後だろう!? 援護しろアーケン、“こわいかお”だ!」

「私たちも前に出ます! ルチャブル、“フェザーダンス”!」

「けあっきゃー!」

「ルッチャルーッ!」

 

 

《アーケンは こわいかおを した!》

 

《オヤブンの ナミノルロスの すばやさが がくっと さがった!》

 

《ルチャブルは フェザーダンスを した!》

 

《オヤブンの ナミノルロスの こうげきが がくっと さがった!》

 

 

 神官側から飛び出したポケモンは2匹。

 さいこどりポケモンのアーケンに、レスリングポケモンのルチャブル。

 

 もう1人の神官の男性が指示を飛ばし、アーケンの幼いながらも鋭い目つきが、相手の足を鈍らせる。

 同様に、神官の女性はルチャブルに羽根を振りまかせ、相手の体に絡みつかせる事で、その膂力を削ぎにかかった。

 

 “こわいかお”による“すばやさ”の減少は2段階。“フェザーダンス”による“こうげき”の減少も同じく2段階。

 これらの弱体化(デバフ)は戦闘開始当初からチマチマと重ねてきたし、そこに“にほんばれ”によるみずタイプの威力削減もある。

 

 元よりこれは尋常のバトルではない。町や人々を防衛する為の戦いである以上、手段を選ぶ訳にはいかないのだ。

 複数のポケモンで取り囲み、ここまで徹底的に妨害(ロック)すれば、通常の暴走ポケモンではどうする事もできないだろう。

 

 

 

「──ブモゴァアアアアアオオオオオオオオオオォッ!!!」

 

 

 

 そう。

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「これっ、本当に効いてるんですか……!? こっちの弱体化(デバフ)わざも、攻撃も……!」

「効くまでやるんだよ! ジャラランガもやられたんだ。この場の俺たちでやるしかない!」

 

 

 視界の隅では、トゲチックをやられた神官が、先に手持ちが全滅したもう1人の神官を背負って、後方に下がっていくのが見えた。

 先に倒れた方の彼は、ナミノルロスの攻撃の余波をまともに受けて気絶していたが、戦況が戦況な為に誰も助ける事ができずにいたのだ。

 

 正直、ここまで人1人、ポケモンの1匹も死んでいないのは幸運と言う他無いだろう。

 けれど、ここからはそうではない。離脱者が増えれば増えるほど、天秤は酷い速度で傾いていく。

 

 

「ジムリーダーは……シェラさんはどこで何やってんだ……!? いや、あの人の事だから、()()()()()()()()()()()が別のとこで起きて──」

「っ、前! 前見てください!」

 

 

 疲弊による、一瞬の意識の緩み。

 それは戦場──特に、集団で相手しなければならないほど強力なポケモンの前では、致命的な間隙となる。

 

 

 

「ブモォォォォォォォォォォオッフ!!!」

 

 

 

《オヤブンの ナミノルロスの おたけび!》

 

 

 狂った獣による、狂気と殺意をふんだんに込めた大絶叫。

 それは例え痛痒(ダメージ)をもたらすものでは無かったとしても、振動と感情を以て相手を苛ませる、ひとつのわざとなる。

 

 

「しまったっ──アーケン!」

「けりゃりゃあっ!? ……け、りにゃっぴ……

 

 

《アーケンの こうげきが さがった!》

 

《アーケンの とくこうが さがった!》

 

 

 相手の“こうげき”と“とくこう”を1度に下げるわざ、“おたけび”。

 これが尋常のポケモンバトルであれば、「まぁ厄介だな」と思う程度で終わるだろうが、オヤブンポケモンと呼ばれるほど強力な個体が使うとなると、話は変わってくる。

 

 怒り狂った巨獣の咆哮を前にして、身を竦ませずにいられる者はそう多くは無い。

 (いわん)や相手は、これまでに前例の無い狂騒に駆られたオヤブンなのだ。多かれ少なかれ、その絶叫はこちらの集中力を打ち砕く。

 

 加えて、アーケンには“よわき”というとくせいがある。

 体力(HP)が半減すると大きく弱体化するというデメリットを持つとくせいだが、狂えるナミノルロスの“おたけび”によって、擬似的なれども“よわき”が起動してしまったのだ。

 

 

「アーケン! おい、アーケン! 正気に戻れ!」

「ルチャブル、彼らのカバーを! “かみなりパンチ”です!」

「ルッチャチャッ──チャアッ!?

