クジンシーに転生! 何でだよ、災難すぎるだろ! 作:パーフェクトクローザー
七英雄撃破の未来を伝えた後、暫くブツブツと呟きながら俯いていたオアイーブだったが、唐突に立ち上がると俺の制止も聞かずに部屋を出て行ってしまった。
どうやらレオンにも碌に挨拶もせずに出て行ったようで、当然その尻ぬぐいは俺に回って来る。部屋を貸してもらったのに、碌に情報も出さずに出ていけばキレられて当たり前だ。とりあえず謝罪と、今回の謁見の礼も兼ねてソーモンを開放する約束をする事で何とか事なきをえる。
そのついでに、オアイーブには注意した方がいいと進言してみる。…なんか原作と立場が逆だな。原作ではオアイーブが七英雄に注意しろと忠告していた…覚えがある。
さて、そうしてアバロンを後にする俺。正直言って謁見の内容はあんまり芳しいものではなかった。収穫も無くはなかったが、残念ながら七英雄からも話を聞いてみたい。
…とは思うのだが、オアイーブですらあの短い時間で俺がクジンシーではないと確信したんだ。多分七英雄の面々が見ればほぼ一発で別人と見抜かれるだろう。なんか………こう、見抜かれてもなんとかお目こぼししてもらえるなんか良い言い訳が…欲しい…。
そんな事をうんうんと唸りながら考えている俺に、一人の怪しい男が近づいてきた。
「ノエル様から伝言だ…」
それだけ言ってから俺に手紙を押し付け、足早に行ってしまう怪しい男。…ノエルだと? という事は、あいつ変装した人型のモンスターか? ………ま、まあいい、とりあえず中身の確認を…。
(至急、メルー砂漠の移動湖まで来い)
―――一難去ってまた一難とはまさにこの事だな。
そうして辿り着いたのはテレルテバだ。メルー砂漠を探索するための最寄りの拠点としてまず浮かんだのがこの街だった。
まず目につくのは三つの塔。その三つ全てに人型のモンスターが見張りとして塔の外側を徘徊している。進んで襲われる事こそないだろうが、街の目立つ施設がモンスターに占拠されているという事で街の活気は著しく低い。
が、今の俺はある問題に直面しているため、そんな事に気をやる余裕はない。すなわち…い、移動湖ってどうやって見つけたらいいんだ…?
ゲームなら出現場所は決まっている。更に幻で入れない場合もあるが、これもセーブとエンカウントを使った乱数調整で何とでもなる。
しかし、現実として目の前に広がっている砂漠…本当に見渡す限り砂しかない…を見る限り、そんな都合よく見つかるとは到底思えない。そもそも現実である以上、セーブや乱数調整なんて芸当出来る訳もない。
ノエルの野郎…とんでもない場所を指定しやがって…。至急なんて到底不可能じゃねえか…。
とはいえ、愚痴っていても始まらない。俺は購入した地図を片手に覚悟を決めて目の前の砂の地獄に足を踏み入れるのだった。
と、とにかく、まずはゲームと同じ場所をチェックだ。確かこっち…。
うおっ! あった! いいぞ、場所は同じっぽい! これで入れ…………ねええぇぇぇっ!! くそっ、やっぱりそんな都合よくはいかないか…。
砂蛇共がうぜええぇぇぇっ!! ゲームと違って身を砂の中に隠してやがるから、襲われる直前まで存在に気づけねえ! 流砂こそゲームと違って殆ど見つからねぇが、代わりにこいつらのうざさが3倍…いや10倍増しだぜっ!
場所こそゲームとほぼ同じ個所で見つけられるのだが、何度試してもその全てが幻だ。場所ごとを調べるにしても結構距離があるうえ、砂蛇共の所為で警戒を怠る事も出来ず、移動速度も上げられない。結果ポイントとポイントの間を移動するだけでも数十日は必要だ。マジでいつ見つかるんだよこれ…?
畜生………畜生………もう何十回と移動湖は見つけてるのに、一度も入れねぇ…っ! そういや、ゲームじゃ存在そのものが幻みたいに言われてたっけ…。これじゃ確かにそんなふうにも言われるわな…。出現ポイントを知っているだけでも、まだマシなのかもしれねぇ…。
そして………そしてっ!!! ゆうに百回は超えようかという発見回数を経て、俺は……俺はっ! つ、遂に移動湖への侵入に成功したのだっ!!!!!
長かった………滅茶苦茶長かった…。正直諦めようかと思ったのも一回や二回じゃない。しかしその場合七英雄たちからどんなコンタクトをされるか分かったもんじゃない。ゆえに探さざるを得なかった。
移動湖内には十数人の人がいた。…確か、移動湖に広がる水は飲めば不老不死になる水。それを求めてやってきた人たちだ。ただし、飲めば今度は移動湖から二度と出られなくなる呪い付きの水でもある。
まあ、そういう訳でここの人達の雰囲気はテレルテバ以上に最悪だ。明らかに精神をやられている奴らもちらほら見受けられる。
…とりあえずそういう人らは見ないようにして、俺は急いで移動湖にある建物の中に入る、のだがその道がどういう訳か湖から続く水路しかない。
ゲームプレイ中も思ったけど、かなり悪質な嫌がらせだよなこれ…。もし水を飲む気が無くても、移動中に足を引っかけて転びでもしたら、その瞬間ここから二度と出られなくなるんだぜ…。そう思うと移動も慎重になってしまうな…。
などと考えていると水路は終わり、しっかりした石畳の床が現れる。そして、その先に…奴らはいた。
真ん中にいる剣を携えたクールで知的そうなイケメンがノエルだろう。だが、驚いたのはその左右にも人がいた事だ。向かって左がノエルにそっくりな可愛らしい顔立ちの女性。対して右は…さっきは人と言ったが明らかに人じゃない。蝶に人間の胴体と顔が生えたようななかなかグロテスクな生物だ。
「ノエル………それにロックブーケとワグナスも…っ!?」
「気やすく名前を呼ばないで。虫唾が走るわ」
「ふん、流石短命種。礼儀も知らんと見える」
予想外の奴らがいる事に俺は思わず驚きの声を上げる。一方、女性…ロックブーケは言葉通りに不愉快そうに吐き捨て、蝶人間…ワグナスは思い切り見下してくる。
そして、ワグナスが放った短命種と言う言葉…。ぐっ、既にバレているっぽいな…。
「遅かったな。俺が呼び出してから既に3年は経過しているぞ」
そんな中、最後に口を開くノエルだった。が………へ? さ、3年………?
「では、少し話をしようか。貴様の処遇について…」
身に覚えのない時間経過に思考が止まる俺に、しかしノエルは容赦なく話を進めていくのだった。