異世界転移した男性Vtuberが、現実の有名女性V達からモテる話。 作:梯子田カハシ
[昨日の配信、めっちゃバズッてんぞ。起きたら連絡ください]
久々の徹夜のあと、昼過ぎまで寝ていた俺に来栖からメッセージが来ていた。…まあ、そりゃバズるよな。異世界で配信きり忘れるとか、どんな展開だよ。
「しゃあねえ、とりあえず通話するか。」
一応、通話ボタンを押す前に時間を確認する。流石に仕事中に着信音を鳴らすのは申し訳ない。
…って、今日は土曜日だった。もはや完全に曜日感覚は消え去ったな。
≪~~~♪≫
「もしもーし」
「はーい、来栖でーす。お世話んなってまーす。朝霞、お前、引くくらいバズってんぞ。」
「おすー。てか、“お世話になってます”ってワード、久しぶりに聞いたわ。やば、異世界に飛ばされて1週間ちょっと、現実世界が遠く感じるぜ。およよ…」
「そこ、現実逃避すんな。まあ、お前はそもそも現実には居ないんだけど。」
「おー、来栖も異世界ギャグが板についてきたな。」
「うるせ、そんなことはどうでもいいんだよ。バズってんぞ、マジで。朝からAXの通知が鳴りやまなくて本気で引いてる。登録者も昨日の配信中に1万人超えたしな。」
「やっぱそうなるよな。配信きり忘れって、それだけで話題性が凄いもんな」
Vtuberさんの配信切り忘れって、ドキドキするよな。
プライベートが本人以外から全く見えない分、それを覗き見ているような感覚がある。そして、そんなVtuberの中には、視聴者に期待に応えてボロを出す人たちも一定数いる。…そんな1人に、俺も名を連ねてしまったようだ。
「…いや、お前の場合はそっちよりも、配信の内容でバズってんだよ。」
「内容? 俺なんか変なこと言ったか? まあ、シーナちゃんを励まそうとして色々と恥ずかしいことを口走った記憶はあるけど…別にバズるようなこと言った覚えはないぞ?」
「…うん。やっぱりお前、アホだわ。そのまま成長してくれ」
「え、どーゆうこと? なんで俺はいきなりディスられたん? 徹夜明けの俺を労わってくれよ」
「いや、気にしないでくれ。…徹夜明けってことは、あの後もシーナちゃんといたのか?」
「そー。朝になって宮殿に送って別れた感じ」
「…手とかだしてないよな?」
…来栖の奴は何を言ってんだ、マジで。
これは本格的に来栖を明里ちゃんや志真に会わすわけにはいかなくなってきた。
「出すわけねーだろ。お前こそアホかよ。これだからイケメンは信用ならねーんだ、マジで。いいか? 俺にとってはシーナちゃんは大切な友達なんだよ。何なら、マジで妹みたいに感じてんだからな?」
「知ってるぞ。“こいつは妹みたいなモンだから”ってやつか。」
「お前、マジでふざけんなよ? それは俺がこの世界で最も忌み嫌う言葉だ。そんな言葉、“妹”という存在への冒涜だぞ。お前はそう言って何股もしてきたんだろけどな‼」
「んなことしとらんわ‼ というか、お前がシスコンなの忘れてたわ」
「妹を家族として常に応援しているだけだ」
「そう言う事にしとくよ。それで、今日は配信するのか?」
「いや、決めてない。一応、シーナちゃんと昨日のリベンジで明日の夜にダンジョンに行く約束はしたけど、それ以外は何も決めてないな。そういえば来栖は大丈夫なんか? 忙しいんだろ?」
