巨大な部屋にその巨人は居た。銀色の光に包まれた筋肉質な白銀の体、ボディには黒色の模様、胸のプロテクターにはY字の真ん中に輝く青い宝玉、人のようで人でない相貌、青く輝く瞳の下部に無感情な小さな黒い目を携えた曲面と平面で構成された黒銀の巨人。
だが巨人の胸の宝玉は3分もしないうちに赤く点滅し、その体を空気に溶かすように消えていった。
「むう、完全顕現するにはエネルギーが足りないようだな」
巨人の正体である彼はアシュタロスの研究所で不完全な超神形態の修復に勤しんでいた。光の力をメインとするゼスト、闇の力をメインとするダークザギ。それぞれが膨大な力だがお互いの力が反発し合い本来の性能を発揮できないのだ。
これが彼の主人格が『私』では無く『僕』であった場合は『僕』の特性により光と闇が合わさり最強に見える状態になったのだが今の彼の主人格は『私』だったので別の手段を講じなければいけなかった。
「ふむ、お前が現れたときカラータイマーは点滅していた。その点からも消耗していたことが予想できるな」
アシュタロスは彼に向けて自分が見た情報からの推測を言う。
ガイアセイバーズに敗れたゼスト、ノアに負けたダークザギ、どちらもその肉体はボロボロだ。もしどちらかが十全な状態であればそのエネルギーを使ってCPS(クロスゲート・パラダイム・システム)を起動する事が出来る。そしてCPSさえあれば光と闇の力の平行使用も可能であったのだ。
「そうか・・・。しかし、そうなると何らかの方法でエネルギーを確保しなければな」
だが、英雄たちに敗れた彼にはそんなエネルギーは残っていない。アシュタロス風に言えば、彼は霊格こそ高いモノの、封印されたせいでソレを生かす霊力を持たないと言った状態だ。例としては魔法学園都市の吸血鬼が近いだろうか。
「だがどうする?CPSを起動する程のエネルギーだ。例えば私が用意しているエネルギー結晶とて契約した人間たちの魂を加工して作られている。その特性上、量産は出来んぞ」
アシュタロスがエネルギー源として思い浮かべたのは、自らの計画の要として制作しているエネルギー結晶だ。
「魂か。あのエネルギーは非常に便利な代物だが・・・いや、手が無いわけではない」
魂を利用したエネルギー機関は無い訳ではない。だが搭乗者に影響が出ないレベルにするのは非常に困難だ。アシュタロスのような膨大な霊力を持つ者ならともかく今の彼には不可能だった。だが、彼は別のエネルギーを思いついた。
「ほう、何か思いついたのかね?」
「ああ。地球の生命力を利用する」
「地球だと?」
魂から彼は命を連想した。それは、すなわち生命力そして最も生命力を持つのは他でもない母なる星である。
「そうだ。地球のエネルギーは二体のウルトラ族を創造することすら出来る。それを利用するために地脈からエネルギーを吸収する」
彼の持つ『僕』の記憶、その中には二体の地球の巨人が、そして最終決戦で如何に巨人が蘇ったか刻まれていた。
「なるほど・・・しかし、それは永い時が掛かるぞ」
だがアシュタロスの計算ではかなり時間が掛かる事が予想される。当然だ、彼のエネルギー総量の上限は光の戦士6人以上いや、それの2倍以上はあるからだ。
「問題ない。地脈の中に直接入り、そこで休眠状態に入れば良い。それに下手に人間からエネルギーを奪おうとすると何らかの抑止力が発生しうるからな」
だが、彼は慎重だった。今までの経験と知識からリスクを回避するには地道な方法が一番だと知っていたからだ。
「抑止力、世界意思か・・・忌々しい」
世界意思、それは世界があるべき流れを進むように確率と事象を操る存在だ。それは別の世界で根源、『』、蒼、アカシックレコード、太極などと呼ばれている。
