祝え!!ブルーアーカイブの瞬間を!   作:とんぱる

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祝え!アビドスに拉致られた瞬間である…!

「ライダーー!」

 

 覇気のある声と共に黄金の粒子が足に集まる。

 

「キィィイイイックッ!!!」

 

 吸いつけられるように敵へと迫った飛び蹴りは見事に対象の胸を貫通し、地面へのズシャァアアという音を響かせる着地と同時に敵が爆発した。

 

「スゲー!!やっぱ、ジオウ最高だわ~」

 

 テレビの画面を食い入るように見つめながら、片手のスマホでブルーアーカイブを遊ぶのもそこそこに俺は空気に酔いしれていた。

 

「祝え!…なんちゃってっ」

 

 んはははっ、と気持ち悪い声がでるを自覚してもこの素晴らしい存在を知らしめたいというオタクの布教行為染みた行動はやめられそうになかった。

 

「良いなぁ、ウォズ」

 

 今ちょうどテレビ画面にて仮面ライダージオウの横に佇む黒髪の男性を見ながら憧憬の吐息が思わずもれてしまう。

 

(ジオウの家臣であるウォズの「祝え」という役どころを何度羨ましがったことか…俺もやりたい!)

 

 しかしそれは叶わぬもの。仮面ライダーはテレビの中の想像作品、絵空事なのだから。

 

「ッガァ…ァ……」

 

 何の前触れもなく、突然視界が揺れる。

 

「これで悪魔の王が降臨するゲートへの第一歩が─」「宇宙紐理論と平行世界の証明がこれによって─」「まずはゲームの世界を試作として─」「地球にはこんなにも人がいるのだから対象者の1人くらいは─」

 

 膨大な情報が脳内に濁流のように流れてくる。地球の人間が現代まで残してきたあらゆる情報がとめどなく俺の脳に垂れ流されていることを自覚する。

 

 その中には今俺が苦しんでいる原因をつくった奴らの声まで含まれていた。

 

「なる…ほど……な………はぁ…はぁ…」

 

 宇宙や世界を紐解くという目的に作成された世界最大の粒子加速機。それを悪用した実験が決行され、当てはまる対象がたまたま地球上に俺のみであったのだ。

 

 粒子レベルまで俺の知覚領域を狭められたことで、世界で唯一の量子に対する正確な観測眼となってしまった結果が、その瞬間に地球上に存在した全ての情報が流れ込むという理不尽を成したのである。

 

 一にして全、世界そのものであり俺である。この一瞬限りの奇跡を意図せずに起こした研究所の真の目的は、聖書の成就のための魔王を降臨させることだというから笑えてくる。

 

(魔王、ね…。オーマジオウだったら面白味もあるのに)

 

 安定してきた頭で思考をまわす。

 

 相も変わらず出てきたのは仮面ライダージオウの出来事ばかりであった。地球全ての知識を持っているのに考えることは空想のものばかり。

 

(ゲームって言ってたよなぁ)

 

 研究所の科学者か何かの発言にゲームの世界というものがあったことから、俺はゲームの世界に移動させられたのだとわかる。座り込んだ地面がでこぼこだし、地に付いた手がざらざらと砂っぽい感触を脳に伝えてきてくれる。

 

 ゲームの世界に来たのであろうというわくわくとした希望とこの地球での知識があれば装置さえ作ればいつでも帰れるという安心感によって、ポツポツとテンションが上がっていく。

 

「祝─」

 

 バッと、閉じていた目を見開いて自身の門出を祝おうとウォズに成りきるように声を張り上げようとして。見上げた空に見覚えのある巨大な輪が浮いていた。

 

「─え?」

 

 特徴的な天使の輪に見えるそれはヘイロー。

 

(ここってブルーアーカイブの世界じゃねーか!!)

 

 透き通るGTAともいわれるほどの、銃社会にて終わってる治安の中でギャルゲーしていくゲームだ。プレーヤーは先生という主人公となって生徒の女の子達を導いていく。そんな生真面目さもありそうなゲームなのだが─

 

(足を舐めるとかいう選択肢が存在するんだよなぁ…)

 

 ─イカれた選択肢によってハッピーエンドを目指すことになるぶっ飛んだゲームなのである。

 

「ねぇ~、大丈夫~?」

 

 ゆったりした声が目の前からかかり、俺は思考を打ち切って目を前に向ける。

 

 ピンク色の長髪に、小柄な体と同サイズであろう盾をその手に持っている。ぺったんこな胸に黒い乳ベルトをつけたその姿は─

 

「アビドスユメモドキ…」

 

 ─アビドス高校3年生の小鳥遊ホシノであった。

 

「は?」

 

 彼女の緩やかそうな笑顔が若干歪んだ。

 

 

──

 

「暑い~」

 

 冷や汗ダラダラなんのその、今の俺は叫んでいた。

 

「もうすぐだからね~」

 

 あの最強と名高い小鳥遊ホシノにおんぶをされながら。

 

 おおっ!ゲームキャラ!、と考えたのが悪かった。俺の口から出てきたのはネットの不名誉なアダ名集の1つであり、彼女を怒らせるのに当然の代物だ。

 

 怒られないためにと必死に灰色の脳で出した答えはマシンガントーク。しかし準引きこもりの俺に出来たのは拙い誤魔化しだけ。いや、誤魔化せてすらいなかったかもしれないが…。

 

「学校行きたくない~!誘拐だぁ…暑ぃ」

 

「うへ~、まだ早朝なんだけどなぁ~」

 

