ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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2025/10/31
フレア団の活動時期(XY本編)を10年前から5年前に変更。


Lv.96「それがわたしの戦う理由」

「ちゆりん、あなたも……ううん。あなたは、戦いたいんだね。あいつ(ナミノルロス)と」

「ちゅーっ!」

 

 

 ソラの呼びかけに対して、胸を張って答えるちゆりん。

 

 自信があるとか、勝機があるとか、そんな様子ではない。

 けれども、己の意志を譲る気も無い。そういう眼差しをしていた。

 

 

(……今のわたしの手持ちで、戦えるのはこの子しかいない。でも、ちゆりんの能力値(スペック)とわざでは、火力不足なんてものじゃない。“ほっぺすりすり”を当てる事ができたって、ナミノルロスの足を止める事はできない)

 

 

 それは、ソラの理性だった。

 若く青い少女の頭の中にある「冷静な部分」は、彼我の戦力差や勝ち筋の有無を正確に、或いは残酷に推し量る事ができていた。

 

 こねずみポケモンでは、勝利に貢献できない。

 ピチューでは、相手に打ち勝てない。

 

 ちゆりんでは、勝つ事はできない。

 

 今も、ナミノルロスとマハルドードリオの戦いは続いている。

 けれど、それも永遠ではない。そして、そう長くはない。

 

 どうするにせよ、早く決断しなければならないだろう。

 そんな状況だからこそ、少女が思考をやめる事は無かった。

 

 

「……ちゆりん」

「ちゅっ」

 

 

 こちらを見上げる彼女の顔は、険しくも勇ましい。

 ちっちゃな手を組み、口を真一文字に結んで、半ば“にらみつける”ように目尻を鋭く尖らせている。

 

 今の彼女が闘志と戦意に溢れている事など、言わずとも分かる。

 自分が(ナミノルロス)を倒すのだと、そんな熱意を燃え上がらせている事など、一目見れば分かる事だ。

 

 頭の中の「冷静なソラ」は、それが無謀であると分かっていた。

 けれど、もうひとつの──

 

 

「……あなたじゃ、勝てないよ」

「ちゅ!」

「あいつの強さは見てたでしょ? あなたの力じゃ。あいつを止める事はできないわ」

「ぴっちゅ!」

「あっという間に倒されて……ううん、やられるだけで済まないかもしれない。もっと、取り返しのつかない結果に終わるかもしれない」

「ちゃーっ!」

「それでも……戦うの?」

「ぴーっちゅう!」

 

 

 ……その時のソラに、「ちゆりんを止めよう」という気持ちが本当にあったのかは、本人にも分からない。

 或いはそれは、彼女を止めようとしているのではなく、()()()()()()()()()為の問答だったのかもしれない。

 

 ただ、その問答に結果が出るよりも先に。

 

 

「……やめなさい。あなたたちが行っても、危険なだけです」

 

 

 後ろから飛んできた声に振り返れば、ナミノルロスと戦っていた神官たちの内、ルチャブルを使役していた女神官がそこにいた。

 彼女もまた全身ずぶ濡れの上、見るからに酷く消耗していて、おまけに彼女の腕の中には、“ひんし”状態のルチャブルが抱き抱えられている。

 

 

「ぁ……よかった、無事だったんですね」

「ええ。大神官さま(ジムリーダー)のドードリオが守ってくれたおかげです。他の皆さんも、ロクに動けない状態ではありますけど、なんとか。……いいえ、そんな事よりも」

 

 

 女神官の、どこか咎めるような視線が、真っ直ぐに少女を射抜く。

 彼女が何を言わんとしているのかなぞ、考えるまでもない。その事は、ソラが一番よく分かっていた。

 

「悔しいですが、この戦場はもはや崩壊しました。ドードリオが時間を稼いでいる内に、町に残ってる神官たちと連絡を取って、防衛ラインを引き下げます。我々の手では、倒すまではいかなくても、大神官さま(ジムリーダー)が戻ってくるまではどうにか──」

「なんとか、なるんですか?」

 

 少女の声が、説得の言葉を制止する。

 

 ソラのやろうとしている事が、無謀にして愚行である事は、誰の目から見ても明らかだ。

 同時に女神官は、自分が彼女にかけようとしている言葉が、酷く無理のある内容である事もまた、自覚していた。

 

 

「シェラさんが今どこで何をしていて、いつになったら戻るのかが分からないこの状況で、どれだけ耐え切る事ができるんですか? 相手は“こうかいまひとつ”だろうと、こちらの耐久力を突き抜けてくるような、そんな火力の持ち主ですよ」

