力と心の軌跡   作:楓と狐

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投稿、遅れてすみません。

今回もテオ視点です。


4月25日 孤独な調査

 翌日の早朝。俺たちA班は大市に来ていた。買い物を楽しむためならよかったのだが、今回はそれが目的ではない。大市の屋台が壊されたと聞いて、確認をしに来たのだ。

 現場についたときには人が集まっていて、その中心には喧嘩をしている2人の商人と大市の元締めがいた。喧嘩をしているのは、昨日も喧嘩をしていた人たちだ。昨日は出店する屋台が被っていたのが理由で、今日は出店場所の屋台が壊されていたのが理由だ。今はリィン達と元締めが仲裁をしようとしている。商人の2人は聞く耳を持たないのだが。その一方で、俺は屋台を調べていた。喧嘩の仲裁はすべて放り出して、屋台を調べたほうが効率的だと思ったのだ。

 屋台の状況は思っていたよりひどいものだった。出品物はすべて持っていかれている上、屋台も荒らされている。しかも、被害にあった屋台は昨日喧嘩をした2人の出店場所だ。屋台は少し手直しすれば普段通りに開けるが、出品物のほうが問題だ。この2人が予備を持っているといいのだが。

 

「そこまでだ」

 

 聞こえてきた声はリィン達のものでも、元締めや喧嘩をしている2人ものでもなかった。振り向いて確認すると、こちらに向かって歩いてくる領邦軍の姿があった。《四大名門》が保有する貴族軍と言ってもいいよいうな連中だ。態度や言動が偉そうで、正直なところ関わりたくない。

 

「ならば話は簡単だ。おい、2人とも引っ立てろ」

 

 介入してきた領邦軍は元締めに事件について説明してもらった。それを聞いてすぐの発言がこれだ。屋台の調査や聞き込みを一切せず、犯人を2人に決め込んだようだ。その理由は簡単。領邦軍にはこんな事件に手間を割く余裕がないらしい。なんともふざけた理由だ。これだから、領邦軍は好きになれない。

 結局、2人の商人は領邦軍の言う通りに、今回の事件をなかったことした。互いに領邦軍に捕まりたくなかったのだろう。

 そのあとは元締めの指示の元、大市の準備を急ピッチで進められた。リィン達もその手伝いをしていたようだ。俺はただ一人、その場から離れて行った。

 

「あ、いたいた。おじさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

 俺は西ケルディック街道出口付近に来ていた。今、そこにいる酒におぼれているおじさんに話を聞きに来たのだ。実はこのおじさんのことは俺は知っていたりする。西ケルディック街道にある《ルナリア自然公園》の管理者をやっている人だ。たまに《ルナリア自然公園》へ行ったときに会っていた。たしか名前はジョンソンといってたはずだ。

 その彼がなぜここにいるのか。昨日見たときから気になっていた。ジョンソンさんは仕事熱心だったので、何かあったのかと思っていたのだ。それが今回の事件とかかわりがあるのかはわからないが、気になることは調べておいて損はないだろう。

 

「ルナリア自然公園の管理はどうしたの?」

「クビにされちまったよぉ~。自然公園の管理は俺の生きがいだったのによぉ~」

「クビ?」

「そうだよぉ~。いきなりクロイツェン州の役人サンがやってきてさぁ……解雇されちゃたんだ~よぉ」

 

 クロイツェン州。そういえば、ここを統治しているのはその州だったな。領邦軍もクロイツェン州の領邦軍だったはずだ。そういえば、領邦軍の方もおかしな動きをしていた。昨日の喧嘩は仲裁に入らず、今日は仲裁に入ってきた。町の人曰く、仲裁に入る方が珍しいそうだが。

 

「それに、あんなチャラチャラした若僧達より、おじさんのほうが絶対いい仕事するよなあぁ~」

「チャラチャラした若僧?」

「昨日の夜もここでのんでたらよぉ。管理員の服を着た若僧たちが西口から出てったんだよ~。あんな夜中に、木箱やらなにやら抱えて走っててなあ……」

 

