異世界転移した男性Vtuberが、現実の有名女性V達からモテる話。 作:梯子田カハシ
「マジで、バズったんだな…」
宿のベッドに寝転がって俺はステータス画面を眺める。
最初は1000人にも満たなかった登録者は、気付けば1万人を超えていた。
画面には来栖から送られてくるファンアートが表示されている。
いつの間にか来栖《スタッフ》によって作成された《#ユメゾラアート》なるファンアートタグで投稿されたイラストが、いつの間にか来栖から無言で送られてくるようになった。
「いや、ありがたいんだけど、恥ずかしいな…」
イラストで配信きり忘れ事件を擦られまくっている。
基本的に好意的な内容のイラストが多いが、やっぱり小恥ずかしい。
「…よし、今日の配信は休もう‼」
思えば異世界に来てから毎日配信している。たまにはそんな日もいいだろう。
来栖《マネージャー》に休暇連絡だけすると、俺は立ち上がる。
…休めるとなった途端に、がぜん動き出したくなる時ってあるよね。
「中心街でもブラついてみるか」
せっかくだし、今までは行ったことのない店に入ってみよう。
Asariママ特製の大剣が壊れないせいで鍛冶屋とか入ったことなかったし。
「げっ、おっさん…」
「おっさんは無いだろう、坊主。ジャスパーだ」
路地裏に合った鍛冶屋に入った所で、見知った顔と遭遇する。先日、俺の額にデコピンを見舞ったスキンヘッド冒険者、ジャスパーがいた。
「へいへい。それで、おっさんは今日はダンジョンに行かないのか?」
「…俺もそこそこ尊敬されている冒険者なんだぞ、坊主。」
「おっさんだって俺のこと名前で呼ばねーじゃねえか」
「かはは、それは確かにそうだ。なら、おっさん呼びは許そう」
…いや、俺のことを名前で呼ぶっていう選択肢はないのかよ。
まあ、俺の名前なんぞ忘れているだろうし、そっちの方が気楽だ。
「それにしても、坊主もこの店の客なのか? 良いセンスしてるじゃないか」
「いや、適当に入っただけだぞ? 鍛冶屋自体くるの初めてだし」
「そうなのか? なら坊主は運が良い。ここは俺達攻略組御用達の隠れた名工の鍛冶屋だ。店主に武器を見てもらうといい。おーい、おやっさん‼ 新規顧客を連れてきたぞ‼」
ジャスパーは大声で店の奥に叫ぶ。
…いや、あんたに連れてこられたわけではないからな?
「昼間から五月蠅いぞ、ジャスパー」
奥の工房から1人の老人が出てくる。
老人は明らかに小さく、でもガッシリとした体型をしている。ドワーフってやつだ。
「おう、おやっさん。なかなか骨のありそうな新人が居たんだ。武器を見てやってくれよ」
「…そんな用ならわざわざ俺を呼ぶな…っちょっと待て」
ドワーフのおっさんの視線が俺の背中に向けられる。
これは、もしかしなくてもAsariママ特製大剣“誘宵”の性能がバレるパターンな気がする。
「…お主、名は何という」
「夢空ハルだ。こいつが気になってるのか?」
「うむ。見せて欲しい。」
俺とドワーフのやり取りをジャスパーが興味深げに眺めている。
こういう時こそ何か喋れよ、おっさん。
「こうなる気がしてたんだ。見ていいよ」
「ありがたい。ああ、儂はクレオンと申す」
ドワーフのクレオンは俺から“誘宵”を受け取るとまじまじと剣を眺める。
横ではジャスパーが「おやっさんが人に感謝した!?」などと騒いでいるが、とりあえず無視しておく。
「ふーむ…これは、いい武器を持っているな」
「そうだな。ありがたいことだよ」
「これを造った者に感謝するといい。この剣には出来栄え以上の力が込められている」
「そうするよ。」