「それは……いえ。ですが少なくとも、この場を維持するよりは……」

「でもそれだけ、町に近くなる。今まで以上に、町に余波が届くかもしれない」

 

 

 ソラの手は震えていた。

 その声も、微かに上擦っているように思えた。

 

 当然だ。凶暴なポケモンに襲われた経験は、これで2回目になる。

 前回(テレネット)の時に味わった恐怖も苦痛も、まだ色褪せてなどいない。今、死の危険が間近に迫っている事を、彼女の体が覚えている。

 

 それでも、と少女は言う。

 震える手を無理やり握り締め、血が出るのではないかというほどに、強く拳を作って。

 

 

「ここで倒すしかないんです。石に齧りついてでもこの場に留まって、少しでも相手を釘付けにしなければいけないんです。そしてそれができるのは、今はもう、わたしとちゆりんしかいないんです」

「──っ! 無茶です! できる訳が無い! あなたたちだけでは危険なんです!」

 

 

 止めねばならない。止めなければならない。

 街の守り手として、人と自然の調停者として、若く未熟な彼女の愚行を、看過する訳にはいかない。

 

 そんな思いが、女神官の喉から絞り出されていく。

 

 

「約束しましたよね!? 私たちの指示は必ず守れって!」

「分かってます」

「それ以上に、自分と自分のポケモンの命を優先しろって……私たちの指示より優先しろって、言われましたよね!?」

「分かってます!」

「あなたとピチューじゃ、ナミノルロスに勝てません! これは絶対です! 奇跡なんてひっくり返ったって起きません!」

「全部分かってます!」

「……っ、被害をゼロに収めるなんて、土台無理なんです! それでも、致命的な崩壊を阻止する事はできる……最善(ベスト)よりも次善(ベター)を取らなきゃいけない時がある! それが今なんです!」

「分かってるよ、そんな事っ!!」

 

 

 思わずといった風に、感情的な叫びが上がる。

 少女の瞳孔は揺れていて、焦りや恐怖など、冷静でない感情がごちゃ混ぜになっている様がよく見えた。

 

 

「でも、やるしかないんです! ここを通したら、町に被害が出る! 町にはルスティカ博士も、リクのお母さんも……じいちゃんだっている! 皆を危ない目に合わせたくないんですっ! じゃあ、わたしがやるしかないじゃないですか!?」

「……なんで、そこまで……」

 

 

 つい、そんな呟きを漏らしてしまう。

 

 この場で邂逅するまで、女神官とソラとの間に大した関わりなど無かった。

 久々に“リンネの儀”に挑戦しに来た少女であり、ジムリーダー(シェラ)が随分と気に入った様子だった。ただそれくらい。

 

 だから、どうしても分からない事がある。

 

 

「今のあなたは、冷静じゃない。何かの、強迫観念に駆られているように見えます。……そこまでして、あなたが危険を侵さなきゃならないのですか?」

「……」

 

 

 その言葉に、ソラの頭は自然と冷えていく。

 スッと引いた血の流れに従うようにして、その場にしゃがみ込み、女神官から視線を外す。

 

 少女が目を合わせた先は、ちゆりんだ。

 彼女は、己の主の決断を疑う素振りも見せず、ただ腕を組み、じっと目線を返してきていた。

 

 

「……確かに、わたしにとってこの町は、この世界は、強い思い入れのある場所じゃないです。なんせわたし、この世界に来てから、ほんの10日くらいしか経ってないですし」

「……? 何を言って……」

「訳も分からずこの世界に迷い込んで、帰る為に旅を始めたけど、上手くいかない事ばっか。初めての対人戦は盛大に負けたし、野生のポケモンに襲われた時は本当に怖かった。それまでの常識が通じない事がたくさんあって、正直戸惑う事も多かった」

 

 

 噛み締めるような語り口だった。

 感情の籠もった言葉の数々は、真実、少女の経験から来るものであり、そこに薄っぺらさは感じられない。

 

 

「おまけに、ヴォイド団なんていう意味の分からない連中まで出てきて……。正直、なんでこんな事してるんだろうって、ちょっと思ったりもしてます。他の誰かに任せて、安全なところにいられれば、どれだけよかっただろうって」

「なら──」

「でも、ダメなんです。それじゃあ、ダメなんです」

 

 すく、と立ち上がる。

 視線の先にある戦場を見据えれば、マハルドードリオが徐々に、徐々にナミノルロスに押されつつある光景が見えた。

 