 管理員の服を着た若僧達が夜中に木箱を運んだ?怪しすぎるな。調べてみる価値はあるかもしれない。

 

「おじさん。ありがとう。参考になったよ」

 

 そういい残して、その場を立ち去る。向かう場所はルナリア自然公園。俺の予想が正しかったら、犯人はそこに潜伏しているはずだ。

 

 

 

 今回の事件。まず、最初に疑うのは《領邦軍》だ。昨日に介入しなかった領邦軍が、今日は介入してきた。そして、明らかに事件をなかったことにしようとしていた。これは犯人候補にあげられても仕方がないと思う。彼らの権力を前にみんな押し黙っているのだろう。

 だが、ここで気になることが2つある。1つ目は何のために。これは税金の値上げに対するクロイツェン州への陳述が原因だろう。これが原因でクロイツェン州の領邦軍は大市に嫌がらせをしていると聞く。

 2つ目はどうして被害にあった商人が大市に出店している全商人ではなく2人であるのかだ。さらに言うと、”たまたま”出店場所が被っていて、前日に喧嘩していた2人が被害にあったのか。これは互いに疑いをかけ、犯人に仕立て上げることができるようにしたのだろう。となると、”たまたま”被るのを待ったか、被るのも計画的だったのか、”たまたま”計画に使えそうだったから計画に含んだのか。そういえば、出店の場所を指定してるのはクロイツェン州だったはずだ。先ほども述べたように領邦軍もクロイツェン州の貴族軍だ。だとするならば、計画的な犯行でクロイツェン州が絡んでいる可能性がある。

 ここで犯人像が変わった。《領邦軍》ではなく《クロイツェン州》。相手がより巨大な存在になってしまった。だが、これで推理も一歩進む。

 犯人像が変わったことで、ジョンソンさんが言っていた、クロイツェン州の役人が解雇に来た、ということも怪しくなる。これもクロイツェン州が絡んでいる。そしてジョンソンさんの証言の、木箱を夜中に運んで行った管理服をきた若者たち。これは事件に関わっていると思っていいだろう。

 すなわち、実行犯は「管理服を着た若者たち」、計画したのは「クロイツェン州」と言ったところか。まあ、そのつながりがよく判らないが、金で契約しているのだろうか。まあ、そこは犯人にきけばいいだろう。

 そして、証言から実行犯は今、ルナリア自然公園にいる可能性が高い。これはある意味チャンスだ。できれば、遊撃士など領邦軍に屈しない勢力の助けが欲しいが、今は無理だろう。これは一人で行くしかなさそうだ。

 

(そして、ルナリア公園の最奥に来たわけだが……いるな)

 

 予想していた通り、盗難品を木箱に詰めた犯人達がそこにいた。犯人グループは4人。一気に攻めるには少しきつい人数だ。入るときに鍵は外していないし、気配も殺して茂みに隠れている。当分の間はばれないだろうし、あの場から離れた者を一人ずつ捕まえて行こう。それまではずっとここで様子を見よう。いざとなれば出ていくしかない。その時のために力にかけてある封印を外す準備もしておく。あまり解放はしたくないのだが。

 

「連中が陳情えお取り下げなけりゃ、もうちょい稼げるってことか」

「しかし、あいつらいったい何者なんだろうな?領邦軍の兵士にも顔が利いてるみてえだし」

 

 あいつら?領邦軍にも顔が利く?これはとんだミスリードをしていたかもしれない。あくまでクロイツェン州は手伝っただけで、第三グループが計画したのか。できればもっと詳しく聞きたいんだが、捕まえたときに話してくれるかな……。

 

「甘いな」

 

 偽管理員達の前に出てきたのはリィン達だった。どうやら、あいつもこの事件を追っていたらしい。てっきり探らないと思って一人で調べていたが。とんだ見込み違いだ。調べるのなら、一緒に調べたらよかった。

 偽管理者達はライフルを取り出した。どうやら、リィン達を倒すつもりらしい。実力としては同じくらいだろう。だが、《戦術リンク》を使いこなせれば、余裕で勝てる。できれば手助けをしないで、見守っておこう。

 

(それにしても、あいつら連携がよくなってないか?)

