異世界転移した男性Vtuberが、現実の有名女性V達からモテる話。   作:梯子田カハシ

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第5話 来栖桃太の月曜日

 

 

«はい、ということで今日の配信はここまでにしたいと思います!! べ、別に深い理由なんて無いですよ? 盗賊倒したので、ここまでで良いかなって感じです。それじゃ、ばいばーい。»

 

 

俺の見つめるPC画面の中で、夢空ハルが手を振る。

…コイツ、勢いで配信終わらせやがった。

 

 

「飯まで配信すりゃいいものを。異世界の飯とか、それだけでコンテンツになるのに」

 

 

小さくボヤきながら俺は今回の夢空ハルの配信アーカイブをアップロードする。AXにもポストをして、ようやく一息つく。

 

 

「ふう、明日どうすっかなぁ」

 

 

コーヒーをひとくち飲む。

明日、俺は、来栖桃太はある1つの賭けをしに行く。

異世界に行ったとかいうフザケた同期を会社内に残す為に。自分がこの会社に残るべきかを判断するために。

 

 

「うえ、マジで行きたくなくなってきた」

 

 

俺からみて、朝霞晴斗はただの同期じゃない。

本人には言わないし、言うつもりもないが、ヤツには俺にはないカリスマ性がある。俺が朝霞と出会って感じたそれは、人事部も分かっていることだった。

 

 

「江崎取締役が社長を口説き落とせるか、だな。」

 

 

人事部の部長も兼ねている江崎取締役は朝霞と同じ高校の出身らしく、おそらく問題ないだろう。問題なのはその先にいる社長だ。

 

 

「考えても無駄だな。寝よ」

 

 

明日は月曜日。時刻は夜の1時半。

来栖桃太は軽い憂鬱とともに眠りに落ちるのだった。

 

 

 

 

 

翌朝、早々に出社した俺は一番に江崎取締役の席に向かう。まだ始業の2時間前だが、すでに取締役は出社していた。…いや、このオッサン朝早すぎでしょ。

 

 

「おはようございます。お時間よろしいですか?」

 

「おお、来栖か、おはよう。どうした? 悩みでもあったか?」

 

 

デスクで新聞を読みながらコーヒーを飲む取締役が俺に視線を向ける。50年以上の年季を感じさせる渋みのある笑顔が俺を見つめる。

 

 

「実はご相談がありまして…」

 

「それは、仕事の相談か?プライベートの相談か?」

 

「どちらかといえば、両方ですね。」

 

「まあ、職場の上司への相談ってのはそういうもんだよな。俺に相談してくるヤツは珍しいが…よし、ついてこい」

 

 

そう言って取締役が立ち上がる。

…デカいな、このオッサン。常々思うが、ウチの会社の役員連中はみんなデカくて、ガタイが良い。

 

 

「え?」

 

 

思わず声が漏れてしまう。

取締役は普段は役員と社長室の人間しか入らないエリアをずんずん進んでいく。…もしかして俺、今から死ぬほど怒られたりする?

 

 

「ほれ、早くついてこい。」

 

 

…早朝の人がいない時間で良かった。

他の社員に見られてたら奇異の目で見られただろう。

 

 

「よし、ここでいいだろう」

 

 

江崎取締役は小さな会議室に入る。

黒いテーブルと、いかにも高そうなソファが2台置かれている。会社生活3年、初めて立ち入ったエリア。きっと次に入るのは少なくとも15年以上先になるだろう。

 

 

「普段は滅多に人に頼らないお前からの相談だ。他人に聞かれない場所の方が良いだろう。 ブラックでいいか?」

 

「あっ、すいません。ありがとうございます」

 

「それで、何かあったのか?」

 

 

コーヒーを淹れると取締役は俺の対面に座る。

余裕のある笑顔で俺の発言を待っている。

 

 

「実は、特販第一部の朝霞についてなのですが…」

 

「朝霞か。アイツは来栖と同期だよな? 今何年目だ?」

 

「今年度が3年目です。」

 

「もう入社3年か、早いな。ヤツの噂は聞いてる。特販第一の黒田部長からアイツの配属に関して感謝されたぞ。それで、朝霞がどうかしたか?」

 

「はい、実は…」

 

 

俺はそこから事の経緯を説明する。

いつ怒号が飛んでくるかヒヤヒヤしながら話し続ける。自分で話してても、フザケたことを言ってると思う。

 

 

「信じがたいが、信じよう。いずれにしろ、動画をみて判断すれば良い。それで、お前は朝霞をどうしたいと思ってるんだ?」

 

「はい。できることなら、朝霞を休職扱いにして、会社に彼の籍を残して頂きたいです。」

 

「ほう。確かに朝霞がこのまま出社しなければ近いうちに解雇になるだろう。少なくとも2週間欠勤が続けばな」

 

「はい。しかし、私としては朝霞を手放すのは会社として惜しいと感じます。人事部員としてではなく、朝霞晴斗の同期の来栖桃太として、ですが」

 

「ふむ」

 

「それに、恐らく朝霞が復職する頃には、彼の運営しているYourtubeチャンネルはそれなりのコンテンツとなっていると思われます。これからコンテンツ事業を進めようとする会社の方針とも重なります。」

 

「ふーむ…朝霞自身は残りたいと言っているのか?」

 

「はい。そう聞いています。」

 

「そうか…」

 

 

取締役は少し考え込むように目を閉じる。

静寂が痛い。張り詰めた空気の中で物音一つ感じない。

…なんか目がまわってきたぞ。

 

 

その時、取締役がニヤリと笑う。

 

 

「いや、どう社長にお伝えするかを考えているんだ」

 

 

なにこのオッサン、格好い。イケオジかよ。

というか、江崎取締役としては朝霞の休職扱いを認めるってこと?

