力と心の軌跡   作:楓と狐

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今回はテオ視点です。
タイトル通り旧校舎探索回です。一度はやっておかないとね。


5月23日 旧校舎第2層探索

「よし。これで大丈夫だ」

 

 リィンの一撃により敵が消滅する。今のが最後の一体だったようだ。まわりの安全を確認して、みんなは武器をしまった。

 

「今の魔獣、第1層の時より強かったよね?」

「ああ。たぶんそうだろう」

「だが、この程度ならば問題もなく進めるはずだ」

「そうね。この調子で進みましょう」

 

 エリオット、リィン、ガイウス、アリサの順に敵への評価と今後の方針を決める。この4人の言っていることは正しく、敵も弱かった。今後もこの調子で進めば、とくに問題もなく最奥まで進めるだろう。

 

「……」

「テオ?どうしたのだ?」

「いや、今の戦闘。俺だけ何もしていないんだが」

 

 いや、正しく言うならば何もできなかったと言うべきだろう。俺は戦闘が始まってすぐに符を敵に貼ろうとしたが上手く行かなかった。やっと貼れたと思ったらすぐに他の仲間に倒され消滅する。後はその繰り返し。俺は碌に攻撃ができていない。

 

「あはは。みんなすぐに倒していったからなあ」

「そう言っているが、エリオットもその一人だからな?」

 

 魔導杖での攻撃とアーツによる攻撃。2つを器用にこなし敵を倒していたのが戦闘中に見えていた。だからだろうか、エリオットの言葉は皮肉にしか聞こえなかった。

 エリオットと似たような戦い方をしていたのはアリサだ。アーツと導力弓を使いこなしていた。あれが彼女の戦い方として定着してきたのだろう。

 

「このメンバーなら《戦術リンク》も活用できそうだ」

「そうね。ガイウスとも《戦術リンク》をつなげたから問題なさそうね」

 

 俺を無視して会話を続けるリィンとアリサ。どうやらフォローの言葉もないらしい。まあ、たった一回の戦闘で落ち込まれていても迷惑なだけだろう。これ以上は気にしないでおこう。次こそは活躍するから気にしなくていいはずだ。

 

「それにしても、第2層ができているなんて不思議だね」

「構造が変化するなんて常識的じゃないからな」

 

 旧校舎へと調査をしに来て見つけた第2層。もちろん今までの調査ではそんなもの見つかっておらず、今回の調査で初めて分かった。見逃したのではなく、新しくできた階層と判断するのが妥当だろう。それに、調査を始めてあった変化はこれだけではない。第1層へと続く階段部屋が、エレベータホールへと変化していたのだ。大がかりすぎる変化に、俺たちはみんな驚きを隠せなかった。

 

「これと同じことが先月も起きたのよね?」

「ああ。オリエンテーリングの時の構造から今の第1層の構造に変わっていた」

「こんな変化を見れば先月にリィン達が言っていたことも納得できるな」

「あはは。聞いただけじゃ実感がわかないよねぇ」

 

 先月に旧校舎の構造が変わったと聞いたときには「こいつ何言ってんの?」と思った。だが実際に経験してみると、あの時にリィン達が言っていたのは真実だったことがわかる。今度は俺が「何言ってんの?」って思われる番なのだろう。

 

「とりあえず、先に進もう」

「そうだな。こんな薄暗いところは早く出たい」

 

 リィンの意見に賛同してから、みんな揃って歩き始めた。

 

 

 

「着いたな」

「あれが最奥に続く扉なのね」

「今回も大型の魔物が出てくるのかなぁ」

「前回同様出る可能性はあるだろう」

「ふむ、私としては望むところなのだが……」

 

 俺たちの視線の先には他の扉とは少し違った扉があった。前回と同じなら、あの先に大型の魔獣が待ち伏せているだろう。

 

「フフ……フフフ……」

「ねぇ、さっきからテオが怖いのだけれど」

「さっきまで落ち込んでいたのに、ここに来て笑い出したからね」

 

 アリさとエリオットが何か言っているが、いまの俺には気にならない。やっと、やっとなんだよ。

 

「やっと活躍できるんだよ!」

「さっきまで落ち込んでいたのは、活躍できなかったのが原因だったのか」

「そりゃそうだよ!皆は敵を倒しているのに俺だけ何もできないんだから!」

 

 これからは活躍できると思っていた俺がバカだった。あのあとも俺だけが倒せなくて、さっきまで落ち込んでいたのだ。しかし、大型魔獣なら話は別だ。きっと活躍できるはず!

