狩人様によるおそらく正気な散歩道   作:Ωが来た!

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 貝女も好き好き大好き


願われた松明にて病を払え

 

 

GyAaaaA!!?!?!!

 

 

 ……やはりと言うべきか一筋縄で行くはずもなかった。なけなしの輸血液は既に片手の指より少ない。それに反して水銀弾は少しも減ってはいないのだが…。

 

 

urrrGaaa!

 

 

 片方の翼脚をこれみよがしに振りかぶれば、振り下ろすその瞬間に銃弾を差し込む。

 

 

 ……こうも効果が無いとは…。

 

 

 一切の抵抗を感じさせない振り下ろしは、文字通り大地を叩き割った。

 ……成る程、通りで爪痕が残らない訳だ。

 

 いつかのゲリョスに習って目を狙うても考えたが…、片目は眼球が存在せず、もう片目に至ってはその形跡すらない。

 

 全くどのようにしてこちらを感知しているのやら。

 …もしや、この怪物も上位者に位置する存在なのでは無いか?指こそ六本では無いが、六脚という面では共通点が見出せる。おそらくは狂竜の主ということも考慮すると、もしや脳に瞳を得ているのか?

 

 

 …このような思考を持てるということは、まだまだ余裕があるということか?動けるならなんでも良い。

 一体どの程度の時間が経過したのか、頑強極まりない外殻を撃ち破る術を自身は持ち合わせてはいなかった。

 切れ味も、強度も、そして力も、何もかもが足りていない。

 

 全ての攻撃が大振りかつ素直な為にここまで耐えることができたが、余波一つで致命になりうるこちらからしてみれば、ジリ貧と言われても何も反論はできない状況。

 

 

urrrGaa………!!!

 

 

 翼脚を肩に掛けしまったかと思えば、次の行動では展開して六脚で行動する。どっち付かずで不安定。簡単に言えば忙しない。

 

 その時が経つほどに、黒に青光が走り初める。

 

 

 覚悟こそしていたが…。

 

 

 呻めきに混じる苦悶の絶叫を上げ、我が身を顧みず、寧ろ自らを破壊するかの如く暴れ回る。二律背反の様相は入り乱れ、かと思えばその姿は更なる変化を呼び込んだ。

 

 

GOAAAAA!!

 

 

 黒く幼き左顔より、今の今まで寝かされていた片角が起立する。

 

 白金の右顔と比べればそれは瞳があるであろう場所から生え、またそこから生える片角と比べれば行くばかりか柔らかい印象を受ける。が、しかしそれ以上に思うは、

 

 

 ……形態変化とは手厳しい…。

 

 

 空の様相は輪をかけて曇天へと突き進み、辺りを一層闇へ落とす。

 

 幼い黒触は不気味に、それでいて鮮やかに青く発光し、故に闇の中で一層その存在を際立たせた。

 

 

 

 ……さて、息は続くのだろうか。

 

 

 

………

……

 

 

 

「………ッ」

 

 

 今すぐにでもこの道を突っ走り、ハンターさんの元へと合流したい気持ちを抑え込み、息を荒げぬよう、呼吸を最低限に抑えて歩みを進める。

 

 

 初めの方で飛ばし過ぎた。厚めの布で口と鼻を覆えば容易に侵入を防げるが、とは言えどもこの濃度は尋常では無い。

 遮られた布のせいで息は苦しく上がりやすい。しかしそうなってはより多くの狂竜物質を取り込んでしまう。

 

 

「……ハンターさんの息が心配…。」

 

 

GOAAAAA!!

 

 

 

「…!?!」

 

 

 近くはないが、そう遠くでは無い。そして今、一番発生源として考え得る場所と言えばそう、

 

 

「…ハン……ターさんっ!……。」

 

 

 心が掻き乱される。咆哮の主が何者なのかなど分かるはずもないのに、その境遇なんて知る由もないのに、なぜ、こんなにも、

 

 

「なっ…なんで………涙が止まら…ないの?」

 

 

 破砕音が響く、呻きに混じる絶叫が、絶望と苦悶に満ちしかし尚も足掻く事を辞められない。

 

 

「こんな事なかったのに…。」

 

 

 確かに共感性は高いとよく言われるが…一体何が起きているというのか?

