異世界転移した男性Vtuberが、現実の有名女性V達からモテる話。   作:梯子田カハシ

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第11話 夜の深まる教会の屋上にて

 

ダンジョン前広場を離れた私はシーナ様を宮殿までお送りする。オルディネ公国宮殿の前でシーナ様が立ち止まると、私を見て微笑む。

 

 

「今日はありがとうございました、レイ。ここで大丈夫です」

 

「そうですか、シーナ様。お気をつけて。」

 

「レイも気を付けて。それでは、また会いましょう」

 

「はい。また。」

 

 

シーナ様は軽くひざを落として会釈をすると宮殿へと入っていく。

出会った頃はまだ幼い印象が強かったけど、シーナ様は大人の女性になったと思う。まさに淑女であり、公国を代表する皇女であり、そして、とってもお綺麗になられた。

 

だからこそ、夢空くんといる時の悪戯っぽい、素のシーナ様が新鮮で、カワイイと思う。小さくなるシーナ様の背中を眺めながら私はそんなことを考える。

 

 

「それでは失礼します。」

 

 

シーナ様が宮殿に入るのを確認してから衛兵さんに挨拶し宮殿から離れる。少し歩いたところで、思いっ切り伸びをする。

 

 

「はあ~、緊張したけど、楽しかったなっ‼」

 

 

何回経験してもシーナ様に会うのは緊張する。

田舎から出てきて王都に足を踏み入れた時には、まさかこんな事になるとは思ってもなかった。

 

 

「まさか皇女さまとダンジョンに入るなんて…あの頃の私に教えてあげたいくらいだなぁ」

 

 

私は星空を眺めながら夜の街を歩く。周囲は静まり返り、まるで世界に私だけしかいないようだ。

シーナ様や夢空くんとダンジョンに行くようになって夜が好きになった。

 

 

「…私も、ちょっとは変われたのかなあ?」

 

 

口をついて小さな呟きが漏れる。

 

田舎に引きこもっていた頃の私は臆病者で気が小さかった。だからこそ、誰かに見下されないように、虐められないように、必死に魔法の練習をした。

 

運よく私は魔法の才能があった。魔法の腕は自分でも分かるくらいには成長した。

でも、田舎の小さい社会で私を見る目は変わらなかった。

 

臆病で、引っ込み思案のレイ。

それが私だった。暗い夜、誰かに悪口を言われている気がして怖かった。

 

 

そんな自分が嫌で。そんな自分を変えたくて。

だから私は故郷の遥か遠く、実力が物を言う街、王都フィリーアに来たのだ。

 

 

「まあ、怖いものは怖いし、本当は臆病なままなんだけどね」

 

 

普段は考えないように、言わないようにしている本音が溢れる。だから、最近は人の目を気にする必要がない夜の街が好きになった。

 

 

「うん。今日は星が綺麗。…そうだ、久しぶりにあそこ(・・・)に行こうかな」

 

 

私は思い立って歩く方向を変えてみる。

向かうのは王都に来て見つけた、星空の良く見える小さな隠れ家。

 

 

「それにしても、今日の夢空くん、面白かったなあ…ふふっ」

 

 

思い出し笑いをしながら、私は上機嫌にステップを踏んで歩く。

…なんか、ちょっと変なテンション。たまには良いかも?

 

 

▲ ▽ ▲

 

 

「よいしょっと」

 

 

梯子を登って教会の屋上に到着する。ここに来るのも久しぶりな気がする。誰かが敷いたのか、見たことのないシートがひかれている。

 

 

「ちょうどいいし、ここに座ろ」

 

 

私はおもむろにシートの上に座って、夜空を見上げる。涼しい風が優しく通り過ぎていき、夜の静けさがさらに深まる。

 

…本当に、世界に自分しかいないみたいだ。

 

田舎の村にいた時はそれでも良いと思っていた。でも、今は私を信じて付いてきてくれるクランの団員やダンジョンで知り合った攻略組の仲間たちができた。彼ら、彼女たちは、普段演じているカリスマ冒険者”赤髪のレイ”である私を見ているだけだけど、それでも、みんなから認めてもらえるのは素直に嬉しい。

 

 

「~~~♪」

 

 

