力と心の軌跡   作:楓と狐

14 / 21
今回はリア視点です。やっとですね。長かった……。



5月23日 夢と約束

 少女はソファーに座り外の景色を眺めていた。特にすることもなく、ただ時間をつぶしているようだ。同じ部屋にいる彼女の母親らしき人物は台所で何かをつくっている。部屋の中にはベリーの甘酸っぱい匂いが広がっているので、彼女の得意なベリータルトでも作っているのだろう。少女も何度か教えてもらったが、上手くいかない。大人になるまでに一度は自分だけの力でつくる。そう少女は心に決めていた。

 

「もうすぐできるから、エーファを呼んできて」

「えー。どうせすぐに戻ってくるよ」

「戻ってくるまで出さないから、早く食べたいなら呼んできなさい」

「仕方ないなぁ」

 

 台所に立っていた女性は、ソファーに座っている暇そうな少女にお使いを頼んだ。少女は面倒くさそうにソファから立ち上がり、玄関へと向かう。その途中で短剣を携帯することも忘れない。師匠の教えで外出時は短剣を装備することにしているのだ。同じ師に戦い方を教えてもらった妹も武器を携帯しているだろう。

 

「それじゃ、行ってきます」

 

 少女は部屋の中を見ず声をかけ、そのまま出て行く。呼びに行くと言ってもすぐそこだ。母親も特に心配をした様子もなく送り出す。これはいつもの少女の日常。ごくありふれた生活の1ページだ。そんな日常が少女には幸せだった。

 

「エーファ。お母さんがベリータルトつくってくれたよ。家に帰ろう」

「あ、お姉ちゃん!うん。今戻るね」

 

 村の中央の広場についた少女は、自分とそんなに歳の変わらない妹に声をかける。エーファはすぐに反応して、楽しく話していた人たちにお辞儀をしてやってくる。村の人たちは少女にも笑顔を向けてきたので、少女もお辞儀を返した。そのあと、少女とエーファは手をつないで、家へと戻っていった。礼儀の正しい、仲の良い姉妹だった。

 

「ただいまー」

「ただいま」

「お帰り。2人とも手を洗って、席につきなさい。すぐにタルトを持っていくわ」

 

 姉妹は母親の言うことを素直に聞き、席につく。すぐに母親がベリータルトを運んできて、3人で食卓を囲む。それからはエーファが先程までしていた会話で楽しかったことをずっと姉である少女に話していた。少女は妹の話に相槌を打ち、しっかりと聞いていた。母親もそんな姉妹に笑顔を浮かべていた。

 ベリータルトを食べ終えた2人に、母親は伝え忘れていたことを口にした。

 

「そういえば、お父さんが今日に帰ってくるわ」

「え?ほんと!だったら、出迎えなきゃ!」

 

 そう言って、エーファは家を飛び出した。武器の双剣を装備していくあたり、師匠の教えはしっかりと身についているようだ。

 

「とりあえず、エーファのことを頼んでいいかしら。ここの片付けはしておくから」

「わかったよ。エーファも少しは落ち着いてほしいよ」

「あなたも昔はあんな感じだったじゃない」

「覚えてないよ。そんなこと」

 

 少女は短剣を再び装備して、エーファが行くであろう村の入り口に向かって歩き出した。お父さんが帰ってくるとしたらそこだからだ。お父さんが帰ってくるのは1か月ぶりだ。何をしているのかは聞いたことがないが、あまり帰ってこれないのは確かだ。今回の1か月振りの帰郷だってかなり早い方に入るだろう。それほどにまでお父さんとは会えない。だから、こうして会える日は楽しみになる。

 

「エーファ。そんなに急がなくてもーーって、あれ?エーファ?」

 

 曲がり角を曲がった先にいるだろうエーファに声をかけようとするが、当の本人がいなかった。家からこの門までは一本道で横を通り過ぎたこともない。だとするならば、エーファはどこに行ったのだろう?

