クジンシーに転生! 何でだよ、災難すぎるだろ!   作:パーフェクトクローザー

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クジンシーの本体の確認

 クジンシー………可哀そうな男。同族からは蔑まれ、仲間たる七英雄からも疎まれ、必死に媚びへつらい教えて貰った吸収の法も、己の貧弱さ故に碌なモンスターも吸収できず、他の七英雄との差は開くばかり。

 

 ―――キキ、キキキ……。何と可愛らしく、母性をくすぐられる男なのかしら。怒り、憎しみ、嫉妬、羨望、あらゆる負の感情を煮詰めたその心と表情…。わたくしになにもかも合致しておりますわ…。

 

 さあ、わたくしを吸収なさい…。そうすれば、同族は勿論、あの七英雄ですら一目置かざるをえない力を手に入れる事が出来ますわ…。

 

 そう………キキ、ケケケケケ……それで、いいのです……。

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

「うわっ!?」

 

 唐突に目を覚まし上体を起こす俺。と、ほぼ同時に隣から驚いた声と、何かが落ちる音が聞こえる。見ると、男の子が椅子から転げ落ちていた。

 

「わ、わ…。と、とうちゃーん! あのお姉さんが起きたよーっ!!」

 

 目を覚ました俺を少しの間見上げた後、男の子はそう叫びながら部屋を飛び出してしまった。

 

 ………えーと…。そ、そうだ…。俺、確か依頼を遂行するためにこの村に訪れて…でも、体調不良で倒れてしまって…で、この家で看病してもらった…のか?

 

「おー、目が覚めたか。しっかし、あんまり無茶すんなよアンタ。女の独り歩きなんて、今のご時世危なっかしすぎるぜ」

 

 現状を思い出す俺。同じくして、例の依頼人が心配そうな表情で部屋の中に入って来る。女……あっ、そ、そうだ…っ!

 

「す、すまん…っ! か、鏡を…鏡を見せて貰えないかっ!?」

 

「アンタも大概しつけえな…。まだ自分をクジンシーさんと言うつもりかい…?」

 

 俺の必死の願いに、依頼人は少しげんなりしながらも一旦部屋を出て、鏡を持ってきてくれた。

 

 大慌てでその鏡をのぞき込む。そこにはやはり、俺の知るクジンシーではなく、戸惑った顔をしている金髪の女が映し出される。ちゃんと人間の姿をした女だ。

 

 ほ、本当に女に…。け、けど、この女の顔、なんか見覚えが…。クジンシーに……女……? ………………あっ!? も、もしかしてっ!?

 

 第二形態の時に出てきてたあの女の顔かっ!? ………そ、そうだそうだ! ゲームでは半分骨みたいになってて分かりにくいが、あの女の顔の面影がかなりある!

 

 ………どういう事だ? あの顔って、なんかその辺の悪霊を無理やり練り上げて作ったクジンシーの悪趣味じゃないのか? 顔の周りになんか悪霊みたいなのも浮いてたし、てっきりそんな感じだと思ってたんだが…。

 

 それと、さっきの…夢? も、なんか不気味だった…。意識はあるのに体が勝手に喋っている感じ。俺の目の前でボロボロの状態で蹲っていたのは、声から察するにまだ人間だったころのクジンシー…か?

 

「どうだ? 自分がクジンシーさんじゃないってのは分かったろ? はぁ~~…、そのクジンシーさんも約束の時間になっても来ねぇし、これからどうすりゃいいんだ…」

 

 そうして考え事をしている俺の耳に、明らかな落胆の溜め息を吐いている依頼人の言葉が突き刺さる。そ、そうだ! とりあえず、今はこの人の依頼を遂行しよう! えーっと、クジンシー…って言ってもこの姿じゃ信用されないから………この人が最初に言っていたクジンシーの使いって事で何とか…。

 

 

 

 

 

 そうして、クジンシーの使いと言う名目で改めてモンスター討伐の依頼を受け、俺はその依頼を完遂した。少し不安だったが、戦闘能力そのものに変わりはなく、ソウルスティールも問題なく使えたのでモンスター退治自体は難なく終える事が出来た。

 

「助かったぜアンタ! 一時はどうなるかと思ったが、なかなかどうして強えじゃねえか! なるほどね、これなら女の独り歩きも問題ないわけだ! ほりゃ、おめえもこっち来て礼を言いな!」

 

 依頼達成と、その証としてモンスターの遺品を持ってきた俺に、依頼人は上機嫌になりながら俺の看病をしてくれていたあの男の子を呼ぶ。が、男の子は物陰からモジモジとこちらを見つめるのみだ。

 

「かーっ! あんの野郎、えれえべっぴんさんを前に緊張してやがるな! ったく、色気づきやがって!」

 

 そんな男の子を、あちゃー…と言った感じでいじる依頼人だったが、不意に顔を俺に近づけてきた。

 

