力と心の軌跡   作:楓と狐

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久しぶりの投稿です。遅くなった理由は後書きにて。
まあ、判りやすいと思うのですが。

今回もテオ視点です。特別実習の間はテオ視点なのですが一応。


4月24日 本気と全力

「さて、課題にあった討伐対象を見つけたわけだが」

 

 東ケルディック街道のはずれにある高台。そこには2足歩行の蜥蜴(とかげ)がいた。俺たちの倍はありそうな巨体だ。一撃をまともにくらえば、それだけで致命傷になりかねない。

 

「それで、どうしかける?まさか、無策とは言わないよな?」

「それはないんじゃないかな。見るからに強そうな魔獣だよ?」

「だからきいてるんだがな」

 

 魔獣から見えないような位置で、俺たちは簡易的な作戦会議をし始める。エリオットの言う通り無策はない。無策で挑むなんて真似は馬鹿のすることだ。そんな戦い方をしているといつか痛い目に合う。それに作戦さえよければ強いものを倒すことができるのだ。そのため、簡易的な作戦会議だとしても重要な意味を持つ。

 

「そうだな……俺とテオで敵の引き付け、隙をつくってラウラが攻撃する。エリオットは弱点を解析してから《アーツ》で攻撃。アリサは最初に弓での攻撃を。エリオットの解析が終わったら、《アーツ》も使った戦闘にしてくれ」

「俺が引き付け役になるのはわかるが、リィンもするのか?」

「引き付け役が一人はその人に負担がかかりすぎるからな」

 

 言っていることはもっともだ。でも、俺個人にかかる負担は別に気にしなくていいのだが。まあ、1人でも問題がなさそうなら、リィンもラウラと一緒に攻撃にまわるだろう。そこのところの判断はリーダーになりつつあるリィンに任せよう。

 

「みんな準備はいいか?」

 

 全員が武器に手をかけ、頷き返す。《戦術リンク》もリィンとラウラ、エリオットとアリサで繋いでいる。俺は繋ぐ相手がいなくて繋いでないが、戦況によっては誰かと繋ぐことになるかもしれない。その心構えもしておく。

 

「よし、行こう!」

 

 その掛け声と同時に俺とリィンはかけ出した。俺は敵の右側へ、リィンは左側へと。敵はまだこちらに気付いていない。できればこの間に少しでも近づいておきたい。後衛との距離はなるべく離しておきたいからだ。

 その時、弓の射る音が聞こえた。アリサが攻撃を開始したのだろう。敵も俺たちに気付きこちらへ向き始めていた。タイミングとしては完璧だ。

 

「グルァッ!?」

「……え?」

 

 敵の叫び声が聞こえ、攻撃に対する警戒をした。だが攻撃は来ず、敵は苦しんでいた。アリサが射た第一射目。それが敵の右目に的確に射ていたのだ。思ったよりやることがえげつない。少し評価を見直すべきかもしれない。

 でも、確実に敵の視力を奪えたのは確実。戦闘がより楽になるだろう。敵の見える目は俺が走っている側。ならば最初の引き付け役は俺がするべきだろう。敵のぴったりと近づき、符を2種類の札を貼る。

 

「『招雷符』」

 

 離れ際に1枚起動させダメージを与える。離れる方向は敵から見て左側。敵の視界にしっかりと入っておき、こちらに注意をひきつける。

 見事に敵は引っ掛かりこちらへと向かってくる。もちろん残っている4人がそれを許すはずもない。がら空きの右側面からリィンの抜刀術にタイミングよく追撃をするラウラの攻撃がヒットする。2人が引いたところをエリオットが放った勢いのある水の球が当たえる。それに続くように敵のまわりに現れた3つの球が、敵に当たって砕け散った。エリオットが放ったアーツは「アクアブリード」。アリサが放ったのは「ゴルトスフィア」だろう。

 そこで、敵の注意はその4人に向く。致命傷ではないにしろ、ここまでのダメージを与えたのだから当然だろう。今度は俺がフリーになったので、敵に新しく符を貼るために走り出す。もう1枚貼ってある符を使ってもいいが、もしもの時のために残しておきたい。用心するのは別に悪いことではない。

 先ほどと同様に敵に近づき、符を貼ろうとする。だがその直前、差し込んでいた光が遮られる。

 

(あれ?……まずっ!!)