「ブモォオオオッス!!」

 

 

 サーフボードのように巨大な板状の尾は、振り回すだけで強力な武器となる。

 本来なら“こうかばつぐん”の一撃を与える筈だった拳は、薙ぎ抜かれた尻尾に阻まれ、近付く事すら叶わない。

 

 そうこうしている内に、再び拳が振り上げられる。

 その標的は勿論、“おたけび”に竦んで隙だらけのアーケンと、その神官(トレーナー)だ。

 

 

「っ、逃げてください! 早く!」

「ブゴォォォォォオオオオオオオオオオアァアッ!!!」

 

 

 女神官の悲鳴じみた叫びも虚しく、狂気に濡れたオヤブンの目は、獲物を捉えて離さない。

 ミチリと音を立てて強張った筋肉は、間もなく殺意の鉄槌が下される事を予告しているようで。

 

 それは即ち、決して逃れる事のできない致命を──

 

 

《オヤブンの ナミノルロスの──》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──はるりん、ナミノルロスに“ないしょばなし”!」

「けりりっ、ほっけきょーっ!!

 

 

 

 狂える獣の大絶叫が、ただそれだけで、ひとつのわざとして成立するように。

 自他に影響をもたらす現象を「わざ」と呼ぶならば、小鳥の囀りもまた、立派なわざのひとつに違いない。

 

 

《はるりんの ないしょばなし!》

 

 

 

「ブギッ!? ブモッ、ギィィィイイイイッ!?」

 

 

 

《オヤブンの ナミノルロスの とくこうが さがった!》

 

 

 ピーチクパーチク、集中力を削ぎ落とすかの如くうるさい囀り。

 例え理性を失い、狂気に身を浸した状態であろうとも……いや、そんな状態だからこそ、ほんの少しの囁きがパフォーマンスを掻き乱す。

 

 振り上げた筈の拳は、眼下の敵にトドメを刺す為でなく、己の耳元の()()を振り払い叩き潰す為に消費される。

 けれどもその時には既に、乱入者はナミノルロスの傍を離脱し、己のトレーナーの下へと舞い戻っていた。

 

 

「た、すかったが……今のは、誰のポケモンだ?」

「──大丈夫ですか!」

 

 

 シェラのように明るくも芯の太いものでなく、同僚の神官たちのようにハキハキと規律だったものでもない。

 

 明らかに場慣れしていない、素人丸出しの若い少女の声。

 その声に、彼らは聞き覚えがあった。

 

 

 

「状況は把握してます。わたしたちも一緒に戦います!」

「ほりっけり~!」

 

 

 

 今日の朝、シェラとのジムバトルに勝利したばかりの巡礼者の少女、ソラ。

 本来この場にいてはいけない筈の駆け出しトレーナーが、傍を飛び侍らうハルドリ(はるりん)とともに現れた。

 

 

「なっ──なんで来たんですか!? この場は危険です! バッジを1つしか持っていないような、駆け出しのあなたが来ていい場所じゃないんです!」

「分かってます! わたしじゃ力不足だって事も! でも──っ!?」

「ブモゴォォオオオオオッス!!!」

 

 

 敵を前にしての言い争いなぞ、隙だらけにもほどがある。

 そう言わんばかりに拳を振るうナミノルロスの咆哮に、ソラと女神官は即座に口論を止めて、各々の回避行動を取った。

 

 先ほどまで少女たちがいた場所を、巨大な一撃が打ち砕く。

 巻き上がる土砂と衝撃に背中を煽られながらも、ソラはどうにか、女神官は余裕を持って態勢を整えた。

 

 

