クジンシーに転生! 何でだよ、災難すぎるだろ! 作:パーフェクトクローザー
「やはりここか。久しぶりだなダンターグ」
唐突に洞穴の外から声がかかる。全員が振り向くと、そこにはノエルが立っていた。
「ノエル兄様! 何故ここが分かったの?」
「今度はノエルか、今日は客が多いな。で、何の用だ?」
驚きの声を上げるロックブーケと、先ほどの物足りない戦闘に苛ついた感情を隠す様子もなく不機嫌そうに口を開くダンターグ。
「ダンターグだけでなく、お前達全員…現在と未来を知る者、お前も含めて用があったのでワグナスの背を借りてルドン高原に急行した。すると、空からでも分かるほどに乱暴な破壊音が響いていたのでな。直ぐに分かる」
対して、まずはロックブーケの質問に答えるノエル。まあ、岩の地面が抉れるほどのパワーで暴れまわったら、そりゃすぐに場所はバレるわな。
それはともかく、俺にまで用があるだと? 一体何を伝えに来たんだ…?
「そして要件の方だが…。俺とボクオーン、スービエ、ワグナスの四人で話し合った結果、我らはこれより………バレンヌ帝国の首都、アバロンに攻め入る事にした」
ダンターグ、ロックブーケ、そして何を言われるのかという緊張にゴクリ…と生唾を飲み込む俺…と順に目配せしてから、無表情のままノエルはそう言い放った。
―――え? ま、マジで…? まだ始まったばかりの帝国が七英雄全員に襲われなんかしたら…。
「本当なのノエル兄様? この男を見る限り、帝国が私達の敵になるなんて思えないけど…」
「ああ? そのアバロンだか何だかはこの短命種の国なのか? だったら、確かにロックブーケの言う通りつまらねぇ戦いになりそうだな。俺はパスだ、他の連中だけでやってくれ」
驚愕する俺を尻目に、困惑するロックブーケに不愉快そうに声を荒げるダンターグ。その話の流れで全員の視線が、一時的に既にこと切れているヴィクトールに集中する。
と、その時だった! ヴィクトールの体が突然淡い光を発し始めたのだ!
「っ!? な、何っ!?」
不意の出来事に大声を出すロックブーケ。ノエルとダンターグも即座に臨戦態勢をとる。が、その光は円柱となって真上に飛んでいき、岩の天井をすり抜けて何処かへと飛んで行ってしまった。………い、今の光は見た事あるぞ…ま、まさか…。
「―――あれが伝承法か」
俺の考えていた事と全く同じことをノエルが口にする。そして、改めて俺達に振り返った。
「確かに、今は俺達の足元にも及ばんかもしれん。だが、あの法を繰り返せば、いずれ脅威になる事もまた明白だ。ならば、そうなる前に…脅威は芽を出す前に摘み取っておこうというのが俺達の結論だ」
「…分かったわ。ノエル兄様、それにワグナス様もそうすると決めたのなら、私は異存ない」
真剣な表情で説くノエルに、ロックブーケは了承の頷きを見せる。だが、
「ちょっと待て、あれがオアイーブの野郎が言っていた伝承法ってやつなら、待ってればもっと強い奴が俺の前に現れるって事だよな? だったら俺は反対だ! 強い短命種って奴は興味がある! それをオレに吸収させろっ!!」
巨体をノエルの目の前にまで移動させながら怒鳴り散らすダンターグ。ええ、マジかこいつ…。どんだけ強い奴を吸収したいんだ…。あと、オアイーブの奴、もう伝承法は隠すつもりはないんだな…。
「もう決まった事だ。既にスービエとボクオーンもアバロンに向かっている。お前の意思など関係ない」
「そうかよ。で、はいそうですかって引き下がれるほど、俺は育ちが良くねえんだ。それは知ってるよなぁノエルさんよ」
「ああ、知っているとも。だから心配なのだ。その粗野で単調で直情な戦い方、一番対策しやすいものだ。真っ先に倒されそうな予感がするし、逆にお前が最後の一人になってしまった場合、血の誓いの意味が無くなってしまうからな」
「面白れぇ…! だったら、この俺の力を対策できるかどうか、てめえの体で味わってみろや…っ!!」
言い合いをしている内に険悪なムードになる二人。遂にはダンターグは巨体を構え、ノエルは剣の柄にスッと手を伸ばす。ちょ、ちょっと…っ! こんなすぐに仲間割れなんかしていいのか? しかし、ロックブーケを見る限り、仕方ないわね…みたいな感じだ。その慣れた様子は、こんな事何回もあった…とでも言わんばかりだ。
でも、もしここでダンターグが勝ったのなら、もしかして七英雄のアバロン侵攻を止められる可能性が出てくるのか…? ……………………………が、頑張れダンターグ!