 

 光が遮られた瞬間、敵の右手がこちらに振るわれていたのだ。咄嗟に回避をするが思っていたより後ろへ飛びのくペースが遅かった。致命傷にはならないものの、深手を負って後ろへと吹き飛ばされる。

 

「テオ!?くっ……エリオットはテオの回復を!俺が引き付け役に回る!アリサとラウラは変わらずに攻めてくれ!」

 

 すぐにリィンからの指示が飛ぶ。出された指示にみんなは従い、エリオットがこちらへ走って近づいてくる。そのあとすぐに回復アーツの「ティア」を使い治療をし始めた。戦っている3人も確実にダメージを与えていて、戦況が一気に持っていかれることはなかった。

 俺の治療が終わるころには、戦闘が終了していた。

 

 

「すまない。少し油断した」

「はぁ、今回はこれだけの被害で済んだからよかったが、次からは気を付けてくれよ?」

 

 戦闘が終了すると戦っていた3人もすぐに駆け寄ってきてくれた。それほど心配をしてくれていたのだろう。本当に申し訳ない。

 ちなみにこれだけの被害というのは、俺のケガのことだ。すぐに治療したとしても、完治するまで持っていくことはできない。それにまだ傷もひどく、今日は安静にしておかなければならない。すなわち、今日1日は戦闘に参加できない。というか、参加させてもらえない。アーツだけでもとお願いしたが、却下されてしまった。

 

「でも、《戦術リンク》がなかったら厳しかったかもしれないわね。《ARCUS》……悔しいけどそれなりに見込みはあるみたいね」

「?悔しい?」

「あ、ううん、気にしないで」

 

 それからアリサは話題を変えるかのように、報告をしにいこうと言い出した。今のは触れてほしくない話題だったのだろうか?まあ本人が気にするなと言っているし、気にしないが。

 それよりも気になるのはラウラの視線だった。先ほどの魔獣を倒してから、俺とリィンに何か言いたそうな視線を送ってきている。なぜなんだろうか?よくわからない。

 

 

 

 特別実習日1日目の夜、俺たちは宿の1階で食事をすませた。俺は他の4人より早く食べ終わったので、先に部屋のベットで休んでいる。他の4人はまだ1階で夕飯を食べているだろう。

 

「それにしても、前にできたことができないのは辛いな」

 

 待っている間に考えるのは、今日の魔獣討伐のことについて。あの時の回避行動が思っていたよりも遅かったことだ。学院に入学する前なら、気づいてからの回避はできただろう。それほどまでに身体能力が制限されている。

 

(学院前までの自分と今の自分。この能力差に早く慣れないとな……)

 

 今日のケガ程度ならまだいい。だが、下手をしたら死んでいたと思うと、このまま放置していい問題だとは思わない。能力を制限しないことが1番いいのだろうが、他の《Ⅶ組》のメンバーとの能力差が問題になる。俺の力に頼ったり、まわりと等しく扱われないのは気持ちよくない。

 

「やっぱり今の自分に慣れるしかないか」 

 

 当分の間は今の自分に慣れながら、まわりの様子を確認することに決める。時期が来れば力を制限しなくても対等になれる日が来る。何時になるかはわからないが、今はそう信じておく。

 

「それにしても、あいつら遅いな」

 

 俺が食事を終えてからだいぶ時間が過ぎている。4人ともすでに食べ終わっていると思うのだが何をしているのだろうか。レポートを書くことを忘れてないよな。

 

「仕方ない呼びに行くか」

 

 このまま待っていても退屈なので、呼びに行くことにする。横になっていたベットから体を起こし、部屋の扉を開ける。そこには下をのぞき込んでいるアリサとエリオットがいた。

 

「……何してんの?」

「うわぁ……びっくりさせないでよテオ」

「わるい。それで下をのぞき込んでどうした?」 

 

 エリオットのリアクションを横目に、エリオットの横に並び下をのぞき込む。そこにはリィンとラウラの姿が見えた。

 

「部屋に戻るときにリィンがラウラに呼び止められてね。何の話か気になって」

「それでこの覗き見か」

 

 俺も2人に倣うように下の会話に耳を澄ませる。今日の魔獣討伐から俺とリィンに向けられていたラウラの視線。その視線の理由がわかるなら聞いておいていいだろう。リィンと俺に対する視線は別の物かもしれないが。

 

「これが俺の“限界”だ。……誤解させたのならすまない」

 

 限界?途中から聞いていたからよく判らない。今日の魔獣討伐から感じていたラウラの視線とこの会話は関係あるのだろうか。

 

「……いい稽古相手が見つかったと思ったのだがな」

 

 そういってラウラは宿の外へと出て行った。アリサとエリオットが何か話しているが、今の会話を詳しく話しそうにない。俺から聞き出すほうがよさそうだ。

 

「なあ、今の話って何?」

「リィンが本気を出していないとラウラが勘違いしたみたい。そのことについて話していたよ」

「あー、なるほど」

 

 リィンが使っているのは《八葉一刀流》だ。この流派を修めたものは達人が多い。だが、リィンはまだその域に達していない。それでラウラは勘違いしたのだろう。

 それにしても、“本気”を出していないか。視線を俺にも向けていたってことは、気づいているのかもしれない。一度話しておくべきだろう。

 

「先にレポート書いといてくれ。少し散歩してくる」

 

