ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.94「解き放つ緑」

 その轟音が耳を殴りつけた時、全員が戦いの手を止め、音の発生源へと振り返った。

 

 まず最初に感じるのは、振り返った瞬間に顔へと降り掛かった水しぶき。

 ひんやり冷たい水滴が勢いよく飛んできて、思わず目を閉じかけた──その狭間から、見える景色は。

 

 

 

「ブモォォォォオオオオオッス!! ブモォオオオッ!! モォォオオオアアアアン!!」

 

 

 

 広い草原だった筈の1番エリアを浸す、荒ぶる波間。

 その中央に立ち、狂ったような勝鬨を轟かせる、巨大なオヤブンナミノルロス。

 

 彼我の戦場は遠く離れている事、本来あり得ない筈の水と波が荒れ狂っている事もあって、詳細な状況を視認する事は難しい。

 だが少なくとも、向こうの戦場に立って動いている者は、オヤブンの巨体を除いて1人も見当たらない事だけは確かだった。

 

 

「あァららァ……もう終わってしまいましたかァ。ま、烏合の衆の割には、よく保った方じゃないですかねェ?」

「そ、そんな……!? ソラ、神殿(ジム)の皆──ッ!?」

 

 

 音は無かった。

 しかし、あえて擬音をつけるならば、「バツン」が最も適切だろうか。

 

 何の前触れもなしに、1番エリア一帯から光が消失する。

 昼間のようだった明るさは一瞬で消えて無くなり、本来あるべき夜の闇が、たちまちに周囲を包み込んだ。

 

 

「のわっ!? こ、今度はなんだよ……!」

「……“にほんばれ”の効果が切れた。向こうで何かあったんだろう」

 

 

 そんな中にあっても、名無しの少年は冷静さを保っていた。

 彼は向こうの状況を視認するや否や、すぐにこちら側へと視線を戻し、ロゼリアの動きを視界に入れる。

 

「だが、向こうを気にしている場合じゃない。気を取られれば死ぬぞ。──“フラッシュ”!」

「シィミズ!」

 

 

《フカシオは フラッシュを つかった!》

 

 

 フカシオの赤いコアが輝き、仮初めの肉体越しに、眩い光を全方位へ拡散させる。

 瞬間、先ほどまでのような昼の如き明るさが、夜の闇を打ち消さんとこの場を満たした。

 

「ぜ、るゥッ……!?」

 

 

《あいての ロゼリアの めいちゅうりつが さがった!》

 

 

 同時に、“ふいうち”気味に閃光を浴びたロゼリアは、目がチカチカと瞬いて眩み、反射的に動きを止めてしまう。

 今まさに“マジカルリーフ”を放とうとしていた体が緊急停止して、まんまと出方を潰された形だ。

 

 

「いいから動け! この場を切り抜ける事だけ考えろ!」

「く、そ……っ! 無事でいてくれよ、ソラ……!」

 

 

 歯を食い縛り、前を向く。

 

 名無しの少年の言う通りだ。

 ソラたちの側で何が起こったにせよ、そちらに意識を割いた結果、生じる隙を見逃してくれるほど、あのロゼリアは甘くない。

 

 だから彼はフカシオに指示を出して、“フラッシュ”での牽制を図ったのだ。

 必中の“マジカルリーフ”には、“めいちゅうりつ”の低下も意味を為さないが、繰り出す前に封じてしまえば、それは当たらないのと同じ事。

 

 

(今はとにかく、ソラを信じるしかねぇ!)おいらたちが前に出る! ウェボム、“ミサイルばり”をばら撒け!」

「むっきゅっきゅ!」

 

 

 こういう場にこそ慣れてはいないが、リクとて素人ではない。

 攻勢に出るべきだとすぐに判断し、ロゼリアにタイプ上有利なウェボムを前に出す。

 

 跳ね飛んだ彼女の口腔から射出されるのは、火球ではなく無数の針。

 相手の弾幕に対し、迎撃の為に放たれた先ほどとは反対に、今回はこちらから打って出る形で放たれた。

 

