私は寮の自室の机に手紙を書く準備をしていた。一か月ぶりにおかあさんへ書いてみようと思ったのだ。今までは旅をしていて一方的に送るだけだったが、今回からは返信も期待できる。おかあさんがどう過ごしているのか気になっているので、時間があるときに書いておこうと思ったのだ。
「でも、その前に水分補給しよっと」
一通り準備ができたところで、1階の食堂へと降りていく。女子は3階に部屋が割り当てられているので、階段の上り下りが一苦労だ。こういう時は2階の男子が羨ましく思う。まあ、男子と女子が同じ寮に住む時点で仕方がないことなのだろうが。
1階の食堂に入ると、そこには先客がいた。
「エリオット君、何しているの?」
「あ、リア。実家から荷物が届いたみたいでさ。これがまた重いのなんの……」
私はキッチンに入り水を飲みながら彼のほうを確認する。彼の前には2つの大きな段ボール。実家から届いた荷物とはそれのことだろう。確かに2つ一気には持ってあがれなさそうだ。
「1つ持ってあがろうか?」
「え?重いから別にいいよ。僕一人でも持ってあがれるし」
「1人で持ってあがるよりは2人のほうが早いし。私に気を遣わなくていいよ」
私はコップを洗い、元の場所に戻した。そのあとエリオット君に近づき、一方の荷物を持つ。思っていたより重かったが、持ってあがれない重さではなかった。
私の行動を見てから、彼はもう一方の段ボールを持った。彼のほうも思っていたより重さがありそうだ。一体何が入っているのやら。
「手伝ってくれてありがとう」
「別にいいって。こっちが言い出したことだし」
荷物をもってエリオット君の部屋に向かっている最中、彼は感謝を言葉にしてきた。相変わらずまじめな子だ。
「それよりこれって何が入っているの?」
「大量の衣服に日用品、食料品、あと実家で使っていた楽譜だったよ。さっき食料品は下で片付けてきたけど」
「楽譜も入っているんだ。今度、聞かせてほしいな」
「あはは……そのうちね」
彼のことだ、上手いんだろうなあ。お姉さんも演奏が上手かったし、エリオット君もたくさん練習していたからなあ。「そのうち」に期待しておこう。
彼の部屋につくと、私たちは運んできた段ボールを床に置いた。そのままの流れで私は荷物整理を手伝うことにした。私も時間に余裕はあるのでこれくらいは大丈夫だ。
「うわあ、さすがにこれは多いね……」
段ボールを開くと中身は思っていたよりも詰め込まれていた。指定の制服がある学院生活でこんなにも衣服はいらない。日用品はあって損はしないが1度に送る量としては多い。この様子だと食料品も多かっただろう。
「でしょ?姉さんったら過保護なんだから……」
「あはは。相変わらず仲が良い姉弟みたいだね」
「え……?」
「え?どうかした?」
何か私に失言があっただろうか?それとも、何か仕送りに問題があったのかな?