 

「ルスティカ博士は、素性の知れないわたしによくしてくれました。リクはこんなわたしの旅に付き合ってくれてるし、2人のお母さんは、快く送り出してくれた。2週間にも満たない付き合いだけど……それでも、いい人たちなんです。そう思えたんです」

 

 

 一瞬だけ、目を閉じる。

 瞼の裏に蘇るのは、かつての地上での暮らし。

 

 クラスメイトも、親戚を自称する人たちも、その他の名前も知らない人たちも。

 皆、悪意を以て接してきていた。ウソつき博士の娘だと、後ろ盾の無い小娘だと、嘲笑と否定と、欲望に塗れた目でソラを見ていた。

 

 親を失った少女を慮ろうと思う人など、ロクにいやしなかった。

 だからソラは、誰とも関わろうとせず、山の中の別荘でひっそりと息を潜めて生きていた。

 

 そんな中にあって、少女の心を守ろうとする人たちもまた、ほんの一握りだけ存在した。

 プラターム博士や、その弟子たるデクシオにジーナ。彼らがいたからこそ、今のソラは、他人という存在を見限らずにいられたのだ。

 

 リクは、ルスティカ博士は、この世界で出会った人たちは、そんな在りし日の善き人たちによく似ていた。

 悪意でなく、善意を以て関わろうとしてくれる人たちなのだと、素直に思う事ができた。

 

 それが、人と関わる事への恐怖を抱いていたソラにとって、どんなに救いになっただろうか。

 

 

「彼らのおかげで、わたしは……この世界を、好きになれるかもしれないんです。でも、そんな人たちを、身勝手な理由で傷つけようとする人たちがいる。今あるこの世界を、壊そうとする人たちがいる」

 

 

 目を開く。

 それまでの僅かな刹那、最後に瞼に映っていた光景。

 

 

 

『繰り返します! フレア団は最終兵器を使い、世界を一新します! フレア団以外の皆さん、残念ですがさようなら』

 

 

 

 その時のニュースを、5年経った今でも覚えている。

 幼心に覚えた恐怖を、恐ろしくて恐ろしくて、早くどうにかなってくれと願っていた時の苦しみを、少女はよく覚えていた。

 

 かつては、どうする事もできなかった。

 

 父が消えた日も。母が出て行った日も。5年前のあの日も。

 多くの悪意に晒され、否定と嘲笑に刺し殺されそうになった時も。

 

 力の無かったあの日の少女は、己を脅かすそれらに対して、何もできなかった。

 けれど、今は違う。

 

 頭の中の「冷静なソラ」は、それが無謀であると分かっていた。

 けれど、もうひとつの──「()()()()()()()()()()()」は。

 

 

 

「わたしは、この世界の事をもっと知りたい、好きになりたいんです! だから……今度こそわたしは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、戦わなきゃいけない! これ以上、ヴォイド団の好きにさせたくない! その為に、わたしはあいつらと戦います!」

 

 

 

 再び振り向き、目と目が合った時、女神官はそれ以上の言葉を紡ぐ事ができなかった。

 

 今なら、理解できる。

 同僚の神官が、どうして彼女が戦いに加わる事を認めたのか。

 

 

(これは……無理ね)

 

 

 揺らいでいても、震えていても、芯がブレる事だけは決して無い。

 シェラ(ジムリーダー)が気にいる訳だと、今更ながらに納得した。

 

 そして確信する。目の前の少女は、どうあっても己の意見を譲る事は無い。

 説き伏せようとしたところで、彼女は意地でもこの場を動く事は無いだろう。

 

 彼女を後方へ退かせたければ、殴って気絶させるくらいしかない。

 そして今の女神官に、それだけの余裕は無い。

 

 最早、今の少女を引き止める事のできる者は、この場には誰もいなかった。

 

 

「……ちゆりんも、同じ気持ちなんでしょ?」

「ちゅ?」

「あなたも、皆を……仲間を守りたいと思ってる。傷つけられたポケモンたちの分まで、戦いたいと思ってる」

 

 

 ずっとそうだった。最初からそうだった。

 

 “船出仕合”や、シェラとの決闘の儀(ジムバトル)で、相手のポケモンにはるりん(ハルドリ)を倒された時。

 ほるっち(ホルビー)れおピ(シシコ)、そして1番エリアで道行きをともにしたポケモンたちを、ヴォイド団に奪われ、傷つけられた時。

 

 彼女は、決まって怒っていた。

 仲間たちの、友の仇を取ろうと奮起し、どんな相手にも挑みかかっていた。

 