 

《ウェボムの ミサイルばり!》

 

 

「やァれやれ……聞き分けの無いお子様は本当に面倒ですねェ。ロゼリアさん、さっさと終わらせてくださァい」

「ろろォぜるゥ!」

 

 

《あいての ロゼリアの マジカルリーフ!》

 

 

 馬鹿の一つ覚え。

 そう言葉だけで切って捨てるのは簡単だが、この光景を見てもなお、そう言える者は少ないだろう。

 

 両腕を構成する1対の薔薇を敵へ向け、砲塔に見立てた花弁(はなびら)から葉っぱを放つ。

 ただそれだけなのに、射出される葉の数も、速度も、そして威力も、凡百のくさポケモンとは一線を画していた。

 

 むしタイプの“ミサイルばり”と、くさタイプの“マジカルリーフ”とでは、前者が有利。

 ならば、己へ迫りくる針弾幕の前に、草葉たちはあえなく潰えてしまうのだろうか?

 

 

「むきゅっ!? きゅ、ぅうう……!」

 

 

 決して、そうではない。

 

 

《こうかは いまひとつ のようだ……》

 

 

 光の針に貫かれ、或いは打ち消しあって潰えた葉の中で、なおも生き延び突破したものがある。

 “マジカルリーフ”の「必ず相手に命中する」という効果の通り、弾幕を切り抜けたそれらは、やはり対面のウェボムへと突き立てられた。

 

 何度も見た景色、何度も繰り返された攻防。

 だが、こちらが完全に打ち負けっぱなしかと問われれば……それもまた、決してそうではない。

 

 

「ぜるっ……!?」

 

 

 ロゼリアの“マジカルリーフ”が、弾幕同士の打ち消し合いを切り抜けたように。

 ウェボムの放った“ミサイルばり”の中にも、魔法の葉とぶつかり潰える事なく、突き抜けたものがあった。

 

 自身の顔面目掛けて宙を裂くそれに対して、即座に顔を逸らして回避するロゼリア。

 けれども、針は彼女の顔を掠め、緑色の肌に小さな傷を描き出した。

 

 

《1かい あたった!》

 

 

(よし、当たった……! ガプリコの“でんこうせっか”を食らった時、すぐに“ギガドレイン”で立て直したとはいえ、攻撃された瞬間のあいつは若干だけど動揺してた。強いけど、無敵って訳じゃねぇ!)今だ、畳み掛けるぞ!」

「……ああ」

 

 

 リクの呼びかけに、名無しの少年は小さく頷く。

 

 ……ここまでのリクの思考に、瑕疵はさほど無い。

 事実、この時点までは、概ね彼の考えた通りに事を運べていた。

 

 みずタイプのフカシオを庇うように、ほのおタイプのウェボムを前に出し、フカシオが動きやすいようにする。

 それは単なるタイプ相性の観点以上に、“船出仕合”での光景を彼がよく覚えていたからでもあった。

 

 即ち、透明になる能力を持ったフカシオが、ロゼリアの視界外から“ねんりき”を放つ。

 どくタイプに対して有効に働くエスパータイプの“ねんりき”、それもタイプ一致の攻撃であれば、決して小さくない痛痒(ダメージ)を与える事ができるだろう。

 

 そしてそれは、正しく事実だ。

 故に、見落としがあったとするならば。

 

 

 

「……シィ、オ」

 

 

 

 “どくびし”の“どく”に苛まれながらに立つ、水の肉体。

 とうめいポケモンのフカシオは──依然として、ウェボムの背後から動いていなかった。

 

 

《フカシオの ねんりき!》

 

 

 揺らめく水の中央で、フカシオの本体であるコアが、赤い光を灯す。

 光とともに解き放たれたサイコパワーは、不可視のエネルギーとして大気を揺らし、1匹のいばらポケモンへ向けて殺到した。

 

 けれども今のフカシオは、その姿を露わとしたまま、相手から離れた場所からわざを繰り出している。

 いくら攻撃を受けて動揺していたとはいえ、ここまでの条件が揃ってしまえば、ロゼリアが対処する事は容易だった。

 

「ろォ……ぜ、るゥる!

