力と心の軌跡   作:楓と狐

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年明けまでにかけなかったです。申し訳ありません。

テオ視点です。いつもよりは短めです。


5月29-30日 仲間

 昔は周囲の警戒や夜間の行動が多く、睡眠時間を削っていた。そのすべてが仕事関連だった。最近では警戒をする必要もなく、夜間に行動することも少ない。そのため、普段ならベットで気楽に眠っているだろう。

 だが、今日は違った。昼間の魔獣討伐でのリィンの負傷。その事が頭から離れず、眠れない。こんな眠れない夜は久しぶりだった。俺は少し頭を冷やすために、ホテルの外に出て歩き回っていた。

 もし、あのとき俺が力を解放していたら。魔獣が攻撃して仲間が傷つく前に、魔獣を倒せるだろうか。いや、倒すことはできなくても、助けることはできただろう。やはり、力を封じているのはよくないのではないか。そうでないと、今日のように彼らを危険にさらすのではないか。

 そこまできてふと気が付く。今までに多くの人を傷つけてきた自分が、彼らを危険にさらしたくないと考えていることに。俺らしくないと思う。昔の俺ならもっと冷酷になにも感じず、リィンが怪我をしただけだと考えるはずだ。それに彼らが危険にあおうとも知らないフリするだろう。

 どうやら俺は彼らのことを大切に思っているらしい。今までになかった思いに自身が驚いている。サラさんに連れてこられた学院はそれほどまでに俺へと影響を与えていた。

 一通り歩き回った俺はホテル前の広場へと戻って来た。そのままベンチに腰掛け中央にある噴水を見る。噴水には女神像が置いてあり、その視線は教会の方に向いている。知ったのも昔のことなので詳しいことはすっかり忘れてしまった。

 

「どうしたのテオ」

「フィーか。俺は眠れなかっただけだよ。そっちはどうしたんだ?」

 

 座っていたベンチにフィーが近づいてきた。どうやら俺と同じで散歩をしていたようだが、俺のように悩みでもあったのだろうか。

 

「初めての街は昼と夜を見るのがあたりまえ」

「それもそうだな」

 

 昔の俺もやっていたことだ。こういったことをやるのは暗殺者に猟兵が多いだろう。サラさんが連れてきたことも考えると、彼女もこちらの世界に足を突っ込んだことがありそうだ。

 

「……」

 

 フィーが隣に座り、互いにしゃべらない無言の間が続く。もともと喋ることも少なかった。いきなり話せと言われても無理だ。適当なことを話すよりは、無言の時間が続く方がいい。考え事があるならばなおさらだ。だが、今日はフィーに聞きたいことがあった。

 

「なあ、フィーは今日のリィンの負傷についてどう思う?」

「……私の油断から起きた私のミス」

 

 フィーはうつむき、俺にはその表情は読み取れなかった。だが、その態度や声色は後悔や謝罪に近いだろうか。自分たちより2歳年下の女の子。しかし、戦闘において他人より優れてしまっているがために責任を感じているのだろう。責任を感じるのはべきは俺で、フィーは責任を感じなくてもいいのだが。

 

「フィーの責任じゃないよ。俺の油断や手抜きのせいでリィンに怪我を負わせてしまった」

「……」

 

 フィーはなにか言いたげにこちらを見てくる。手抜きという言葉に反応したのだろう。だが、こちらを責めるような視線じゃない。なぜ手を抜いているのかといった視線だ。フィーもラウラのように違和感を感じ、薄々、気づいていたのだろう。

 力を制限しているのは実力を合わせ、頼られないようにするため。それが《Ⅶ組》のためと思ってきた。だが、今回のリィンの負傷からわからなくなった。それが本当に《Ⅶ組》のためなのか。今日は負傷ですんだが、今後は死に繋がるような場合もあるのではないか。このまま力を制限するのは間違っているのではないか。そんな思考がループする。先程からずっと同じことを考えている。このまま悩んでいても時間の無駄だろう。

 

「とりあえず、明日は気を引き締めないとな」

「……そだね」

 

 同じことは繰り返したくない。俺もフィーもその心は同じであった。明日は2日目、実習の最終日だ。全員が無事に帰れるようにしなければ。

 

□ □ □ □ □

 

 翌日、俺たちはホテルのロビーに集まっていた。先ほど今日の依頼が入った封筒をもらったばかりだ。

 

「さて、どんな依頼を兄はまとめたことやら」

「さっそく確認してみるか」

 

リィンは先ほど渡された封筒を開き、全員に見えるように依頼を確認した。一つは魔獣討伐の依頼。もう一つは材料調達の依頼のようだ。必須のものは魔獣討伐のほうで、材料調達は任意になっている。まあ、二つともこなすことになるだろう。

 

「昨日と同じく、バランスよくまとめて下さっていますね」

「ひょっとしたら……昨日の依頼のトラブルなんかも最初から見越してたのかもな」

「貴族と平民の問題を僕たちに示すためにか……。フン、さすがは貴族派きっての才子というところか」

「如才ない感じ」

 

 まあ、ルーファスさんならばそれくらいのことをやってのけそうだ。俺は依頼で何度かルーファスさんと関わっているが、毎度いいように利用されている。そのため、あの人からの依頼は少し苦手だった。

 

