狩人様によるおそらく正気な散歩道   作:Ωが来た!

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 ルドウィークの口内目玉顔がフルフルにしか見えない。


新しき事は良き事

 

 あれから、我々2人はとある宿に泊まっている。当たり前と言うべきではあるが別室だ。

 …随分と部屋が空いてある事を憂いている様子に、投げかける言葉がなかった。悲劇は常で、多くを目の当たりにしたというのに未だに投げかけるべき言葉が見えてこない。

 

 ……此処で気の利いた事を言える人間であったらなば、あの少女の末路も変わったのだろうか…。

 

 

「はっ、ハンターさん…?起きてますか?」

 

 

 ああ、起きているとも。些かながら、寝る事には多少の抵抗があってな。

 

 

「わたしも…そうなんです。………。」

 

 

 黙り込んでしまった。……そこにいては疲れるだけだ、兎に角中に入るといい。

 

 

「……ありがとうございます。」

 

 

 ……机を挟んで穏やかに静かな時間が過ぎていく、時折りどちらかが喉を潤す音が鳴り、そしてまた静寂が辺りを包む。

 

 

「隊長は…、とても豪胆で好奇心旺盛で、とにかく行動と経験に突き進んだ人でした。」

 

 

 いつほどだろうか、静かさは時間の感覚を狂わせる。案外数分も経っていなかったのかもしれない。

 

 

「モンスターのフンを積極的に漁っては体に塗って、匍匐前進を繰り返す人でした。」

 

 

 その後も、時に嬉しそうに、時に怒って、泣いて、笑って、隊員たちについて懐かしむ様に、その人となりと思い出を語り、話続けた。

 話して話して、そしてまた、静寂が辺りを包む。

 

 

「ハンターさん…。ハンターさん。」

 

 

 その声は、震えていた。明るく、底なしに元気な彼女からは想像もつかなかった事態だ。

 

 

「私、分からないんです、怖いんです、先輩方は死んでしまいました。こんな事態になって、怒りもあります。全部あの子のせいだと言えたらどんなにいいか、でもそれも出来ない、私はあの子に同情してしまったから。」

 

 

「私は…いなくなって初めてわかりました。ただ着いてきてただけだった。………寂しいんですよ。………とても、明るかった部屋が、心が、空いて空いて仕方がないんです……。」

 

 

 ……そうか。

 

 

「…ハンターさんはこのあと、いかが…されるんですか?」

 

 

 青ざめた血を手に入れる事だ。これはある意味、使命の様なものだ。

 

 

「その為には、その場にとどまることなんて無いですよね…。」

 

 

 そうだ。

 

 

「………。」

 

 

 ……また返事を間違えてしまったのだろうか?返答がない。

 

 

「おいてかれちゃうのかな。」

 

 

 ?

 

 

「…あっ…いえ!なんでも無いです!本当に!すみません夜遅くに、明日もあるので、今日はこの辺で…おやすみなさい…。」

 

 

 消え入りそうな声とはこのことか。言葉として発する事が前提に無いそれを、聞き取ることはできなかった。

 

 

 ……うむ。

 

 

 しかしながらどうしたものかと思案に耽ると一つ思い出す。ポケットに入れてある、この世界に来て初めて入手したアイテムだ。

 

 

 彼女は青い血の事を高貴な人々の言い換えとも言った。……尊き血。ある意味では的外れでは無い。

 

 机の上に置けば相変わらず乾いた音が……。はて、記憶の中ではより皺枯れていたと思うのだが…血でも吸ったか………ッ!?

 

 

 …なんだ!?これはッ!?

 

 

 世界が変わる、木造作りは変わらないが、まるで寂れ尽くし、風は吹き曝している。

 

 目眩、頭痛、それに何より、腹の底から巡る不快感、全てが思考を、精神を削り落としていく。

 

 這々の体で外に出れば……!?ここはどこだ…。森に囲まれた街の筈…だと言うのに酷く磯の匂いが漂っている……、これは…

 

 辺りを覆う、青い何か、一切の生気を感じられず、動くものは存在しない……いや、居る、生きているのか、死んでいるのか、まるで動く骸のような、ボロ布に覆われた、人間が。彷徨っている。

 

 やがてボロ布の人間が此方を見る、指を刺し、何かを喋る、しかし消え入るそれを聴き取れない。漣に掻き消され、何も。

 

 

 これを…これに近しく、似たもの、を私は知っている…。これは……これは…?