 

 

《あいての ロゼリアの ギガドレイン!》

 

 

 赤と青、対称的な両腕の花弁を合わせるようにして前に突き出し、そこから濃い黄緑色の光を照射する。

 黄緑の光は、まるで獲物を求めているかのように空中を這いずり回り、やがて正面より来る不可視のエネルギーと衝突した。

 

 そうして起きた現象は、プルガージムでの決闘の儀(ジムバトル)の際に起きたものとほとんど同じだ。

 あの時、ちゆりんの“でんきショック”とホーホーの“ねんりき”がぶつかり合ったように、エネルギーとエネルギーの衝突によって強い閃光と衝撃が生み出される。

 

 

「ぐ……昼間にも見たな、こんな感じの光景……! けど、タイプ相性じゃこっちが有利な筈だろ? なら……」

「……」

 

 

 少年の頬を、汗が伝うのが見えた。

 彼には、2つのエネルギーの拮抗が、見せかけである事が分かっていたのだ。

 

 

「ぜェェェるるゥ……!」

「シ……シミッ、ズゥゥゥ……!

 

 

 “ギガドレイン”は、相手の体力(HP)を吸い取るわざである。それは常識だ。

 であれば、()()()()()()()()()()()()()と問われれば、それは否だ。

 

 自らとぶつかり合い、拮抗する“ねんりき”のサイコパワー。

 それを吸い取り、削り取り、奪い取り、己の出力へと変換しゆく。

 

 わざのエネルギーを吸い取ったとて、自身のHPに還元される事は無い。

 だが、削れば削った分だけ、天秤は己の側へ傾いてゆくものだ。

 

 ジリジリ、ジリジリと、黄緑色の光がリクたちへと近付きつつあった。

 

 

「不味い……! フカシオ、“ねんりき”の主力を上げろ!」

「いや……多分、こっちの方がいい! “ひのこ”をあの中にぶち込め!」

「しゅみ!」

 

 

 若干遅れたが、状況は理解できた。

 ならばとリクが命じれば、飛び跳ねたウェボムが口をぷっくりと膨らませ、眼前の眩い力場へ狙いを定める。

 

「むきゅっ──しゅーっ!!

 

 

《ウェボムの ひのこ!》

 

 

 不可視と黄緑、異なる性質のエネルギー同士がしのぎを削る、まさしくその中心部。

 そこへ差し込まれるように投じられた火球は、当然ながら2つのわざの暴力に揉まれ、呆気なく爆散する。

 

 しかしてそれは、ただ“ひのこ”が揉み砕かれただけで終わった、という訳でも無い。

 

 2つの力がぶつかる狭間へ差し込まれ、炸裂した事により、衝突し合っていたエネルギーまでもが巻き込まれ、爆発を起点として崩壊する。

 結果、“ねんりき”と“ギガドレイン”の双方がまとめて四散し、後には仄かな熱が残るのみとなった。

 

 

「ふぅ、なんとかなったか……。けど、一体どうしたんだ? “船出仕合”の時と比べて、フカシオの動きがなんだか鈍いぞ。さっき食らった“どく”が効いてるのか?」

「……いや、そうじゃない。だが……」

「ぜェりりィあ!」

 

 

 名無しの少年の言葉を塗り潰すように、ロゼリアが舞い踊る。

 無より木の葉が浮き上がり、何枚も、何枚も、いばらポケモンの踊りに合わせて増えていく。

 

 その数や、“マジカルリーフ”で射出される葉の比ではない。

 生み出された無数の葉っぱは、自然と生まれた風に乗り、鉄砲水のようにリクたちの方へと押し寄せてきた。

 

