クジンシーに転生! 何でだよ、災難すぎるだろ! 作:パーフェクトクローザー
唐突に訪れたオアイーブと一対一で話をするチャンス。ここで出来るだけ情報を聞き出せれば…っ! と、意気込んでいた俺に、しかし個室で二人きりになるやいなや、そんな俺の出鼻をくじく質問がオアイーブの口から飛び出してきたのだ。
「さて、では率直に尋ねましょう。貴方、一体何者です?」
その言葉に俺の心臓が変な鼓動を打つ。ま、まさかもうバレているのか…?
「な、何を言っているんだ…。俺はクジンシー」
「いえ、違います。貴方の魂はクジンシーではありません」
震える声で抵抗を試みる俺だったが、残念ながらオアイーブはキッパリと否定してくる。くっ…た、魂だと…? それは一体………あっ、ま、まさか…!
「同化の法…か?」
「ご存じでしたか。その術の仕様上、外見が全くの別人に変化する可能性も孕んでいるのです。故に、我ら古代人同士では外見で相手を判別しません。見るのは相手の魂…」
俺の答えに、オアイーブはご名答…とばかりに頷く。
同化の法…もともと長命な古代人が不老不死を叶える為に編み出した術。寿命により自分の体が朽ちる前に、他人の体と自分の魂を同調させ同化する。
―――これ、殆ど体の乗っ取りだよなぁ…。多分、基本は見た目も変わらないようになっているだろうが、同化する相手の見た目が気に入れば話は別…その見た目も同化する…ってとこか。
…ん? あれ? もしかしてこの術、今の俺の状況にかなり深い関係があるのでは…?
「しかし、どのような術を用いたのかはわかりませんが、よりにもよって七英雄の一員に化けるとは…。本物のクジンシーはどこです? 如何に彼が嫌われていたとはいえ、流石に唐突にいなくなればノエル辺りは黙っていませんよ」
不意の閃きに戦慄する俺に、オアイーブは嘆かわしい…とばかりに声を掛けてくる。本物…か。つまり俺は偽物と断定されている訳か。
今の口調と言い、明らかにこいつ、俺を愚か者と見下してやがる。このままじゃまともな情報も得られずにお開きになっちまう可能性が高いな…。
くっ、ど、どうすればいい? な、何か…なんでもいい、何か切り札が…相手も警戒せざるを得ない様な強力な切り札が欲しい…。い、いっその事ゲームでのこの後の事でも話してみるか?
「…お、俺は現在と未来を知る者としてこの世界に転生してきた者だ。何故クジンシーになってしまったのかは知らんが…」
必死に考えながらハッタリをかます俺。しかし、オアイーブの顔は明らかに白けている。た、確かにいきなりこんな事を言われても………い、いや、負けるかっ!!
「本来ならクジンシーがソーモンからアバロンに攻め込み、迎え撃つヴィクトールをソウルスティールで殺害するところだったのだ! そしてレオンがかたき討ちと称しソーモンに攻め込み、しかしやはりソウルスティールで返り討ちに合う! だが、それはレオンの策略…アンタから教えられた伝承法で次男のジェラールにソウルスティールの見切りを託し」
「待ちなさい」
やけくそになってゲームの流れをそのまま垂れ流す俺だったが、不意にオアイーブがストップをかける。何事かと彼女を見遣ると、先程までの白けた顔から一転、その表情は険しいものとなっていた。
「何故…貴方が知っているのです? 我らが七英雄を止める為に編み出した秘術…伝承法を」
一体何が彼女の様子を変えたのだろうと思ったが、どうやら伝承法という言葉に反応したようだ。
そうか、伝承法そのものが出てくるのはレオンが死んだ後、言葉だけが出てくるのも…確かヴィクトールが死んだ後だ。今、戻ってきた七英雄の為の対策みたいに口走ってたから当然七英雄も知らない。つまり、現時点ではオアイーブと他数人の古代人しか知らない秘術の筈…ということか?
「い、言った筈だ。俺は現在と未来を知る者だと。当然お前の手口も知っている。例えば…伝承法の限界…とかな…」
正直、急激なオアイーブの変化には俺も動揺したが、同時にチャンスでもある。なんでもいい、とにかく追撃を…っ! と、伝承法についてさらに深く切り込んでみる。これが決定打になる事を祈って…。
「―――俄かには信じがたいですが…。現在と未来を知る者…満更でたらめばかりでもない様ですね…」
その祈りが通じたのか、オアイーブは深く考え込みながらそう口にする。その様子から、先ほどまでの見下し侮る感じは消えている。よ、よし、今なら質問すれば答えてくれるかもしれん!
「俺からも質問したい。お前は先ほど本物のクジンシーは何処だと尋ねたが、それはむしろ俺の方が聞きたいのだ。クジンシーの体に俺の魂が入っているのなら、クジンシーの魂は何処に行ったんだ?」
聞きたい事は山ほどある。が、先ほどまでのオアイーブとの会話で一番気になったのがこれだ。入れ替わりで俺の世界で平社員でもやっているのか、それとももう消滅してしまったのか。
俺の質問を聞いたオアイーブは、俺に向かって右手を伸ばし、その手をゆらゆらと揺らしながら真剣な表情で何かぶつぶつと呟いている。何故かはわからないが、その右手は俺まで届いていない筈なのに、俺の体を触診しているように感じる。
「………………同化………いや、これは吸収の法か? …そうだ、吸収の法が近い。貴方の魔力から吸収の法に限りなく近い術力の残滓が感じ取れます。が、吸収の法そのものではない…っ、い、いや、それどころか、これほど邪悪な雰囲気を漂わせる術力は初めてです…。これは一体…?」
唐突に口を開くオアイーブ。が、ここに来て初めてその声に震えを含ませている。…ま、マジ? 俺個人の感想だと、こいつら古代人も結構邪悪なんだが、その古代人筆頭のオアイーブがここまで震える邪悪ってマジで言ってんの?
「い、いずれにしろ、ここまでの邪悪な法をかけられては、クジンシーの魂は消滅したと見た方がいいでしょう。思いもかけず七英雄の一人が欠ける事となったようです」
恐らくは恐怖で震えていたであろうオアイーブだったが、ここでハッと我に返り慌てて体裁を取り繕うと共に、そう締めくくる。
「私からも質問があります。貴方の知る未来では、七英雄はどうなりましたか?」
そして、俺が何かを言う隙を与えず矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。
「あ、ああ…。数千年の時を超えてアンタの伝承法で強くなったバレンヌ皇帝は、七英雄を打ち破り世界を平定した。そして帝国は共和国へと」
「そうですか。見事に破ったのですね…。やはり私達の伝承法は間違ってはいなかった…」
怖い程の真剣な表情に気おされて答えてしまう俺だったが、その答えを最後まで言う前にまた何かぶつぶつと呟き始める。本当に七英雄がどうなったかにしか興味がない様だ。
決意の光を宿すオアイーブの瞳。しかし、その暗く淀んだ雰囲気に俺は一抹の不安を覚えるのだった。