「ふむう…トンチキな事を言っていた時は何とも思わなかったが、改めて見るとほんとべっぴんさんだな。クジンシーさんめ、こんなぺっぴんさんの知り合いがいたとは、あんな怪しい恰好してなかなか隅に置けねぇじゃねえか! まあ、頼りになる強い男に女が寄って来るのは当たり前か!」

 

 などと口走る依頼人。あ、あぶねぇなこの人…根はいい人なんだろうが、うっかり口を滑らせて、SNSとかで炎上するタイプの人だ。いや、この世界にSNSなんてないのは分かってるけど…。

 

 そんなこんなで依頼人とは別れ足早に移動を開始する俺。目的はノエルだ。

 

 心情的にはあまり気が進まないが、とにかく今の状況を誰かに相談したく、しかしパッと出たその誰かはノエルしかいなかった。やっぱり、一人は色々と辛いなぁ…。

 

 

 

 

 

 とはいえ、ノエルも古代人の転移装置を調べるためにあちこちを回っている身。そう簡単には会えないだろう。

 

 …と、考えていたのだが、意外にも会うのに数日と掛からなかった。何故なら、ノエルの方も俺を探していたからだ。

 

「お前から異変を察知したのでな。しかし…」

 

「うーわ…。アンタの趣味にどうこう言うつもりはないけど、流石にあざと過ぎない…?」

 

 俺の姿を一目見るなり、ヤレヤレ…とばかりに小さくため息を吐くノエル。沈んだ塔から古代人の情報を入手して以降ノエルと行動を共にしているロックブーケも、呆れた様子で俺の下半身…腰から生えた二股の尻尾を凝視している。

 

 テンプテーションが得意技のロックブーケにあざといと言われるのはあれだが、そう言いたくなるのも分かる。小悪魔の尻尾…とでも言えば紳士な諸兄の方々には何と無く伝わると思う。そう、胴体が細く先端が三角形の形をしているあの尻尾だ。例の依頼人と別れた後、気づいたらいつの間にか生えていたのだ。

 

 正直、コスプレみたいでかなり恥ずかしい。人間と全く同じ姿になり、これで身を隠さず動けるようになる! という希望も砕かれた。尻尾がある以外は普通なので、以前よりはまだだいぶマシだが。

 

 だが、この尻尾。見た目に反し強度はかなり高く、更に先端は下手な剣より切れ味が鋭い。よくしなる上に自由自在に動かせ、更に二本ある…と、武器としてみた場合はなかなか高性能だったりする。

 

「現在と未来を知る者よ。少し付き合え」

 

 ロックブーケの侮蔑の視線に委縮している俺に、唐突にノエルが話しかけてくる。付き合う…? 一体どこに…? と、いう俺の視線の問いに、ノエルはこともなげに言い放った。

 

「大氷原だ」

 

 

 

 

 

「クジンシーがお前に入れ替わってから気にはなっていたのだ。そんなおり、お前のその容姿の完全な変化。一度、お前…というより、クジンシーの本体がどうなっているのか確認した方がいいと判断した」

 

 大氷原に向かう途中、そこに行く理由を説明してくれるノエル。そう、大氷原…その奥底には、彼ら七英雄の本体が秘蔵されているのだ。この本体がある限り、七英雄は倒されても時間こそかかるが何度でも復活できる。

 

 十数日の旅の後にたどり着いた大氷原。通常モンスターこそいなかったが、ここに元から住んでいたらしきサイクロプスや氷竜といった厄介なモンスターは回避して奥を目指す。後にラストダンジョンと呼ばれる名もなき洞窟も、仕掛けこそ健在だがモンスターはやはりいなかった。まだモンスター達が集結する前だからだろう。

 

 そして辿り着いた、数多のプレイヤーが涙をのんだであろう例の一本橋の様な地形の奥に、それらは鎮座していた。

 

 七英雄の本体。それぞれが、まるで魂が抜けたかのように目をつむりその場に微動だにせずに佇んでいる。何とも不思議で…そして不気味な光景だ。

 

「―――やはり容姿が変わっているな」

 

 そんな中、クジンシーの本体を確認したノエルが口を開く。確かに、その言葉通りにクジンシーの本体は今の俺と全く同じ容姿をしていた。

 

「やっぱ容姿が変わるのは問題があるのか?」

 

「………いや、我らは吸収の法を用いた時に容姿が変わるときがある。なので、その変化が本体にも適用されるということ自体に問題はない」

 

 念入りに確認した後に俯いて考え込むノエル。そのノエルに俺は質問してみるが、容姿が変化することそれ自体は特に問題はなさそうだ。

 

「………………キ…………キキ………」

 

「きゃっ!? の、ノエル兄様っ!!」

 

 だが、その時だった。微かに聞こえた不気味な笑い声と、ロックブーケの驚愕の声が俺とノエルの思考を遮る。

 

 慌てて俺とノエルは声のした方を振り返り…そして、背筋が凍りつくとはどういう事かを俺は身をもって知る事となる。

 

 今まで目をつむっていた筈のクジンシーの本体の目は見開き、歪な笑みを浮かべながら俺を見つめていたのだ…。

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