暴力が全てを解決する異世界   作:尻神

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第3話(下)ちょっとピンチ、結構危険

主神を祭る大神殿は、邪神の復活と共に乗っ取られた。

そして、今や死闘の舞台と化している。

 

「っしゃオラァ!くたばれボケがァ!」

 

勇者は邪神の髪を掴み、顔面に膝蹴りを叩き込む。

 

「あ?どうした、偉そうに講釈垂れやがってよォ!」

 

「ぐ、う…ッ!」

 

黒と白、2つの筋肉が躍動し、ぶつかり合う。

邪神が勇者の喉を掴んで地面に押し倒すと、勇者は足で邪神を挟み込んで倒し返す。

 

勇者はマウントポジションから、顔面目掛けて拳を降り下ろす。

 

「正義の!裁きを!受けろ!」

 

額、頬骨、顎を次々と砕く鉄拳の鈍い響き。

衝撃で地面が抉れ、ひび割れる。

 

「…ッ死ねやァアアア!!」

 

渾身の一撃が決まると、ヒビが致命的なまでに広がり、石段が崩れ始めた。

 

「ここがテメェの墓だ!!」

 

それがトドメになり、神殿は跡形も無く崩落していく。

 

「おっとと」

 

立ち会っていたアストライアは、身軽な動きで飛び降り残骸の上に着地した。

 

2名はもう既には瓦礫の下に埋まっている。

 

「いてーいてー…アレ?俺の勝ち?」

 

真っ先に起きてきたのは、勇者エンキ。

辺りを見回し、ヘラヘラしながら言う。

 

「……舐めるな、人間風情がァ!!」

 

その瞬間、テスカトリポカの蹴りが瓦礫もろともエンキの身体を跳ね上げ、宙に浮かばせる。

 

「ぎょえッ…」

 

「恐れるがいい!!」

 

更に立ち上がりざま、頭突きでエンキを吹き飛ばし、木々をなぎ倒して1㎞ほども直進させた。

 

「どうした、他愛もない!

あれだけ暴れておきながら、1発で御仕舞いか!?」

 

「……」

 

鬨の声めいて叫ぶ邪神を黙って見ていたアストライアが、聞こえるように呟く。

 

「…お忘れですか。

この戦いは『本気を出す』という条件があるのを」

 

「すまんなァ、本気を出すための準備運動をしていたつもりだったのだが!

戻ってくる様子もない、これで終わりという訳だ」

 

「カウントを行ないます。

10秒以内に神体にならない場合、あなたの敗北とします」

 

「くどいな。我は…ぐッ!?」

 

おぞましくほくそ笑んだ邪神の顔に、空飛ぶ大木が直撃した。

 

「ぅいいいいヒットォオオオオ!!

これが正義の一撃よォ!」

 

森の奥から爆速で疾走してくる巨漢。

両腕に大木を抱え、次々に投げつけながら接近する。

 

「もう一撃!更にもう一撃!」

 

「くッ…しゃらくさいッ!」

 

どこからか取り出した黒いナイフを振り回すと、飛来した木々は破片となって散った。

 

「さて、カウントを開始しますよ。0」

 

「チッ…」

 

10秒以内に変身せねば、テスカトリポカは敗北扱いになる。

無論、大人しく従うつもりもないが、ルール違反によって受ける呪いは相当に重い。

 

(…軽々には破れぬか。最悪の場合、弱点を露出した状態で身動きも取れなくなる)

 

「1」

 

音の速度でナイフを突き出す。

だが勇者たるもの、その程度の攻撃は首を傾げただけでかわせる。

 

「2」

 

エンキの反撃の膝蹴りを片手で受け止め、そのまま掴んで固定、ナイフを横薙ぎに斬り放つ。

 

「3」

 

頭突き、防御、ナイフが砕け、鎖骨が折れる。

痛み分けも、この秒数では無意味。

 

「おーいてて。なぁ魔王よ、いったん休憩にし…」

 

「死ねぃッ!!」

 

両耳を掴み、勇者の鼻柱へと膝蹴りをかまそうとするが、目潰しを喰らって失敗する。

 

「がぁッ…あああああ!!」

 

視界を失ってなお、鋭さと殺意を増していくテスカトリポカの攻撃。

 

「何々、なんなのちょっと!

テっちゃん、マジになり過ぎじゃないの!?」

 

「ああ、そうだな。なぜだろうなァ!」

 

そう、結局は変身しなければならないのに、ここで無駄に足掻く必要はない。

 

(分かってはいるが、どうしてもここで仕留めたいと思わされる。

真の姿を晒せば死ぬかもしれない…そう考えているのか、この我が!

