力と心の軌跡   作:楓と狐

13 / 21
そうです。今回から2章です。
結局、1章は前回で終了となりました。
書いてみて、これくらいなら次の話と混ぜればいいや、ってなりました。

さて、今回はテオ視点です。早くリア視点が書きたいですね。


2章
5月22日 生徒会での日常


 放課後になり俺は生徒会室にいた。もう日常となっている生徒会の手伝いをするためだ。今では生徒会の仕事もすっかり身に付いて、トワ会長に言われずとも仕事をこなしている。自分で言うのもなんだが、他の生徒会メンバーよりも雑務をこなしていると思う。まあ、会議の類はさすがに参加できないが。今の俺の役割は生徒会雑務担当兼会長補佐と言ったところか。なんか長い。

 

「テオ君、そろそろ休憩しようっか」

「そうですね。キリもいいので、そうしましょう」

 

 俺はペンを置き、紅茶の準備をするために席をたつ。会長は机の側から離れ、ソファーの方へ移動していた。前までは会長が準備をしてくれていたが、最近では日によって交代して準備をしている。今日は俺が担当の日だ。

 

「授業の方はついていけてるかな?」

「今のところは問題ないですね。来月の中間試験が少し心配ですが」

「そっか初めての試験だもんね。テオ君なら大丈夫だと思うけど、わからないことがあったら聞いてね?」

「はい。そのときはお願いします」

 

会長の前に淹れた紅茶を置き、向かい合うようにソファーに腰掛ける。座った後、持っていた紅茶に口を付けた。うん、美味しい。会長も紅茶を飲むと満足そうに微笑んだ。どうやら、今回も問題なく淹れられたようだ。ちなみに会長の笑った姿がかわいいと思ったのは秘密だ。

 

「そういえば、クラスの雰囲気はどうかな?」

「特に変わりはないですね。もう少しマシになったらいいんですけど」

「そうだね。1年間は同じクラスだし、なんとかできるといいんだけど」

 

 特別実習の後、マキアスとユーシスの仲は悪化していた。特別実習期間中に殴り合いになりかけたこともあり、サラさんが来なければ危なかったとB班のメンバーも言っていた。そのため実習がグダグダになり、評価は赤点といってもいいEランク。B班だったメンバーには悪いが、聞いていて俺はA班でよかったと思ってしまった。

 ちなみに余談だが俺たちA班はAランクだった。俺の単独行動でマイナス点がついたが、依頼を全部こなしていたことや依頼になかった大市の体験や大市の事件を解決したのがプラスに働いた。なんとかAランクを保った形だ。

 それはさておき、クラスの抱える問題はそれだけではない。特別実習の帰りにリィンが明かした自身の身分が問題となっている。特別オリエンテーリングの際には「高貴な血は流れていない」とごまかしていたようだが、実際には貴族の家の養子として育っている。それにマキアスが反応して、一方的にリィンを嫌っている。本人曰く、貴族かどうかは関係なく嘘をつく人間を信用できないとか。リィンは嘘をついていないのだが、マキアスにとっては騙されたものだ。マキアスの言っていることも判る。

 

「そんなに家柄にこだわる理由がわからないな。こだわっても不快な思いしかしないのに」

「それでも、この帝国ではこだわっちゃうんだよ。そういった概念が根付いちゃってるから。それにマキアス君は理由がそれだけじゃない気がするよ」

「どういう事です?」

「んー。昔になにかあったから身分にこだわっている気がするんだ。聞いた感じだと他のこだわっている人と雰囲気が違うから」

 

 確かに他の人とは違う。一般的な例は貴族だから避ける、関わりたくないといった感じで、牙をむくことは少ない。それに対して、マキアスは喧嘩腰で貴族と関わっている。会長の言う通り、昔に何かあったのかもしれない。できれば知りたいが、無理に聞きだすことはしないほうがいいだろう。

 

「聞いているとユーシス君の方も何かありそうだね」

「ユーシスもですか?」

「うん」

 

 会長はうなづいて、詳細までは言わなかった。ユーシスのことも本人から教えてもらった方がいいのだろうか。でも、マキアスと同じで無理に聞き出すことはしないほうがいいはずだ。やはり、人付き合いは難しい。

 

「がんばってね、テオ君」

「俺よりも適任者がいそうですが……まあ、頑張りますよ」

 

 何とかできるのなら何とかしたい。このまま次の学年に進むまで耐えるのはさすがに無理がある。毎日、喧嘩を聞かされる身にもなってほしい。そのうち病気になって倒れそうだ。

 俺はそこで考えるのを止め、紅茶を飲む。このまま考えていても、あまり意味がないように思えたからだ。どうせならもっと楽しい話をしたい。

 

「そういえば、アンゼリカ先輩はどうしたんです?最近見ていないんですが」

「アンちゃんなら今日もバイクに乗ってると思うよ」

「ということはジョルジュ先輩もそこに?」

「うん。今日は調整をしてから乗るって言ってたから」

 

 ジョルジュ先輩は導力器の調整などを一手に受け持っていてくれる先輩だ。《ARCUS》の整備などもしてくれているので、よく先輩には会いに行っている。黄色いつなぎを着て、太っているのが特徴の先輩だ。最近ではアンゼリカ先輩と導力バイクの改良をしているようだ。

 

「そういえば、テオ君。クロウ君となにか企んでないかなあ?」

「企んでないですよ?」

 

 クロウ・アームブラスト。銀色の髪、赤い線の入った白いバンダナ、赤い目が特徴の2年の平民生徒だ。よく生徒会室に遊びに来る大のギャンブル好きだ。お調子者だが頼れる面も持ち合わせる嫌いになれない先輩である。

