力と心の軌跡   作:楓と狐

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今回はリア視点です。
視点がよく変化するのは仕方がないと思いたい。


3月31日 特別オリエンテーリングⅢ

「フィー。今何か聞こえなかった?」

「ん。魔獣の咆哮が聞こえた」

 

 やはり私の聞き間違えではないようだ。となると、《Ⅶ組》のメンバーが戦闘している可能性が高いだろう。咆哮をあげるような魔獣は未だ遭遇していないことを考えると、この迷宮区のボス的存在なのだろう。戦っているメンバーが危ないかもしれない。

 

「フィー。少し急ごうか」

「了解」

 

 私たちは歩くペースをはやめた。咆哮が聞き逃しそうなほど小さかったから、ここからは遠いのだろう。走って行っても、到着した時に体力がなければ意味がない。フィーもそれは判っているらしく、私と同じように歩くペースをはやめるだけだった。できれば、私たちがつくまでに終わっているほうがいいのだが、無理な場合は私たちがつくまで持ちこたえてほしい。

 

 

 

 どれくらい歩いただろうか。未だ終点につかない。それに咆哮をあげた魔獣も気になる。他の《Ⅶ組》のメンバーの安否も知りたい。それはフィーも同じみたいでそわそわしているのがわかる。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 さっきよりはっきりと魔獣の咆哮が聞こえた。場所はこの通路の突き当りの扉の先からだ。私とフィーは何も言わず同時に走り出した。これだけ近ければ走っていても、体力は尽きない。

 

「リアは入ったら一番強いアーツの準備をして。わたしが敵を引き付ける」

「いいけど、フィーは大丈夫?」

 

 フィーは頷きで答えを返してきた。フィーがこういうなら大丈夫だろう。私はフィーの言うとおりに行動するだけだ。

 

「マスタークオーツ変えてからアーツを放つよ。放つアーツは『クリスタルフラッド』ね」

了解(ヤー)!」

 

 ちょうどそのタイミングで部屋に突入した。部屋には首の切り落とされた一匹の竜。その周りに座り込む《Ⅶ組》の面々。それを今にも襲い掛かろうとする別の竜がいた。どうやら《Ⅶ組》の大半は疲れて動けないようだ。

 フィーは双銃剣を発砲し、敵の注目をこちらに引き付ける。どうやら《Ⅶ組》に被害が出ることを抑えられそうだ。私は《タウロス》から《アリエス》にマスタークオーツを変更し、《アリエス》に触れアーツの準備をする。アーツの準備は集中しなければいけなく、動けないのが難点だ。だが、フィーの考えていることと行動は《ARCUS》を通じて伝わってくる。フィーは敵の行動を自分に引き付けつつ、敵の攻撃をよけている。敵に隙があれば攻撃することを忘れていない。しかし、敵の攻撃を一撃でもくらえばこの均衡は崩れる。私はアーツの準備を急いだ。

 私はアーツの準備ができると、すぐに《ARCUS》を通じてフィーに伝える。フィーはこちらを振り向きもせず、一撃を入れて戦線から離脱した。どうやらフィーは私がアーツを放ちやすいように敵をこちらに引っ張り出し、《Ⅶ組》を巻き込まないようにしていた。おかげで何も考えずに最大火力でアーツを放つことができる。フィーに感謝を。

 

「クリスタルフラッド!」

 

 アーツを放った途端、私から竜にめがけて氷の道が出来上がる。そしてその先にある竜は氷漬けされる。少しして氷は砕け散り、竜も息絶えたようだった。

 フィーと私はそのことを確認すると、互いに近づきハイタッチをする。今日の探索でフィーと繰り返してきた行動だ。もう癖になりつつあった。

 

「すごい。たった二人であの竜を……」

「ああ。銀髪の子の動きが特にすごかったな」

「アーツのほうも私たちが使えないレベルのアーツでした」

「付け加えると、あの二人は互いがわかっているように動いていたわね。敵をアーツの範囲に引っ張り出すのも、前衛から離脱した時も互いを見ずに動いていたわ」

 

 エリオット君、黒髪の男子、メガネの女子、金髪の少女と私たちの戦闘に感想を漏らしてくる。恥ずかしいからできればやめてほしい。フィーのほうをみると、嬉しそうにしていた。私はフィーが羨ましいよ。

 

「アリサが言ったのはあの2人の相性がいいこともあるでしょう。けれど、最大の理由は《ARCUS》の真価である《戦術リンク》にあるでしょうね」

 

 気が付くと《Ⅶ組》の前にはサラさんが立っていた。どうやら、ここでのことは見ていたんだろう。いざとなれば助ける準備はしていたみたいだ。

 

「これにて入学式の特別オリエンテーリングは全て終了なんだけど……なによ君たち。もっと喜んでもいいんじゃない?」

 

 どうやら喜んでいる人はいないようだった。私たちには疲労と疑い、不信感の表情が浮かんでいるだろう。

 

「単刀直入に問おう。特科クラス《Ⅶ組》……一体何を目的としているんだ?」

 

 身分や出身に関係ないのはこのオリエンテーリングを始める前の会話でわかる。けれど、私たちが選ばれた理由は判らない。他にも貴族や平民生徒はいる。なぜ私たちなのかが知りたい。

 

「一番わかりやすい理由はその《ARCUS》にあるわ」

 

