力と心の軌跡   作:楓と狐

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リア視点です。
それといつもより長くなっております。
それではどうぞ。


5月26日 制限時間は5分

 第2回《実技テスト》。実技テストの内容は先月のものと共通点が多かった。変わったとすれば2点ぐらいだろう。1つはメンバーの構成と人数。先月は3人か4人の3グループに対して、今月は5人と6人の2グループだ。そのために2つ目の変更点がある。その2つ目の変更点とは機械人形の強さだ。先月のものよりはるかに強くなっていた。先月よりみんなが戦闘に慣れて強くなったことや、メンバーの多さがなければ勝てなかっただろう。

 

「はあっ、はあっ……」

「リィンさんたちより一人多かったのに」

「ま、仕方ないか」

 

 エリオット君、エマ、フィー、マキアス、ユーシス、そして私。戦闘を終えたばかりの私たちは6人グループだった。しかし、戦闘が終わった時にはもう一つのグループよりも余裕がなかった。その原因は《戦術リンク》を活用できなかったことがあげられるだろう。ちなみにもう一つのグループはリィン、アリサ、ガイウス、ラウラ、テオの5人グループだった。この5人は《戦術リンク》を上手いこと活用できていた。対して、私たちはマキアスとユーシスが《戦術リンク》を繋げず、互いの行動が阻害することがあった。この2人のフォローに回るのが大変だった。

 

「分かってたけどちょっと酷すぎるわねぇ。ま、そっちの男子2名はせいぜい反省しなさい。この体たらくは君たちの責任よ」

 

 何時になく厳しいサラ姉さんの言葉に、2人は悔しそうにする。仲直りしろとは言わないが、もう少し互いに妥協することができないのだろうか。

 

「今回の実技テストは以上。続けて今週末に行う特別実習の発表をするわよ。さ、受け取ってちょうだい」

 

 少し休憩して私たちが回復すると、サラ姉さんは特別実習について書かれた紙を配布する。

 

【5月特別実習】

A班:リィン、エマ、マキアス、ユーシス、テオ、フィー

(実習地:公都バリアハート)

B班:アリサ、ラウラ、エリオット、ガイウス、リア

(実習地:旧都セントアーク)

 

 バリアハートは南部にあるクロイツェン州の州都であり、セントアークは南部にあるサザーランド州の州都になる。ともに貴族主義が進んでいる地域だ。すなわち、実習地としては釣り合いが取れている。問題は実習地ではない、メンバーの方だ。

 

「冗談じゃない!サラ教官!いい加減にしてください!何か僕たちに恨みでもあるんですか!?」

「……茶番だな。こんな班分けは認めない。再検討をしてもらおうか」

 

 先ほどの実技テストで足を引っ張った2人。その2人が先月と同様に同じ班に分けられた。というより、リィンとガイウス、私とテオが入れ替わっただけだ。これだけの変化では先月の実習の二の舞にならないだろうか。フィーやエマがもう一度、あんなひどい実習を経験しないかが心配だ。

 

「うーん、あたし的にはこれがベストなんだけどな。特に君は故郷ってことでA班からは外せないのよね~」

 

 ユーシスに向かってサラ姉さんは理由を話す。確かにユーシスの実家はバリアハートにある。そういった意味ではユーシスを外せないだろう。だが、マキアスをA班に入れる理由はまだいっていない。そこをつくのは本人のマキアスであった。

 

「だったら僕を外せばいいでしょう!セントアークも気は進まないが誰かさんの故郷より遥かにマシだ!《翡翠の公都》……貴族主義に凝り固まった連中の巣窟っていう話じゃないですか!?」

「確かにそう言えるかもね。ーーだからこそ君もA班に入れてるんじゃない」

 

 理由を聞いたマキアスもユーシスと同様に黙った。貴族主義はセントアークよりもバリアハートのほうが進んでいる。だからこそ入れたということは、マキアスの貴族嫌いが原因だろう。実際にその目で見て来いとのことだ。

 

「ま、あたしは軍人じゃないし命令が絶対だなんて言わない。ただ、Ⅶ組の担任として君たちを適切に導く使命がある。それに異議があるなら、いいわ」

 

 そこでサラ姉さんは間をあけ、ユーシスとマキアスに視線をおくる。しっかりと2人の視線を受け止めたうえで、サラ姉さんは次の言葉をつないだ。

 

「ーー2人がかりでもいいから力ずくで言うことを聞かせてみる?」

 