 

《あいての ロゼリアの はなふぶき!》

 

 

 自分以外のポケモンすべてを巻き込む怒涛の全体攻撃わざ。

 一切を飲み込む得る葉の津波が迫る中、“どく”に苦しみながらも、フカシオが動き出す。

 

 

《フカシオの ねんりき!》

 

 

「シッ……シ、シィィィイイイ……ォ、オオォ……!」

 

 

 振り絞られたサイコパワーが展開され、無色透明の壁に絡め取られた葉たちが、空中で静止する。

 それでも、次から次へ押し寄せんとする緑の群れを前に、少しずつ、少しずつ押し負けつつあった。

 

 

「そのまま“ねんりき”を維持しろ……! 相手だって無尽蔵じゃない、いずれ波は収まる!」

「ミィ、ズゥウウウ……!」

「ウェボム、お前もだ! “ミサイルばり”で少しでも削るんだ!」

「むきゃっしゅ! むっ、きゅー!!」

 

 

《ウェボムの ミサイルばり!》

 

 

 三度(みたび)、光の針が乱射される。

 不可視の壁をこちら側から突き破り、迫る葉っぱを片っ端から撃ち落としていくが、それにもやはり限界というものがある。

 

 やがて限界を迎え、“ねんりき”の防壁を突破した葉の群れが殺到する。

 サイコパワーと針弾丸、2つの攻撃を受けてなお、こちらを飲み込まんと奔る葉は、当初の半分ほどが残っていた。

 

「くそっ……“みずのはどう”だ!」

 

 

《フカシオの みずのはどう!》

 

 

「ミィ……ズッ!」

 

 フカシオの口(に見立てられているだけで、実際は水の塊の形状を変化させているだけだ)が開き、幾条もの水の輪が吐き出される。

 水の輪はそれ自体が振動を帯びていて、葉の津波にぶつかると同時、波動の力によってそれらを吹っ飛ばす。

 

 それが何発も緑の中へと飛び込み、その度に木の葉が吹き飛び、力を失っていく。

 そこまでやってもなお、こちらへ迫る葉は残っていて、だからこそリクはこう叫ぶしかなかった。

 

 

「すまねぇ、ウェボム。フカシオを庇ってくれ!」

「むしゅっ……むっきゅ!

 

 

 今にも無数の葉に飲み込まれようとしていたフカシオの前へ、ウェボムの赤い体が割り込んだ。

 彼女のちっちゃな肢体に、幾多もの葉が突き刺さり、蹂躙しにかかる。

 

 

《ウェボムに こうかは いまひとつだ》

 

 

きゅっ……きゅぅううう……っ!」

 

 怒涛を耐え切り、ボロボロに成り果てて地面へ落ちるウェボム。

 まだ戦闘続行は可能らしいが、いずれ近い内に体力が尽きるだろう事は明らかだった。

 

 

「よっし、よく耐えてくれた! ……おい、今だぞ!」

「……」

 

 

 リクの意図が、「フカシオを透明化させて相手の不意を突こう」である事など、名無しの少年は容易く理解できる。

 理解できるからこそ、彼は押し黙る他無かった。

 

 

「シッ……シ、ミズ……ッ!」

 

 

《フカシオは どくの ダメージを うけた!》

 

 

 ジクジクと、フカシオの体を蝕む“どく”の魔力。

 その体を構成する水分が、徐々に濁っていくのが見えた。

 

 

「一体どうしたんだよ!? なんでフカシオは動かねぇんだ!?」

「正しくは、動きたくても()()()()、ですかねェ。そうでしょォ?」

 

 

 そこで、屋根の上から嘲笑うような声が降ってくる。

 司祭の男は相変わらず遠くの戦場を眺めているが、そちらで何か起きているのかに意識を割くだけの余裕を、今のリクは持っていなかった。

 

「動けない……って、どういう事だよ!?」

「さっき言った通りですよォ。そのフカシオには、未だ克服できていない弱点があるんです」

 