懐かしい歌を口ずさむ。

それは終わらない旋律。透き通って、愛に溢れた、そんな歌。

 

…昔、お母さんが眠れない私に歌ってくれた大切な歌。

 

 

「~~~♪」

 

 

暖かい風が吹き上げて、街を駆け抜けていく。

その時、黄色く輝く瞳と目が合う。

 

 

「…にゃ」

 

 

そこにいたのは月明かりに照らされた1匹の黒猫。私の視界に現れたその子は、歌うのを止めた私にゆっくりと近付いてくる。

 

人に慣れているのか、怖がっている様子はない。…カワイイ。

 

 

「どうしたの? この歌が気に入ったの?」

 

「にゃ」

 

 

私が話しかけるとその子は応えてくれているように小さく鳴く。気付けば私は手を伸ばし、その子の頭を撫でる。

 

 

「あなた、名前はなんていうの?」

 

「にゃ」

 

「あはは、答えられないか。それじゃあ、今は“ヨル”って呼ばせてくれない? あなたにピッタリだと思うんだけど、どうかな?」

 

「にゃう」

 

「気に入ってくれた? ふふっ、ありがと」

 

 

ヨルはもっと撫でろというように私の膝に乗ってくる。気持ち良さそうに目を閉じて、喉を鳴らしている。…カワイイ

 

 

「あなたカワイイですね?そんなに撫でられるのが気持ちいのかにゃ?」

 

「にゃう」

 

「ふふっ、ほんとにカワイイ」

 

「にゃうう」

 

「あはは、にゃうにゃう」

 

 

しばらく私の膝に居座るヨルと戯れる。

膝の上が温かい。満天の星空の下でゆっくりとした時間が流れる。

 

 

「にゃう‼」

 

「あっ、どうしたの?」

 

 

突然ヨルが立ち上がる。

思わず私も立ち上がると、ヨルは誘うように歩き出す。

 

 

「どこに行くの?」

 

 

ヨルはこちらを振り向きつつ、屋上の端へと向かう。木箱が積まれた場所に向かったヨルは、木箱を迂回して、その裏へと歩いていく。

 

 

「ここに何かあるの?………へ?」

 

 

私も木箱を迂回して裏へと回る。

そこにいたのは、ヨルと、ヨルに前足で蹴られる、夢空くんだった。

 

 

「おいっ、ヨル、やめろ。蹴るな」

 

「にゃう」

 

「ヨル、お前なんで自慢げな顔してんだよっ‼ …あっ、レイさん…こんばんは?」

 

「なっ、なっ、なんで? どうして、夢空くんが…?」

 

 

…もしかしなくても、見られてた?

さっきまで空っぽだった頭が一気に回転を始める。

 

…そして私が取った行動は、その場から逃げる事だった。

 

 

▲ ▽ ▲

 

 

走り去るレイさんの後ろ姿を俺は見つめる事しかできなかった。…その間にもコメント欄は大騒ぎをしている。

 

 

【これは嫌われたか…?】

 

【今日のMVPは間違いなくヨルww】

 

【まさか夢空もレイ様も完全におんなじ名前付けるとは思わなかった笑】

 

【それにしてもヨルを愛でるレイ様かわいかったな…】

 

【ヨルがずっとドヤ顔しててかわいい】

 

【色々ありすぎてダンジョン潜ってたのが遥か昔に感じるわ】

 

【↑それな】

 

【配信にハプニングはつきものだな】

 

 

まさに偶然だった。

教会の屋上で視聴者さんと雑談していた時にレイさんが梯子を登ってくるのを見て、思わず隠れてしまったのが全ての過ちだったと思う。その後は息を潜めつつヨルを宥めていたら、ヨルがレイさんの方に歩いて行ってしまっていた。

 

 

「マジか…」

 

「にゃう‼」

 

「だから、なんでお前はずっとドヤ顔してんのよ、ヨル」

 

 

俺は収集の付かない状況に途方に暮れつつ配信を終わらせる。

 

先程までの穏やかな雰囲気はどこへやら、俺は呆然と夜の王都を眺めるのだった。

 

…次会うのがマジで気まずい

 

 

 

【夢空ハルChannel】

『【レイハルシーナ】ダンジョン今日も潜る…‼【異世界V】』

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