「抑止力を誤魔化すには十重二十重の策と時間を掛けての幾多もの偶然が必要だ。もしくは運命すらも覆す絶対的な力を持つか、だ」
彼が抑止力を乗り越えるべくして導き出した結論は、因果律や運命を操作し自分の望む世界を創造する。または世界そのものにバレないように世界を騙し目的を達成することだ。
「そういう考えもあるか。だが私にとっては後者を選ぶしかないのだがな」
しかし、魔神であるアシュタロスは運命に雁字搦めに縛られており、欺瞞で何とか成るようなものではなかった。
「私も似たようなモノだ」
そんなアシュタロスに対し彼を竦めながら答えた。アシュタロスが運命に悪である事を強いられているように彼の進み先には必ず破滅が待ち受けていたからだ。
「ふっ。・・・地脈の選定は私がやっておく」
そんな彼の冗談めいた言葉に苦笑いをしながらアシュタロスは巨人復活の場選定を片手間におこなった。
***
日本の奥多摩の地下深くにその施設は存在した。核攻撃を受けても影響が出ない程の深くに地脈に干渉する装置が備え付けられ、そこには黒い巨人すなわち彼が横たわっていた。
「気分はどうだ?」
アシュタロスは巨人を跨ぐ鉄橋のような物の上から彼に話しかける。
「やはり消耗が激しいな・・・。早めに休眠状態にならなければならんな」
彼はアシュタロスに答える。実際に声は飛ばさずテレパシーで意思を疎通しているのだ。だが、その意思の端々から彼の疲労と言う物をアシュタロスは感じ取った。
「そうか・・・もし私の方が早ければ起こしてやろう」
「あ、あ・・・た・・・の・・・ん・・・だ・・・」
黒い巨人の瞳は光を失っていく。胸の宝玉もまた光を失った。彼は仮死状態になったのだ。
それを見たアシュタロスは手元のパネルを操作する。それにより巨人の周辺に10個設置されている水門のような門は開かれた。
それは光る水だった。白とも黒とも呼べない光が水のような形状を持ち部屋に流れ込んできた。それこそが地脈の流れだ。
地球の生命エネルギーは、巨人の眠る棺に溜まり池のようになっていく。そして巨人が完全に水没したころには地脈の激流を穏やかな物へと変わっていった。
それを見届けるとアシュタロスは施設を後にした。そして、これが彼らの別れだった。
***
施設は揺れた。いや、施設そのものが裂けたのだ。本来なら核攻撃にすら耐えれる施設は謎の衝撃により破断した。
それにより永い間眠っていた彼は緊急起動システムにより意識が突如として活性化した。
「な、何事だ!?一体!!」
だがいきなり起こされた彼には状況が把握できなかった。地下深くにあったはずが空の色すらも見える裂け目、絶えず襲う激しい衝撃。まさに緊急事態だった。
「ええい!転移座標、L1S0345R!」
彼は咄嗟にクロスゲートパラダイムシステムを起動させラグランジュポイントに空間転移を行う。
事態を把握するため宇宙から地上を観測しようと言うのだ。
だが、それは彼に残酷な真実を突きつけた。
「ば、馬鹿な・・・地球が・・・砕ける・・・」
それは何処からとも無く現れた無数の隕石群が地球に降り注ぐ荒様だった。天は裂け、大地は砕け、海は枯れる。まさにそう表現するしかなかった。隕石によって生じた核の冬の雲を隕石が更に切り裂き、隕石衝突の影響で大地は砕け、海の水は蒸発していたのだ。
「あれは・・・宇宙怪獣だと!?」
そして事態は更に悪化する。STMC通称宇宙怪獣と呼ばれる存在が地球圏に現れたのだ。天文学的な数に固体それぞれが転移能力を持つ知的生命体の天敵、それが宇宙に逃れた人類に牙を剥く。
宇宙に数少ない初歩的なコロニーは突撃艇により貫かれ、宇宙ステーションは、兵士級に蹂躙された。人類も抵抗するが圧倒的な数的不利を覆すことが出来ず、その命を散らしていく。