「……リアって僕たち姉弟のこと知っているの?」
ああ、そういうことか。やっぱり気づいてなかったんだ。あんまり出会ってなかったとはいえ、少し寂しいかな。
「知っているよ。エリオット君の家の近くにテレーゼ・ケルステンって名前の人がアパートを借りていると思うんだけど。知らない?」
「……もしかして、テレーゼさんってリアの母親?」
「義理のだけどね」
どうやらお義母さんのことは知っていたようだった。まあ、お義母さんとエリオット君のお姉さんが仲良かったから、自然と知り合いにはなるのかもしれない。
「あれ?でも、テレーゼさんって2年前から1人暮らししていたような……」
「そうだよ。その2年間私は旅に出ていたから。そして、そのままここに入学」
「じゃあ僕たちが出会っていたことがあるのは……」
「2年以上前だね。だから忘れていても仕方ないよ」
私とエリオット君は名前を知っている近所の知り合いみたいな関係だった。お義母さんの影響で多少は関わったぐらいだろうか。それでも、お義父さんとよくいた私は関わる機会が少なかっただろう。
「リアが僕にだけ君付けなのは、昔にそう呼んでいたから?」
「うん。そうだね。呼びなれているのが君付けだから」
私は他の《Ⅶ組》のメンバーや同じ学年の友達は全員呼び捨てにしている。エリオット君だけ“君”が外れないのだ。自然と“君”がついた状態で呼んでしまう。
「やっと謎が氷解した気分だよ……。リアが僕について少し詳しいように感じたのも、他の人と少し態度が違うのもこれが理由だったんだね」
「あはは。ごめんね。色々と迷惑かけてしまったみたい」
「少し不思議に思っていたくらいだから大丈夫だよ」
エリオット君はすっきりしたような表情をしていた。そんなに疑問に思っていたなら聞いてくれればよかったのに。また、いらぬことを考えて遠慮していたのだろうか。
「とりあえず、残りを片付けてしまおうか」
「そうだね」
私たちは荷物の整理を再開した。
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お義母さんへ
1か月ぶりの手紙でごめん。いろいろ立て込んでいて手紙を書くのが遅れた。
サラ姉さんから聞いているかもしれないけど、トールズ士官学院に入学したんだ。旅は一旦お預けで、これから2年間サラ姉さんが担任のクラスで頑張ろうと思う。まあ、来年はサラ姉さんが担任かわからないけど。
この学校に入っていろいろな友達ができたよ。一番仲が良いのは銀髪の女の子で「フィー」って子。猫みたいな気ままな子だけど、一緒にいて楽しい。これからもずっと仲良くしていたい。
そういえば、同じクラスにエリオット君がいたよ。彼もこの学院に入学したんだね。彼は私のことを覚えていなかったみたい。けれど、さっき近所に住んでいたことがばれたよ。なんだかいろいろ納得されたけど、彼ともこれから仲良くやっていければなあって思っている。
最後に1つお願い。寮生活を始めたから、お義母さんの手紙を受け取れるようになったよ。だから、お義母さんからも手紙を出してほしい。私もお義母さんの様子を知っておきたいから。
また、時間ができれば家に帰ります。何時になるかわからないけど、なるべく早く帰りたいなあと思っています。
リアより
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手紙を書き終えポストに出した後、私は街道に出て短剣の特訓をした。昔、師匠に教えられた特訓ほうだ。最初のころは無茶だと思っていたが最近はできるようになっていた。
特訓を終えた私はシャワーを浴びた後、第二学生寮へと訪れていた。これから寮の門限ぎりぎりまで、同じ学年の生徒と集まって雑談を繰り広げる予定なのだ。
「あれ?リア。もう来てたの?」
「思ったより早く用事が終わったからね。ヴィヴィこそ早いよ。いたずらはしてこないの?」
彼女は1年Ⅳ組のヴィヴィ。悪戯好きの女の子で私も悪戯をされたことがある。それ以来仲良くしている。彼女には双子の姉のリンデがおり、こちらは物静かな女の子だ。リンデのほうも1年Ⅳ組に属している。
「昼間、散々したわ。《Ⅶ組》の黒髪君にもしたわよ♪」
「ああ。リィンのことね。どんな悪戯をしたの?」
「下着の見比べを頼んだわ」
「ヴィヴィ。それはやりすぎだよ……」
相変わらず悪戯のレベルが悪質である。唯一救いなのは後腐れがないようにしっかり後処理をすることぐらいだろうか。
