異世界転移した男性Vtuberが、現実の有名女性V達からモテる話。   作:梯子田カハシ

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第21話 始まりの火蓋は東にて(一宮リリア/赤城カナタ視点)

 

 

「アンタたち~、やったるわよ~」

 

 

移動する船の上で、私、一宮リリアは配信を見てくれているであろう後続の視聴者さん達に声を掛ける。コメント欄が見えないのが少し寂しくはあるけど、後ろの船が一斉に旗を掲げるのを見て思わず口角が上がる。

 

 

「ふふっ、なにそれ。アホなんじゃない?」

 

 

ゲームの設定で軍隊や軍船に掲げる旗をオリジナルに出来るのは知っていたけど、まさか視聴者さん達がわざわざ自分(一宮リリア)の名前が入った旗を作成しているとは思わなかった。

 

…凄く嬉しい。

 

 

「…そ、そんな旗を作ってる暇が合ったら、ゲームの練習しなさいよ。アンタたちなんて、いっつもポンコツで私に負けてるザコなんだから。…もう、ミディに負けて〇んだりしたら許さないからっ」

 

 

照れ隠しの暴言を吐きつつも、私は自分の頬が少し熱くなるのを感じる。

 

…今日はコメント欄は見えなくて正解だったかもしれない。多分だけど今頃コメント欄は”ツンデレ”だの”チョロい”だの、そんな言葉で溢れかえっていると思う。

 

 

「アンタたちがどーせコメント欄に”ツンデレ”って書いてるの分かってるから。後でアーカイブ確認しておくから覚悟しなさい。今後ぜったいにコメント拾ってやんないんだからね。」

 

 

…やっぱりコメントが見れないのは寂しいかも。

いつもなら視聴者さんとのプロレスに発展できるけど、今日は反応が見えないからそうもいかない。何となくVtuberになる前に練習で実家の壁に向かって話していた時期を思い出す。

 

そんなことを考えていると、カグヤさんのミュートが解除される。

 

 

《マリアちゃん、リリアちゃん、聞こえる?》

 

《大丈夫です。》

 

「ダイジョーブです」

 

《おっけー、2人ともありがと。カグヤより通達ですっ‼》

 

 

…きた。”通達”、これは配信では言っていない、作戦を確認するキーワード。

私は少し緊張しながらヘッドホンの音量を上げてカグヤさんの発言に耳を澄ます。

 

 

《私、星織カグヤ、只今【偵察】を終えまして…プランBに決めました‼》

 

「了解です。東に舵を切ります。」

 

《了解しました。リリアちゃん、拠点借りるね》

 

「おっけー。マリア、よろしく」

 

《…私の後輩ちゃんたち、急にスイッチ入って怖いんですけど…》

 

《…それじゃ、通話切ります》

 

「…」

 

《ねえ、2人ともスルーするのやめてくれる?おねえさん悲しいんだけど…って、あっ‼》

 

 

マリアが無慈悲にカグヤさんを強制ミュートにする。

 

最初は3人で通話を繋いだままにする予定だったけど、3人の指揮が視聴者さんに分かりにくくなるかも、ということで必要な時だけ通話を繋ぐことにしている。配信前に聞いたらミディアックスの人達もそうするみたいだった。

 

 

「アンタたち、よく聞きなさいっ‼ 作戦変更、今から美弦ちゃんの拠点を攻めるわよっ。他のことはカグヤさんとマリアがどうにかしてくれるから、初っ端から...暴れるわよ。敵は美弦スズ、アンタたち着いて来なさい」

 

 

私は思いっきり進路を東に切る。…少しカッコつけすぎたかもしれない。

でも「敵は本能寺にあり」みたいで言ってみたかったんだから、しょうがないよね。

 

ああっ、コメント見れないのがもどかしいっ‼

 

 

進路変更から約5分後。

進行方向の海岸線に拠点が見えてくる。…いよいよだ。

 

 

「あははははっ、アンタたち、行くわよっ‼」

 

 

海岸沿いに見える拠点を指さして、私は高笑いを上げる。

 

いつもはゲーム内やコメント欄でプロレスをしている視聴者さんと、今日は共闘だ。なんだかんだ、いつも私のしつこいくらい長い配信に付き合ってくれている視聴者さんに、少しは報いなければ。

 

 

「さあ、一番槍はリリアが貰うんだからっ」

 

 

私が真っ先に接舷して拠点に向かっていくと、後続の視聴者さんも続々と拠点を目指す。

…何故かみんなプレイが上手くて、気付いたら味方に守られるように最後尾になってたけど。

 