 例え、ほんの少しの間、旅路を連れ添っただけであろうとも。

 彼女にとって彼らは、ともに戦った仲間であり、大切な友だからだ。

 

 そして、今。

 そんな友たちを傷つけた悪党どもの中でも、とびきりの大物が、はるりんやびぃタロをも傷つけ、倒してしまった。

 

 その事実が──“ゆうかん”なせいかくの彼女に、とびきり強く火をつけた。

 

 

「わたしも同じ。ルスティカ博士やロコン、ほるっちにれおピ、皆を傷つけられた事が許せない。それに今、あの町にはじいちゃんが……わたしの、大切な家族がいる。もうこれ以上、皆にかすり傷のひとつだって負わせたくない。そうでしょ?」

「……ぴーっちゃあ!!」

 

 

 力強い、肯定の意が返ってくる。

 目線を下に降ろせば、頬袋から“せいでんき”を迸らせ、戦意十分なこねずみポケモンと視線が交差した。

 

 ポケモンは、嘘をつかない。

 彼らはとても正直で、善意も悪意も、正しく表現する事ができる。

 

 少女の視界に映り込むピチュー(ちゆりん)は、確かに叫んでいた。

 

 

 

──わたしの仲間を守りたい! わたしは、その為に戦う!

 

 

 

「分かってる。──一緒に戦おう、ちゆりん!」

「ぴちゃっちゅーっ!」

 

 頷き合い、笑い合う。

 今ここに、1人のポケモントレーナーと、1匹のポケモンの心が、完全に一致した。

 

 故に。

 

 

 

「……! ちゆりん、あなた……」

「ちゅーっ!」

 

 

 

《……おや!? ちゆりんの ようすが……!》

 

 

 

 地上の、ある学者は言った。

 

 進化とは、奇跡ではない。進化とは、必然である。

 然るべき条件が揃い、ポケモンにその意志があれば、必ず進化は起こると。

 

 ピチューの進化条件は、自身のトレーナーに対して確かな信頼を抱く──即ち、十分に“なつく”事。

 

 ともに仲間を守りたい。守るべきものの為に、一緒に力を合わせて戦いたい。

 ちゆりんとソラの間で、その気持ちが一致した事で、彼女は進化の為の条件を満たしたのだ。

 

 1匹のこねずみポケモンを包み込む光は、夜の帷の中にあって、辺りの薄暗さを打ち消してゆく。

 そうして、光が晴れた時。

 

 

 

「──ピッカ、チューッ!!」

 

 

 

《おめでとう! ちゆりん(ピチュー)は ピカチュウに しんかした!》

 

 

 

 ずんぐりとした黄色い胴体に、ウサギポケモンめいた長い耳。

 そして尻尾の先端を飾る、鮮やかなハートマーク。

 

 それは、地上において知らぬ者のいない、誰もが知ってるねずみポケモン。

 ピカチュウへと進化を果たしたちゆりんが、ソラの前に立っていた。

 

 

「凄い、ちゆりん! あなた、ピカチュウになれたのね!」

「ピッカァ!」

「うそ、こんな土壇場で進化を……? いえ、それでも……」

 

 

 それでも、足りない。

 確かに、ピチューのまま戦うよりは強いだろうが、それでもナミノルロスを倒せるだけの地力は無い。

 

 ソラが望む通りの勝利を果たすには、まだ欠けているピースがある。

 それを口に出そうとした──まさに、その直後の事だ。

 

 

 

「るっ──びーっ!!」

 

 

 

 本来、この場にいる筈の無いポケモンの鳴き声。

 その声に振り向くや否や、同じ方向から飛んできた()()を、ソラは思わず手で受け止めた。

 

 片手でグッと握り込める楕円形。

 透き通った黄緑色の結晶体の中には、黄色いイナズマ模様が閉じ込められている。

 

 

「何が……って、これ……!?」

 

 

 ソラは、その正体を知っている。

 実物を見た事こそ今回が初めてだが、()()は地上でも幅広く知られている鉱石だった。

 

 特定のポケモンが触れる事で、更なる進化をもたらす……俗に言う“しんかのいし”のひとつ。

 その中でも、電気や磁場に纏わる一部のポケモンに対応する、その石の名を。

 

 

 

「“()()()()()()()”……! これがあれば、ちゆりんをもっと進化させる事ができる!」

 

 

 

 “かみなりのいし”。

 そしてそれは、ピカチュウに適合する“しんかのいし”でもあった。

 

