クジンシーに転生! 何でだよ、災難すぎるだろ! 作:パーフェクトクローザー
驚愕に目を見開きながら振り返る俺の目に移るその女。顔自体は見た事がないが、着ている服装に覚えがある。あれは、確か…。
「ホーリーオーダー…?」
「まあ…。秘密裏に使われているその称号名を知っているなんて…。やはり、オアイーブの言う通り貴方は何でもご存じなのですね」
俺の微かな呟きに耳聡く反応する女。しかし、その時に出てきたオアイーブと言う単語に俺も警戒を強めざるをえなくなる。
そもそも、ホーリーオーダー女の得意分野は術と棍だったはずだ。なのに、なぜこいつは剣を…それも身の丈近くもある大剣を背中に担いでいるんだ…?
「申し遅れました。私、三代目女性ホーリーオーダーのモニカと申します。以後、お見知りおきを…」
不気味な相手に冷や汗の量が増えていく俺に向かって、ホーリーオーダー女…モニカは丁寧な挨拶をする。と、同時に彼女の部下と思しき男達四人が洞窟内に侵入してきたのだが、その姿を見た俺は二度目の驚愕に打ち震える事となる。
帝国重装歩兵に帝国軽装歩兵、宮廷魔術師に最後の一人は…まさか、インペリアルガード…か? な、何故…何故、バレンヌ帝国の兵やエリートがいるんだ…?
「―――ふむ。知識はあっても勘は鈍いようですね。では、思い出させてあげましょう」
動揺し後ずさる俺に、モニカは背中の大剣を抜き、構え、そして…一瞬の間に距離を詰め流れるような動作で俺に切り掛かってきたのだ!
「ぐっ!?」
何とか反応して剣で防いだ俺だったが、小柄な体格のモニカが放ったとは思えない凄まじい威力に、剣を弾き飛ばされてしまった。い、今のは…”ヴィクトールの流し切り”! と、いう事は………こ、こいつは………っ!!
「防がれましたか…。やはりこの体ではヴィクトール様のようにはいきませんね」
一方、モニカは少し無念そうに自分の体を見回した後、剣を背中の鞘にしまい俺に視線を向ける。その視線が語りかけている。もう、私の正体はおわかりですね? と。
「な、何故、ホーリーオーダーに継承させられるんだ…? レオンはジェラールを連れて南下政策をとっていた筈。カンバーランドにはまだ手を付けていないと思っていたのだが…」
「確かにレオン様は南方面の進出を図っていました。その一方で、当時危機に陥っていた我らの国にはヴィクトール様が訪れていてくれたのです。そして、ヴィクトール様の手により逆賊サイフリートは討たれ、カンバーランドに平和が戻りました。その直後でしたね、レオン様とジェラール様の凶報が届いたのは」
困惑のままに疑問を口にする俺に、モニカは淡々と当時の事を話し始める。
「敵討ちの為にルドンへと向かわれる前に、ヴィクトール様は我らに願いを託しました。もし俺に、そしてバレンヌ帝国に何かあったときは、その遺志を継いでほしいと。その願いを、当時のカンバーランドの王であるトーマ様、及びゲオルグ様とソフィア様も快諾したのです」
ひとしきり説明した後、分かりましたか? と、やはり視線で尋ねてくるモニカ。な、成程…二方面に同時進出していたのか…。いや待て! ヴィクトールはレオンが帝国を留守にしている時の代理だぞ。そのヴィクトールまで外に出て行ってしまうと、皇帝不在になっちまうじゃねえか!
ゲームでも皇帝はすぐ外に飛び出しちまうが、ありゃゲームだから許されてるだけで、現実で国のトップが長期不在ってかなりまずいんじゃねえのか!? 実際、ロマサガ3のミカエルは、影武者を呼んで後を任せないとロアーヌから外に出られないし!