 そういってサラさんは《戦術リンク》の説明を始めた。どんな状況下でもお互いの行動を把握できて最大限に連携ができる。そんな精鋭部隊が軍にあれば、ありとあらゆる作戦行動が可能になる。戦場における“革命”といってもいい代物だ。だが、現時点での《ARCUS》には個人的な適正に差があり、新入生の中で私たちが特に高い適性を示したこと。それが私たちが身分に関係なく選ばれた理由だと。

 サラさんは一息あけて私たちに質問を投げかけた。

 

「《Ⅶ組》に参加するかどうかーー改めて聞かせてもらいましょうか?」

 

 誰も動き出せず、互いに顔を見合わせる間が少しの間続いた。それを破ったのは黒髪の男子だった。

 

「リィン・シュバルツァー。--参加させてもらいます」

 

 自分が高められるならどこのクラスでも構わない。リィンは続けざまにそういった。当然《Ⅶ組》のカリキュラムはほかのクラスよりハードなものになるだろう。リィンにとってはこのクラスに在籍する方がいいのだろう。

 

「ーーそういう事ならば、私も参加させてもらおう」

「ーー俺も同じく」

 

 似たような理由で青髪の女子は参加の意を示した。続けてやりがいのある道を選びたいと長身の男子も参加を表明した。どうやら青髪の子が新入生最強の使い手で、長身の男子は留学生みたいだ。

 

「私も参加させてください」

「ぼ、僕も参加します……!」

 

 次に参加を表明したのはメガネの女子とエリオット君だった。奨学金をいただいているから協力をしたいとメガネの女の子が、エリオット君はみんなとは上手く行きそうだからと参加をする。正直、エリオット君が参加するとは思わなかった。どうやら、彼は私の知っているころから少し変わったのかもしれない。

 

「ーー私も参加します」

 

 そういって参加したのは金髪の女子。彼女はリィンがいるクラスに参加するとは意外だ。案外、脈ありかもしれない。これは応援のしがいがあるかもしれない。

 

「これで6名ーーテオとフィー、あんた達はどうするの?」

 

 ここでサラさんはテオとフィーに振った。

 

「俺は面白そうだから参加で」

「別にどっちでも。サラが決めていいよ」

 

 何が面白そうかわからないがテオが参加した。フィーは本当にどっちでもいいようだった。サラさんに自分で決めなさいと言われている。どうやら、入学前に自分のことは自分で決めると約束をしたみたいだ。

 

「めんどくさいな。じゃ、参加で」

 

 参加の理由としてそれはないでしょうに。むしろほかのクラスに行った方がめんどくさくないだろう。決して口にはしないが。サラさんも呆れていた。

 

「これで8名だけどーー君たちはどうするつもりなのかしら?」

 

 サラさんの視線はマキアスとユーシスのほうへ向く。この2人が一番の問題なのだろう。このオリエンテーリングで一番仲が悪かったのかもしれない。テオにきくと正確に教えてくれるはずだ。

 無言の2人にサラさんはちょっとした冗談を投げかける。それに反応したのはマキアスだった。

 

「帝国には強固な身分制度があり、明らかな搾取の構造がある!その問題が解決しない限り、帝国に未来はありません!」

 

 確かに搾取の構造はある。この2年間の旅で散々見てきた。なかにはそういったことも好まない貴族もいたが、現状はひどいものだ。だが、それを今ここで言ったってしょうがない。それはマキアスもわかっているはずだが。

 

「ーーならば話は早い。ユーシス・アルバレア。《Ⅶ組》への参加を宣言する」

 

 いま、マキアスの言葉を聞いて、参加を表明した?どうやらユーシスにも思うところはあるようだ。このユーシスの参加にマキアスは食いついた。相変わらずのようだった。ユーシスも偉そうな言葉遣いで返事をしている。本当に面倒な2人だ。

 

「ーーマキアス・レーグニッツ!特科クラス《Ⅶ組》に参加する!」

 

 喧嘩の流れのままマキアスは参加した。今の流れ、ユーシスがマキアスを参加にもっていったようにも見える。私の気のせいだろうが。

 

「これで10名。--リア。最後はあんたね。あんたはどうするつもり?」

 

 サラさんは最後に私に聞いてきた。この質問に答える前に、サラさんに聞いておきたいことがあった。サラさんもそれを配慮して最後にしてくれたのだろう。

 

「その前に1つ聞きたいことがあります。サラさんはどうして私を誘ったんですか?」

 

 サラさんは私の質問を聞くと少しの間、目を閉じ考えているようだった。その間、私はじっとサラさんを見ての答えを待っていた。

 

「それを聞くってことはあたしの言いたいことは判ってるんでしょ?あたしはもう決めたから、あとはリア、あんたが決めるだけよ」

 

 そういってサラさんは微笑んだ。やっぱりサラさんはそのために私をこの学院に誘ったんだ。2年前の事件から、あの人の死から逃げ出さず、前に進もうと。それも、1人で進めるはずのサラさんが、私と一緒に進もうとしてくれている。本当におせっかいだと思う。

 この2年間旅を続けていても忘れることはできなかった。むしろ、より鮮明にあの幸せの日々を思い出せるようになった。サラさんの言う通りいい加減前に進むべきかもしれない。サラさんとならーーサラ姉さんとなら乗り越えられると思うから。

 

「リア・ケルステン。《Ⅶ組》に参加します」




ノリでやってしまった感が否めない。でも、後悔はしてない。
序章はここで終わります。次回から1章に入ります。
閃の軌跡Ⅱが発売されたら、当分の間は更新できないだろうと思います。
なので、その分ストックしてる分を投稿しておきます。
ストックの2/3ぐらいの投稿はしておきます。

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