「それで、どうする?このまま各自でダンジョン区画に行くわけにはいかないだろう」
全員が開いた扉の前に集まったことを確認して声をかける。ちょうど声をかけ時に銀髪の少女が扉を出ていくところを見かける。気配を消していて、俺以外に誰にも見つかっていない。慣れ合う気はないってことかねえ。
「ああ、武術の未経験者もいるだろうし、グループに分かれて行動したほうがいいだろう」
気が付くと黒髪の男子が答えてくれていた。まあ、妥当な案だろう。武術の未経験者にここを突破するのは難しいだろうしな。ぱっとみ武術経験者はユーシス、俺、黒髪の男子、長身の男子、青髪の女子、リアとさっきの銀髪の女子だろう。その他は少したしなんでいる奴から待まったくたしなんでいない奴もいるようだ。
「まあ、妥当な案だろうが、ユーシスとマキアスを同じ班にするわけにはいかないだろう?そういった班分けはどうする?」
「「当たり前だ!!」」
俺の言葉にユーシスとマキアスが同時に言葉を返してくる。ほんと仲がいいのか悪いのかわからないな。まあ、今口喧嘩を始めようとしているから仲は悪いんだろうが。
その時、リアが扉をくぐっていくのが見えた。どうやら銀髪の少女を追うつもりなのだろう。申し訳なさそうにくぐっていくあたり、一度は言おうとしたみたいだ。ユーシスとマキアスが険悪な雰囲気を出しているのが原因だろう。
「ふむ。それなら、武術経験者で班をいくつか作り、未経験者を相性などで決めるのはどうだろうか」
答えてきたのは青髪の女子だった。ま、これも妥当な案だろう。実際のことを言うと甘すぎるのだが。ここは戦場でも裏社会でもない。今はダンジョン区画を突破できればいいだろう。そのうちサラさんがどうにかするはずだ。
「だったらここにいる9人を、4人と5人の2グループに分ける形でいいか?」
俺の言葉に全員が疑問を浮かべている。何かおかしいことを言っただろうか?
「いや、11人じゃないか?」
黒髪の男子が丁寧に教えようとしてくれたが、残念ながら間違っているのはそっちだ。どうやら気配を消していった2人のことは誰も気付いていなかったらしい。
「リアと銀髪の少女なら先にダンジョン区画に入っていったよ」
その言葉でようやく気付いたみたいだ。こいつら本当に大丈夫か?少し心配になってくる。
「とりあえず、黒髪のあんたと長身のあんた、ユーシスに青髪のあんた。武器を見せてくれ」
武術の経験者と思われるメンバーに声をかける。ユーシスを呼び捨てにしたのはこっちのほうが本人好みではないかと思ったからだ。無用に畏まると、逆に苛立ちそうな性格をしていそうだし。
黒髪の男子は「太刀」、長身の男子は「十字槍」、ユーシスは「騎士剣」、青髪の女子は「大剣」だった。
「そなたの武器はなんだろうか?」
青髪の女子にきかれた俺は自分の足から「符」を取り出し、見せる。どうやら全員どうやってこの符で戦うのかわからないようだ。まあ、わかる人のほうが珍しいだろうが。
俺はその符を近くの壁に貼り、少し離れる。全員が俺の行動に疑問を浮かべている。
「『爆炎符』!」
俺の声とともに壁に貼った符が爆発し、火を噴き上げる。これに対してほとんどの奴らが驚いたものの一部の奴らは反応が違った。どういった原理でと解明しようとしている奴がいる。
「聞かれても原理は答えられないからな。それより、班分けだが黒髪と長身で1つ、俺とユーシスとラウラで1つでいいか?」
原理を知りたそうにしていた奴は残念そうな表情をする。班分けに関しては反対の意見がなかった。むしろ、全員が納得しているようだった。
「それじゃあ、残りの人も武器を見せてくれるか?」
黒髪の男子が残りの奴に声をかけてくれる。どうやら、彼にはまとめる才能がありそうだ。いままで、仕方なくやっていたのであとは任せることにしよう。
残りの奴の武器も見事にばらばらだった。金髪の女子が導力弓、メガネ女子と紅毛の男子が魔導杖、マキアスがショットガンだった。まあ、武器を聞かなくても班分けは決まっていたようなものだが、武器バランスもまったく問題ないようだ。俺たちはついでに自己紹介も済ませることにした。
A班:リィン・シュバルツァー(黒髪)、ガイウス・ウォーゼル(長身)
エリオット・クレイグ(紅毛)、マキアス・レーグニッツ(緑髪)