 

「テオ、油断はしないでくれ」

「あたりまえだ。誰にいっているリィン」

「テオだから言ってると思うけど」

「エリオット。言ってくれるじゃないか」

 

 先月の特別実習の大型魔獣の退治のとき?知らんな。過去は振り返らない主義だ。もちろん今だけだが。

 

「そろそろ行きましょう」

「そうだな」

 

 そういって、皆で扉の方へと歩き始める。何か扱いがひどくないですか?もちろんそんなことは口にせず、俺も気を引き締める。

 部屋の中央へと歩みを進めたとき、いきなり敵が光に包まれて現れた。門のようなものの間に人に似た形が挟まっている魔獣。門を羽のように動かして宙に浮いている。まるで人よりもサイズが2倍くらいの大きさの蝶々だ。その魔獣が三体もいる。

 

「テオ……引き付けできそうか?」

「敵の攻撃パターンにもよるが、一人で一体はできると思う。それ以上は無理だ」

「充分だ。俺とテオでそれぞれ一体の引き付けをするから、その間に皆で残り一体をかたずけてくれ!エリオットは適宜回復をしてくれ!」

「しくじるなよリィン」

「わかってる」

 

 リィンは頷くと左の敵に向かって斬りかかった。俺は真ん中の敵に向かって走り出した。他の4人は残った右側の敵を片付けてもらう。真ん中で戦わせるよりは右側のほうが戦いやすいだろう。

 

「よっと」

 

 敵の目の上にある宝玉より放たれたレーザーを斜めに飛ぶことでよける。レーザーは地面に当たると広がり、着地をしたすぐ近くまでレーザーの光がやってきていた。思っていたより広範囲に当たる攻撃に冷や汗が流れる。

 だが、足は止めない。止めたら恰好の的だ。それに今が攻撃のチャンスだ。右手に握り拳をつくり、相手の胴体を思いっきり殴る。

 

「いってぇ!」

 

 殴っても敵は全然後退せず、石を殴ったかのような痛さがこちらに伝わってくる。伝わってきた痛みにうずくまりたくなるが、そんなことを敵が許してくれない。再び敵の宝玉に光が集まり始める。また、レーザーを放とうとしているようだ。

 敵の攻撃が来るタイミングで後ろに飛び、距離を置く。他のメンバーの様子をうかがうと、リィンはしっかりと引き付けに徹している。アリサ達は思っていたよりも上手く行ってなさそうで、来るのに時間がかかりそうだ。この調子だと俺やリィンのほうが先に崩れる可能性がある。

 

「おっと」

 

 もう一度放たれたレーザーを横跳びでよけ、再び敵に向かって走る。今度は符を手に持っておくことを忘れない。敵に符を貼って離れるまでに敵の攻撃をもう一度回避し、離れてすぐに『招雷符』を起動する。

 

「思っていたよりは効きそうだ」

 

 敵の苦しんだ姿を見て、そう判断する。ラウラやガイウスの攻撃が通っていることを考えると、先程の俺のパンチは意味がなかったようだ。やっぱり慣れないことはするもんじゃない。

 少しすると敵は体制を持ち直し、もう一度レーザーを放ってくる。ただの単調な攻撃に俺はさらに後ろに後退することでよける。このままだとすぐに均衡が崩れることはわかっているので、すぐに戦闘を終わらせるためだ。

 左右の手にそれぞれ10枚ほどの符を持ち、自分のまわりに放り投げる。符はそのまま落ちることはなく移動を始め、敵全体を囲むように円形に並んだ。

 

「信じる心は幻を真に変え、信じない心は真を幻へと変える。お前が見るのは幻か真か」

 

 あたりに散りばめた符が一斉に光り始める。同時に攻撃の対象を敵3体に絞り込む。これで味方に当たったらシャレにならない。

 

「アゲニーヴィジョン!!」

 

