クジンシーに転生! 何でだよ、災難すぎるだろ! 作:パーフェクトクローザー
手合わせをするのにちょうどいい広い場所…ゲーム的にいえば技道場や陣形開発を行う所…に移動し、そして俺は今、ヴィクトールと対峙している。異様に殺気立った明らかに様子のおかしいヴィクトールと。
驚いたのは、俺もヴィクトールも自前の剣で試合を行わされている事だ。こういう試合って、万一を考えて木刀とかそういう殺傷力の抑えられた物でするもんじゃないのか? 特にヴィクトールは次期皇帝の第一候補なのだから、もっと安全を考えた方が…。
「行くぞクジンシー! おおおおおっ!!」
などと考えているうちに、剣を構えると同時に突撃してくるヴィクトール。その最初の一撃である唐竹割りを、俺は剣の腹で何とか受け止める。
しかし、その一撃の何と重い事! あまりの衝撃に両手で持っているにも拘らず俺は剣を叩き落されかける。くそっ、なんちゅう馬鹿力だっ!!
体勢を崩す俺にヴィクトールは更なる攻勢をかけてくる。手首のスナップを器用に使い剣を回転させながら持ち手が不安定になっている俺の剣を払って弾き、無防備になった俺の体めがけて剣を振り下ろす!
「ぐっ!」と声を上げながら必死に後ろに下がる俺だったが、そんな程度で非常に鋭いヴィクトールの剣を回避できるわけもなく、無様に体を切りつけられてしまう。
その切られた個所を左手で押さえながら距離を取り、慌てて右手で剣を持ちなおす俺だったが、ふと顔を上げれば距離を置いたはずのヴィクトールが既に目の前にまで迫っており、反応すらできていない俺に向かって流れるような動作で剣を切り払った。
「ぐくっ…! くっ……」
その一撃は完璧に俺の右腕を捉え、深い傷を負わせる。最早剣を握る事すら叶わない。…もしかして、今のが『流し切り』か…? ゲーム上ではダメージは抑え気味だが腕力を5下げる…なんて簡素な説明だけだが、実際喰らってみたらそんな生易しいものではない。利き腕が使えなくなった以上、事実上の戦闘不能じゃねえか!
ま、まずい…。勝ち目がないぞ…。ソウルスティールであっさり死ぬせいでそんなに強く感じなかったヴィクトールだが、ソウルスティール抜きだとここまで実力の差があるのか…。
「どうしたっ!? 七英雄とまで言われた者がこんな程度ではあるまいっ!」
「………確かに。七英雄とはこの程度なのか? いや、この程度で英雄などとは呼ばれまい…」
剣を掴む事すら叶わずうずくまる俺の首筋に剣の切っ先を突きつけながら怒鳴りつけるヴィクトール。その後ろで、この戦いを見ていたレオンも腑に落ちない様子で首を傾げている。
無茶言うなよ…。戦闘力に差がある上に経験値まで違い過ぎるんだよ…。俺、少し前までその辺のしがない平社員だったんだぞ…。
「クジンシー、何故使わないのです? ソウルスティールを…」
不意にオアイーブが静かに、しかしハッキリと言い放つ。ちっ、やっぱり知ってやがったか…。
「ソウルスティール…?」
「…使う訳がねえだろ。てめえ、俺をバレンヌ帝国の怨敵にするつもりか…」
興味深そうに視線をオアイーブに向けて尋ねるレオン、そして憎々し気に吐き捨てる俺に、しかしオアイーブは黙って俺を見つめるのみだ。
「良く分からぬが、その技を使えば今の貴公の状況からでも勝てると?」
「…使えば勝てます。なにせ、今見た通り貧弱な俺を、末席とはいえ七英雄の座に就かせたほどの技ですから。ですが、何分強力凶悪過ぎる為、技を会得してから幾星霜を持って尚、上手く制御ができません。なので、使えば間違いなくヴィクトール殿を死に至らしめてしまうかと…」
「構わん! 撃ってこい! 貴様如きの技で、この俺の燃え滾る闘気を消せはせぬっ!!」
レオンの質問に答える俺だったが、使えば勝てる…と言うくだりが気に食わなかった様だ。ヴィクトールは言葉通りに更なる闘気を漲らせて雄たけびを上げる。畜生、何て熱さだ! こういう熱いのは嫌いではないが、正直今は勘弁してくれ…っ!
「兄上! 落ち着いて下さい! 流石にその様な危険な技を受けるのを黙って見過ごす事はできません!」
と、ここでジェラールから制止の言葉が入る。
「案ずるなジェラール! どのような技であろうと俺は死にはせん!」
「いや、ここまでだ。剣を収めろヴィクトール」
対して、聞く耳を持たないヴィクトールだったが、追い打ちとしてレオンからも中止を宣告される。
「父上っ!!」
「ヴィクトール、お前のその熱き心は見事なものだ。…だがっ! 貴様の身は貴様だけのものではないのだっ! 万が一貴様が死ぬような事でもあろうものなら、この国すべての活力に関わるのだっ! その身には既にそういう重責がのしかかっている事を知れっ!!」
そんなレオンに噛みつくヴィクトールだったが、続くレオンの叱責にヴィクトールは「…くっ!」と顔を背ける。おお、流石皇帝。あのヴィクトールを黙らせるなんて素晴らしい迫力だ。
「と、いう訳で試合は中止だ。おい、クジンシー殿を手当てしてやれ」
続くレオンの指示に、その傍に控えていたローブを深くかぶった男が「はっ」という返事と共に俺の近くに寄り、何やらゴニョゴニョと喋りだす。
すると、空中から水が数滴俺の体に落ち、それと同時に体の傷が回復していくではないか! あっ、い、今のが『生命の水』かっ!? うおっ、すっげえっ! 結構ひどい傷だった…特に右腕なんか落とされる事こそ免れたが、かなり深くバックリいかれてたのに、完全に傷が癒えやがったぞ!
「傷こそ癒えましたが、体力そのものの回復は微量ですのでしばらくは安静にしていてください」
この世界で初めて見た魔法的要素にご機嫌に傷が回復した箇所を確認している俺に、男は注意事項を口にする。水の術法…つまりこいつは宮廷魔術師か…。
「あ、ああ…。かたじけない…」
などと宮廷魔術師に礼を言う俺に、その様子を見ていたオアイーブが唐突に提案してきた。
「クジンシー…。少し私と二人だけで話をしませんか?」