 

「もしかして、街道にでた?」

 

 いくら武器を扱えるからと言っても、外に出るのは危険だ。さすがにエーファでもそんなことをしないだろうと思いつつも、絶対とは言いきれない。少しだけでも様子を見に行くべきかもしれない。いなければ、そのまま戻ってこればいいだろう。

 そう心の中で決め、少女はかけだした。

 

「やっぱり、いなかったな……」

 

 街道に出て少し経った後、少女は探索を打ち切った。これ以上は探す場合は、大人たちの力が必要と判断したからだ。それにエーファがもう戻っている可能性もある。少女はいったん村に戻ることにした。

 少し歩くと少女は異変に気が付いた。村の方向、そちらから黒い煙が空に昇っていた。少女は再び走り出した。

 

(火事!?……お母さんとエーファは大丈夫だよね!?)

 

 先ほどまでエーファを探していた道を迷わずに一直線に村に向かう。だが、その道のりが長く感じてしまう。いち早く状況を知りたい思いが、少女の時間間隔を引き延ばしてしまう。

 

(早く……早く!!)

 

 しばらく走って、やっとのことで村が見えてきた。しかし、そこで少女の足は止まってしまう。彼女の見た光景がその足を止めてしまった。

 

「うそ……でしょ」

 

 彼女の視線の先にあったのは、村全体が赤く燃え上がっている姿だった。

 

 

 

 私は閉じていた瞼をそっと開ける。視線の先には見慣れた第三学生寮の自室の天井。窓の外を見ると日が昇り始めていた。そのまま寝ころんでいてもいいが、汗で服がまとわりついて気持ち悪い。もう起きて着替えるべきだろう。軽く汗を拭き、シャワーを浴びた後の着替えをもって部屋に出る。

 

「懐かしい夢だったな……」

 

 シャワーを浴びるために浴室へ向かっている最中に考えるのは先ほどの夢。夢というよりは過去といった方がいいかもしれない。私の生き方が変わった7年前の事件。この事件の夢を見るのは半年ぶりぐらいだ。

 

(結局、あの場にいた人は全員助からなかったけど……)

 

 私が村についたときには、すでに手遅れだった。焼け死んでいる人やら、()()()()()()死んでいる人もいた。あの村での唯一の生き残りが私。もう、あの村の誰にも会えない。お父さんも色々な手を使って探してもらったけど見つからなかった。きっと父さんももうこの世にいないだろう。

 

「うん?リアか。そなたにしては遅いな?」

 

 2階に降りたところでラウラと出会った。彼女は自室に戻るところのようだ。それに、私が今まで寝ていたことにも気付いているようだ。普段から早いのは癖のようなもので、別に意図して早く起きているのではないが。

 

「おはよう。ラウラ。少し夢見が悪くてね。ラウラは相変わらず早いね」

「私はいつもの鍛錬だ。それにしても、少し顔色が悪そうだが」

「そう?まあ、自由行動日だし、寮でゆっくりしておくよ」

「うん。そうするがよい」

 

 どうやらあの夢を見て、少し顔色が悪いらしい。みんなに迷惑をかけるわけにはいかないので、今日は寮でおとなしくしておくとしよう。まあ寝ることはできないと思うので、するなら読書あたりだろうか。案外、寮で大人しくしておくのも大変かもしれない。

 

「それじゃあ私はシャワー浴びてくるね」

「呼び止めてしまってすまない」

「別にいいって。それじゃ、また」

 

 私は階段を下に降りていった。ラウラもすぐに3階に向かって階段をのぼり始めた。私が1階につくと今度はエマが食堂より出てきた。来ている服はいつもの制服。どこかに出かけるのだろうか。

 

「おはようございます。リアさん」

「おはようエマ。どこかに行くの?」

「はい。少し書店のほうに」

「書店?何か新しい本を買うの?」

「フィーちゃんの参考書を他にも探そうかと思いまして」

 

 そういえば、フィーはエマに勉強を教わっているんだった。年下のフィーが勉強についていくのは当然のことながら難しい。そこで面倒見のいい学年主席のエマが教える役をしてくれているのだ。私なんかが教えた場合は参考書探しなんてしない。既存のものでどうにかしようとするはずだ。これができる人とできない人の差か……。