 そこでようやく、男の目はこの場の戦場へと向けられた。

 仮面の向こうでアーチ状に歪む目の色は、彼が2人の少年を冷笑している事を明瞭に語っている。

 

 

 

「そのフカシオは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()。ですよねェ? だからロゼリアさんは、予め“どくびし”を撒いておいたんですからァ」

「……ああ、その通りだ」

 

 

 

 重々しく、そして苦々しく、名無しの少年は肯定の呟きを落とした。

 司祭の男が告げた事実に、リクは一瞬だけ目を見開くも、しかしある事を思い出す。

 

 

「……そうか、それでか! だから“船出仕合”の時、デシエビ(びぃタロ)相手に透明化を使わなかったのか!」

 

 

 まさしく、フカシオがリクたちの前に初めて現れた、“船出仕合”の折。

 はるりん(ハルドリ)ちゆりん(ピチュー)との戦いでは、透明化を駆使してソラを圧倒していた筈のフカシオは、しかし当時まだデシエビだった頃のびぃタロ相手には、透明になる事は無かった。

 

 その時は、名無しの少年の博識さや洞察力に驚いていた事もあって、それも戦術の一環だろうと思っていた。

 事実、透明化を使わずとも、フカシオはびぃタロを倒し、“船出仕合”に勝ってみせたのだから。

 

 だが、違った。

 あの時のフカシオは、ちゆりんの“ほっぺすりすり”を受けて、“()()()()()()()()()()

 だから、透明化が使えなかったのだ。

 

 今までは、それを隠しながら立ち回る事ができていた。

 けれど、今はそうじゃない。

 

 

「さァ、どうしますかァ? 欠陥持ちのポケモンに、素人トレーナーとそのポケモン。そんな有り様で、ロゼリアさんを倒そうだなんて、自分たちの愚かさがよォく分かったでしょォ?」

「ぜェるゥ……!」

 

 

 こちらの勝敗に興味を示さない司祭(トレーナー)に、彼が指示を出すまでもなくこちらを圧倒するロゼリア。

 何もかもが異常な相手であるにも拘らず──2人の少年とそのポケモンたちは、彼らを前に、どうする事もできずにいた。

 

 

 

 

 

 

「ヨルノズクくんもクロバットくんも、お疲れ様☆ ここまでずっと戦いっぱなしだったから、疲れたでしょ? 後はシェラちゃんとトゲキッスちゃんに任せて、暫くボールの中で休んでてね♪」

 

 

 片手で器用に握り込んだ2つのモンスターボールに、2匹の手持ちポケモンたちを格納する。

 戦いが始まってからこちら、相当数の野生ポケモンたちと戦ってくれただけあって、2匹とも体力は限界に近かった。

 

 そうしてボールを仕舞い込んで、シェラは意識的に鼻から息を吐く。

 そうでもしなければ、鼻に大量の()が入ってしまいそうになるからだ。

 

 

「さってっと☆ ……トゲキッスちゃん、まだまだやれそ?」

「チュワワッ、チュゥワァ~」

 

 

 傍らを飛ぶトゲキッスは、如何にも元気そうな声を返してくる。

 けれど、その裏にかなりの疲労を溜め込んでいる事を、主人たるシェラは知っていた。

 

 ヴォイド団の手によって引き起こされた、“死出の森”からの大暴走(スタンピード)

 1匹でも通せば大惨事になるだろうそれを、シェラは3匹のポケモンだけで食い止めていた。

 

 既に、数十体に及ぶポケモンたちが、そこら中に倒れ伏しているか、或いは森へ逃げ帰っている。

 その1匹1匹が、麓のウツシタウンを容易に壊滅せしめる強力な個体である事など、最早語るまでもない。

 

 そんな防衛戦も終わりが近付きつつある中。

 本命登場、と言わんばかりに森の奥から現れたのは、2匹のオヤブンポケモンだった。

 