 声を発するとともに敵が光に包まれる。見せるのは激しい痛みを伴う幻想。そのあまりの痛さに幻を現実と錯覚してしまう。つまり、時間が経てば直るが、薬などでは癒せない見えない傷を背負うこととなる。時には死を錯覚し、そのまま起きないこともある技だ。さらに言えば、ダメージを負ったよう感じて動くたびに激痛がはしり相手の動きが鈍くなったり、少しのダメージで致死量のダメージを受けたと錯覚し死ぬこともある。一度受けた相手でもあまりの激痛にもう一度くらってしまう技だ。

 ただし、そんな大技を放つのにも代償がある。符を一度に20枚使うことだ。持っておける枚数からするとかなりの消費になってしまう。今回は道中で符を一枚も使わなかったから、放てたようなものだ。今後、放てる機会も少ないだろう。

 光が消えたときに現れたのは苦しむ敵の姿だった。どうやらかなりのダメージを受けたように感じているようだ。その敵の姿に今が攻め時ということを全員が理解し、一斉に攻撃を再開した。

 それからは一方的な流れで、戦闘に勝利した。

 

 

 

 旧校舎の探索を終え学院長への報告を済ませた俺たちは、その場で解散することとなった。疲れていた俺はそのまま寮へと帰りたかったが、その足は自然と生徒会室のほうへと向かっていた。やはり疲れていても日常は大切にしたいと思ってしまうようだ。

 

「あ、おかえりテオ君」

「ただいまです。トワ会長。……アンゼリカ先輩?」

「お疲れのようだねテオ君」

 

 生徒会室に入ると、会長とアンゼリカ先輩が出迎えてくれた。なにやら立ち話をしているようで、邪魔をしたかもしれない。

 

「ちょうどいいところに来てくれた。これから3人で生徒会の仕事をさっさと片付けようじゃないか」

「はい。それは構いませんけど……先輩も手伝うんですか?」

「ああ。これからトワとツーリングに行こうと思ってね。仕事を終わらせないとトワが行ってくれないんだ」

「なるほど。それでは、すぐに取り掛かりましょうか」

 

 普段から忙しい会長への先輩からの気遣いだろう。時折、訪れてはこうしてトワ会長に息抜きをさせている。クロウ先輩やジョルジュ先輩もアンゼリカ先輩とは方法が違っても、同じようなに息抜きをさせている。本当に面倒見のいい先輩たちだ。

 

「でも、テオ君。旧校舎の探索を終えたばかりでしょ?少しは休憩したほうがいいよ?」

「大丈夫ですよ、会長。みんなと一緒に少し休憩してきたんで」

「2人とも早くしたまえ。私とトワのツーリングの時間が減ってしまうじゃないか」

 

 まったく人使いの荒い先輩だ。だが、その裏で気遣ってくれていることがわかるので憎めないが。

 俺と会長はアンゼリカ先輩の言う通り仕事を始めた。会長は会長用机で、俺はアンゼリカ先輩と部屋にある別の机で作業をしている。

 

「それで、旧校舎の様子はどうだったのかな?」

「前回の報告通り、今回も構造が変わっていました」

 

 それから俺はエレベータホールができたこと、第2層が出現したこと、最奥での戦闘など、旧校舎であった出来事を2人に話した。最後にはトワ会長が心配していて、アンゼリカ先輩が俺と会長のやり取りを楽しんでいた。

 

「フフ、テオ君はトワと仲が良いね」

「毎日、生徒会でお世話になってますから」

「……ほんとにそれだけかな?」

「?どういう事です?」

「フフ。気にしなくていいさ」

 

 そういって、アンゼリカ先輩は作業に戻った。一体、何を言いたかったのだろうか。会長もよくわかっていないように首を傾げていた。

 生徒会の仕事が片付くと、会長とアンゼリカ先輩はツーリングに、俺は寮へと帰ったのだった。




テオ君の戦闘中のセリフ。ああいったもの考えるのも苦手なんですよね。
うーん。もっといいのを考えられる気もするのですが。
ちなみにテオのSクラですね。テオは最初から使えるメンバーです。
あと、どんなのかわかりづらいですかね。今回の話で一番がんばって書いたのですが。

次回は実技テストですね。
ってか、また戦闘だ……。とりあえず、がんばります。
それではまた次回。

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