クジンシーに転生! 何でだよ、災難すぎるだろ! 作:パーフェクトクローザー
「貴様、何者だ…?」
唐突に動き出したクジンシーの本体に俺、ノエル、ロックブーケの三人は驚愕に動きを止めてしまったが、いち早く思考を回復させたノエルが、剣の柄に手を置きつつ警戒気味に問う。
「何者……キ、キキ……。わたくしが何者かは…そこの、わたくしに瓜二つのお嬢さん…が、知っている筈…」
対して、クジンシーの本体は唐突に俺を指差して答える。な、なんだと…? こ、こんな奴知らない………んだが、な、何だ…? こいつを見た瞬間から、ある単語が頭の中に浮かんで…。
「―――げ、原初の歪み…?」
「キキキ…! ご名答ご名答。流石はわたくしの同体だ」
「あ、アンタ! こんな奴まで知ってるの!?」
その脳内に浮かんだ言葉をそのまま口にする俺。その直後に、クジンシーの本体…いや、原初の歪みは愉快そうに笑いだし、ロックブーケは驚きの声を上げる。
「教えろ、こいつは一体何者だ?」
更に、即座にノエルが俺に問うてくる。
「こらこら、無茶を強いてはいけません。キキ…知っていたのはわたくしと同体ゆえに…記憶も共有されているから。わたくしが具体的に何者なのかまでは…キキキ……分からないでしょう。なにせ……わたくし自身もわたくしが何者なのか………キキ、記憶にないのですから」
だが、そんなノエルを原初の歪みが諫める。た、確かに…名前こそ直ぐに分かったが、それ以外の情報は全く頭に浮かんでこない。
同体だから記憶を共有しているだと…? 本来ならそれで問題ないだろうが、今はもう
「キキ…その疑いの眼差し…。どうやら記憶を共有している…という事が信用ならない様子。キキキキ…良いでしょう。ではここで貴方の記憶…この世界に転生する前の記憶を語ってみましょうか」
そんな俺の疑念を視線で感じたらしい原初の歪みは、不気味な笑みを携えながらそんな事を言いやがった。へ…? ま、ちょ、ちょ、止め
「名前は…どうやら記憶にないようですが、1980年3月25日生まれ。学歴は高卒。おやおや、灰色の青春を送った様だ。そのまま命日まで異性との交際経験は無し…と」
「て、てめえっ! 止めやがれっ!!」
唐突に開陳される俺の前世の記憶に、俺は憤慨しながら剣で切り掛かる! だが、その刃先は何故か原初の歪みの体に届く直前で止まってしまう。ぐっ! ぐっっ!! な、何だこれ!? 腕がこれ以上振り切れねえぇ!!
「どうやら、こんな奴に成り果てても血の誓いは健在のようだな。厄介な…」
どうにかして腕を振り切ろうともがく俺を見て、ノエルは忌々しそうに吐き捨てる。そ、そうか! 誓いか! この誓いって、自傷行為も許されてねぇのか!?
「中堅の会社に勤めるも、無能故に出世できず、同僚や後輩が上がっていくのを見送る日々。これはこれは…キキ、ケケケ………なかなか鬱屈した生涯を送っていたようですね。変な逆恨みで異性を嫌っているのもポイントが高い。わたくし好みのダメ男だ」
「おい! 分かった! 記憶を共有されているっていうお前の言う事を信じるから、それ以上喋るんじゃねえぇぇぇ!!!」
嬉々として俺の個人情報を晒していく原初の歪みに、俺は大声で怒鳴る。しかし、相手はこんな脅しで止まってくれるような優しい相手ではない。
「趣味は…ゲーム。ファミコン? から始まりピーエスファイブ? やスイッチとやらの幅広いゲームを嗜む。他にソーシャルゲーム…うわ、何ですかこれ? 馬の耳が生えた女の子や、色々な形の天使のわっかが浮かんでいる女の子に慕われるゲーム? 他にもありますが………馬と天使以外は全部性的行為あり。………キキ、キケケケ…! こじらせてますね、そんなに女体に飢えていたんですか?」
更なる愉悦の笑みを浮かべながら尋ねてくる原初の歪みに、しかし、あまりの羞恥と怒りに俺は遂に答える事すらできなくなってしまう。
「他には…。キキキ…ほう、豪鬼…ですか。この架空の人物の瞬獄殺なる技が大好きと。好きすぎて新作でもこの技で勝つのを狙っている。上手く決まれば、リプレイを残してそれを何度も再生してニヤニヤ眺めていると。ケ、ケケケケ…! いえ、いいんです、いいんですよ。カッコいいですもんねぇ、天! K・O、天! 前世の世界の基準ではもういい歳なのに、本当に子供みたいだ。あまりにも………あまりにもダメ過ぎて………非常に愛おしい…愛おしすぎます…! ところで、このゴールドと言うランクは高いのでしょうか…? まあ、ゴールドと言うくらいですから、高いのでしょうねぇ……キ、キキキケケケ………!」
