そして、今回は短めになっていると思います。
では、テオ視点でどうぞ。
特別実習1日目。俺たちA班は午前6時40分までに第三学生寮の玄関に集合することになっている。
普段の俺は午前6時に第三学生寮を出て、生徒会の手伝いに行っている。そのため今日は40分ほど暇をすることになる。リアのように散歩をして時間をつぶすのもいいが、見慣れた街を散歩する気にはなれなかった。それならいつも通りに行動しようと思い、俺は生徒会室に足を進めていた。生徒会の手伝いはさせてもらえないだろうが、トワ会長と喋って時間をつぶすぐらいはできるだろう。
「トワ会長、おはようございます」
「あ、おはよう、テオ君。……あれ?今日って特別実習の日だよね?」
「集合時間まで時間があるので、喋りに来ました」
学院前の分岐路でトワ会長と出会った。朝から生徒会を手伝うようになってからはここで待ち合わせをしている。今日は特別実習があるので待ち合わせをしていなかった。いつも通りに出会えてよかった。
「実習の準備は大丈夫かな?」
「多分、大丈夫だと思います。向こうでどんな無茶振りをされるかわからないので、絶対とは言い切れませんが」
「あはは……大丈夫だよ。いくらサラ教官でも無茶振りはしないよ」
そうであると信じたいのだけど、今までの前科があるからねあの人。まあ、達成できないことを要求されたことは一度もないが。今回も初めてということである程度は簡単なはずだ。リィンとアリサが仲直りしていてくれると、もっと楽になるのだが。
「でも、絶対に無茶はしないでね。なにがあっても無事に帰ってきてね?」
「わかってますよ。会長のほうこそ無理はしないでくださいね」
「ふぇ?む、無理なんてしないよ」
「どうだかなぁ。会長は自然と仕事増やしていくタイプだし」
3週間、生徒会で働いていてよくわかった。教官からの仕事や生徒会に届く「依頼」。それらを許容量を超えないか心配になるほどもらってくるのだ。俺が手伝い始めてからは少し量が増えた気もする。だから、この特別実習で抜ける2日間が心配であったりする。
「ふふ、だったら私がトワの様子を見ておこうか?」
気が付くと後ろに黒いつなぎを着た女子がたっていた。2年の貴族生徒のアンゼリカ・ログナー先輩だ。ユーシスと同じで、《四大名門》の一角を担うログナー侯爵家の娘である。本人曰く、こんな不肖の娘は勘当されているだろう、とのことだ。まあ、彼女が貴族生徒らしくないのは見ていればわかる。まず、服装からしておかしい。貴族生徒の白い学生服を着ておらず、黒いつなぎ。この人が白い制服を着ているところを見たことがない。
「お願いします。無理をしそうなら連れ出してください」
「了解したよ。君も気を付けて行ってくるといい」
「ええ」
こう言ったところにはアンゼリカ先輩も気が利く。俺が生徒会室に通い始めたときにも何度か気遣ってもらった。仲良くなったのもその時からだ。
「そろそろ時間なので、実習に行ってきます」
「気を付けてね。テオ君」
「トワのことはこちらに任せて、気にせず行ってくるといい」
トワ会長とアンゼリカ先輩に背を向け歩き出す。後ろから会長の不満そうな声が聞こえたのは聞き流しておく。
俺たちA班の特別実習の幸先は良かった。
仲が悪かったリィンとアリサだったが、A班の集合時間には仲直りをしていた。もとより互いに謝りたいと思っていたため、きっかけさえあればすぐだったのだろう。自由行動日の夕方、リィンがアリサのラクロスの片付けを手伝ったときに、仲直りできなかったのはなぜだかわからないが。そして、仲が悪かった3週間を取り戻すように、列車ではずっとしゃべっていた。仲良くなりすぎな気もするが、今は気にしないでおこう。
列車でケルディックに向かっているときにもう一つの出来事があった。どちらの班にもついていかないと言っていたサラさんが、同じ列車に乗っていたのだ。補足説明のためにA班についてきたと言っていたが、したといえば宿への案内くらいで、そのほかは何もしていない。だけど、宿を見つける時間が減ったので良しとしよう。
「んくっ、んくっ、んくっ……ぷっっはあああああッ!!この一杯のために生きてるわねぇ!」
貿易地ケルディックにある俺たちA班が泊まる宿の一階の酒場スペース。俺たちが2階で用を済ませている間に、サラさんは昼前からビールを飲んでいた。この様子だと本音はビールを飲みに来たのだろう。だから、B班の仲が悪くなりそうなところを放置して、A班についてきたのだ。なにが補足説明をするだ。見直しかけた俺が馬鹿かもしれない。