「でも、どうして……? こんなに都合よく、この石が手元に来るなんて……っていうか、今の鳴き声はまさか」

「──こいつが、あんたに使ってほしいってよ!」

 

 バ、と顔を上げる。

 なんで、彼女がこんなところに。そんな問いを発する間もなく、視線の先に見つけた影2つ。

 

 

「ぜ、ぜはっ……あたしんちで埃被ってたのを、こいつがっ……見つけ出して、きたのさ。あんたと、あんたのピチューが……げほ、きっと必要にしてるってな……っ、おえっぷ。くそ、病み上がりで全力疾走なんてするもんじゃねぇな……」

「ほるっび!」

 

 

 未だ全身包帯塗れの状態で、息も絶え絶えながらにソラへと呼びかけるルスティカ博士。

 そしてその足元に立ち、ソラとちゆりんへ向けて手を振るほるっち。

 

 町で安全な場所に避難している筈の彼女たちが、確かにそこに立っていた。

 

 

「なんでっ、こんなところに……!? ここは危険です、早く安全なところまで下がってください!」

「るせぇっ! そいつはあんたも同じだろうが! いいか? 1度しか言わねぇからよく聞け! そいつを使えば、あんたのピカチュウを進化させる事ができる! だが、よーく考えて使えよ! そいつは強力なエネルギーを秘めてるが、だからこそリスクもある!」

 

 

 博士が指を指す先にあるのは、ソラの手の中の“かみなりのいし”。

 ここまで走ってくるだけでも相当苦しかった筈なのに、それでも博士は、こちらへ声を投げかけ続ける事をやめはしない。

 

「急激な進化は、ポケモンに負担を与える事もある! この場は勝てるかもしれねぇが、“しっぺがえし”が来る事も覚悟しとけ! その上で使うんだ! いいな!?」

「……ルスティカ博士」

 

 頷き、目線を下にやる。

 進化した事で身長は伸びたが、それでもちゆりんは、変わらずソラを見上げる程度の背丈で、彼我の視線が中空で絡み合う。

 

 

「今の話、聞いてたよね? 今のあなたは、進化したばかりで不安定な状態にあるわ。これを使えば、あなたの体に酷い負担があるかもしれない。もしかしたら、今後によくない影響があるかも──」

「ピッカピーッ!!」

 

 

 主の声を掻き消し、それ以上の言葉を紡がせない。

 バチバチと、進化前よりも強く頬袋から電気を発しているちゆりんを見て、少女は思わず苦笑した。

 

 どうやら、トレーナーである自分よりも、ポケモンの方がよほど覚悟が決まっているらしい。

 愚問が過ぎた、と首を横に振り、小さく呼吸をひとつ。

 

 

「……これを使うのは、わたしの判断で、わたしの責任。それが、トレーナーの役目。絶対に勝つよ、ちゆりん」

「ピカッチュ!」

 

 

 それでいい、と言いたげに鼻息荒く。

 そんな彼女の返答を認め、ソラは今一度、女神官を一瞥した。

 

 視線を向けられた側もまた、1度だけ頷く。

 ここまで来たら、もう引き止めの言葉に意味は無い。

 

 だから。

 

 

「……必ず、無事で戻ってきてください。旅を続けられなくなるような怪我をしたり、死んだりする事は、決して許しません。いいですね!?」

「……はい、必ず! ちゆりん、行こう!」

「ピカァーッ!」

 

 

 待ってられないと跳ね飛ぶちゆりんに対して、“かみなりのいし”を突き出す。

 ねずみポケモンのちっちゃな、それでもこねずみだった時よりは大きな手が、イナズマを秘めた結晶に触れて。

 

 

 

《……おや!? ちゆりんの ようすが……!》

 

 

 

 進化の光に追随するようにして、でんきエネルギーの激しい“スパーク”が巻き起こる。




マハル図鑑 No.019
【ピカチュウ】
ぶんるい:ねずみポケモン
 タイプ:でんき
とくせい:せいでんき(ひらいしん)
ビヨンド版
 両頬の 袋は 電気を 溜める 為の もの。溜め込んだ 電気は 攻撃や 威嚇に 使うぞ。
ダイブ版
 弱った 仲間を 見つけると 自分の 電気を 与えて 癒やす。仲間思いの ポケモンだ。

《進化》
ピチュー
→ ピカチュウ(とてもなかよしな状態でレベルアップで進化)
  → ???(???で進化)



今回の書き溜めは以上。
またある程度のストックが完成したら更新します。
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