 

 

「知ってるだろう? 朝霞は俺と同じ高校の後輩だ。先輩である俺としては社内にいる数少ない後輩を無碍に解雇したいとは思わんよ。」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「とにかく説明してみよう。いずれにせよ判断は社長次第だ。ヤツのYourtubeチャンネルのを用意しといてくれ。いまから一緒にいくぞ。」

 

 

…え、もしかして俺も社長室に行く流れですか?

社長とか就活の最終面接でしか話したことないんですけど。とりあえずパソコンの準備だけしとこう。

 

 

「失礼します」

 

江刺取締役に続いて社長室に入る。

恐らくこの先30年は入ることないだろうな。

 

「やあ、江崎君。今日は若者と一緒なんだね。君は確か……人事部にいる子だね?」

 

「はいっ!!人事部員の来栖と申します!!」

 

 

まさか自分が社長に認識されているとは思わなかった。

ウチの会社のトップである勝間社長はにこやかな微笑みを浮かべて俺を見る。年齢は65歳とのことだが、背は高く、背筋はピンと伸びていて、風格がある。

 

 

「それで、突然どうしたんだい? 江崎君」

 

「はい。社長に折り行ってご相談したい旨がありまして…」

 

「君からの相談ということは、人事に関わることかな? 今は人事異動の時期でもないだろう。なにか問題でも発生したのかい?」

 

「実はですね…」

 

 

江崎取締役は俺が数十分前にした説明をそのまま社長に打ち明ける。

取締役から事の経緯を聞いた社長はカラカラと笑い声を上げた。…いや、ウチの上層部、頭柔軟すぎん?

 

 

「とても面白いことになってるね。いやー、信じがたいが、面白い。江崎君からこんな非現実的な話が聞けるとは思わなかったよ」

 

「いえ、私も信じきれてはいないのですが…」

 

「朝霞君のことは覚えているよ。入社面接のときに堂々とした受け答えをしていたよね。業界に対するビジョンもしっかりと持っていて、的も得ていた。その時は江崎君も同席していたよね」

 

「はい、人事部長として同席しておりました。」

 

「それに君もいたよね、来栖君。」

 

「はい。私も朝霞と一緒に面接を受けていました。」

 

 

…この社長、めっちゃ記憶力良いわ。

なんか、社長が社長たる所以を思い知らされた気がする。

 

 

「朝霞君の件については認めよう。」

 

 

社長は事も無げにそう言い切った。

これには俺も江崎取締役も拍子抜けといった表情を浮かべるしかない。

 

 

「ただし、来栖君。君がしっかりと朝霞君の手綱を握るんだ」

 

 

社長の視線が鋭くなる。

そして、その視線が俺に突き刺さる。

 

 

「これは年長者としての助言だ。君が彼に惹かれて、肩入れする気持ちは分かる。彼に帰る場所を残したいという気持ちも分かった。だからこそ、朝霞君自身が身を滅ぼすことがないように、友人として君がしっかりとサポートしてあげなさい。“担いでやる”と腹を決めた男を諫める勇気がなければ、いずれ彼からの信頼も、友情も失うよ。」

 

「はい。肝に銘じます」

 

「うん、頼んだよ。それじゃあ、来栖君は戻っていいよ。」

 

「はい、失礼します。」

 

 

俺はぎこちない動きで社長室を後にする。

良かったという感情よりも先程までの状況を抜け出したという安堵感と社長室で勝間社長と会話したという実感からくる高揚感が抜けきらない。…マジで、吐くかと思ったわ。

 

 

 

 

来栖桃太が退出した社長室に勝間社長と江崎取締役が残る。

言葉を発さない社長に江崎は冷や汗が背中を流れるのを感じる。

 

 

「…申し訳ございませんでした。」

 

「なぜ君が謝罪するんだい? 江崎君。」

 

「お忙しい中でお時間を取らせてしまいました。しかも、こんな馬鹿げた話で。事実確認は必ずします。もし彼らに虚偽があれば、両名とも2週間後に解雇に致します。」

 

「ははは。やはり信じがたい話ではあるね。まあ、江崎くん。彼らの話が嘘だったとして、それでも良いじゃないか。面白いコンテンツのクリエイターがわざわざ会社に残りたいと言ってくれているんだ。会社の一番の資産は人材だ。これほどに有難いことはない。」

 

「承りました。すぐに辞令を準備いたします。」

 

「うん、頼んだよ。」

 

 

江崎が社長室から出ていく。

それを見送った勝間は自分のPCを起動すると、Yourtubeを開く。

 

…画面左側に表示された登録チャンネルの中には“夢空ハルChannel”の文字がある。

 

 

「まさか、“彼”が朝霞君だったとはね。世間は狭いもんだ。」

 

 

そう言って勝間は1人、誰もいない社長室で笑う。

晴斗の所属する会社の社長である勝間俊和は、Vtuber夢空ハルの古参リスナーの1人だった。

 

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