B班:テオ・フォイルナー(俺)、ラウラ・S・アルゼイド(青髪)
ユーシス・アルバレア(金髪貴族)、アリサ・R(金髪女子)
エマ・ミルスティン(メガネ)
ユーシスがB班にいることでマキアスはA班へ行った。逆にリィンがA班にいることでアリサがB班に来た。女子1人は可哀想だろうとエマもB班になり、人数と武器的問題でエリオットがA班になった。
「それじゃあ、先に行った2人を探しながらA班、B班は別々に探索。彼女たちを見つけ次第、班に合流してもらおう」
「あの二人なら大丈夫な気がするけどな」
リィンがまとめに入ったところで、2人の話題が出てきたので、一言入れておく。この程度のダンジョンなら問題ないだろうし、なにより彼女たちはあまり無理をしないだろう。
「念のためだよ。それじゃあA班は出発するよ」
リィンを戦闘にA班は歩き出した。さて、こちらは作戦会議をしてから出ていくべきだろう。
《飛び猫》の攻撃を回避し、符を貼りつけてから戦線を離脱する。横目でラウラが今の敵に走りこんでいるのを確認した。
「『招雷符』!」
ラウラが敵に辿りつく少し前に符を発動させる。何もない空間から雷が落ち、それで敵の体勢が崩れる。そこを容赦なくラウラの大剣が振り下ろされる。ラウラの一撃で《飛び猫》は息絶えた。正直なところオーバーキルな気もする。《飛び猫》に黙とう。
「なにしているのだ?」
「いや、気にしなくていい。それより全員戦闘に慣れてきたみたいだな」
エマとアリサも《アーツ》と己の武器の特性を活かして戦っている。最初に比べたら、頼りになる戦い方になった。ラウラやユーシスもまだまだ成長の伸びしろはある。案外《Ⅶ組》の成長を見ていくのも面白いかもしれない。
少し休憩をした後、俺たちは先に進んでいた。どうやらだいぶ余裕が出てきたみたく、アリサとエマが話している。
「それにしても長いわね」
「ええ……一体いつまで続くんでしょうか」
「もうそろそろ終わりと信じたいわね」
ふむ、こういったところは話を盛り上げたほうがいいのだろう。今までそういったことをしたことはないが、やってみるのもありかもしれない。俺はアリサとエマの会話しているところに近づき、会話に参加する。
「アリサはリィンのことを許したのか?」
「許すわけないでしょ!」
俺が会話に入った途端、アリサが不機嫌になった。あれ?会話の選択をミスった?やばい、アリサに睨まれている。なんかフォローしないと。
「でも、リィンはアリサのことを助けようとしていたよな?」
「うっ……」
これで言葉に詰まるあたり、自覚はあるのだろう。あぁでも、ラッキースケベには罰を与えるべきな気がしてきた。ビンタ一発がむしろ許せない。
「やっぱりアリサ、もっとリィンをビンタするべきだ」
「……あなた、仲直りさせたいのか、させたくないのかどっちよ?」
呆れを含んだ口調で言われた。隣のエマも笑っている。ユーシスの露骨なため息には少し腹が立つが。
「いや、あのラッキースケベには鉄槌を下すべきだと思ってな。アリサが無理なら代わりに俺がやるぞ?俺の符ってそういったことにも便利に使えるし」
「い、いいわ。早く謝って仲直りするから」
アリサはあわてたように仲直りの宣言をする。なにやらリィンが危ないと言っているのが気になるが。
「そうか、残念だ」
俺から手を出すことはやめといた方がいいな。できれば鉄槌を下したかったが、アリサがこういっているのだ。諦めよう。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
あたりに魔獣の咆哮が響き渡った。これは魔獣が撃破された時にあげるものか?それとも、戦闘中にあげているものか?どっちにしろこの道中に戦ってきたような魔獣ではなく、もっと強いタイプだろう。急いだ方がよさそうだ。さっきの咆哮ならここからは近いだろう。
「ここから近いから走るぞ!」
それと同時に俺たちは走り出した。間に合ってくれるといいのだが。A班が戦っているならまずい。A班は引き際を間違える可能性がある。それに無茶しそうだ。2人組のほうは大丈夫だろう。あの2人の場合、無茶はせず引き際も間違えないだろう。
目前の扉の先から魔獣の声が聞こえる。どうやらまだ生きているようだ。4人の気配もあるからA班も無事のようだ。