 

 

「もしかして…。いや、しっかりしろ!!……ッ!」

 

 

 両頬を叩いて前を見る。厚布の為か音はかなりくぐもっていた。

 

 

 

………

……

 

 

「グフッ…。」

 

 

 渡された厚布を引っ剥がしポケットに突っ込む。元々装着していた薄い布一枚挟んで吐き出された吐息は、我が目を疑い、我が身を疑うほどに黒く染まっていた。

 

 自己の体調にこそ目を瞑れば現状はそこまで危惧するほどではない。

 行動こそ狂竜の息吹が強化され、物理的な攻撃に黒い余波が追加されたただけであり、変わらず我武者羅な連撃に止まり、そこまで絶望視するほどでは無かった。

 なんであれば触覚に対する攻撃は、今の自身でも有効打になる。

 

 

GOAAAAA!!

 

 

 黒に映える赤を裂き、その凶顔でもって有り余る力に任せてこちらは突き出したかと思えば、尋常ならざる瘴気が溢れんばかりに蓄えられている!

 

 

 それを待っていたのだ!

 

 

 構え続けていた銃口が火を吹けば、無数の水銀弾が炸裂する。

 

 

GyoAAA??!!

 

 

 巨体が沈めばあとは早い、何千度繰り返した動作は至極滑らかに、青光が薄く灯り、黒と白金が入り乱れる伽藍堂の眼孔へ。

 

 …天秤は少しずつこちらに傾いて来てい……。いや、そうでも無いようだ。

 

 

goarrrrra………!

 

 

 より一層呻く様は、痛みに耐えるものでは無い様で、ともすれば次の行動は素早く、これまでに抱いていたであろう一切の迷いを感じることはできない。

 

 

 …なんと…。

 

 

 成るはずのそれは初々しく瑞々しく、しかし霞んだそれすら貫いて、赤を変えて最早白く、ぐずつき、腐臭すら漂わせる歪な眼孔が露出する。

 

 自傷行為はよく見たが……成り掛けの翼脚持って巨大な翼爪を幼き左顔に突き立て、それを刳り捨てるとは。

 

 

GYSYAaaaaA!!!

 

 

 両眼から赤い涙を垂らし、尚も行き所無き力に振り回される。

 視界は黒を超えて紫に掠れ、絶叫は潰れた喉で無理矢理叫ぶが如く痛ましく。

 

 

 此方を見た気がした。その様な事、出来るわけがないと言うのに…。

 

 

「ハンターさん!!」

 

 

 ……ん?

 

 

「ハンターさん!!!」

 

 

 貴女!?何故ここに!?何故覆いを外している!?…いかん!!

 

 

Gya?GoaaaAAA!

 

 

 視線はなくとも行動でわかる、明らかに今一番向けられるべきではない人に注意が向けられてしまっている。

 

 

「……それは!お互い様!!ハンターさん!!これをッ!!ダメかっ!!」

 

 

 しかし、何のと言わんばかりに構わず止まらず、遂には手に持つ何かを此方へと投げようとして……。

 

 

「………ッ!……また、会えましたね、ハンターさん。」

 

 

 …随分と無茶をするもよな。

 

 

 驚異的な瞬発力にものを言わせた暴威の一撃は、有り余る力を制御出来ずにして狙いを定めることはできなかった様で、間一髪で避けることができた。

 

 

「……?」

 

 

 何をしている?急に手を振るとは…、何を持っているのだ?それは?

 

 

「…ハンターさん、ゴア・マガラの様子を見ていて下さい…。」

 

 

………

 

 

 彼女が手に持つそれを左右に振れば、ゴアマガラと呼ばれた竜もまた体を左右に動かしている。

 さらに目を引くのは、その時の動きに限り緩慢で落ち着いているとも取れる事だ。

 

 

「…これはこの村の生き残りの方から託された物です。これを持っているとその…凄く『生きる』が漲ってくるんです。」

 

 

 これは!?