「っ……言い争ってる場合じゃない。ルチャブル、もう1度“フェザーダンス”です!」

「はるりんは“でんこうせっか”! 相手の注意を引き付けて!」

「けーりー!」

 

 

《はるりんの でんこうせっか!》

 

 

 ここまでの戦闘で、ソラが学んだ事。

 “でんこうせっか”は攻撃に用いるよりも、その素早い動きで相手を撹乱したり、逆に相手を自身に釘付けにさせ続ける為に用いた方が、効果的に働きやすい。

 

 相手よりも先手を取って、素早く動ける。

 その特性を活かして、はるりんはナミノルロスの顔の周りをちょこまかと飛び交い、しかし相手の反撃は受けないような立ち回りをする事ができていた。

 

 

「ルチャッ、ブゥーリャーッ!!」

「モォオオッ!? モゴッ、ブモォォォオアアアッ!!」

 

 

《ルチャブルは フェザーダンスを した!》

 

《オヤブンの ナミノルロスの こうげきが がくっと さがった!》

 

 

 そして、相手の意識がはるりんだけに向けられた隙に、ルチャブルが再び羽根を散らした。

 巨体にぺたりと貼り付いく無数の羽根は、筋肉の動きを阻害し、それまでのような暴れっぷりを無理やり抑制しにかかる。

 

 

「ブ、モッ……モォォォオオオ……!! ブモゴッ、ゴォオオアアアア!!

 

 

 だが、それでもナミノルロスの動きは止められない。

 幾度も“フェザーダンス”を浴びせられているにも拘らず、その体はまだ強靭さを発露し続けていた。

 

 

「そんな、効いてる筈なのに……!?」

「いや、これでいい。“いわなだれ”だ、頭を狙え!」

 

 

 神官の指示が後ろから聞こえる。

 直後、少女の目には、アーケンの鮮やかな翼が前へ躍り出る様が映り込んだ。

 

「あけあっ、けきゃーっ!!」

 

 

《アーケンの いわなだれ!》

 

 

 さいこどりポケモンが地面を蹴り、土砂を巻き上げる。

 宙に撒かれた砂は、高度を上げるにつれて大きくなり、やがて岩の集合体へと変化した。

 

 それらは、相手が対抗し切れぬほどの速度で空中まで至ると、やがて炸裂。

 文字通り岩のシャワーとなって、ナミノルロスの頭部に降り注がれた。

 

 

「モッ──ゴガァアアアアアアアアアア!?!?」

 

 

《こうかは いまひとつ のようだ……》

 

 

 いわタイプの“いわなだれ”は、かくとうタイプのナミノルロスに対して“こうかいまひとつ”。

 加えて、今のアーケンは“おたけび”の効果で“こうげき”が下がっている上、擬似的な“よわき”の発動によって弱体化している。

 

 普通であれば、大したダメージになどなりはしない。

 そしてそれは事実だ。タイプ一致とはいえ、放たれた“いわなだれ”は相手を打ち倒すには至らない。

 

 それでも、このわざが命中した事には意味がある。

 

 

「ゴ……ォ、オオ……ガァ……!?」

 

 

《オヤブンの ナミノルロスは ひるんで わざが だせない!》

 

 

 “いわなだれ”には、命中した相手を一定の確率で“ひるみ”状態にする効果がある。

 指示通り、相手の頭部に集中して放たれた岩のシャワーは、ナミノルロスの脳を揺らし、一時的なれども膝をつかせる事に成功した。

 

 我を忘れて暴れ回っているポケモンだからこそ、意識を揺らして目を回させれば、そうそうすぐには復帰できない。

 相手が動けないでいる間に、神官の2人はソラと合流し、敵から一旦距離を取る。

 

 

「さっきはおかげで助かった、ありがとう。だが、なんて無茶をしてくれたんだ。ここは巡礼になんの関係も無い、命のやり取りをする場なんだぞ。決闘の儀(ジムバトル)とは訳が違うんだ」

「そうですよ! ここは私たち神官たちに任せて、あなたは早く後方に──」

「それでもわたしは戦います。戦わせてください」

 