 

 

 ……漁村?

 

 

 

………

……

 

 

 

「ハンターさん、ハンターさん!机で寝てたら体痛めますよ!」

 

 

 ……机?あぁ、机か。……何故ここで寝ているのだろうか。

 

 

「そんな不思議そうな顔しないでくださいよ、ハンターさんが分からなかったら誰が分かるって話になりますし。」

 

 

 まったく、その通りだ。さて、世話にもなった、行くとしよう。

 

 

「え…。い…行っちゃうんですか?…ご飯とか!未だですし…その…。」

 

 

 ……確かに、食べる事を忘れていた。

 

 

「えぇ…。でもよかった。…よし!そうと決まれば行きましょう!」

 

 

 食事にそこまで張り切る必要が?

 

 

「朝ごはんだけというのも味気ないでしょう、折角ですから案内します!」

 

 

 ソワソワする彼女を尻目に朝を過ごし、いざ外に出ればその活気に涙を浮かべそうになった。

 

 思えば思うほどに悪夢の自分はおかしかったのだと、あの悪夢は実に出鱈目なものであったと実感するものであった。

 

 市場に並ぶ食材はどれも新鮮であり、人々の喧騒に紛れて客を呼ぶ声でごった返す。そのどれもが眩しいとしか表現のしようがなかった。

 

 

「そしてそして、ここが加工場です!」

 

 

 そしてそこには、夢があった。

 

 

「おい、大丈夫か?コイツ。」

 

 

「……話をしたあたりから様子はおかしかったんですけど。……ハンターさんの故郷には無いものがあるって事なんですかね?」

 

 

「ほう、辺境からの来訪者と言うわけか。通りで見慣れん武器を担いでる訳だ。」

 

 

 おぉ…!なんだこの武器の数々は!背丈ほどもある両刃で美しい反りを持つ細身の剣、これも同様に巨大でありながら片刃でそれこそ人間をそのまま振るっている様なものだ。

 

 

 巨大な槌もある‥なんだこの武器は!?まるで笛の様な振る舞いをしていながらその大きさは先ほどの槌よりも大きいとは!?

 

 

「気になるか?これは狩猟笛つって、時に質量に任せた一撃を、時にその旋律で様々な効果を自分に、そして仲間に付与する武器だ。」

 

 

 なんと面妖な!?…ではあの武器は!?あのランスの隣に並んでいる辺り親戚の様なものではある様だが…。

 

 

「ありゃガンランスだ、ランスに砲撃の機能を付与する事でさながら移動砲台の様な立ち回りができるって寸法だ。無論、その物理性能は折り紙つきだぜ。」

 

 

 これが…ボウガン?知っている物とは随分と違う、殆ど銃では無いか?弓もあるのか!?………これもまたなんと巨大である事か…鏃ですら拳より大きいとは…。

 

 

「小さいのがライトボウガン、でかいのがヘヴィボウガン、物にもよるが、とにかく多種多様な弾で主力から援護までこなせるしろもんだ。弓はそれには劣るが、中近距離での機動性と攻撃性は近接武器に並ぶから侮れねぇ。」

 

 

 これ程の大弓でもって中近距離から高機動の火力?……まるで想像がつかない。

 

 しかし、やはり目を引くのはこの二つ、盾斧と剣斧。彼女からは変形する武器と言う事のみ、聞き齧ったがそれだけ。しかし変形する武器(・・・・・・)、これだけであとは何も語るまい。

 

 

「おお?随分と目を引かれた…いや、惹かれた様だな。…ふんっ気に入った!」

 

 

 ごたんっ!机を叩くは凄まじく。筋骨隆々、正に鍛治の男と言った風貌の男が唐突にそんなことを言い出した。

 

 

「ちと裏庭こい、こんなに気分のいい視線をもらってちゃ、コイツらのいい所、披露してやらんとな?」

 

 

 …なんと!!ありがたい!……ところで貴公は?

 

 

「…あ?知らないで話してたのか?…ただの頑固ジジイだ。はよこい。」

 

 

「……凄いですねハンターさん、こんな事なかなか無いと思いますよ?」

 

 

 

………

……

 

 

 

 ところで貴公、武器を扱う心得が?