この男…こやつが漂わせる『無敵』とでも言うしかない雰囲気…!)

 

エンキは、確かに見るからに強そうな巨躯の筋肉男だ。

だが本質的な『強そう』なのはそこではない。

 

その精神性…何にも揺らぐことがない不動の心。

 

変身すれば傷が治るテスカトリポカに対し、エンキは魔力を消費せねば治せない。

しかも重傷には応急処置程度の回復しか出来ない。

 

にも拘わらず、なぜかエンキが優勢であるかのような雰囲気が漂っている。

 

「…7」

 

「まずはその顔を崩すッ!」

 

凄まじい速度で距離を詰め、全力の蹴りでエンキをまた飛ばす。

 

「ぐおッ…」

 

「墜ちて死ね!!」

 

そこへ追い打ちの空中回し蹴りをかまし、地面に叩き落とした。

今のコンディションで放ちうる、最大威力の攻撃が決まった。

 

「9」

 

だがテスカトリポカは、変身の準備に入っていた。

 

(ダメだ…これでは殺せん!

この胸騒ぎ…かつて相対した時も、最後までこの不穏な感情を拭い切れなんだ…!)

 

邪神の肉体が脈動し、霊気の光を放出し始める。

 

「…10。変身なさるようですね」

 

爆発のような勢いで肉体が膨れ上がった。

 

『そうだ。我が真なる神の躯体を拝せる事、光栄に思うがよい』

 

エンキを大きく見上げる。

天を塞ぐ黒い巨体、所々から吹き出る霊光、人間の頭蓋めいた顔。

それは黒いジャガーだった。

 

「ったく、よくもこれまでケチ臭く隠してやがったなぁ?

これでようやく、本格的に殺せるってもんよ」

 

『恐れぬか?なるほど、勇者というだけはある』

 

「お前程度の大きさなら、今まで何度も見てきたしな!」

 

『…ああ。貴様の母親か?』

 

「ッ!…おやおや、ご存じかい」

 

黒いジャガーが嗤う。

 

『万魔王ティアマト…貴様を育てた神であろう。

己の母を手に掛けた気分は、どうであったか?』

 

「……」

 

テスカトリポカは、まず心を苛む。

その無敵の精神を崩す。

 

『もう一つ。お前も英雄ならば我に勝つ気なのだろう。

だが、お前の仲間はどうであろうな?』

 

「…何が言いてぇワケ?」

 

『たかが人間、どんなに強い力を持っていようと勝てる。

そう思っているのであろう?

確かに、貴様の仲間はいずれも強大な種族…生物としての格が違う。

だが…所詮、それだけだ』

 

「……ほう」

 

『奴らは、我が兄弟神の心臓を埋め込んで超人となった者たち。

1対1というルールは、我にとってはむしろ僥倖なのだよ』

 

「それを言うなら…」

 

『俺たちもそうだ、か?

いいや、それは違うぞ。我らと貴様らでは条件が違う。

お前たちは必ず負ける』

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

肥えた男シントリが両手を広げる。

 

「見よ。栄華の象徴たる我が力を…」

 

「はい死ね死ね」

 

ルシフェロは退屈そうに杖を振り、炎の雨を降り注がせた。

 

「おおっと、これはこれは…」

 

「近付いてくんな、お前みたいなもんは!」

 

雷の槍を乱打しつつ、舌に刻んだ自動詠唱刻印が次なる術式を装填している。

 

「全く、無茶苦茶もいいところですな。

この規模の魔法をそうポンポン出されては、魔導を志していた者として頭を抱えたくなる!」

 

「こんなん二千年もやってりゃ誰でも出来るようになる!

っていうかさ、お前、ゾンビか?」

 

「おや!お気づきですか!」

 

シントリはその体型に見合わぬすばしこさで魔法をかわしつつ、驚いてみせた。

 

「その通り。

テスカトリポカ様の力によって神の心臓を埋め込まれ、死から蘇ったゾンビでね」

 

「元はうだつの上がらねえ底辺魔導師ってとこかァ?」

 

「またまたその通り!