「うむ。久々に良いものを見た。」
ふんわりしていてイマイチ分からなかったが、とりあえず雰囲気で会話をしておく。
まあ、クレオンのおやっさんが満足したなら、それでいいや。
「どういうことだ? おやっさん‼」
「ジャスパー、うるさいぞ。 ほれ、ハルといったか?そこに掛けてある剣を1振り持って行っていいぞ。大剣から手を離している間に使えるだろう?」
「本当か‼ 坊主、こんなこと有り得ないぞ‼」
「おっさん、マジでうるさいぞ? それにしても、本当に良いのか?」
「かまわん。面白いものを見た対価だ。それと、武器に困ったらここに来ると良い。もし、新しい武器が出来たら儂の所に見せに来てくれるとありがたい。それじゃあな」
それだけ言ってクレオンは奥の工房へと戻っていく。
どうやら気に入ってもらえたようだ。取り残された俺はジャスパーに話しかけられつつ、ありがたく剣を1本貰っていくのだった。
クレオンの鍛冶屋を出たところでジャスパーが声を掛けてくる。
「おい、坊主。このあとは暇か?」
「なんだよ、おっさん。飯でも奢ってくれるんか?」
「これだけそう呼ばれると、それはそれで嬉しくなってくるもんだな」
「それで、なんの用だ? 俺は暇だぞ。」
「そうか。なら、俺達のクランホームみ来ないか? 飯はもちろん奢るぞ」
…そんな気は薄々していた。
なんでジャスパーが実力も知れない俺に興味を持ったかは知らないが、恐らく俺を“黒龍の鱗”に勧誘するつもりだろう。しかし、できれば俺はクランには入りたくはない。
「…悪いがクランホームには行けない。実は“赤鷹の嘴に友人がいてな。行くなら、そっちに行ってからじゃないと筋が立たないんだ。すまねぇ、おっさん。」
「そうか。先約がいたとは思わなかった」
「それに、俺のことを買いかぶりすぎだ。俺にはクランに見合うような実力はないよ」
「そうか? まあ、確かにお前さんの戦闘を見たことはないが、別に強さは関係ない。面白そうで、雰囲気があれば、実力なんて後から付いてくるもんだ。それじゃ、行くぞ」
「どこに?」
「飯だよ。クランホームに行かなくても、飯ぐらいは奢るさ」
そう言ってジャスパーはニカッっと笑う。まさに親分肌を地で行く笑顔。
クランの幹部を務めるだけあって流石の懐の深さだ。
そのあと、俺はジャスパーにたらふく食わされて宿に戻る。
酒があったら死んでいたかもしれない。久しぶりに体育会の部活時代に戻った気分だった。
…あんまり休めた気がしない1日だったな。
久しぶりにダンジョンに潜らない夜を過ごし、翌日を迎える。
今日は先日のリベンジ配信の約束がある日ではあるが、それと同時に配信きり忘れてから初の配信をする日でもある。…考えるだけで頭が痛い。
「あー、どうすっかな」
時刻は夜の9時30分。
宿の天井を眺めて俺は仰向けでのたうち回る。
恐らく、いきなりダンジョンってなると俺をイジりたいであろう視聴者達が満足できない。こうなってしまっては腹を括るしかない。視聴者達とプロレスする時間が必要だ。
「ダンジョン向かいがてら配信回すか…」
もはや諦め交じりである。
せめて、愛のあるイジリであることを願うのみだ。
「ちょっと早いけど、行くか。まあ、1時間もあれば切り忘れネタも擦り切れるくらいには擦られんだろ。ホントに頼むぞ、視聴者諸君」
来栖に連絡のチャットだけ入れると、すぐに返信がくる。内容を見て思わず笑ってしまう。…どうやら来栖の奴もイジる気満々のようだ。いいだろう。視聴者の愛を、正面から受け止めてやる。
[配信タイトルは“釈明配信”で大丈夫か?]