 

 

「ハンターさん?この記号の様なものにもしかして見覚えが?」

 

 

 ………いや、形こそカレル文字の様で既視感こそあるが、自身の記憶に合致するものは無い。

 

 

「かれるもじ?……いえいえ、今はそこじゃなくて…ハンターさん、正直に言って倒せますか?」

 

 

 そう言われて改めてアイテムを確認する……。

 

 導き出される答えは、おそらく無理。

 

 

「ならば良い考えがあります。東に行けば火薬庫があります。……あとは分かりますね?」

 

 

 …火薬庫…。そのままの意味で良いのであれば、分かったと言えるだろう。

 

 

「ふ、不安になりますね…。ですがハンターさん、その息を見るに狂竜症発症間近、このままではハンターさんの身が危険です。誘導は私がやります、ハンターさんは援護をお願いします!有無は言わせません!追いかけっ子開始です!」

 

 

 それは無茶と止めようとするも捲し立てられ駆け出す彼女、同時にゴアマガラも動き出しては最早無駄。

 

 大人しくその案についてはいくが、内心上手く行くものかと疑いがあるのも事実。されどその疑念は追う背中を切り付けた瞬間霧散した。

 

 彼女の言う『生きる力に漲る』とはなかなかの効果なようで、あれだけの暴走具合が嘘の様に、ただ一心不乱に火に魅入る虫の様の如く、縋り乞う亡者の如く、一方的な攻撃にすら端に置き蹌踉めきも、転倒ですらその注意を途切れさせる事は出来なかった。

 

 

 …息が青味を帯びてきた?………ッ!これは!?

 

 

 異常に気分が良い、瘴気に塗れたこの空気でさえ何事もなかったかの様に呼吸が出来る。更に思考も肉体も冴え渡っているではないか!?

 よく分からないがこれは好機、存分に利用させてもらう。

 

 

 幾ら援護を受けようとも純粋な追いかけっ子をしていては追いつかれてしまう。その点、彼女の逃走術は非常に目を見張るものだった。倒壊した家屋も利用すれば時間稼ぎにはなる、隆起した大地も、折れた大木すら軽やかに乗り換えていく様は見てて心地良いものを覚えるほどだ。

 

 

「ハンターさん!ボウガンっじゃ無かった!銃の準備を!もうすぐです!!!」

 

 

 目の前にある倉庫がそうなのであろう、何故この様な辺境に火薬庫があるかなど今はどうでもいいが、今はその存在に感謝しかない。

 

 

「…………。」

 

 

 火薬庫門前にて立ち止まり、ゴアマガラを見据える。それを寄越せと言わんばかりに彼女の元へと飛び込んだその瞬間に合わせる様にして、彼女もまた前へと飛び込んだ!

 

 

 此処に来て前へと回避するとは…その勇気に、答えなければ。

 

 

 先程の逃走術は何処はやら、技も何も無い全力疾走でその場を後にする彼女を尻目に、瓦礫を押し除け今まさに再び駆け出さんとするゴアマガラの側に一発の水銀弾を撃ち込む。

 

 掠れた闇に、花が咲く。惨劇も長く願いを乗せて。

 

 

 

………

……

 

 

 

「……ハンターさん……。あの竜は『黒触竜』ゴア・マガラ。とある古龍の、幼体とも言える存在であり、狂竜ウイルスという物質を撒き散らし、感染した生き物はあらゆる制限を破壊されて、暴走の後に生き絶える。」

 

「近年になってその発見報告が急増しそれに伴い、様々な事件が起きました。」

 

遠目に燃え盛る村を見届ければ、彼女はポツリと言葉を溢し後は堰を切ったかの様に話し始めた。

 

 

「幸いにも、とある旅団に所属している精鋭のハンターがその事件に対応し、一応はなんとかなりました。……課題は山積みですが。」

 

 

 ………。

 

 

「本来、成体である『天廻龍』シャガルマガラは一体のみがなれます。シャガルマガラより拡散される狂竜ウイルスは他のゴア・マガラの成長を抑制し、その場合他のゴアマガラは成長をやめて次の機会を待ちます。」

 

 

 火災と爆炎の中心を見る、木霊する絶叫はただ一度のみでありその呻めきが聞こえて来ることはなかった。

 

 

「本当に間の悪い事に、よりにもよって成体へとなるその瞬間に抑制されてしまった個体は、古龍へと成る力と、それを阻害する力がぶつかりそして、決して存在することが許されない異形へと堕ちてしまう…渾沌に呻くゴア・マガラへと。」

 

 

 ……古龍と呼ばれる存在がどの様なものか解らないが…、言わば、上位者の様なものと捉えれば、まさにそれは上位者の卵でありなり損ないであったのだろう。丁度、あの腐った脳みその様に。

 

 

Gyaaa…

 

 

「……!?」

 

 

 なんと!?

