異世界転移した男性Vtuberが、現実の有名女性V達からモテる話。   作:梯子田カハシ

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第18話 幼馴染との通話と決戦前夜

 

ーーーハルは、どっちを選ぶ?

 

リアのひと言が頭から離れないまま、俺はベットで横になって天井を見つめる。

あの子が言いたいことは、何となく分かっている。少しづつ大きくなる俺の迷いに、彼女は直接問いを突き刺す。

 

彼女は忠告する。異世界(ここ)か、現実(あっち)か、いつか選ぶ日が来ることを。

 

 

「んなこと、わかっちゃいるんだけどさ…」

 

 

…そんなのまだまだ先のことだろ。

 

見飽きた天井の景色から目を逸らして、俺はステータス画面を表示する。

そこには5万人に迫ろうとするチャンネル登録者数と20万を超えた高評価ポイントが表示されている。

 

異世界《こっち》に来てもうすぐ3か月が過ぎる。

それでも3か月とは思えない程には濃くて楽しい時間を過ごしている。

 

忙しくも流されるように漫然と仕事をして気付けば3年目社員になっていた現実《あっち》とは全く違う、そんな3か月間。あの時、明里ちゃんにVtuberを勧められなければ、気付いた時にはそのまま5年経ち、10年経ち、なんの変化のない生活をしていたのかもしれない。

 

 

《~~♪》

 

 

気付いた時には縋るように明里ちゃんに通話を掛けていた。何度目かのコールの後、幼馴染の女の子の声が聞こえる。

 

 

《もしもし? ハルくん、どうかした?》

 

「明里ちゃん…いや、何となく話したくなって。もしかして作業中とかだった?」

 

《ううん、大丈夫だよ。ゲームの練習はしてたけど》

 

 

聞こえてくる幼馴染の声に揺らいでいた気分が落ち着いてくる感覚がする。

 

 

「あ、もしかして志真が案件でやるゲーム? 明里ちゃんも参戦するって言ってたもんね。結構難しいの?」

 

《うーん、そうでもないけど、私があんまりゲーム得意じゃないから》

 

「そういえば、随分前に2人でマリカやった時に明里ちゃん負けっぱなしだったよね。結局は明里ちゃんが勝てるまで付き合ったんだっけ? 懐かしいな」

 

《そんな記憶なら思い出さないで‼ 》

 

「あはは、良い思い出だよ。明里ちゃんも志真に負けず劣らずの負け嫌いだよね」

 

《それはそうかも。でも志真ちゃん、というかマリアちゃんには勝てないかな?配信でやってるゲームとか気付いたらどんどん強くなってるんだもん。》

 

「まあ、志真がやるなら今回の案件も負けることはないでしょ」

 

《そうだね~。それに今回は星織カグヤちゃんも参加してるし、作戦が漏れてるとか、リリアちゃんが裏切るとかが無ければ負けることはないと思うよ》

 

「出た、”ミディアックスの天敵”さん。俺でも知ってるレベルの人と一緒に配信するんだから改めて志真も凄いことになってるよなあ」

 

《ふふふ、異世界に行っちゃったハルくんがなに言ってるの?》

 

 

穏やかな声で明里ちゃんがそう言う。

そんな彼女に俺は少しだけ返答に困ってしまう。

 

 

「…それはそうなんだけどね。それにしても、今回の案件はいい企画だよね。視聴者参加が出来て、推しのVtuberと一緒に戦えるとか、普通に楽しそう」

 

《すっごく楽しいよっ‼ 作戦会議配信とかも盛り上がってたし。対戦相手が別事務所のミディアックスなのがちょっと心配だけど、でも面白い企画だと思う》

 

「あはは、Asariママのモードが出てる。でも、アリアリとミディって結構比べられがちだからメンバーとかファンの間でいざこざがあるかもしれないのは怖いね」

 

《うん…。でも、みんなで1つの企画に取り組むっていうのは、やっぱり楽しいなって思ったかな。ちょっと違うけどコミケとかに似たような感じ。》

 

「何となく分かるかも。俺がVtuberに憧れたのもそういう部分に惹かれた訳だし。配信者も、視聴者も、そこで交わる思いも、全部が組み合わさって1人の”Vtuber”を成り立たせている、みたいな」

 

《……》

 

 

その時、唐突に明里ちゃんが黙ってしまう。

一瞬、通話のラグかと思ったけど、多分そうじゃない。

 

 

「どうしたの?」

 

《……ハルくんは、Vtuberになって良かったって、思う?》

 

 

少しの沈黙の後に発せられた彼女の声は、少しだけ震えていた。そんな彼女の声に、胸がギュッと締めつけられるな痛みを覚える。

 

 

力強く。この優しい幼馴染に安心してもらえるように。しっかり本心を伝えよう。彼女が責任を感じて心痛めないように。

 

 

「あのとき、明里ちゃんにVtuberを教えて貰えて、明里ちゃんにモデルを描いてもらって、Vtuberになれて、良かったって思う。」

 

《…うん》

 

「ここにいていいんだって、そう思える場所を作ってくれた。だから、明里ちゃんには本当に感謝してる。これだけは嘘じゃない。本当にそう思ってるから」

 

《…うん。なら良かった》

 

「…」

 

《…》

 

「あはは、ちょっと湿っぽくなっちゃったね。今日はこの辺にしておく?」

 

《そ、そうだね…またいつでも通話してね?》

 

「もちろん。それじゃ、おやすみ」

 

《うん、おやすみ》

 

 

通話が終了する。

 

少し気持ちが整理できた気がした。

揺れる気持ちがあれば、揺るがない思いもある。

 

…なんだか、元気が出てきたな。

時計を見ると時刻は夜の8時を指している。今日の配信は10時から。

 

 

「飯でも食ってダンジョンに向かうか」

 

 

俺はベットから立ち上がって軽く伸びをする。

家を出る前に志真に応援のチャットだけ送って夜の王都に繰り出す。

 

…今日のメンツは、シーナとジャスパーと俺の3人か。いっちょ頑張りますか。

 

 

▽ ▲ ▽

 

 

都内にあるマンションの一室。

暗い部屋で一人の女性がPC画面を眺めている。

 

 

【アリアリは南北で挟み撃ちの作戦】

 

【星織は本陣で待機。リンリンの拠点を東雲&一宮コンビが攻撃】

 

 

表示されるコメントを読んで、画面を眺める女性の口角が僅かに上がる。

 

 

「カグヤ、今回は私達が勝たせてもらうよ」

 

 

今回のコラボ案件企画におけるミディアックス陣営の真の指揮者、赤城カナタは小さく呟いてゲーミングチェアから立ち上がる。

 

その瞳は爛々とした戦意が燃え上がっている。

 

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