異世界転移した男性Vtuberが、現実の有名女性V達からモテる話。   作:梯子田カハシ

36 / 69
第26話 幼馴染と一緒に妹の配信を観よう‼

 

 

夜の8時半。

俺は宿の暗い天井をぼんやりと眺める。

 

 

「やっぱり気になるな…」

 

 

志真は今日の9時からの配信で俺との関係を発表すると言っていた。いくら本人の意思が強くとも、叩かれればヘコむのが人間の心情である。

 

…大丈夫だろうか? そんな思いが頭の中を駆けまわる。

 

 

「そうだ‼」

 

 

あること(・・・・)を思いついた俺は、跳ねるようにしてベッドから飛び起きる。すぐにステータス画面を開いてディスコードを起動する。

 

明里ちゃんのトークルームに入って、通話ボタンを押す。

 

 

≪~~~♪≫

 

 

しばらくコール音が鳴る。

ドキドキしながら待っていると、明里ちゃんが通話に出る。

 

 

「もしもし、ハルくん?」

 

「あ、明里ちゃん? 急に通話しちゃってゴメン。今って大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。ハルくんからの通話だったら、いつでもOKだよ‼」

 

「ありがとう。それで、明里ちゃんにお願いしたいことがあったんだけど…」

 

 

…いきなり“東雲マリアさんの配信を聞かせてくれ”と言ったら驚かれるだろうか?

 

明里ちゃんは志真が東雲マリアであることを知らないだろうから、不審に思われるかもしれない。

 

 

「それってもしかして、志真ちゃんの配信を聞きたい、とか?」

 

「え、なんでわかったの? というか明里ちゃん、志真がVtuberやってるの知ってたの?」

 

「えへへ、実はずっと前から知ってたんだよね。それこそ、ハルくんにVtuberを教える前から知ってたんだけど、言わないようにしてたんだよね。志真ちゃんも、私に身バレしてるのを知ったのはハルくんがそっちに行っちゃったときだから、本当に最近なんだよね」

 

「そーだったんだ。流石、Asariママには全部お見通しだね」

 

「あはは、そうかも。でもハルくん?2人で話してるときは、“明里”って呼んでね?」

 

 

衝撃の事実に驚きつつも、明里ちゃんの発言にキュンとする。…本当に、明里ちゃんには敵わないな。

 

 

「仰せのままに、明里お嬢様。」

 

「…っ‼ ビックリした~‼ ヘッドホンしてるんだから、考えてよねっ‼ …なんか、耳元で囁かれたサラちゃんが真っ赤になる気分が分かったよ。ハルくん、自分の声を自覚したほうが良いよ?」

 

「へ?どういう意味?」

 

「…おバカなハルくんには教えてあげない‼ それより、そろそろ志真ちゃんの配信始まるよ。音声もマイクで拾うように設定するから、ちょっと待っててね。」

 

 

そう言うと、明里ちゃんはマイクの設定を始める。その間、ヘッドホンのマイクが明里ちゃんの声を拾う。…なんだかASMRみたいだ。

 

パチパチというキーボードの打音を拾ったかと思うと、今度は明里ちゃんの吐息を拾う。

 

 

「ハルくん、聞こえてる?」

 

「う、うん、聞こえてるよ。」

 

 

囁くような明里ちゃんの声に思わずドギマギしてしまう。…明里ちゃんって良い声をしている。

 

…明里ちゃんもVtuberに向いてるのかも。

 

 

≪~~~♪≫

 

 

しばらくすると、ポップな音楽が聞こえてくる。

恐らくは待機画面のBGMだろう。

 

 

「聞こえてる?」

 

「うん、聞こえた。ありがとう。」

 

「良かった。これで一緒に志真ちゃんの配信を見れるね‼」

 

「そうだね。コメントはどんな感じ?」

 

「うーん、“引退しないで”ってコメントが多いかな。昨日の告知が結構深刻そうだったから視聴者の人達が勘違いしちゃうのも分かるっていうか、凄い同接人数になってるよ」

 

「そんな感じだったんだ。もしかしたら敢えてそうしたのかも。」

 

「? どういうこと?」

 

「いや、わざと引退をチラつかせて俺程度の話題で落とすっていう、そんなこと考えてそうだなって。まあ、実際は分かんないけど。俺だったら、そうしてるかなって。」

 

「なるほどね~…あっ始まるよ‼」

 

 

徐々に待機用のBGMの音量が下がっていく。

微かに、息を吸い込む音が聞こえた。

 

 

≪こんばんは、Alia:ReLive所属Vtuberの東雲マリアです‼ 今日も私の配信を見に来ていただきありがとうございます。えっと、まず最初に、みんなに謝らなければいけないことがあります。≫

 

 

志真の声が聞こえてくる。

…本当に志真がアリアリの東雲マリアなんだなあ、と改めて実感が湧く。

 

パチパチと明里ちゃんがキーボードを叩く音が音が聞こえる。

 

 

≪私、東雲マリアは、引退しません‼ あんな告知をして大事にしてしまい申し訳ございませんでしたあ‼ 心配してくれた視聴者さん達には感謝しかありません。私、東雲マリアは全然引退する気はないので、安心してくださると嬉しいです‼≫

 

 

…やっぱり重めの告知にしたのはわざとだろうな。兄妹だからこそ、こういう時のやり方(・・・)は似ている。

 

 