「エマとユーシスは中に入ったらアーツを放ってくれ。最大威力ので頼む。詠唱時間は気にしなくていい!」
「わかりました」
「ああ」
「アリサは弓で敵を牽制してくれ。ラウラはさっきまでと同じで頼む!」
「わかったわ」
「心得た」
走りながら4人に指示を出す。4人とも素直に従ってくれてありがたい。
部屋に突入するとそこには人の身長の1.5倍くらいの竜とそれを相手にするA班がいた。A班のほうは疲労がうかがえる。だがなんとか間に合ったみたいだ。
「お前ら下がれ!」
A班はこちらを確認した後、素直に前衛から下がった。アリサの弓の牽制で離脱はしやすかったようだ。
俺が近づくと竜は右手でひっかくような攻撃をしてきた。俺はそれをジャンプで相手の背中に回ることでかわし、相手の背中に1枚の符を貼る。それとは別の符を相手の両足に貼る。敵は俺に追撃しようとしていたので前衛を離脱し、ラウラの様子をうかがった。どうやら突入を始めるところのようだ。
「『爆炎符』!」
俺はタイミングよく背中に貼った『爆炎符』を発動し、敵の隙をつくり、ラウラの一撃が入りやすいようにする。ラウラは一撃を入れると無茶はせず、前衛から離脱した。どうやらまだ息絶えないようだ。
「ファイアボルト!」
「ゴルトスフィア!」
ちょうどエマとユーシスの《アーツ》が発動された。どうやら間をつなぐ必要はなかったようだ。エマの発動したアーツは自身の前に炎ができ、それが竜に向かって飛んでいく。ユーシスの発動したアーツは敵のまわりに3つの球が浮かび上がり、それが一気に竜に当たり砕け散る。どうやらアーツを食らわせても、まだ殺し切れなかったようだ。
どうやらA班も持ち直したようだ。A班とB班のみんなが敵を囲むように立っている。この人数なら勝機さえつかめれば簡単に勝てるだろう。だったら、俺がその勝機をつくってやろう。
その時、俺たちを青白い光が包んだ。どうやら《戦術リンク》がつながったようだ。サラさんから事前に聞いていたが、これほどまでとは思わなかった。俺がつくる勝機から全員がどう動こうとしているかが伝わってくる。これは使いこなせれば便利だろう。
「『招雷符』!」
俺の声に反応して、敵の両足に貼った符が発動する。突如現れた雷は敵の両足に当たり、体勢を崩した。それを気に全員が攻撃を仕掛ける。最後はラウラの大剣で敵の首を切り落として終わった。
敵が動かないことを確認すると、俺たちはその場に座り込んだ。多くメンバーは体力の限界で、俺は精神的疲労で座り込んだ。リーダーを務めるのが初めてで、かなり疲れた。それでも、やったことに後悔はしていない。このメンバーが成長するところを見るのは楽しかった。
「それにしても……最後のあれ、何だったのかな?」
エリオットが疑問を掲げ、全員がそれについて考える。《戦術リンク》はサラさんの口から伝えるようなことを言っていた。今ここで俺が口をはさむべきではないだろう。
それより、気になることが一つできてしまった。
「なあ、リィン。あそこにある石像。さっきの竜に似てないか?」
「え?」
俺が指さす先には、先ほどの竜とそっくりの石像があった。あの石像はよくできていると思う。
「おい、どうしたリィン」
気が付くとリィンは何も話さず、じっと石像を見ていた。まるで、何かを祈っているようにも見えた。
「い、いや。さっきの竜はあれが動いて襲ってきたんだよ」
「……ってことはだ、あの竜の石像ってーー」
俺の言葉が全部言い終わる前に、答えは示された。いきなり、指さしていた石像が動き出したのだ。そういえば、自分でフラグを立ててしまっていた気もする。
ほんといやだ。勘弁してくれ。
あれ?マキアスとユーシスが最初から班行動してる?
テオがいるだけでこれだけ違うってことですね。多分。
そして、今回は初の戦闘描写がありました。
個人的には判りやすく書いたつもりなんですが、わかりにくいでしょうね。
これからも努力していきます!
補足 テオの《マスタークオーツ》は《ジャグラー》です。
《ジャグラー》は状態異常付与の《マスタークオーツ》ですね。
個人的には《サイファー》にしたかった。他キャラの装備なんでしませんけど。
《サイファー》は能力低下付与の《マスタークオーツ》です。
まあ、今のところあんまり関係ない。