 エリオットとアリサにそう告げ、宿を出て行く。途中で考え事をしているリィンとすれ違ったが、今は気にしないでおく。限界を自分で決めてしまっているリィンの問題は、リィン自身が解決するべきだろう。

 ラウラは外に出て探し始めてからすぐに見つかった。素振りにはいつものようなキレはなく、あんな素振りを続けていても意味がないだろう。俺は待つことなくラウラに声をかけた。

 

「そのまま剣を振っていても意味がないだろ」

「む……テオか」

 

 俺の声を聞いてラウラは素振りを止め、近くの壁に剣を立て掛ける。そしてこちらに向ける顔は、やはり何か言いたげの顔だった。だが、言うべきかは迷っているようだ。待つのは面倒なので後押しをすることにする。

 

「俺に何か言いたいことがあるんだろ?」

「……聞きたいことはある」

「俺に答えられることなら答えるよ」

 

 ラウラは少しびっくりした後、覚悟を決めたような表情になった。これで言わない、なんてことはしないだろう。俺も今日中に解決をしておきたいので、答えないなんてことはしない。

 

「……そなたの動きには違和感がある」

「違和感?」

「そう。なんというべきか……そなたが本気を出しているのはこちらに伝わっているのだ。しかし、そなた本来の力はもっと強いのではないかと思ってしまうのだ。その違和感の正体が知りたいのだが」

 

 驚いた。思っていたより見る目があるのかもしれない。ズバリ言い当てられてしまった。最初からごまかすつもりで来たが、これは下手にごまかすと大変かもしれない。多くは語らず、嘘もつかずに話すべきだろう。

 

「確かに俺は本気を出しているが、全力は出していない」

「どういうことだ?」

 

 俺が言ったことが理解できず、首を傾げる。まあ、こんな説明では誰もわからない。

 

「俺は自分に封印をかけて力を制限してあるんだ。だから今出せる本気で戦ってはいるが、全力ではない」

「……なぜ、そんなことを?」

 

 当然の疑問だろう。持っている力をわざわざ封印をする必要がない。封印を施さず、手加減をすれば済む話でもある。

 

「あまり人に頼られたくないからかな。力があるからと言って持ち上げられるのも嫌だから」

 

 力があると頼られる。前の俺なら気にしなかったかも知れない。だが、今は《Ⅶ組》に所属している。それぞれが実戦を経験し、対等で切磋琢磨する。それが一番成長しやすいだろう。そこにとびぬけた力を持つものは不要だ。だから、俺は力を封印した。封印しないととびぬけた力を出してしまうから。

 

「だが、それではそなたは強くなれないのではないか?」

「……この力は褒められる力じゃないからな。別にいいんだよ」

「?」

「いや、気にしなくていい」

 

 また、判らないという風に首を傾げるラウラ。少し必要のないことをしゃべってしまった。気を付けないとな。

 少しの沈黙の後、ラウラは再び剣をその手に持った。そして、縦に一振りした。俺が今まで見たラウラの素振りの中で、キレが一番よかった。

 

「そなたの力を封じる理由は判ったつもりだ。そなたにとって今の私は全力を出す相手ではないということもわかった。……だから、この士官学院を卒業、いや、1年以内に私はそなたの全力に追いついて見せる。そして、そなたに全力で私の相手をしてもらう」

「……」

 

 ラウラからの宣戦布告。俺に全力で相手をしてもらえるまで成長すると。嫌われる可能性があると思っていた分、驚きで何も話せない。ラウラはそんな俺を見ながら、気にせず続ける。

 

「それで、そなたの力を封じる理由もなくなるであろう?」

 

 確かにラウラが俺に追いついたならば、力を封印している必要はない。全力でラウラの相手をしたらいいだろう。

 ラウラの出したそんな単純な答えに、俺は笑いを隠すことができなかった。

 

「な、何がおかしい!?」

「いや、わるい、わるい。そんなこと言う奴を始めてみたからさ。でも、楽しみにしてるよ、ラウラ」

「うん。待っていてくれ。すぐに追いつく」

 

 士官学院での生活。思っていた以上に面白いものになる気がする。やはり入学してよかった。

 そのあと、俺はラウラの素振りが終わるまで、横でそれを見て時間をつぶした。戻った時にアリサに遅いと怒られたのは余談だ。




投稿が遅くなった理由……
それは閃の軌跡Ⅱをやっていたからです。
とりあえず一度はクリアしときたかったんです。早めに。
どこからネタバレされるかわからないので。

この作品ではⅡに入るまでに多少のネタバレが入ると思います。
予定していたイベントに関わるネタがあったので……。
一応、Ⅱに入るまでにネタバレが入る場合は前書きで宣言する予定です。
気付いた範囲でですが。

さて、今回の話でですが……ラウラさん気づいちゃった。
当初の予定では気づかなかったんですが。
流れ的にはこっちのほうがしっくりくるんで。

それではまた次回。

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