「あら君たち、まだいたの?あたしはここで楽しんでいるから遠慮なく出かけちゃっていいわよ?」
「も、もう!勝手に纏めないでください!何なんですか『特別実習』の内容って!?」
先ほど2階で済ませていた用の1つだ。この宿の女将さんから渡された《特別実習》の課題。それは手配魔獣の討伐、街道灯の交換、薬の材料調達だった。薬の材料調達以外は必須になっていた。この形式は自由行動日にリィンへと頼んだ「依頼」とまったく同じだった。
「全部君たちに任せるからあとは好きにするといいわ」
「だ、だからそうやっていい加減なことを言わないでーー」
「いや、そうした判断を含めての『特別実習』というわけですか」
アリサがまだ問い詰めようとするところを、リィンが途中で止める。どうやらリィンには思うところがあるようだ。
《特別実習》では最低限として必須の課題を済ませておくこと。その他の行動は各班で話し合って決め、行動する。そこでとっていた行動をレポートにまとめ、後日サラさんに提出。それで、成績が決められるようだ。正直、あまりやりたくないタイプの実習だった。
「とりあえず、外で今後の方針を決めようか」
「そうね。これ以上は聞いても答えをはぐらかされそうだし」
一通りサラさんから聞き出した俺たちは、リィンとアリサの案に従い外に出ようと歩き出した。アリサが男女同室の件を問い詰めると言っていたが、すかっり忘れているようだった。
「テオは少し残りなさい」
「……わりぃ。先に外で話し合っててくれ」
立ち去ろうとしたところをサラさんに呼び止められる。俺はサラさんの言葉に従い、リィン達に先に行ってもらう。俺自身はサラさんの元に戻り、隣の椅子に腰掛ける。飲み物でも注文したかったが、そんな時間はなさそうだ。
「それで、俺を呼び止めた理由はなんです?」
「あら、すぐに聞いてくるわね?なにか飲み物を頼んでもいいのよ?」
「どうせすぐに話が終わりますよね?なら、頼む必要はないと思いまして」
「あら、そう」
サラさんはジョッキに口をつけ中身を全部飲み干す。そのあと近くにいたウエイトレスに追加の注文をした。どうやらまだ飲むらしい。ウエイトレスが離れたのを確認すると、サラさんは口を開いた。
「あんた、力をどれくらい封じてるの?」
「……さあ。適当に封じたから判りません。でも、俺の本来の力は判ってますよね?」
「ええ。ちなみにその封印は戦闘中でもすぐに解ける?」
「解こうと思えば」
「そう……」
少しの沈黙。ウエイトレスが注文されたビールをサラさんの前に置き、立ち去る。サラさんはそのビールを少し飲んでからこちらを向いた。
「本当に危険な状態になったら、その封印を開放していいからね」
「……ここはそんなにまずい状況なんですか?」
「いえ。多分、大丈夫のはずよ。ただ、もしものことがあると思ってしまうとね。経験も大切だとは思うけど、命にはかえられないからね」
「俺たちはえらく気にいられてますね」
「そりゃね。大切な教え子ですもの」
サラさんはもう一度ビールを飲む。ただ、始めに飲んでいたようなペースではない。飲んでいるのもちょっとだろう。
「だから、本当に危険で封印を解除するしか生き残れない時は頼むわね」
「……わかりました」
「ありがとね」
また沈黙の間が訪れる。外の4人に呼ばれるのももうすぐだろうから話せる内容は話しておくべきかも知れない。サラさんの主な用事も終わったようだから、今度は俺が切り出そう。
「あの課題。サラさんの元の職が関係してますよね?」
「……ええ。あの子達には言わないでね。リアやフィーも黙っててくれるはずだから」
「わかってますよ。ですが、いずればれると思いますよ?」
「そうでしょうね。まあ、それまでは隠していてもいいじゃない」
わかったうえで隠しているならば何も言うまい。後はサラさんの好きなようにすればいいと思う。これを決めるのはサラさん自身なのだから。
「おーいテオ。そろそろ行こう」
後ろを振り向くと扉を開け俺を呼んでいるリィンがいた。どうやら方針は決まったようだ。あの4人なら変な方針は立てないだろう。
「それじゃあ、行ってきますよ」
「ええ。がんばってきなさい」
俺はサラさんに一言告げ、外へと歩き出した。どうやら、サラさんはこのまま飲み続けるようだった。
やった!アンゼリカ先輩を出せた!
出せないと思っていた分、より嬉しさがこみあげてくる。
あと、露骨なフラグ回。ただ、回収は何時になるかわかりません。
というか、うかつに回収ができないです。
ラウラ対策の気がしなくもない。実力はサラ以下の予定。
忘れているころにやってくるフラグになると思います。