[おうよ。“釈明&リベンジ配信”にでもしといてくれ]
来栖にチャットを打って一息つく。宿を出れば人通りは既に減ってきている。
さあ、今日も配信を始めよう。きっと、視聴者さん達が待っている。
〘配信開始〙
カウントダウン……配信開始。
「こんばんはー‼ 一昨日ぶりの夢空ハルです‼ どうやら一昨日の配信を沢山の方に見て頂いたようで…まあ、僕はなーんにも憶えてないんですけどね‼‼」
【来たな‼】
【お祭りだー‼】@Asari
【きたぞ‼ 捕まえろ‼】
【( •̀ .̫ •́ )✧“今にも泣きそうな女の子を解放してあげる程、俺は優しくないんだ”】
【( •̀ .̫ •́ )✧“そんなことはないなんて、俺は言わないよ”】
【これは恥ずかしいwwwwww】
【あの配信もう10回は見返してるわwww】
【俺も夢空のセリフ全暗記したぞ】
【兄貴‼ 一生ついていきやす‼】
…やっぱりこうなるよね。
ああ、頭が痛くなって、徐々に意識が遠のいてきた。
「ぐあああああああ‼ 分かってはいたけど‼ イジられることくらい分かっていたさ‼ …クソ、マジで精神にボディーブローのように効いてくるわ。顔が熱い」
【じわじわ効いてるのね笑】
【しっかり恥ずかしがっててウケる】
【これはイジリ甲斐がありますわwww】
【( •̀ .̫ •́ )✧“安心しろ、夢空。そんなお前の歩みも、決して無駄なんかじゃないからな”】
【コメ欄の煽り性能が地味に高いww】
【ちゃんと赤面してくれるの助かる】
「あかん。耐えきれないかもしれん…。今まで他のVtuberさんの配信切り忘れの半分はわざとだとだと思ってたけど、いざ自分がやるとマジで恥ずかしい…。なんで、なんであの時の俺はコメント欄を見えなくしたんだ‼ 過去の自分を殴りたい」
【ガチ反省しとるwww】
【おかげで俺らは格好の餌を貰ったから】
【( •̀ .̫ •́ )✧“過ぎたもんはしょうがない。夢空は夢空らしく、進んでいこうぜ”】
【↑あの日のコメント汎用性高くて助かる】
【良いこと言ってんだけど、タイミングが悪かったなww】
【釈明配信とのことですが、釈明の余地はありますか?】
「ちゃうねん…あの時はシーナちゃんを励まそうとしてて必死だったのよ。ホントに‼別にドヤ顔でクサいセリフ言おうなんて思ってなかったの‼ 信じてくれ…」
【その割には余裕そうな表情だったぞ】@夢空ハル
【超かっこいいキメ顔でした‼】@Asari
【身内にも裏切られてて草】
【四面楚歌】
【スタッフ君もこっち側か】
【スタッフ君、愉悦顔で配信見てそうw】
【Asariママなんて配信後に爆速でイラスト描いてたからな】
【Asariママの配信レポ漫画、配信終了の1時間後には上がってたよねww】
「こいつらぁ…さんざん俺をネタにしやがってえ‼ いや、沢山の人に配信見てもらえるのは嬉しんだけどさ…。ということで、スタッフ君? あの配信のアーカイブを非公開にすることってご検討いただけません?」
【断固、拒否します】@夢空ハル
【よく言った、スタッフぅ‼】
【恥をさらしてこそ、漢だゾ】
【スタッフ君、ナイス】
【まあ、悪い意味で炎上したわけじゃないんだから、大丈夫だよ】
【そうそう。ただ恥ずかしいだけ】
「だから恥ずかしいのが嫌なんだよおおお‼」
ダンジョンに続く道に俺の悲鳴が響く。
それでも、同時に視聴者達の暖かいイジりに安心もしている。
…まあ、たまにだったら、こんな配信も悪くないだろう。