≪あはは、Asariママもありがとうございます。ママが産んでくれた私のこの姿を手放す気なんて一切ないです‼ 視聴者さん達も、本当にすいませんでした。それで、ここからは“大事なお知らせ”の話なんだけど…≫

 

 

「明里ちゃん、なんてコメントしたの?」

 

「ちょっとボケただけだよ~。重たい空気のままだと志真ちゃんもやりにくいと思ってさ。あっ、東雲マリアちゃんの同期のリリアちゃんもコメントしてる‼」

 

「なんて言ってる?」

 

「“ドキドキ”だって。」

 

 

≪前から私に兄がいることは雑談配信とかで話してきたと思うんだけど…そのお兄ちゃんが、私の知らない間にVtuberになってました。少し前と昨日の配信に私がコメントしたのが話題になってたから視聴者さんの中には知っている人もいるかもしれないんだけど、“夢空ハル”っていう名前でVtuberをやっている人が、私の兄です。

 

界隈では異世界に行ったVtuberってことで話題になってる人で、その最初の配信の時に夢空さんが兄だってことを知って配信にコメントをしたんだけど、そこそこクレームが届いちゃって、そこからコメントはしないようにしてました。≫

 

 

あくまでサラッと、そんな口調で志真は話を続ける。…コメント欄の状況を確認できないのが凄くもどかしい。

 

明里ちゃんも、俺も、2人揃って志真の声に耳を傾ける。

 

 

≪でも、その間ずっと悩んでて、それが配信にも影響しちゃってたかもしれないんだけど。昔から私を支えてくれたお兄ちゃんに恩返しができないのが悔しくて、それに、本当は優等生が嫌で始めたVtuberなのにコメントする勇気もない自分が本当に情けなくて…≫

 

 

…そんなことを思ってくれていたのか。

いつの間にか、俺のかわいい妹はこんなにも成長していたんだな。

 

 

≪だけど、私は自分の感情に嘘はつきたくないし、応援してくれている人達にも嘘はつきたくないって思ったんです。だから、些細なことかもしれないけど、ちゃんとお兄ちゃんのことを視聴者の皆に報告したかったんです。

 

もちろん事務所の許可は取ってます。それでも…信じられない人もいると思います。その気持ちもわかるし、Vtuberである以上は少しの不信感が事務所や業界に悪い影響や迷惑を掛けるかもしれないことも分かっているつもりです。≫

 

 

…確かに顔の見えないVtuberにとって、視聴者に不信感を与えてしまうのは致命的だ。

 

それでも、これが志真なりに考えた結論なんだろう。なら、俺はその決断を後押しするだけだ。

 

 

≪今回の配信は私のなかでのケジメみたいなものです。今日を機に、今までの丸く収まっていたVtuber東雲マリアを卒業出来たらなと思います。これからは、脱常識人枠を目指して殻を破っていく姿を視聴者の皆に楽しんで貰いたいと思います。これからも東雲マリアをよろしくお願いいたします。…私からの“お知らせ”は以上です‼ 長々と私の話に付き合って頂いてありがとうございました‼ この後は雑談しようかなって思ってるんだけど、質問とか、ありますか? 今日はコメント拾いますよ~‼≫

 

 

「ふふっ。志真ちゃんらしい“お知らせ”だったね。お兄ちゃんのハルくんとしては、どうだった?」

 

「いや、なんか志真も成長したんだなって思ったよ。こんなにハッキリ自分の考えを言ってるところ初めて見た。」

 

「そうだね。…きっと、受け入れて貰えるよ」

 

「うん」

 

東雲マリアの“お知らせ”が終わる。

視聴者さん達は受け入れてくれただろうか。少し心配しながら耳を傾けていると、志真の笑い声が聞こえてくる。

 

 

≪あはは、そう言えば私もお兄ちゃんもAsariママがお母さんだね‼ こんな偶然も珍しいよね~‼ それならいっそAsariママもVtuberになっちゃえば?そうしたら私達と姉妹になれるよ?≫

 

 

「なんてコメントしたの?」

 

「ん? 志真ちゃんもハルくんも私の子供だぞ~って言ったの。やっぱり、ちゃんとアピールしとかないとね‼ 2人とも、私の大切な推しなんだから‼」

 

「ありがと、明里ちゃん。それにしても、明里ちゃんもVtuber始めれば? 声も可愛いし、向いてると思うよ? それで明里ちゃんが有名人になったら、俺としては寂しいけど」

 

「うーん、今は良いかな~って」

 

「そう?」

 

「うん。こうやってハルくんと話す時間が減っちゃうかもだし。」

 

「その時はコラボすればいいんじゃない?」

 

「ハルくんは分かってないな~。こういうのは2人だけの空間で話すから良いんだよ‼ だから、今は2人で一緒に志真ちゃんの配信を見ようよ。」

 

 

そう言って明里ちゃんが笑う。

なんだか、いつもこの小さくて逞しい幼馴染に救われている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

朝霞志真こと東雲マリアの配信が終わった。

明里ちゃんとも良いところで通話を終えて、俺は再び部屋の天井を眺める。

 

…志真の真摯で真っ直ぐな性格がよく出た良い配信だったと思う。

 

 

≪~♪≫

 

 

ディスコードの通知音が鳴る。

おもむろにステータス画面を開いて、俺は思わず口角を上げる。

 

 

[お兄ちゃん、コラボ配信はいつにする?]

 

 

東雲マリアからのチャット欄には一言、それだけ書かれていた。

さあ、面白くなってきたぞ…‼

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。