トドメとばかりに、こいつは俺の一番好きなキャラを貶めて煽ってきやがった! 俺の頭の中で何かが切れる音が聞こえ、全く同時に思い切り右手を相手に突き出す! …が、俺の思った攻撃は発動しない。
「落ち着け現在と未来を知る者よ。例えソウルスティールであったとしても、誓いの強制力は破れん」
そんな俺の肩に手を置いて、ノエルが諫めようとしてくる。
「ノエル! だったら、その誓いを解除する方法は無いのか!?」
「無い。そんな簡単に解除出来たら誓いにならんだろうが。それに………」
「うん…。やっぱりこいつ、私達が裏切られる直前…最後に戦ったタームの親玉の魂と同質の色を持ってるわ、ノエル兄様」
激憤している俺の質問を簡潔に切り捨ててからロックブーケに視線を移すノエル。対して、ロックブーケも頷きながら答える。
タームの親玉…? リアルクイーン……いや、ノエル達が闘ったって事は、ドレッドクイーンの事か? この
「やはりか。ならば、どっちみちソウルスティールは効かない可能性が高い。奴も…タームの親玉もそうだった。クジンシーの奴が、これさえ効けば一撃なのに、と悔しがっていた姿は今でも覚えている」
ソウルスティールが……効かない? 見切られてかわされる…とかじゃなくて? へ? だってこの技、耐性無視ですよ? それが効かないなんて、こいつマジで何者なんだよ…。
「………て、てめえ何者だ? 何故俺をこの世界に呼んだ?」
まともな答えが返ってくる訳がないのは分かっているが、それでも俺は聞かずにはいられなかった。
「キ、キキ…。ふむ、何者なのかは記憶にないと先ほど答えましたよ。それに……俺を呼んだ…とは?」
「とぼけるな! いまん所、俺を呼んだ可能性が一番高いのはてめえなんだよっ!」
予想通りにとぼけた様子で返してくる原初の歪みに、俺は再び怒りをあらわにしながら怒鳴る。そんな俺をとぼけた様子を変えるそぶりも見せずに見続ける原初の歪みだったが、不意にキキ…と明らかに見下した様子で嘲笑し始めた。
「な、何が可笑しいっ!?」
「キキキ……キキ……。いえ、いえ…。記憶がないので貴方を呼び出したのがわたくしかは分かりませんが、仮に…そうだったとしましょう。そうだったとして…まさかとは思いますが、貴方…自分が呼ばれたのに何か意味があるとでも…本気で思っておいでで…? まさか、まさかねぇ…自分をそんな、勇者や何か特別な人間だと勘違いしているなんて…そんなことある訳が……ねぇ………キキ、ケケケ……」
その態度に苛つき怒鳴る俺に、原初の歪みはくつくつケタケタと嘲笑いながら言葉を紡ぐ。おかしくておかしくてたまらない…と言った様子で。
「じゃ、じゃあ、なにか…? 俺が呼ばれたのに特に意味は無い…とでも言いたいのか?」
「いえいえ、呼んだこと自体は理由はありますよ。わたくしは、無能が唐突に力を手に入れて暴れまわる様を眺めるのが好きでしてね。もし本当に貴方を呼んだとしたのなら、これが理由でしょう。…分かりますか? 呼んだこと自体には理由はありますが、貴方でなければならない理由は特にないんですよ。無能なら誰でもよかった、そんな中たまたま貴方が選ばれた。無能なんて吐き捨てるほどいるのですから、その中から選ばれるなんて天文学的確率ですよ。…ああ、天文学などと言われても貴方には分かりづらいですよね。貴方にも分かりやすく言えば、ガチャ? とやらの機能のSSR…いえ、SSSSSSSSSSSSSSSSSSSR位に当たった…と言えば少しは分かりますかね…? ……キキキ……」
その、あまりに不気味な様子に勢いを削がれながらも、震える声で問い質す俺に、原初の歪みは懇切丁寧に教えてくる。煽りを混ぜながら。本当に……本当に、そんなガチャを回すような感覚で俺は呼ばれたってのか…? こんな殺人を強制されるような命が空気のように軽い殺伐とした世界に…?
「逆に聞きますが…。貴方、そんな特別な何かを成せるような立派な存在なのですか? もしくは、わたくしがそんな特別な者を召喚する聖なる存在にでも見えるのですか? 流石、40半ばにもなって未だにキラキラに輝く鎧を付け、勇者の証が刻まれた剣を掲げ、悪の大魔王を信頼できる仲間達と共にうち滅ぼす事を夢見る子供おじさんだ…! 面構えが違いますね……キケ、ケケキキキ……」
そんな俺の思考を見透かしたように、原初の歪みは見下し挑発してくる。ぐっ…! この野郎…っ! と、反論をしようとしたまさにその時だった。
「おのれ皇帝め! まさか、あの強襲を生き延びていたとは…! 今回は不覚をとったが、次こそは我が知略ですりつぶしてくれる!」
不意に轟く、明らかに不機嫌そうな声。その場にいた全員が声の方に視線をやると、なんとボクオーンの本体が動き出していたのだ!