「俺は大丈夫よ。まあ、天音ちゃんは忙しそうにしてるけどな。あの子、完全に仕事で現実逃避するタイプだわ。お前、マジで帰ったら天音ちゃんに謝れよ? あの子、お前の休職を聞かされた時に黒田部長に食って掛かってたぞ」
「空か。たしかに、俺の抱えてた案件引き継げそうなのって空しかいないもんな。出社したら一番に土下座しに行くわ。仕事押し付けたみたいでシンプルに申し訳ない。」
「…天音ちゃん、可哀そうに。いっそ、このチャンネルのこと教えようかな」
「…なんか言ったか?」
「いや、何も言ってない。それじゃ、配信する気になったら通知入れといてくれ。告知ポスト入れとくようにするわ。」
「おう。いつもありがとな。」
「…朝霞。」
「ん? どうかしたか?」
「いや、昨日の配信見て俺もなんか元気出たわ。あんがとな」
それだけ言って来栖が通話を切る。
よくわからないがアイツの元気が出たなら良かった。
≪~♪≫
その時、ディスコの通知音が鳴る。
どうせ来栖だろうと思ってステータス画面を開いた俺は、思わず目を見開く。
「え?」
そこには、俺でも知っている大手企業に所属する女性Vtuberの名前が表示されている。
その名も“東雲マリア”さん。「Alia:ReLive」、通称アリアリ3期生の良心と呼ばれる彼女から、俺にメッセージが入っている。
「これって大丈夫なヤツ?」
恐る恐るチャット欄を開く。
東雲さんは俺の配信にコメントしてくれたことはあったが、それ以外に絡んだことはない。Asariママからすれば両方とも自分のデザインした子供になるのだろうが、俺には関係ない話だ。正直、完全に雲の上の存在である。
[通話しませんか?]
たった一言。
この文章だけがチャット欄に表示されている。
「あはは。マジですか」
思わず渇いた笑いが出る。
配信を見たことはないが、それでも俺が知っている程度には有名なVtuberさんからの通話のお誘い。しかも、東雲さんにフッ軽なイメージもない。…ホントに大丈夫か? 炎上とかしたくないんだけど。
[大丈夫ですよ。お時間あるときに鳴らしてください]
…返信してしまった。
そもそも、東雲さんはどうやって俺のディスコを知ったのだろう。正直、明里ちゃんと来栖もどうやって俺をフレンドに追加したのかは分からずじまいだった。…なにか条件でもあるのだろうか?
≪~~~♪≫
俺が心の準備をする間を与えずに着信音がなる。
ヤバい、心臓がバクバクする。会社のお偉方と話すより、全然緊張する。
「…はい、夢空ハルと申します」
「え? ああ、Alia:ReLiveの東雲マリアと申します。」
「お世話になっております‼」
「…」
通話の向こう側で、東雲さんがクスクスと笑っている。…いや、確かに挨拶が固いとは思ったよ? でも、社会人になるとこれ言っときゃ大丈夫みたいなとこあるから‼ 緊張してるんだから、しょうがないじゃん…
「…お兄ちゃんって、会社だとそんな感じだったんだね」
「へ?」
思わず思考が停止する。今、確かに志真の声が聞こえた。
でも、今通話しているのは、Vtuberの東雲マリアさんな訳で…
「ふふ、気付いた? お兄ちゃんが私の声だって気付けない訳ないと思うんだけど?」
「まさか…志真?」
「そうだよ、お兄ちゃん。ビックリした?」
びっくりもなにも、まだ何も受け入れられていないのですが。…え?なんで東雲マリアさんとの通話で志真が出てくるんだ?