 

 戦闘を見ていると昨日の手配魔獣の時よりはるかに動きがよくなっていた。互いの連携がいつも以上にスムーズに行われている。たった1日であれはど連携がよくなるのはなぜなんだろう?俺が入ると無茶苦茶になりそうで、ちょっと疎外感が心にある。俺が単独行動しているのが原因というのは判るのだが。

 そうこう考えているうちに戦闘は終わったようだ。リィン達にはまだまだ余裕があり、偽管理員たちは膝をついていた。どうやら、事件はこのまま解決しそうだ。

 

(?これは笛の音……か?だめだ、判断できない)

 

 その時かすかに音が聞こえてきた。聞こえてくる聞き逃しそうな音に耳を傾けるが、その音はよく判らない。エリオットも気付いたようだった。他のメンバーは聞こえていないようだ。

 音が途切れたとき、地面を揺るがすような振動が徐々にこちらへと近づいてきた。俺の視界の先、そこから一匹の大型のヒヒのような魔獣が出てきた。体長は人の3倍以上もあり、この公園のヌシにあたる存在だろう。その強さは今のリィン達では少しきついレベルだろう。これは出て行くしかなさそうだ。

 

「リィン!!」

「!?テオか!」

「ああ。話は後だ。指示くれ!」

「昨日の手配魔獣と同じパターンでいこう!みんな、何とか撃退するぞ!」

 

 それと同時に俺は魔獣に駈け出した。昨日のようなヘマは犯さない。絶対に無傷で終われるような引き付け役をこなしてみせる。そんな意気込みをもとに符を敵の関節部に貼り付ける。もちろん敵の攻撃を回避することは忘れていない。昨日と違い、一撃で死に至る可能性があるから攻撃を受けていられない。

 

「凍っちまえ、『氷塊符』!」

 

 声に反応して、貼った符が効果を発揮させる。今回は符の貼った左肘の部分に氷の塊がいきなり出現させるものだ。これである程度動きが制限されるといいのだが。

 

「四の型・紅葉切り」

「鉄砕刃!」

 

 リィンが反対側から俺の攻撃に続いた。リィンが放った技は通り間際に幾度となく切り付ける抜刀技だ。そこに続くのはラウラのジャンプしながら振り上げた剣を降り際に叩きつけるもの。かなりの高威力を持つ一撃だ。

 

「やば!」

 

 リィンとラウラの一撃をものともしないように敵は俺に右手を振り攻撃を仕掛けてくる。俺はとっさに前に転がり、敵の下に潜り込む。そして、そのまま敵の後ろに抜ける。もちろん符を貼りつけるのを忘れない。

 

「アクアブリード!」

 

 タイミングを見計らったようにエリオットのアーツが放たれる。勢いのついた水の球が敵に当たるが、やはり敵はもろともしない。

 

「『爆炎符』!」

「ヒートウェイヴ」

 

 先ほど回避の時に貼っていた符を発動させる。その符の炎が消えるころにアリサのアーツが発動する。アリサが放ったのは敵の足元から炎が吹き上げるアーツだ。これは少しきいているようだ。

 この調子だと撃退するのにかなりの時間がかかるか、こちらの敗北でおわりそうだ。これは少しきついかもしれない。逆転するための威力のある一撃があればいいのだが。




今回遅れた理由。閃Ⅱではありません。
そう……C言語に手を出していたのです。
はい。ごめんなさい。私の悪い癖です。いろんなとこに手を出してしまいます。
この癖、直したほうがいいですよねぇ……。まあ、いいか。

さて、今回はテオさんの調査になります。リィン達と別行動になってしまいました。
なんでこうなった……。まぁ、後悔はしてないです。

そして、中途半端っぽくなってごめんなさい。
次回の投稿を早くできるように頑張ります。
では、また次回。

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