「この現象はまさかアポカリュプシスだというのか!?」
そして彼の知識にはこの現象の心当たりがあった。宇宙終焉の日アポカリュプシス、それがこの現象の名前だった。
そして、驚愕も醒めぬ彼に宇宙怪獣は無慈悲に攻撃を仕掛ける。彼は反撃するがその圧倒的な数に翻弄されてしまう。
「ぐうぅぅぅ!何故このようなことに・・・!!止む終えんか・・・クロスゲートパラダイムシステム起動、目標時間軸は隕石襲来前だ!」
宇宙怪獣に吹き飛ばされた彼は、時を越える。何故このようなことが起こったのか突き止めるためだ。そして彼はそこで驚くべき物を見る。
***
「これは、まさか・・・」
無限の蒼穹を往く機械の騎士とプログラム魔法を操る異界の魔法使いが戦っていた。
幻想に隠れていた妖怪と禁断の科学により改造された人間が争っていた。
英雄と呼ばれる存在。主人公と呼ばれる存在。ヒーローと呼ばれる存在。それらがお互いに争っていたのだ。
「そ、そうだ!アシュタロスは・・・!?」
その事実に彼は驚愕しつつも友の安否を知るためCPSで事象を観測する。
「人間に敗れたのか・・・・!?その人間は、反デタント派の天使により謀殺されただと!?それに増長した天使により人間世界への千年王国建国それによる人間の抵抗・・・何処の女神転生だ、これは」
だが、それは彼を更なる混沌に叩き落した。魔王は英雄に倒され、英雄は神に殺された。そして神と人間が争っているのだ。
混沌はそれだけでは無い。この機に乗じ様々な組織が行動を開始した。本来ならそれらの組織は英雄たちにその野望を阻止されるはずだった。だが英雄同士が相打ち合い消耗した彼らでは野望を阻止することが出来なかったのだ。
「ひどいものだな。私が居た実験室のフラスコならば奴らは手を取り合い困難に立ち向かっているはずなのだがな」
多くの命が死んだ。かつての世界大戦以上に人が死んだ。正にその有様は最終戦争と呼ぶに相応しい有様だった。
「英雄同士が相討ち合い本来なら解決できた事件が消耗により解決できない、か」
宇宙の彼方から彼はその惨劇を見るしかなかった。ココまで複雑に絡まった因果そして世界意思の防衛能力により彼はこの事態への事象や因果律の干渉を行うことが出来なかったのだ。
例え、彼の持つ絶対的な力で解決しようにもこうなるともはや一度滅ぼすくらいでないと止まらない。彼はそう推測した。
「絶対運命アポカリュプシス・・・まさか、この世界でも起きるとはな」
彼は、苦悩していた。かつて目指していた力を手に入れることは出来た。だが、今のままでは世界は
終焉を迎えてしまうと言う事を知ってしまった。そして手に入れた力もこの状況では無意味だった。
「今のままでは、ただ終焉により滅びるだけだ。ロンド・ベルいやαナンバーズのような存在がいない、この世界では・・・」
複数の因子が交じり合った世界、だがそこには鋼の救世主たちのような存在が居なかった。
「終焉を乗り越えるには力技ではなく、彼らのような心の力が必要だ。・・・ならば、奴らのような存在を作り出す必要があるな」
彼はある回答にたどり着いた。それは英雄や救世主が居ないならば作り出せば良いと。そして嘗て『私』が歩んだ道を再現する事により『剣』を生み出す事を決めたのだ。
「ならば、私は名乗ろう。『ユーゼス・ゴッツォ』という名を。そして、集うが良い剣たちよ」
こうして彼は全能なる調停者にして最後の審判者を目指す。全ては彼の宿願の為に。
「太極よ、もう一人の神よ、見ているが良い。ノアよ、この世界に貴様は必要ない。世界を、あの美しい地球を救うのは、この私だ!」
次の更新は武装機甲士です。