 

「リアさんは今日、何をして過ごすんですか?少し体調が悪そうですけど」

「んー。とりあえず、寮で時間つぶしかな。本調子じゃないからあんまり外に出たくないし」

 

 どうやら、私の体調が悪いのはすぐにわかるらしい。思ったよりも重症なことに驚きだ。これは本当に横になっておくべきかもしれない。

 

「それでしたら、昼からタルトづくりしませんか?久しぶりに作ってみようかと思いまして」

「……」

「どうしました?」

「い、いや。何でもない。体調がよくなったら参加するよ」

 

 びっくりして一瞬固まってしまった。夢の中で出てきたタルト。それがエマの口から出てきて、上手に思考が動かなくなった。やっぱり、今朝の夢が今日1日の体調の悪さにつながっていそうだ。

 

「わかりました。昼前に一度声をかけますね」

「うん。ありがと」

 

 エマに返事を返した後、浴室へと入っていく。扉の掛札を使用中に変えておくのも忘れていない。これでゆったりとシャワーを浴びられる。私は寝間着を脱ぎ、シャワーを浴び始めた。

 

(……なんで、生き残ったのが私だったんだろう)

 

 私なんかよりエーファが生き残ってくれた方がよかった。あの子にもっと生きていてほしかった。あの子なら今の私のような人生でなく、私が羨ましくなるような人生を送ってくれたはずだ。私よりも様々な面で優れていたあの子なら。やっぱり私が死んで、彼女が生き残ってくれればよかった。

 いっそのこと私もここで死んだ方がいいのかな。そうすればみんなのところにいけるよね?みんなより少し長く生きていたのは恨めしく思われるだろうけど。ああ、でもみんなに会えるのなら、それでもいいのかも。

 

(……ダメだダメだ。お義父さんとの約束を守らなきゃ)

 

 マイナス方向に走っていた自分の思考を中断する。あの絶望の日に私を助けてくれた義理の父親。彼とした約束を果たさないといけない。それが殺されてしまったお義父さんの願いなのだから。あの日に「生きてくれ」と言った彼の言葉を忘れるわけにはいかない。

 

「私は本当に幸せなのかな?」

 

 村での幸せな生活。でも、それは一瞬にして奪われてしまった。そこからは義理の父親と義理の母親に育てられ、サラ姉さんに出会った。けれど、お義父さんは2年前に殺された。私の一番大切なものは毎回誰かに壊されている。こんな人生が幸せなのだろうか。こんな人生に幸せを感じられているんだろうか。

 

「少なくともその一瞬は幸せを感じていた……かな。後で壊される幸せだったとしても」

 

 過去を振り返って、そう結論付ける。私はその一瞬の幸せを大切にしないといけない。これは自分の人生から学び取ったことだ。これからの人生もそうであるだろうから、私は一瞬を大切に生きていくだけだ。

 

「だったら、まずはエマとのタルト作りを楽しまないとね」

 

 それが過去のお母さんを思い出すようなものだとしても、私は楽しむだろう。だって、そう決めたのだから。それが私の人生の生き方なのだから。

 

(それに、そろそろベリータルトをつくれるようにならないとね)

 

 ベリータルトを大人になるまでに作るという、子供のころにした決意。そろそろ、作れるようにはなっておきたい。大人になるのは、そう遠くない未来だろうから。




あれぇ?なんで、こうなった。
最近多い気が……。予定を大幅に変わる可能性があるなあ。
まあ、このままいけそうな気がするんでこのままいきましょう。

さて、今回はリアの話でした。さわり程度の過去の話ですね。また語る機会もあるでしょう。
ここで少しリアの家族構成を下にまとめておきます。

実の母親……7年前の事件に巻き込まれた。
実の父親……7年前の事件の日より行方不明。
エーファ……実の妹。7年前の事件に巻き込まれた。
義理の父親……2年前に殺された。
義理の母親(テレーゼ)……現在は帝国に住んでいる。
サラ……義父によって出会った姉のような存在。現在は学院の教官。

やりすぎた感が否めない。
では、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。