 それを聞いたユーシスとマキアスは動けなかった。それもそうだろう。Ⅶ組にいる全員がサラ姉さんの実力を知っている。先月の実技テストで私とフィー、テオが3人がかりで戦って負けた相手だからだ。もちろんサラ姉さんは手加減をしていたはずだ。そんな相手にユーシスとマキアスだけでかなうはずがない。

 

「しょうがないわねぇ。あなたたち2人とリィンも入れていいわよ」

 

 黙ったユーシスとマキアスを見て、サラ姉さんは仕方なくリィンを入れることを許可する。もちろんマキアスと、ユーシス、リィンの3人でもかなうはずがない。巻き込まれたリィンは不運だったとしか言いようがない。私があの立場じゃなくてよかった。

 

「……なによ。これでも乗ってこないの?」

「いや、サラさんが出している条件だと、結果がみえすぎですって」

 

 妥協案を出しても動かない2人に、サラ姉さんが退屈そうにする。フォローを入れたのはテオだ。先月の実技テストがなければ、ユーシスとマキアスも乗ったのだろう。だが、サラ姉さんの実力を知っている2人は、負ける賭けには乗ったりしない。

 

「だったら、どうしろって言うのよ。2人は諦めるの?」

「そんなわけないでしょう!」

「……そもそも賭けになっていない。他の案を出してもらおう」

「うーん、賭けじゃなかったんだけど。まあ、いいわ。だったらテオ。あなたが案を出しなさい」

「え?俺?……まあ、いいですよ」

 

 ユーシスの言った他の案を出すのをテオに押し付けたサラ姉さん。言われたテオは少しびっくりしたようだが、サラ姉さんが考えるよりは自分が考えたほうがいいと思ったようだ。サラ姉さんだと先ほどのように賭けにならないかもしれないと思ったのだろう。

 

「あなただとちゃんとした案を出すでしょう。2人もそれでいいかしら?」

「ああ、それで構わない」

「いいだろう」

 

 ユーシスとマキアスの承諾を見たテオは、妥協案を考え始める。そうはいっても授業中のグラウンドではすることも限られている。テオもすぐにすることを決めたようだ。

 

「Ⅶ組の模擬戦でどうです。Aチームはユーシス、マキアス、リィンで決まりで、BチームはサラさんがⅦ組のメンバーから()()選択する。時間制限は5分。Aチームの勝利条件は制限時間内にBチームに勝つこと。Bチーム、すなわちサラさんの勝利条件は制限時間内にAチームが勝利していないこと」

「フフ。面白そうね。乗ったわ」

「……僕は構わない」

「よかろう。その案に決まりだな」

「……なんで俺も入ってるんだ?」

 

 テオが出したのは力量の釣り合っているだろう私たちの中の2人が、3人の相手をするというもの。この案にサラ姉さんとユーシス、マキアスは承諾した。制限時間があるとはいえ、サラ姉さんには不利な条件のはずだ。どうして承諾したのだろうか。勝つ方法があるのだろうか。この中の2人でAチームに勝てるとしたら……ラウラとフィーのコンビかな。きっとこの2人を選択するだろう。

 ちなみにリィンは巻き込まれているのだが、これはマキアスとの仲を考えたものだろう。テオもあえてそうしたに違いない。

 

「さて、それじゃあBチームはフィーとリアね」

「はい?」

 

 予想もしていなかった私の名前が呼ばれ、疑問で答えを返してしまう。よりによってアーツでの戦闘をしている私を呼ぶとは思わなかった。正直、勝てる気がしない。

 

「なんで私が?ラウラじゃなく?」

「ええ。あなたよ。とりあえずこっちに来なさい」

 

 私とフィーは言われるがままサラ姉さんのところへと近づく。リィンたちAチームも集まっているようだが、喧嘩をしている声が聞こえる。あの2人はこんな時まで喧嘩しているのか。

 

「それで、サラ姉さん。私たち2人で勝てる気がしないけど」

「勝たなくていいわよ。負けなければいいだけだから」

「へ?……あっ」

 

 サラ姉さんに言われてやっと気が付いた。私たちは別にAチームに勝たなくてもいいのだ。制限時間内でAチームに勝ちを譲らなければいい。すなわち、逃げ回ってればいいのだ。

 

「サラ、考えることが黒い」

「あたしが言わなくたって、フィーならそうしたでしょうが」

「あたりまえ。別に勝たなくていい時がある」

 