 

 

「グルルルッ……ギィラァアアアアア!!」

「RURU……GIGI、GIRUGA……!」

 

 

 

 片や、刺々しい緑色の肉体から、天候を変えるほど大量の砂を吐き出す怪獣。

 よろいポケモンのバンギラス。

 

 片や、その身に盾を纏い、剣そのものの肉体を剣豪の如く振るうゴーストタイプ。

 おうけんポケモンのギルガルド。

 

 いずれも、この“マハルの地”における一線級の強力なポケモンだ。

 

 

(いわタイプにはがねタイプ……トゲキッスちゃんには厳しい相手だよね~☆ それにこの“すなあらし”……状況そのものが向こうの味方ってカンジかな?)

 

 

 朗らかな笑顔を崩す事無く、それでいて冷静に状況を見極めるシェラ。

 その中で、ギルガルドという明らかな人工物由来のポケモンが、何故か森の奥から現れた事への疑問も、ほんのちょっぴり浮かび上がる。

 

 創世神話より3000年の時が過ぎた現在であっても、“死出の森”には謎が多い。

 噂では、森の奥には知られざる古代の遺跡があるともされているが、内部の危険性ゆえに誰も立ち入らない為、真相は未だ闇の中だ。

 

 もしかすると、目の前のギルガルドも、そんな古代遺跡の出身かもしれない。

 そこまで考えて、今そんな事を考えても仕方がないなと、さっくり思考から切り捨てる。

 

 

「うーん、これはあれだねっ。シェラちゃん、“()()()()()”のやつ使っちゃうぞー☆ トゲキッスちゃん、準備はいーい?」

「チュゥ、ワァ~ン!」

 

 

 相棒の了承を得て、シェラはエプロンのポケットに手を突っ込んだ。

 

 相手は麻薬の煙を吸って理性を失っているとはいえ、トゲキッスの放つ“プレッシャー”を前に、本能的に出方を伺っているらしい。

 それならそれで都合がいいと、ポケットの中身をガサゴソまさぐっていく。

 

 

「た~しかこの辺に、アラビカちゃんからテストしといてって言われてた()()()を入れといたんだよね~──っと、あったあった☆」

 

 

 ……取り出された()()の正体を、2匹のオヤブンは皆目知らなかった。

 単純に、“すなあらし”によって視界が阻まれているのもあったが、野生出身の彼らには、そもそも知る由の無いものでもあったからだ。

 

 

「えーっと、これを腕につけて……っと。よしよし、準備オッケー♪」

 

 

 大量の砂で視界が不明瞭な中、シェラは()()を、自身の左手首に取り付けた。

 

 具合を確かめ、頷きをひとつ。

 そうして彼女は、左手の()()に右手を這わせ──

 

 

 

 

 

「──()()()()()っ☆」

 

 

 

 

 

 向こう側すら視認できないほどの“すなあらし”の最中にあって。

 淡い緑色の光が、その場のすべてを包み込んだ。




マハル図鑑 No.160
【ギルガルド】
ぶんるい:おうけんポケモン
 タイプ:はがね・ゴースト
とくせい:バトルスイッチ
ビヨンド版
 霊力で 人や ポケモンの 心を 操る。ギルガルドの 力に 抗えた 者が 王に なれる。
ダイブ版
 かつて マハルに 王が いた 頃は 人の 前に 姿を 現したが 今は 滅多に 現れない。


マハル図鑑 No.235
【バンギラス】
ぶんるい:よろいポケモン
 タイプ:いわ・あく
とくせい:すなおこし(きんちょうかん)
ビヨンド版
 山を 1つ 崩して 住処に する。バンギラスの 住む 土地は 頻繁に 地図が 変わる。
ダイブ版
 バンギラスが 地響きを 立てて 歩くのは 縄張りに 近付く よそ者への 威嚇行為だ。



今回の書き溜めは以上。
またある程度のストックが完成したら更新します。
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