 

 

「戦う事は無理だが、基礎は出来る。何より俺がコイツを作ったんだ、試し切りが出来なきゃ送り出せる訳がねぇ。ごちゃごちゃ言うのは終わりだ。まずはスラッシュアックスからだ。」

 

 

 そういうと立て掛けてある武器に手を伸ばす。商品棚に置かれていたものと一見同じだが、よく見ればこちらの方がより角ばって見えた。

 

 

「コイツは試作武器だ、訓練等で貸し出してる。とは言えどその性能は十分実戦に使えるがな。」

 

 

 そういうと武器を構える。鈍銀色をした両刃の巨大な斧を前方へ、そして先に行くにつれて下へ垂らす。足は大きめに前後へ開き、地面を踏み締める。

 

 

「フンッ!」

 

 

 標的の無い素振りではあるが、その破壊力は見た目相応にしてまさにそれ以上。空気を切り裂き大地に叩きつけてもそれはびくともせず。

 

 

「…ッ!。」

 

 

 ガチッ ガチャコン

 

 

 なんと!?片刃がスリ下がったと同時にもう片刃がスリ上がり、その後釜として据え付けられれば強力な接続音と共に、巨大な剣へと変貌を遂げた!

 

 

 素晴らしい!!

 

 

「驚くにはまだ早い。」

 

 

 すると剣を顔の付近へ持っていくと、柄を背中は回し、剣を上下が逆転させてながら、勢いよく前へと突き出せば、剣はみるみるうちに赤く染まり、数秒後には猛烈な爆風を吐き出した!

 

 

「………ッ!……やっぱりなかなかに堪えるな…。これが大技、『属性解放突き』だ。」

 

 

 反動で斧に戻ったそれを杖にしゃがみ込む。いちいちああなっては狩どころではない、ハンターとはアレを技として繰り出せるのであろうから底が知れない。

 

 

「ふぅ…、次行くぞ、コイツはチャージアックス。例にもよって試作武器だ。」

 

 

 ふむ、ランスの如く頑強な大楯に、取り回しやすそうで小ぶりな剣。アックスというからには例にもよってだが…まるで想像がつかない。

 

 先ほどとは違い丸太に向き合えば、細かく素早い剣撃を繰り出し、かと思えば剣を盾の頭から突き刺し、盾を展開、そしてまるで何かを圧縮したかの様な動作を見せる

 

 

「ふう、儀式完了だ。一回だけだ、よく見ておけ。」

 

 

 すると、再び何かを圧縮する動作をし…なんだと!?盾が半回転しながら突き刺さった剣が伸び巨大な柄へ、半回転した盾はそのまま先端付近で固定化。スラッシュアックス以上の巨斧に変貌を遂げた!!

 

 

「んんん〜〜!!!!オラっ!!」

 

 

 そのままに前方へと一回転、そのまま後方は持って行けば次は上へ、前へ!振るって勢いよく叩きつけ!なんと!!?凄まじいエネルギーとしか言い表せられない衝撃が丸太を粉砕した!?

 

 

「………これが『超高出力属性解放切り』……ふぅ。ちと堪えるな、休憩だ。……お前さんの得物も見してくれ、そりゃ見たことがないタイプだ。」

 

 

 勿論だとも。いいものを見せてもらった手前、何もしないではいけない。

 

 

 休憩などと言いはしたが、一息つく様なことはせず興味深そうに武器を眺め、いじくり回していた。彼もまた武器と繋がり、武器を愛する者だ。手違いで壊すなどないだろう。

 

 

「コイツは…小型モンスターか、牙獣種をを相手にするには楽だろうが、竜を相手取るにはキツイだろう。大方異邦のハンターなんだろうが、余程牙獣種が幅を利かせてると見える。」

 

 

 牙獣種?…獣の事だろうか、それならあながち間違ってはいない。

 

 しかしよくも分かるものだ。

 

 

「お?当たりか?しかしコイツを作った奴は余程素材がなかったと見える。よく鍛えられているが鉄製、お前さんの技量か、よくも壊れなかったもんだ。」

 

 

 

………

……

 

 

 

 楽しく、興味深い時間はあっという間だ、既に日は沈み始めていた。

 

 武器は彼に預けた。色々と強化を施してくれるらしく、なんと代金はただだと言う、滅多な機会だ、と。本当に、善良な人間ばかりだ。

 

……私などが居て良い場所かと気が滅入る程に…。

 

 

「……ハンターさん?その、元気がない様に…あっいえいえ余計なことを!」

 

 