 どうやら気付いていなかったのは私だけみたいだ。このことにAチームが気付いていないことを祈るが、マキアスという秀才がいるので気付いているだろう。常に最悪の状態を考えておこう。

 

「でも、まあ、勝ちに行くけどね。テオの思惑通りっぽくて気に食わないから」

 

 私としてはテオの思惑なんてどうでもいいのだが。というか、サラ姉さんが攻めに行くのも、テオの思惑通りかもしれない。今は審判を務めるかのように立っているテオに視線を向けるが、ただ笑ってA、Bチームを見ているだけだ。

 

「サラ姉さん。結局、私たちはどうするの?」

「そうねぇ。とりあえず、フィーは攻めね。マキアスを最初に狙いなさい。そのあとはユーシス、リィンの順よ」

了解(ヤー)

「リアは攻撃を回避するだけでいいわ。アーツは使わなくていい。あ、今回は短剣を抜きなさいよ」

「あはは、ばれてたんだ」

 

 特別オリエンテーリング以来、みんなの前で抜いたことのない短剣。自由行動日に特訓はしているので感覚は忘れていない。短剣での戦い方を知っているのはフィーとサラ姉さんぐらいだろう。サラ姉さんが私を選んだのも、みんなにとって初見であることが理由だろう。

 

「Aチームはどう出てくると思う?」

「……リィンとユーシスの2人がかりでフィーを攻めるでしょう。リアはそんなに脅威の対象として見られないでしょうし、マキアスとの仲の関係からするとそうでしょう」

「だよね。フィー、気を付けてね」

「何言ってるのよ。あなたがリィンを引き付けるのよ」

「はい?」

 

 何言ってるんだこの人は。今、2人はフィーを攻めると言っていただろうに。どうやって引き付けろと言うのだ。

 

「最初にリィンに切り込みなさい。そのあとリィンを引き付けながら、ユーシスも引き付けられたらベストよ」

「……無茶だ」

「敵の作戦を潰すのは定法よ?がんばりなさい。あなたならできるわ」

 

 もうなんとでもなれ。諦めた私は素直にサラ姉さんの言うこと聞くことにする。これで負けても私のせいじゃない。フィーもいるのだから何とかなるだろう。

 ちなみにわざと負けるなんてことは考えていない。負けた後のサラ姉さんが怖いし、わざと負けるのも気に食わない。なんだかんだでテオの思惑通りに動いている気がする。

 

「さて、両チームとも準備はいいか?」

 

 作戦会議を済ませた私たちは互いに向かい合い、戦闘開始の合図の準備をする。私以外の全員がいつも通りの構えをする。私は《ARCUS》を構えず、かといって短剣も抜いていない。《ARCUS》の入れてあるホルダーに手をかけているだけだ。これは少しでもいつもと違うことを悟られないようにするためだ。戦闘開始の合図の後、私は短剣を抜き、リィンに攻撃をする。この時《ARCUS》を持っていると不便なため、今からホルダーにしまっておく。対して、短剣はすぐに抜けるようにしてある。ここまでしたのだからばれないといいのだが。

 

「よし、準備はできたみたいだな。それではーー始め!」

 

 テオの開始の合図と同時に、私は短剣を抜きリィンに切りかかる。もちろん少し距離があるためにバックステップで回避されるが、これでリィンはフィーへ攻撃しに行けなくなった。行こうものなら私が切りかかるからだ。リィンもそれを理解したのか、私へと標的を変えた。これで私とリィンが向き合う形となった。

 敵側の作戦が変わったが、フィーをこのまま放置するのはマキアスがやられ不利になるという判断の元、ユーシスは私の左側を通っていこうとする。もちろんよそ見したらリィンが襲ってくるので放置するしかない。だが、フィーはユーシスの動きを見て私の右側を通る。すなわち私とリィンを挟んで、左右にそれぞれユーシスとフィーが通る状態だ。フィーは明らかにユーシスの相手も私に任せている。

 もちろんそのまま通すのはリィン達にとって不利になる。戦力がわからない私をリィンとユーシスでどれくらいで落とせるのかがわからない以上、フィーをこのまま通すわけにはいかない。フィーがマキアスを倒して戻ってくるまでに私を倒さなければ、人数的な有利がなくなってしまうからだ。それを理解したリィンは私をユーシスに任せ、フィーに攻撃をしようとする。

 

「くっ!」

 