 

 

 音沙汰のない瓦礫より異形が這う。堅牢な外殻も、高熱を伴う至近距離での爆破は耐えられない様で、肉を焼き、骨を煤けさせ、火に塗れて尚、それは進むことを止めることはない。

 

 

GyaAAAA……

 

 

 焼け爛れた顎門は今にも外れんばかりに開かれ、白金が隆起する左翼脚を、まるで人間の様に、縋る様にこちらへ向けていた。

 

 

 ……ローレンス。

 

 

「ハンターさん。きっと、生きる力は各々の中で決まっているものなんですよ。何をしようと、どんなに求めようとそれが実のることはない。本当に絶対的な、自然の摂理。」

 

 

「けれど、けれどですよ?…生きる力が戻るはずも無い…だけれどやはり余りにも可哀想じゃ無いですか…生きたいだけなのに、帰りたいだけなのに…余りにも…哀れじゃありませんか…。」

 

 

 あの時の様に、そこから戦いが始まることはなかった。静かに事切れ、全身を斬り、焼き尽くされたその骸は実に安らかな(苦悶に満ちた)表情であった。

 

 

 

………

……

 

 

 

 我々は、村を後にした。あの後何故火薬庫があるのかと聞けば、近くには砦が存在し補給拠点の様な役割もになっていたのだと言う。

 

 他にも様々な疑問を投げかけた。モンスターについて、あの冴え渡る感覚はなんだったのか、ハンター達について忘れてはいけない武器について、そして古龍について。今までの質問もまるで珍獣を見るかの様な目をされたが、この質問は輪を掛けた反応が返って来たが…。

 

 

 纏めるとこうだろうか?

 あの冴は狂竜ウイルスを克服した証で様々な恩恵を得られるが一時的なものであるという事。彼女自身あの爆走の中で克服したらしく、生き残れた要因の一つだと言っていた。

 どうやら動く事が大切らしく、病だからと安静にしては逆効果だという。それに人間程度の大きさでは十分な量に達せず発狂する事は無いらしい。せいぜい自然治癒力がほぼほぼなくなってしまうくらいだという。

 

 ……かなり致命的では?

 

 そして古龍とは言わば肉体を得た自然現象であり、生き物という体ではあるが我々の言う生き物とは根本から違う者達……。

 

 つまりは上位者というわけか?

 

 

「じょういしゃ?」

 

 

 とにかく近しい間柄である事は違いないはずだ。……ならば『青ざめた血』に聞き覚えは無いだろうか?

 

 

「青ざめた血?高貴な血族という意味では…無さそうですね、物理的に青い?でもそんなモンスターいましたっけ?……とりあえず街に戻って、そこで調べてみます。」

 

 

 ありがたい…。

 

 

「いえいえ!ぜひ力にならせてください!…ですが、ますば仲間達の供養と報告をさせて下さい。そしてこの子も…。」

 

 

 勿論だとも…ん?それは…危険では無いのか?

 

 

「大丈夫です、部位にもよりけりですが、元々機能不全に陥っていたものですから………うん、これはハンターさんが持っていた方が良いで……そうだ!!これっ!」

 

 

 何を思い出したかと思えばいつかのカレルもどきを渡される。

 

 

「あの追いかけっこの時は死ぬほど役に立ちましたけど、もうあんなことしたく無いですし、これはハンターさんが持っていた方がこれから役に立つと思いますから!」

 

 

 確かに、これは漲る…。

 

 

 渾沌に呻くゴアマガラの影響はいまだに残っている様で、この帰路にて幸いにも他のモンスターの襲撃を受けることは無く、無事に門をくぐり漸く、活気ある人々を目の当たりにすることができた。

 

 

 因みに道中、武器についての質問はなかなかに興味深い返答が得られた。しかしあの表情は…どういう顔なのだろうか?

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

相剋の変異角

 

 死を願う光と、生を願う闇が混じり、ミシミシと音を立てながら脈動し、硬化してゆく角。

 

 今となっては進退も無く、冷たく固まる事を待つのみとなった角。何か特別な力がある訳ではないが、それこそが証しであり一度きりの空を見る条件なのであろう。

 

 





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