 ちなみに企んでないとは嘘だ。近々、盛大にギャンブル大会を開こうとしている。その計画を会長にばれるわけにはいかないので、嘘の口裏合わせも済ませている。

 

「クロウ君にも確認していいかな?」

「俺って信用ないんですね……」

「普段からこう言ったことに嘘をつかないなら信じられるんだけど」

 

 そういいながら会長は《ARCUS》でクロウ先輩に連絡を取っている。大丈夫、ここまではまだ想定済みだ。クロウ先輩との作戦は完璧なはずだ。ばれるわけがない。

 

「あ、クロウ君?テオ君が一緒に悪巧みしてるって白状したよ?」

「な!?」

『な!?テオの奴、ばらしやがったのか!』

 

 終わった。いきなりの行動でびっくりした俺もいけないが、クロウ先輩の発言がすでにアウトだ。これは確実に会長にばれた。ここは戦略的撤退を試みるべきだ。

 

「テオ君、どこに行くのかな?詳しいこと聞かせてくれるよね?」

 

 ひそかに席を離れようとした俺を会長が呼び止める。会長の浮かべている笑顔が怖い。なにが完璧だ。穴だらけじゃないか。いきなりあんな行動をするなんて、予想外にもほどがある。クロウ先輩も見事に引っかかったじゃないか。

 

『すまんテオ。そっちは任せた』

 

 そういって、クロウ先輩は《ARCUS》を切ったようだ。会長の持つ《ARCUS》から向こうの音が聞こえなくなった。見事に逃げられた。身代わりにされた。今度会った時にしめ上げてやる。先輩後輩なんて関係ない。

 

「大丈夫だよ。寮に戻ってからクロウ君にも事情を聞くから」

 

 どうやら俺が何もしなくても、罰が与えられるらしい。まあ、それよりも自分の心配をするべきなのだろうか。でも、無理だ、恐怖で体が動かない。これは諦めるしかなさそうだ。

 

 

 

 

「ただいま……」

「お帰りテオ。ってどうした?」

「聞かないでくれ」

 

 会長にすべてを話してやっと解放された俺は、おぼつかない足取りで第三学生寮まで帰ってきた。迎えてくれたのはリィンで、どうやら食堂から出てきたところのようだ。

 ちなみに怒られた俺はもう2度とクロウ先輩と悪巧みをしないと誓った。もう2度とあんな怒られ方をしたくない。今頃、クロウ先輩も同じ目にあっているだろう。いや、俺よりも中心的人物だったのでもっとひどいかもしれない。明日はお見舞いに行った方がいいかもしれない。

 そういえば帰り際にリィンに渡す依頼を預かっていたんだった。丁度いいので今渡しておこう。

 

「リィン、これが明日の依頼だ。よろしく頼む」

「あぁ、受け取っておくよ」

 

 リィンはその場で封を開けた。どうやらここで依頼を確認するようだ。依頼の内容は知っているので、質問があれば答えるべきだろう。俺はその場にとどまりリィンを待つことにする。

 

「旧校舎の探索に代理教師、教官用図書の配達か。何とかなりそうだ」

「相変わらずまじめな奴だな」

「毎日、生徒会の手伝いをしているテオに言われたくないんだが」

 

 確かにそうだ。俺も人のことは言えないな。一体どうしてこうなったんだか。《幻》として活動してた時からすると、考えられないくらいに自主的に活動しているようだ。昔の俺に聞かせてやりたいものだ。

 

「明日の旧校舎探索はテオも来れるか?」

「俺か?生徒会の仕事の片付き具合にもよるが、行こうと思えば行けるぞ」

「だったら、探索を始める時に連絡を入れるよ」

「了解。いけそうだったら行くよ」

 

 旧校舎の探索か。オリエンテーリング以来だ。あれから構造が変わったらしく、先月にはリィンとガイウス、エリオット、マキアスで探索をしたらしい。そして、最深部でいきなり現れた大型の魔獣と戦ったと聞いている。今回も先月から構造が変わったらしいので、最深部で大型の魔獣と戦うことになるかもしれない。準備はしっかりしておくべきだろう。

 

「ちなみにほかのメンバーは?」

「アリサとラウラ、ガイウス、エリオット、誘えればマキアスにも来てほしいと思っているんだが」

「まあ、来ないだろうな」

 

 最近のリィンとマキアスを見ていればわかる。リィンが関わっていこうとしても、マキアスは逃げるだけだ。そのため、ずっと仲直りできていないのだ。いまさら、その態度を変えるとは思えない。

 

「まあ、焦らなくても仲直りできる機会はあるだろう」

「そうだな。その時を待つとするよ」

「とりあえず、明日は互いにできることをしようぜ」

「そうだな。マキアスのことは今後も頑張っていくよ」

「ああ、そうしろ。じゃ、俺は部屋に戻るわ」

 

 案外、本人同士でこの問題は解決してしまいそうで、他人が無理に手を出す必要はないかもしれない。そんなことを思いながら俺は部屋に戻った。

 




 いよいよ入りましたね2章。
 そして、日常編が一番困ったりします。何をさせようか迷ってしまうんですよね。なんだかんだで、特別実習のほうが書きやすかったりします。……多分。
 さて、次回こそはリア視点で描きたいですね。
 テオの旧校舎探索?ナニソレ。ボクシラナイ。
 細かいところはノリで書いているので、本当にどうなるのやら。できれば書きたいのですが。旧校舎探索も1度は描いておきたいので。
 では、また次回です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。