 いや、事実だ。人混みはなかなか堪えるな。貴女も大事なかったか?結局工房に籠ることになってしまった。

 

 

「こっちこそ全然!…嬉しそうにはしゃぐハンターさんを見ていると、こちらも嬉しくなりますから…。んえ?なんか母親臭い?……ちょっと!?それって!待ってくださいよ!ハンターさん!?」

 

 

 おっと、口が滑ってしまった。早く宿に戻るとしよう、明日は早い。

 

 

「……えっ…。」

 

 

 明日を考える自身に、それが耳に入ることはなかった。

 

 

 

 ……うむ、昨夜、何かを夢で見た気がするのだが、やはり思い出せない。偶然この角が何かしらの鍵になると言う事は……ないか。

 

 

 捻れたヒモと変異角を両隣に並べてみるも何も起きない。……いつかのへその緒の様に、いっその事砕いて見るか?

 

 

 トントン…

 

 

 後戻り不可の選択を考え始めたその時、扉を軽く叩く音がする。

 

 

「……ハンターさん、話が……その気持ち悪いの何ですか?」

 

 

 灯はあれど、今は夜。神妙な顔つきをしていた気がしないでもないが、俯き気味でよくは分からない。が、一瞬で変なものを見る目に変わったのは分かる。

 

 なんと言うべきか…。初めに思ったのは「失礼な。」これに尽きた。

 

 こんなもの気持ち悪いにすら該当しない。ただ絶妙に湿り気のある皺枯れた赤と青の捻れたヒモだ。

 

 まるでこの物体に気色悪さを覚えない自分が異常だと?その様なはずがない。

 

 

「……それが、ハンターさんが旅を続ける、理由ですか…?」

 

 

 そうだな。…?どうしたそんな近づいて、そうかよく見たいのだな?共にこれを………ッ!?貴女よ!何をする!?

 

 

「………。」

 

 

 勢い良く叩きつけられる拳。その先は、捻れたヒモ、自身でも驚くほどの反射速度でヒモを回収して、なんとかその粉砕を免れた。

 

 拳を叩きつけたまま、動かない。髪は垂れ下り顔を覆い尽くす。

 

 …確かに砕こうとは思っていたが、そこまでいきなりやっても良いとは思ってはいない。

 

 

「……なんで?ですか?そんな?それがあるから…居なくなっちゃうなら……壊しちゃえば一緒に居られるのに!!」

 

 

 そう言いながら、必死に訴え掛ける。その声も、体も、震えていた。焦点は合わない。まるで見えない何を見、それに酷く怯えているかの如く。

 

 

「やめて!奪わないで!!!もうこれ以上!居なくならないでッ!?!!……うぐぁ……あぅあぁぁぁ……………。」

 

 

 両耳を押さえ、潰れんばかりに目を閉じて、蹲る。丸く丸く、遮断する。

 

 

 ………。

 

 

 私は、また選択を間違えてしまったのだろうか。……。

 

 

「…ッ!?」

 

 

 肩に触れれば一層の震えを見せる。聞き取ることはできないが、何かをずっと喋り続けている。

 

 こうなったのは、おそらく私が悪いのだろう、私は、誰も助けることが出来ない、ただ獣を狩り、人を狩り、悪夢を上位者を、そして怪物を、狩る事しか出来ない。あぁ、なんと不器用な人間なのだろうか…。

 

 

 だが、できる事はある。

 

 

 ……貴女よ、すまなかった。私は貴方を傷付けてしまった。これ以上辛い思いをさせられない……感謝する。一先ずはやす……!?

 

 

「やめてッ!!!!!そんなこと言わないでッ!!!!!!」

 

 

 突然、己の胸ぐらに飛び込み押し倒されてしまった。突然の襲撃ではあるが、武器が無いとは言えどある程度防げる自体ではあった。

 しかし、私はこれに対して反撃を行う事はしなかった、出来なかった。

 

 

 憔悴仕切った顔を涙で濡らし、ともすればそのまま、私の胸元に顔を埋めてしまった。がっちりと捕まれる、まるで幼子が母を放すまいとしがみ付くように。

 

 

 ……またしても間違えてしまった様だ。実に人は難しく、全く自身に嫌気が刺す。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 夢と現実で、己の本質が違うとでも?

 

 そんなわけがないだろう。それがお前の本性だ。

 

 この、異常者め。

 





 ブラボ世界だったら獣になってました。危ない危ない。
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