「うおおおおっ!!」
そんな俺の心の中だけの声援を受けたダンターグが、お得意のぶちかましをノエルに放つ! が、その高速突進をノエルは紙一重の所でかわす。
「ぐうっ!?」
更に、唐突に態勢を崩すダンターグ。そのダンターグの視線の先を見ると、いつの間にかダンターグの足が切り裂かれているではないか! 当然やったのはノエルだろうが、い、一体いつの間に…。
「くっ、ま、まだだっ!!」
崩れそうになる姿勢を、拳を地面に打ち付ける事で気合と共に立て直し、再びノエルに突撃していくダンターグ。だが、そこから繰り出されるぶちかまし、また体重の乗ったパンチやキックといった攻撃は悉くノエルに回避され、逆に攻撃するたびにダンターグの体は傷だらけになっていく。
信じられないのは、ノエルの斬撃がまるで見えない事だ。恐らくは後の先…いわゆるカウンターを剣で決めているのだろう。ゲーム中には剣技のカウンター技が実装されていないので見る機会は無いが、ノエルほどの実力者なら剣でカウンターが出来てもおかしくはない。絵面的には、ゲームが違うが、サガフロンティアの”突進”に”かすみ青眼”が近いか。
問題はその速度だ。見えない、本当にその剣筋が全く見えないのだ。いや、剣筋とかそんなレベルではなく、まず剣を抜いているのが俺には見えていない。そう、俺の目には、ノエルは剣の柄に手を置いたままただ避けているだけのようにしか見えないのだ。しかし、ダンターグが傷ついている以上、剣は抜いている筈。まさに、通常攻撃が”音速剣”状態だ。
「はあっ、はあっ…っ!」
「分かったか? これが対策されるという事だ」
ボロボロの体に肩で息をするダンターグに向かって、涼しい顔で言い放つノエル。…多分、この対策って力任せの攻撃に対して後の先で迎え撃つってのを言ってると思うんだけど、そもそも”ぶちかまし”ってカウンターできたっけ…? どっちにしても、こんな異次元な対策がとれるのはノエル…アンタだけだよ。
その時だった。突然地面が急激に揺れ始めたのだ! こ、これはヴィクトール戦で見せた未完成グランドスラム!
「ぬっ!?」
不意の地面の揺れに流石のノエルも僅かに足を取られる。そして、その一瞬のスキをダンターグは見逃さなかった!
「ぬおおおおっ!」
渾身の力を込めたぶちかまし。この一撃が遂にノエルを捉えた!
「ふううっっ!!」
だが、その一撃をノエルはなんと踏ん張って耐えて見せたのだ! 踏ん張った足が地面を抉っている事からも、相当力を入れて耐えた様だ。…ほ、本当にマジでなんちゅう奴だ…完全に超人だな…。とはいえ、やはりノーダメージとはいかなかったらしく、その口から一筋の血が垂れ落ちていた。
しかし、ダンターグの奴、いつグランドスラムを仕込んだんだ? 見た感じそんな暇はなかった…あ! あの気合を入れて立ち上がった時か!? 多分そうだ!
「くっくっく…。どうだ、流石に効いただろ? さあ、勝負はまだこれからだぜ!!」
遂に一撃を入れられたことに気をよくしたのか、上機嫌に前足をドスドス鳴らすダンターグ。
「いや、この勝負はもう終わった」
しかし、返って来たのはノエルの冷たい言葉。と、同時だった。
「ねえダンターグ…。私のお願い聞いてくれる?」
いつの間にかダンターグの肩に乗っていたロックブーケが、可愛らしいしぐさでダンターグに詰め寄る。あ、あれは…て、テンプテーションか…っ!?
「う、し、しまっ…………」
その姿を直視してしまったダンターグは、見る見るうちに生気の感じられない人形の様な表情になってしまった。や、やべえ、あいつ七英雄を魅了しやがった…。
「きまったよノエル兄様。でも、流石に同じ七英雄をいつまでも魅了状態にはできない」
「どれくらい持つ?」
「うーん、まあ半年くらいかな」
「十分だ。よくやった」
ノエルに褒められてご機嫌になるロックブーケ。そして、ノエルは俺に向き直る。剣の柄に手を置いたままで…だ。
「さて、お前は何か異論あるか? 現在と未来を知る者よ」
「ないです………」
臨戦態勢のノエルに、ロックブーケと魅了されたダンターグまでこちらを見つめている。この選択肢の無い問いに、俺は即行で白旗を掲げるのだった…。