 

「…くっ、アンタたちっ、どきなさい‼ ザコは後ろに回ってなさいよっ‼」

 

 

無理やり前に出ようとすると、何故か味方の視聴者さんに阻まれてしまう。

いや、私の指揮を無視してなんでこんな連携できるのよ。

 

…結局、私の思惑とは裏腹に、大将を後方で守る形でリリア軍は拠点へ雪崩れ込むようにして突っ込んでいった。…とりあえず、プレイヤー1人くらいは倒したいな。

 

 

▲ ▽ ▲

 

 

【やばいやばいやばいやばい】

 

【あーこれはスズちゃん落ちたわ】

 

【姫、やったれ‼】

 

【これは天敵認定】

 

【あかんな、完全に援軍に出したのが裏目に出てる…】

 

【作戦読まれたんかな?】

 

 

コメント欄を見ながら、私、赤城カナタは思わず出そうになった舌打ちを呑み込む。

今は案件企画である本配信の実況をこなさなければ。それに今回はミディアックスだけでなくアリアリの視聴者さんも見ている。下手なことはできない。

 

 

「…これは、予想外ですっ‼ 東に進路を切ったリリアちゃんがそのままスズちゃんの拠点への攻撃を開始しましたっ‼ えーっと、スズちゃんの拠点にいる兵士は合計で600人です。一方で攻めてきているリリアちゃんの兵士は1,100人。どちらも1.5倍のバフが掛かっているので、スズちゃん、ピンチです‼」

 

 

ふと別モニターを観ればカグヤがニンマリとした笑顔を浮かべている。…やられた。

きっと、あの娘には全部読まれている。

 

カグヤは私達に見られる前提(・・・・・・)であの作戦会議配信をしたに違いない。

完全なブラフに嵌められた。そんな実感がじわじわと湧いてくる。

 

学生時代から、あの子は変わらない。

気楽な態度で、いとも簡単かのように、嘲笑いながら、私の欲しいものを掠め取っていく。

 

 

≪知ってしまうっていうのは、もう知らない状態に戻れないってことなの≫

 

 

マナーモードにしている携帯に無音でポップアップが浮かび上がる。

大学の同期、来栖織姫(くるすおりめ)からのメッセージを読んで私は自分の予感が的中していたことを思い知らされる。

 

 

【カナカナ唖然としてて草】

 

【後輩が攻撃されてんのって結構キツイな】

 

【俺の推しが…】

 

【許さない許さない許さない】

 

【こればっかりはそうゆうもんだからなあ】

 

【まあ、エベで推しが負けるようなもんや】

 

【そう言えばスズちゃんってこういう系のゲームやるの初めてかも】

 

【カナカナ~?】

 

 

コメントを読んで我に戻った私は慌てて実況を再開する。

 

 

「じわじわと、しかし、確実にスズちゃんの兵士が減ってきています‼ 状況は厳しいです‼ では、ここで戦闘中の2人の通話を繋げようと思います。それでは、どうぞっ」

 

 

《はーい、一宮リリアでーす》

 

《…っ、美弦スズです。リリアさん、やってくれましたね》

 

《あはは、スズも先陣が切れて良かったじゃない。逃げないわよね?》

 

《…逃げません。1人でも多く兵士を倒して、叶うなら貴女と刺し違えますっ》

 

《…そう?偉いじゃない。それに、スズって意外と熱いのね。ちょっと気に入ったわ。今度コラボしましょ》

 

《”アリアリ3期生のヤベーやつ”に気に入って貰えたなら良かったです。》

 

《それで煽ってるつもり? あいにくだけど私は簡単に煽りに乗るようなタチじゃないのよ。それより私と刺し違えるんでしょ?拠点に籠ってないで出てきなさいよ。まあ、ウチのお馬鹿達の壁を通り抜けられるかは分からないけど。》

 

《…っ‼ 今行きますから。あと、コラボはしてください。》

 

《したたかな所もあるのね。ますます気に入ったわ。せいぜい悪あがきを見せてちょうだい。》

 

 

ここでリリアちゃんがミュートにする。スズちゃんも無言でプレイに集中する。

 

既にこの戦場においては作戦はない。

ただ、互いのライバーと視聴者達が自身の誇りに掛けて純粋に戦うのみだ。

 

 

 

 

数分後、全てのプレイヤーに通知が流れる。

 

≪アテナイ拠点Ⅲ 陥落:当該の拠点は一宮リリアの手によって陥落しました≫

≪美弦スズ 戦死:当該メンバーは戦闘にて本戦より退場となります≫

 

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