 だが、そんなもの私が許さない。私は短剣でリィンに攻撃を仕掛け、リィンは太刀でそれを防ぐ。もちろん、ユーシスとリィンの2人の攻撃を捌くのは骨が折れる。だが、フィーが任せてくれたのだ。期待には応えたい。

 リィンに攻撃をしたところを、ユーシスは背後から切りかかってくる。私はリィンの太刀を少し押し込んだ後に、ユーシスの剣が当たらない範囲で、かつリィンの傍から離れない位置に攻撃をかわす。もちろん、リィンは追撃を私に仕掛けてくる。私は短剣で横に一閃される太刀を切り上げ、太刀を跳ね上げることで攻撃をさせない。続けてくる、ユーシスの突きを半身になってかわし、距離を取ったリィンに詰め寄る。

 この切り合いから逃してはいけないのはリィンだ。単純な話、ユーシスとリィンではリィンのほうが危険だからだ。ユーシスが行くのはマキアスとの仲の悪さで戦闘に支障をきたし、まだ対応できる可能性がある。対して、リィンとマキアスでは、リィンがマキアスに合わせるだろう。こちらは仲が悪いと言っても一方的なものだ。それに仲がよかったときは一緒に旧校舎の探索までやっている。互いの戦闘の仕方はわかるだろう。

 

「何!?」

 

 それから少しの間、ユーシスとリィンの攻撃をかわし続けていると、ユーシスに攻撃を開始したフィーがいた。どうやらマキアスを倒したようだった。後はフィーが終わるまでリィンだけを引き付ければいい。もちろん私からは攻撃しない。リィン相手に攻撃しても負ける可能性が高い。それなら、先程と同様に回避に専念するだけだ。

 

「っ……」

 

 リィンもどうやら焦っているようだ。先ほどよりも猛攻が来るだろう。私の短剣術は八葉一刀流にどこまで通用するんだろうか。せっかくの機会だから試させてもらおう。もちろんフィーが来るまでだが。

 

 

 

「くっ……はあはあ……」

「はぁ。はぁ。きつい……」

「ぶい、だね」

「ぐううううっ……」

「……馬鹿な……」

 

 戦闘が終了したあとの私たちはフィーを除いて疲れ果てていた。というより、フィーに余裕があったことに驚きだ。あの歳でどうしてそんなに体力があるのだろうか。

 ちなみに、勝者は私とフィーのBチーム、すなわちサラ姉さんだ。最後にリィンを挟み撃ちにして倒した時には私の体力は底が見え始めていた。もちろんリィンの方も底が見えはじめていたようだったが。

 

「リアが短剣を抜くのを始めてみたわね」

「そうだね。それにリィンの太刀を凌げるほどの実力みたいだし」

「ふむ、リア。そなたの流派が皆目見当も付かないが……」

「私のは近所のおじいさんに教えてもらっただけだよ」

 

 今の戦闘を終えて、注目を浴びたのは私の短剣術だった。小さいころに護身術として教えてもらった短剣の扱い方。それが今でも戦闘の助けとなっている。

 

「あいかわらず、攻撃を捌ける量がおかしいわね。前回の実技テストで抜いていたら、私に負けなかったでしょうに」

「さすがにそこまでは無理だよ。サラ姉さん」

 

 それほど買いかぶりされても困る。私の短剣術もそこまで上手くはない。師匠ならもっと余裕をもって捌けたはずだ。早く追いつきたいものだ。

 

「でも、これで……」

「決まりかな」

「フフン、あたしの勝ちね。それじゃあA班・B班共に週末は頑張ってきなさい。お土産、期待しているから」

 

 こうして特別実習の班分けは決まった。A班が上手く行ってくれることを祈りながら、前回よりも気楽な特別実習にほっとするのであった。




今回はだいぶ悩みました。いくつかパターンを考えた中で、こういった決着がつきました。ちなみにほかに考えていたパターンは下のものです。
1)サラVSⅦ組A班(次の実習)全員。
2)ユーシスたちがあきらめる。
3)無謀でも原作通りユーシスとマキアス、リィンで挑む。
個人的にどれもしっくりこない。あくまで個人的ですが。
そして、ふとリアの短剣に触れてないなぁと思った結果、Ⅶ組の模擬戦形式に。そして、普通の戦闘じゃ面白くない。制限時間ありでいいっか。という風になりました。
そして、今回のような形になりました。

では、次回特別実習で!
……あれ?また、特別実習がテオ視点になるんですか?やってしまった。

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