 

 目と目が交差する。

 少女の視線は真っ直ぐで、絶えず神官たちへと向けられていた。

 

「町を、ルスティカ博士を……皆を、守りたいんです。お願いします。足は引っ張りません。指示にも従います。だから」

「……」

 

 よく澄んだ目をしている、と神官たちは思った。

 濁りの無い空色の瞳は、未だ辛酸知らぬ若輩の証明か、或いは確固たる意志の表れか。

 

 その若い気迫に射抜かれながらも、男の神官は眼球だけを横に動かす。

 脳を揺らされ膝をついていたナミノルロスが、顔を抑えて痛みに眩みながらも、重々しく立ち上がろうとしているのが見えた。

 

 おちおち揉めている暇は無い。

 目を閉じ、小さく素早く呼吸を1回。

 

 

「……こちらの指示には必ず従え。いいな?」

「ちょっと、いいんですか!?」

「よくはない! だが、時間も無い。ナミノルロスが復帰するまでにこの子を説得し切るのは無理だろう」

 

 

 もう1度、ソラと目を合わせる。

 

 不安もある。恐怖もある。それらの感情で瞳孔が揺れている。

 それでも、ブレてはいない。強迫に駆られるでも、熱に浮かされるでもない、テコでも動かないと言いたげな眼差し。

 

 ()()を説き伏せるのは至難の業だ。神官の男はそう判断した。

 だが、その上で言っておかねばならぬ事がある。相手が“ひるみ”から復帰し、動き出すまで、時間はそう残されていない。

 

 

「だが、約束しろ。後で、大神官さま(ジムリーダー)たちにしっかり叱られるんだ。叱られる為にも、必ず生きて帰れ。俺たちの指示には従ってもらうが、俺たちの指示よりも、自分と自分のポケモンの命を優先しろ」

「……はい!」

「いい返事だ、信じるぞ」

 

 

 頷き、敵を見る。

 

 ナミノルロスは今まさに立ち上がり、ふらつく足を踏み締めているところだ。

 しかし、まだ完全には立ち直っていないようで、顔面を抑える手の指の隙間からは、真っ赤な眼光が激しく揺れているのが見えた。

 

 

「状況を端的に伝える。出現した時点で、既に奴のボールは破壊されていた。つまり、今のナミノルロスは野生ポケモンだ」

「つまり、無力化して捕獲し直せばいいんですね。通信で言ってた、シェラさんのドードリオは?」

「後方で“にほんばれ”を維持してもらってる。相手のみずわざを封じる為だが、戦いながらだと途切れる可能性があるんでな」

「分かりました。主力はお2人に任せて、わたしは撹乱に回ります」

「ああ、それでいい。お前もいいな?」

「ダメ、って言ってる場合じゃないですからね。仕方ありません、後で私も一緒に大神官さま(ジムリーダー)に〆られてあげますよ」

 

 

 女神官が溜め息混じりにそう返す。

 会話の間に、各々で持っていた“オボンのみ”を自分のポケモンたちに食べさせ、とりあえずの応急処置として。

 

 そうこうしている間に、とうとう巨体は完全復帰を果たす。

 ハッキリと開かれた眼は血のように赤く、“ひるみ”によって一時的にでも損なわれていた狂気が、爛々と蘇りつつあった。

 

 

「ブルルルルルッ……! ブッ、モォォォォオオオオオ!!

「っ……!(凄い気迫……分かってた筈なのに、ひるんでしまいそう)

 

 

 遠くから見ていた時から、既に()()だったのだ。

 実際に前へ出て、間近でその咆哮を浴びれば、どうしても恐怖に臆する心が顔を出す。

 

 しかし、膝を屈する訳にはいかない。

 ぐ、と奥歯を食い縛り、無理やりにでも足に力を入れて、その場から退いてしまう事がないように。

 

 ……そうして気を確かに持とうとする中で、ふと思い出した事がある。

 