だから私はテスカトリポカ様に忠誠を誓っているのですな。

金も栄誉も…まあこの身体だと女はアレですが…とにかく、利益があるので。

あと逆らうと死体に逆戻りするし」

 

「正直なやっちゃ。

じゃあさ、正直ついでにハッキリさせとこうぜ。

お前、俺に勝てねえって分かってんだろ?」

 

ルシフェロは無防備に近づき、シントリの手を掴んだ。

するとルシフェロの手が金色に染まり始めた。

 

「お前の心臓、シペ・トテク神の能力は物質の黄金化だ。

患部に対抗術式を流し込めばどうにでもなるんだよ」

 

黄金になった手が、元に戻っていく。

 

「…なるほど、これは…驚いた。よくご存じで」

 

「まぁ、お爺ちゃんだからね。俺」

 

「ですが、一度始まった侵食は止まりませんよ。

常に対抗術式を展開し続けるのにも限界があるでしょう。

見せしめにしては高くついたのでは?」

 

「見せしめだけじゃないんだな、これが」

 

男の身体から、力が抜けていく。

 

「おっと、ぉ…!」

 

「エネルギードレイン。ゾンビのお前にとっちゃ致命的だろ?」

 

ゾンビは吹き込まれた生命力で動く。

それを直接奪われれば、行動さえままならなくなる。

 

「…なんの!」

 

シントリが一度地面を踏みつけると足元が黄金に代わり、二度踏むと黄金が隆起した。

ルシフェロは手を放して緊急回避する。

 

「危ねぇな、このデブ!」

 

罵倒しながら、自分の右腕を切り落とした。

直ちに欠損した部位が修復されていく。

 

「はい、これで黄金の侵食は止まった訳だが。

もう分かっただろ、お前じゃ俺には勝てない」

 

「これは弱ったなぁ…確かに、私では勝てなさそうだ…私では」

 

「あ?…どわああああっ!?」

 

その時突然、黒い蝶の群れが押し寄せた。

 

「キモイキモイキモイ!ひえーっ!」

 

間抜けな声を上げて逃げ回るルシフェロだが、蝶は執拗に追跡して身体に取りついた。

 

「クソが、うっとおしい…!」

 

身体をコウモリの群れに変えようとした瞬間、燃え上がった。

 

「があああッ!?」

 

蝶は黒炎に変わり、吸血鬼の全身を責め苛む。

 

「アンデッドは炎に弱い。程度の差こそあれ、効いているでしょう?」

 

炎に込められた呪いが凄まじく、変身能力が機能しない。

 

「うぐッ…なんじゃこりゃッ…テメェの術じゃねえだろ!!」

 

「ええ、それが?」

 

「ルール違反だ…負け扱いになるぞ!」

 

「いいんです、負けても。

最悪ルール違反で殺されるでしょうが、まあよし。

蘇らせてもらえるかもしれませんし。

重要なのは、あなたを潰す事です」

 

炎に取り込まれ身動きが取れず、再生も間に合わないルシフェロ。

シントリはゆっくりと近付いて、炎に触れないよう慎重に首を掴む。

 

「さて、これでよし」

 

「がッ…テ、テメェ…!」

 

頭をもぎ取り、断面から黄金化させていく。

 

「これで再生もできない。

抵抗も、いつまで保つでしょうね?」

 

「く…う…」

 

そのまま、ルシフェロの頭部は黄金の像と化した。

 

 

 

 

 

 

「あら、上手くやったのね」

 

シントリとルシフェロの様子を遠くの屋上から眺める、黒衣の女。

その細やかな指先に、黒い蝶が止まった。

 

「あの、ちょっとよろしいですか」

 

「うん?」

 

女の背後に、黒スーツの女が立っていた。

 

「私、天秤倶楽部という組織に所属する者ですが…」

 

「クラブねぇ?」

 

「えっとですね、ちょっと今この街でゲームが行われていまして。

それで…いや、この話は無駄ですね!

とにかく、戦いに介入しないでください!」

 

「しないわよ。もう終わったし」

 

「そ、それはよかった」

 

「で?用が終わったなら、もう行ってくれるとありがたいんだけど」

 

マアトは、ゆっくりと首を横に振った。

 

「あっ、あの。用はまだあります。

…あなたをルール違反の協力者として、処罰します」

 

「あら過激。あなたがどこの誰にせよ、ちょっと強引すぎると思うけど」

 

マアトは答えもせず構えた。

 

「…待ったなしって感じね、いいわ。

私はミクトランでちょっとした犯罪組織(かいしゃ)をやってる、イツパパロトルという女神よ。

大した事のない木っ端の神だけどね」

 

原初の戦神がそう言った。

 

「ご丁寧にどうも、天秤倶楽部第3席、マアトと言います。

…あっ、私もちょっとした女神です」

 

秩序の神がそう答えた。

 

神同士には、それで充分であった。

 

〈つづく〉

 

 

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