「まあ、兄のことはいいだろう。期間は残り一日、明日の朝にはトリスタに戻らなくてはならない。すぐにでも動いたほうがーー」

「ユーシス・アルバレア」

「……なんだ。マキアス・レーグニッツ」

 

 ユーシスが話している途中にマキアスが割り込み、ユーシスが聞き返す。なぜ互いにフルネームで呼び合っているのだろうか。そういえば、この2人から互いの名前を呼ぶところを聞いたことがない。傲慢貴族やら、あの男やら、そんなに呼びたくなかったのか。

 

「ARCUSの戦術リンク機能……この実習の間に、何としても成功させるぞ」

「なに……?」

 

 しているのは昨日と同じ様な会話。戦術リンクの成功だ。だが、切り出すタイミングが違う。昨日は魔獣戦闘の直前だった。一方、今日はすべての行動を開始する前に言っている。マキアスになにか心情の変化でもあったのだろうか。

 

「……やれやれ。我らがが副委員長殿は単純だな。大方、昨晩の話を盗み聞きして絆されたといったところか?」

「なっ、決めつけないでもらおう!君の家の事情やリィンの話など僕はこれっぽっちも。……あ」

 

 ドジがいた。まさか自分から盗み聞きしていたことをばらすなんてな。

 それにしてもユーシスの家の事情とリィンの話が気になる。昨晩ということは俺が外でフィーと話していた時だろう。悩んでいなかったら聞けたと思うと、少し自分を責めたくなった。まあ、いずれ話してくれるだろう。それまで待っておこう。

 

「フフ。いいだろう。その話、乗ってやる。俺の方が上手く合わせてやるから大船に乗った気でいるがいい」

「ふ、ふん!それはこちらの台詞だ。せいぜい寛大な心をもって君の傲慢さに合わせてやろう」

 

 昨日とは少し違った雰囲気の口喧嘩。今までの聞いていて不快になるようなものではなく、微笑ましく感じるような口喧嘩だ。この2人はもう大丈夫だろう。

 

「ユーシス様」

「アルノー?父上付きのお前がどうしてこんな所に」

 

 ホテルのロビーで話し込んでいた俺たちのもとに、執事服を着た男がやってきた。どうやらユーシスの知り合いのようなのでユーシスに対応は任せることにした。といっても俺も何度かこの人を見たことがある。昔していた仕事でみたことがあるくらいだ。

 

「今朝、参上いたしましたのはユーシス様とテオ様をお迎えするためでして」

「俺とテオを迎えに……いったいどういうつもりだ」

「……え?俺も?」

 

 まわりも困惑した様子だ。ユーシスだけならわかるが、俺まで迎えに来る理由がわからないといったところか。俺の方はこのパターンを失念していたことに後悔していた。向こうから俺にコンタクトをとってくる可能性は十分にあったのだ。これは少しまずい状況になった。

 

「ええ、公爵閣下がユーシス様とテオ様をお館に呼ぶように仰せられまして、それで参上した次第であります」

「父上が?だが、昨日はそんな素振りをまったく見せなかっただろう!?その上、何故テオまで呼ぶ!?」

「公爵閣下のお言葉は絶対……私めは従うだけでございます」

 

 どうやら呼んだ理由までは話されていないようだ。ユーシスのほうは全くわからないが、俺の方は昔の仕事関係だろう。本当に面倒なことをしてくれる。

 

「リィン、悪いけど抜けさしてもらう」

「……ということは会いに行くのか?」

「ああ。公爵家から誘われたら行かないとな」

 

 そう相手は公爵家の人間。常識的に断れるはずがない。それはほかのメンバーも察したようで、何も言ってこない。ただ、ユーシスだけは未だ悩んでいるようだった。

 

「……」

「ーー行ってきたまえ」

 

 悩んでいるユーシスに送り出す言葉をかけたのはマキアスだった。そのあとにリィン、エマ、フィーの順で俺たちを送り出してくれる。それでユーシスも決心が固まったようだ。俺たちは昼にロビーで落ち合うことを決め、それぞれの行動に移すのであった。

 

「お前はどうして父上に会いに行く?」

 

 アルノーと呼ばれた男性が運転する車の中で、ユーシスはそんなことを聞いてきた。移動している間の時間つぶしというわけではないようだ。なぜ俺が呼ばれたのかを見極めようとしているのだろう。

 

「公爵家から呼ばれたからと言ったと思うんだが」

「本当にそれだけか?」

 

 すぐに切り返してくるユーシス。その目は何かを探るような目をしている。俺が何かを隠していることに気付いているのだろう。その何かを探り当てたいと言ったところか。

 さて、どうしたものか。自分の昔の家業のことを教えるべきかどうか。俺が何か隠しているのは、今回の1件でばれているだろう。だったら、今がちょうどいい機会かもしれない。ただ、力の制限や話す内容のことを考えるともう少し後にしたい気もする。ああでも、ユーシスとアルバレア公爵の前に立ったら、すぐにばれるだろう。

 

「フン、どうやらまだ何かありそうだな。……まあいい、そのうちわかるだろう」

 

 どうするかで悩んでいると、ユーシスは俺が話さないと思って聞くことをあきらめたようだ。まあ、最後にユーシス付け加えたことはすぐにやってきそうだ。




連続投稿します。
次の話の部分と合わせて書きたかったのが理由です。細かいところなんですがこだわっておこうと思いまして。
では、引き続きどうぞ。

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