 地上の一部の地方──例えばガラル地方やパルデア地方などでは、複数のトレーナーで1匹のポケモンと戦う事があるという。

 多くの場合、相手取るポケモンは特別強力な個体であり、その強大さ故に数名のトレーナー、数匹のポケモンで協力して打ち倒す。

 

 そんなバトル形式の名を。

 

 

 

「“レイドバトル”……。まさか、わたしが参加する事になるなんて」

 

 

 

 この場にいるのはソラと、神官が2人。

 そして、“にほんばれ”を維持し続けているシェラのマハルドードリオも含めれば、合計で4チーム。

 

 ガラルやパルデアのレイドバトルもまた、同じ4チームで行われる。

 ならばこれは、紛う事無く──

 

 

 

「ブモォォォォォオオオオオッ、ガァァァァァアオオオオオン!!」

「来るぞっ! 構えろ!」

 

 

 

《オヤブンの ナミノルロスが しょうぶを しかけてきた!》

 

《オヤブンの ナミノルロスは、オーラを まとい のうりょくが あがった!》

 

 

 

 

 

 

「ぐ、くそっ……!」

「なんだ、あいつ……なんなんだ、あのロゼリア!?」

 

 

 一方、その頃。

 リクと名無しの少年の2人は、ヴォイド団の司祭(かんぶ)を前にして、傷だらけで膝をつきかけていた。

 

 

「だァから面倒なんですよォ、お子様っていうのは。勝敗の分かり切った勝負なのに、惨めったらしく食い下がろうとしちゃってさァ。さっさと諦めてくれませんかねェ」

 

 

 腐った木の柄の仮面を被った男──司祭は、屋根の上でだらりと蹲踞(そんきょ)の姿勢を取っている。

 仮面越しにブワリと“あくび”をしながら、その視線はナミノルロスにのみ注がれていて、リクたちを一瞥すらしていない。

 

 

「ぜェるゥ……!」

 

 

 そして、ロゼリア。

 2人の前に立ついばらポケモンは、その小柄な体躯に見合わぬ巨大な威圧感を依然として放ち続けていた。

 

 その体に──傷は、ひとつもついていない。

 

 

「しゅ、みぃ……」

「かぁろ……っ!」

「あいつ、トレーナーじゃないのかよ……!? なんだって、こんな……」

 

 

 自分たちと同様、傷つき消耗したウェボムやガプリコの背中が視界に入る。

 負け惜しみじみた言葉である事をしかと自覚しながらも、それでもリクはぼやかざるを得なかった。

 

 

 

「あのロゼリア……()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

 

 




マハル図鑑 No.061
【トゲチック】
ぶんるい:しあわせポケモン
 タイプ:フェアリー・ひこう
とくせい:はりきり/てんのめぐみ(きょううん)
ビヨンド版
 優しい 心の 持ち主を 求めて 旅を する。上下の 大地を 自由に 行き来 できるぞ。
ダイブ版
 羽毛には 幸せが 詰まっている。翼を 動かさずに 空を 飛べるのは その為 らしい。

《進化》
???
→ トゲチック(とてもなかよしな状態でレベルアップで進化)
  → トゲキッス(『ひかりのいし』で進化)


マハル図鑑 No.079
【ルチャブル】
ぶんるい:レスリングポケモン
 タイプ:かくとう・ひこう
とくせい:じゅうなん/かるわざ(かたやぶり)
ビヨンド版
 翼を 活かした 軽やかな 動きで 相手を 翻弄する。観客への アピールも 忘れない。
ダイブ版
 ジャングルは 絶好の 修行場。木々の 間を 飛び回り アーケオスを 相手に 特訓だ。


マハル図鑑 No.214
【アーケン】
ぶんるい:さいこどりポケモン
 タイプ:いわ・ひこう
とくせい:よわき
ビヨンド版
 主に ジャングルに 生息。木の枝を 足場に 飛び移りながら 獲物を 探して 襲うぞ。
ダイブ版
 飛ぶ 事は 苦手だが 森の 中では 獲物の 頭上から 襲いかかる 脅威の ハンターだ。
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