その危険を冒してでも進出を進めた方がいいと判断したのなら、レオンかヴィクトールかどちらの判断かはわからねえが、すげえ先見の明だ。結果的に、その判断のおかげでこうしてバレンヌ帝国の意思は首の皮一枚で何とかつながったわけだからな。
「さて、次はこちらから…。クジンシー…いえ、現在と未来を知る者よ。貴方、カンバーランドに新たに設立された新生帝国で働く気はありませんか?」
目をつむりレオン達に思いを馳せていた俺に、モニカからそう提案される。その耳を疑う内容に、俺は思わず思考を停止させてしまった。
「これはオアイーブからの提案でもあるのです。詳細はこの提案に乗っていただかないと語れませんが…」
「し、しかし! 俺は皇帝を…アンタを直接殺した仇だぞ!? そんな奴を勧誘だなんて、アンタ一体何を考えてんだ!?」
怪しい笑みを浮かべながらオアイーブの名前を出しつつ勧誘してくるモニカに、俺は何とか反論を試みてみる。自身の理解を越えた相手の言動にハッキリと恐怖を感じながら。
「確かにその通りですが、それもあの男…ノエルに強制させられたのでしょう? でしたら、貴方を恨んでも仕方がないと思いませんか? 本気で仇をとりたいのなら、仕留めるべきはノエルだと思いますが…」
この必死の反論も、涼しい顔でいなされてしまった。…た、確かにアレはノエルが強制した事だ。とはいえ、俺が手を下したのも事実。その恨みをそう簡単にチャラになんて普通出来るか…?
「それに、ヴィクトール様やヘクター様の記憶を抜きにしても、私は貴方を評価していますよ」
いよいよ困惑が極まって来る俺に、モニカは優しく語りかけてくる。
「カンバーランドがバレンヌ帝国の意思を引き継ぎ力を蓄えていたこの数十年。貴方は様々なモンスターを退治して人々を救っていたそうですね。良い評判になっていますよ。姿こそマントで身を隠して怪しいが、少ない報酬で危険なモンスターを退治してくれる男がいると。私も、この評判を辿って貴方を見つけたのですから」
真剣な表情でそう言うモニカ。そ、それは…あの惨劇の罪悪感を少しでも消したかっただけで…。
「まあ、とはいえ、そのどう見てもモンスターにしか見えない姿はいささか問題ですね。貴方を雇うにしても、少し法整備が必要でしょう。また伺いますので、その時までに答えを見出しておいてください」
俺の心の声が口に出る前に、モニカはなにやら勝手に結論付けて洞窟を出て行ってしまう。そして、その後を四人の配下たちが続いて行ってしまった。
そして次の日。俺は事前に受けていたモンスター退治の依頼の為に、とある村に向かって歩いていた。
―――昨日は酷い一日だった。途切れたと思われていた皇帝の唐突の襲来、理解を越えた言動、頻出するオアイーブの名前。そして、思い起こされるあの惨劇の日。
それらが頭の中で堂々巡りをし、酷い頭痛に悩まされた。何だか体も熱く苦しかった記憶がある。
当然こんな状態で眠る事などできる訳がなく、今、酷く寝不足だ。頭も頭痛こそ治ったが酷く重い。
とはいえ、一度受けた依頼をないがしろにする訳にもいかない。全体的にだるい体を引きずって、何とか件の村にたどり着く。
「………誰だアンタ? クジンシーさんの使いの者か何かか?」
しかし、何故かその依頼人からいぶかしげにこんな事を言われてしまう。
「い、いや、俺だよ…。俺がそのクジンシーだよ」
「バカ言っちゃいけねえ。クジンシーさんは男だぞ? お前の声、どう聴いても女の声じゃねえか」
体全体の不調の所為で大きく主張できない俺に、依頼人は明らかに鼻で笑っている。…こ、声? た、確かになんかやけにかん高い様な…。
「ほ、本当だよ…本当なんだ…お、俺がクジンシー…」
「ああもうしつけえなっ! マントで顔を隠すなんてクジンシーさんの真似したって、声が全然違うんだからバレバレに決まってんだろうがっ!!」
それでも諦めずに縋る俺に、依頼人は強引に俺からマントをはぎ取る。体調が芳しくないゆえに、俺はそのはぎ取る手に抵抗できなかった。
「ほれ、そこの鏡見てみろ! どう見ても女だろうがっ!」
そうして、依頼人の家に合った鏡の前に突き出される俺。そこに移っていたのは、まるで見覚えのない金髪の女の顔だ。………え? ………え? な、なんだ……これ………?
…………………………い、いや…。こ、この顔………み、見覚え……が………。
「分かったか!? アンタはクジンシーさんじゃねえ…っておい! どうした、しっかりしろ!!」
体のだるさがどんどん増していき、遂には立つ事すらできなくなりその場にへたり込んでしまう俺。そんな俺の体を掴み大声をかけながら揺さぶり始める依頼人だったが、俺の意識は遠のいていくばかりだ。
「……だっ!! ……………………よっ!! ………っ!! ………!!!! ……………」
そして、何を言っているのか分からない依頼人の声を聴きながら、俺の意識は完全に闇の中に落ちていくのだった。