「今度はリンデに変装して悪戯しようかな」
「もう、ヴィヴィ。また、悪戯したの!?」
「いいじゃん。面白いんだし」
噂をすればなんとやら。双子の姉のリンデがやってきた。この2人は毎日こんな会話をしているような気がする。よくも飽きないものだ。
「あ、リアだ。こんなところでどうしたの?」
声がしたのは第二学生寮の玄関。そこには荷物を持ったコレットがいた。私に話しかけるべく、座っているところにコレットが近づいてきていた。申し訳ないなあ。
「これから、雑談会をしようかと思ってね。コレットは1日中ショッピング?」
「ううん。午前中は学院で生徒手帳探していたよ。生徒会の手伝いのリィン君がきてくれなかったら見つからなかったよ」
「リィンが生徒会の手伝い?なんかあったのかな?」
そういえば、昨日も生徒会から生徒手帳の配布を頼まれたとか言っていたなあ。それに、サラ姉さんがリィンに頼み事をしたとかも言っていたような。リィンはもしかしたらサラ姉さんの被害にあっているのかもしれない。ご愁傷様です。
「ねえ、リア。私も雑談会に参加してもいい?」
「ん……コレットなら問題ないと思う」
「やったあ。それじゃあ荷物を置いてくるね」
そういってコレットは階段を上っていった。コレットなら見ず知らずの相手でも仲良くなれるから問題ないだろう。それに今回は初対面の人もいるみたいだし。
「えっと、ここでいいのよね?」
「あ、ブリジット。こっちだよ」
再び玄関のほうより声が聞こえる。第二学生寮ではほとんど見ない白色の制服。1年Ⅱ組の貴族生徒のブリジット。彼女もこの雑談会の一員として呼んでおいた。メンバーには了承済みである。
「なんだか、視線が痛いのだけれど……」
「あはは、そりゃあねえ。第二学生寮にその寮生でない赤と白の制服がいれば目立つよ」
「確かにそうね……」
どうやら彼女の性格を考えると、商店街の喫茶店で集まったほうがよかったかもしれない。今日のところは我慢してもらおう。
「それよりリンデ。みんなの視線を集めてるよ」
「え……」
先ほどまで口論をしていた双子。ヴィヴィがリンデに周囲の状況を伝えると、リンデが固まった。まわりを見渡した後、恥ずかしそうに椅子に座る。その様子を楽しんでみているヴィヴィも椅子に座った。ヴィヴィのことだわざと怒られて視線を集めていたのだろう。本当に悪戯心が過ぎるというものだ。
「ごめんなさい。待たせてしまって」
やってきたのはモニカ。どうやら急いで帰ってきたようだ。
「いや、まだ揃ってないから大丈夫だよ。それにただの雑談だからそこまで気負わなくて大丈夫」
「あれ?集まるのは5人では?」
「1年Ⅳ組のコレットも参加したいって言っていたから、もうすぐ来ると思う」
「へぇ、コレットも来るんだ。リンデ、ヴィヴィを演じてみない?わたしはリンデを演じるから」
「やらない。というか、ヴィヴィ。いい加減に反省して!」
先ほどコレットとした約束を伝えると、ヴィヴィが新しい悪戯を考えついていた。ヴィヴィとリンデが入れ替わって、リンデの姿でコレットに悪戯をする気だったのだろう。まあ、姉のリンデに断られているわけだが。
「あの2人、髪型と口調でしか区別できないわね」
「ヴィヴィがリンデに変装していることがあるから、それも頼りにならないけどね」
「できればやめてほしいわね……」
ヴィヴィがリンデの真似をしていると、本当にリンデに見える。口調も髪型も完璧にリンデを真似をしている。2週間仲良くしてきた私でも未だヴィヴィかリンデかわからない。
「それにしても、すぐに喧嘩を始めるよね……」
「まあ、ヴィヴィが聞き流しているだけだけどね」
そのあと、コレットが来るまでリンデはヴィヴィを叱っていた。
なんと、リアとエリオット君はご近所でしたとさ。まあ、そんなに仲がよかったわけではありませんが。
さらに、さらに、今回はブリジットさん、リンデさん、ヴィヴィさんの初登場です。
まあ、今後出てくるかもわからないのですが。できれば出したい。特にヴィヴィさんとリンデさん。理由は察してください。
自由行動日のテオの視点はありません。というか、本人の言っていた通り生徒会室で手伝ってます。
一応ストックの投稿はここで終了となります。
もう一つ作ってあるのですが、少し変更したくなりました。
投稿ペースがどうなるかわかりませんが、今後ともよろしくお願いします。