「えーっと、どういうこと? ですか?」
「お兄ちゃんの割には察しが悪いなー。私は朝霞晴斗の妹の朝霞志真で、同時に、アリアリ所属のVtuber東雲マリアなんだよ。お兄ちゃんには言ってなかったんだけど、私、Vtuberやってたんだ」
「…マジですか?」
「うん。今まで秘密にしてて、ごめんなさい」
「いや、別にそれは良いんだけど…信じられなくて。ホントに志真なの?」
「あー、お兄ちゃん信じてない。まあ、そうなるよね。うーん……お兄ちゃんの初恋の相手は、中学校の時の図書室にいた司書の○○さんで、お兄ちゃんは昼休みの度に図書館に行って歴史の漫画を読んでた‼ あとは、最初に付き合った女の子は卓球部だった△△さんで、周りにおだてられて付き合っちゃって、明里さんに誠意がないって怒られてた‼」
「すいませんでした‼ 志真で間違いないです‼」
唐突に眠っていた黒歴史が掘り返される恐怖に耐えられなかった。というか、志真も志真でよくそんなこと憶えてるな。
「あ、ようやく信じてくれた。」
「そんだけ俺の黒歴史知ってるのって志真か明里ちゃんしかいないでしょ…」
「えへへ、ゴメンね。」
「それで、志真が東雲マリアさんなのは分かったけど、どうやって俺のディスコードが分かったの? これまで連絡取れたの明里ちゃんと会社の同期だけだったんだよね」
「私もわかんない。電車でお兄ちゃんの配信見てたら、いつの間にか追加されてた」
「え、もしかして昨日の配信見たの?」
「お兄ちゃんの配信は全部リアタイで見てるよ。昨日だけ寝ちゃって、事務所行く間にアーカイブで見たんだ~。お兄ちゃんの配信見てたら電車乗り過ごしちゃって、遅刻しそうだったの‼」
…マジですか。
まさか明里ちゃんに続きほぼ皆勤賞の身内がいたとは。
「ん? てことは、俺の配信をアリアリの東雲マリアさんに全て見られているってこと? ヤバ、急に恥ずかしくなってきた。昨日の配信とか、後半は変な事しか言ってなかった気がする」
「そんなことないよ‼ AXでもみんなお兄ちゃんのこと褒めてたよ」
「そう? 志真がそう言うなら良いんだけど」
「そうだよ‼ 私はお兄ちゃんにとってVtuberの先輩でもあるんだからね‼」
…たしかに。しかも超大手の企業所属Vtuber。
うん、やっぱり俺の妹は最強だな‼
「…お兄ちゃん、変なこと考えてない?」
「いや、そんなことないぞ?」
「そう? それで、そんなVtuberの先輩からの報告なんだけどね、お兄ちゃんのことを公表することにしました‼ 今日の事務所の打ち合わせの時に相談したら、大丈夫って言って貰えたの。お兄ちゃんが嫌じゃなければ、なんだけど…」
「いや、俺は別にいいよ。でも、志真が大変なんじゃない? 多分だけど、信じない視聴者さんも一定数は出てくるだろうし、変なコメントもたくさん来ると思うぞ?」
「うん。そうなると思う。」
「だったら…」
「でも、決めたの。私は私らしく配信するって。お兄ちゃんのことも、私の大切な一部だから。それを否定するような人達には見てもらわなくてもいい。それに、私にはお兄ちゃんみたいにやましいことなんてないし」
「俺だってやましい事なんてないんですけどぉ!?」
「あはは、分かってるよ。でも、あんまり異世界で鼻伸ばしてると、明里さんに怒られるからね?」
「分かってるよ」
…志真は志真なりに配信活動を通して成長しているんだろう。これまでも色んな葛藤や悩みがあったのかもしれない。ただ、今の志真は堂々としている。
「志真も頑張ってるんだな。偉いぞ」
「えへへ、褒められた」
1つだけ悔しいのは、異世界にいることで志真の配信が見れないことである。
Yourtubeが見れれば全てのアーカイブを見れるというのに‼
「それともう一つ、お兄ちゃんにお願いがあるんだけど…」
「なんでもいいぞ」
「なら、私とコラボしない?」
「へ?」
…なんでもいいとは言ったけど、なんでもいいわけではない。コラボ? マイシスターは何を言っているのだろう?
「あれ? 上手く聞こえなかったな」
「お兄ちゃん、また嘘ついてる」
志真が呆れたように溜息をつく。
いや、確かに聞こえてはいたけど。冗談を言ったのは志真の方だ。
「もう一度言うよ? 夢空ハルさん、東雲マリアとコラボ配信しませんか?」
…前言撤回。この妹、マジで言ってる。
しかも俺が自分の頼みを断らないって、完全に分かって言っている。
いつの間にか俺の妹は、Vtuberになって、強かな小悪魔にもなっていたようだ。