 気の抜ける声が下から響いてくる。体感が良いためか全く振動がこちらに伝わってこない。

 

「ダメだよ~。誘拐じゃないし~。予言なんて言ったからには間近で確かめさせて貰うまで逃さないからね?」

 

 最悪の初対面を乗りきるために勢いで会話をしたら後半ヤケクソ気味になり「そんなんだから書記になるんだよお前はぁ!」と大声で言い返したのが俺のミスであった…。

 

 しどろもどろになりながら予言者として自己紹介をしたら、あらよっと動かない体を担がれて歩きだされたのである。

 

 おそらくだが、地球の知識を一度思い出すと消えるという今の俺の持つ特性を、彼女の後輩シロコを拾った時の記憶喪失の状況と重ねて哀れんだというのもあるだろう。

 

 そう、俺自身の記憶は問題ないものの、一瞬の内に得た地球上全ての知識は一度思い出すと次の瞬間には脳内から消えていることが発覚したのである。

 

 あれ?何考えてたっけ?、というような思考の空白が一瞬起こるだけで、意識をしなければ知識として持っていたことも忘れる程である。ホシノと話してる最中にその事に気付きめちゃくちゃ狼狽えた結果、会話がヤケクソになった。

 

(これからは反復的に記憶することorメモをとっていくか…だな)

 

 ちなみに、研究所についての内容を未だに覚えているのは、脳に知識を叩き込まれた瞬間に超恨んだからである。

 

 ユグドラシルぜってえ許さねぇっ!!(無関係

 

 帰るための知識は、あっ帰れそうだなってくらいで具体的に思い出さないで幸運だった。思い出したら帰るための手段すら失われるところだった。ちな、今失っているのは生殺与奪の権利。

 

 記憶喪失じゃない、と言ってもホシノは関係ないとばかりに背負われた俺には耳をかさないので…

 

「み、水…」

 

「ここら辺にミミズはいないよ?ウォズ君」

 

 …なんて狂った会話しか成立しないのであった。

 

──

 

 

「到着~」

 

 アビドス高校の小部屋じみた会議室の扉を閉め、ホシノが水筒を渡してくる。感謝もそこそこにひったくるように飲んだ。

 

「良い飲みっぷりだね~。若い人はこうでなくちゃ」

 

 ぬるっとした動きで椅子に座り突っ伏した彼女のおじさん発言を無視して、俺は拳をきかせながら頭を下げる。

 

「俺は新しい部活したいですっ!」

 

「およ?アビドス高校に入学してくれるってこと?」

 

 戸籍のない高校生(自動的に中退)をどこが受け入れてくれるだろうか。それに─

 

「祝わねば!」

 

 ─俺は吹っ切れたのだ。ゲームの世界で空想を成さないでどこで成そうというのか!

 

「えっと、それって名前の由来…なんだよね?」

 

「我が名はウォズ!大魔王の家臣である!!」

 

 パチパチとノリの良い拍手をしてくれる。

 

「大魔王って?」

 

 魔王に成りうる存在が、運命とでもいうように似通ったシナリオをなぞる存在が、いる。

 

「無論、砂狼シロコである!!」

 

「えぇ~!?シロコちゃんが魔王ぅ?そういう未来ってこと?」

 

 そんな決まった未来はブルーアーカイブのゲームにはなかった。だが砂狼シロコならばジオウ、いや常磐ソウゴの物語をなぞるだけのシナリオを実現できるはずだ。それを俺がウォズとして祝えばいい。

 

「大魔王…だ。故に副生徒会長!新たな部活を創設し、しばしここのものを使わせてくれ!!これと、これ!」

 

「副会長だって話してないよね?これが予言の力?」

 

 ホワイトボードの磁石と張り付けてあった紙をクルクルと丸める。

 

「そしてこれだ!」

 

 ザラザラと服から落ちた少量の砂を集める。

 

「ちょっとー?ここは対策委員会の部室だから皆の許可を─って聞いてる?」

 

 折った紙で砂をすくいあげ、落ちる砂の前で磁石を振る。

 

「知識による奇跡を見ると良い!!」

 

 パチッバチッという音を鳴らながら磁石の周りで砂が円をかいて浮いている。

 

「何これー!どうやってるの?!!」

 

「電流は向きを揃えることで発生する。故に…あー…」

 

 瞳を輝かせていた彼女が眉をひそめる。

 

「やっぱり記憶喪失なんじゃ…」

 

(失礼な!インチキにインプットした知識がただ消えただけだわ!!)

 

 磁石と紙を元通りにホワイトボードにはり直して立ち上がる。

 

「違います!違います!!ほら、そんなことより屋上行きますよ!」

 

 筒型に蠢く磁石と化した砂を手にとって、扉を開けて駆け出す。

 

「ま、待ってよー!鍵とらないと、あと逆からいかないと屋上いけないよ~?」

 

 慌てて引き返しました…。

 

──

 

「わわー!砂が少しずつ集まってるー!」

 

 うへうへっと喜んでいる視線の先には筒型の砂が波打って大きくなる様子が広がってきていた。

 

「いずれは遠くの砂も吸い込んで学校を覆う大きさになる想定です。砂を熱で溶かして加工したり、蒸気をろ過して水を作ったり出来るでしょう。それだけ大きくなればいざというときに学校のバリアや上空からの強大な砲撃も可能になる設計にしました」

 

「それはすごいな~。どういう原理なの?」

 

「浮いているこの上下に動く2つの磁石が放電を振動の源として積もった砂を浮かす程の波長を生み出して─」

 

「波長ってどんな?」

 

「えっと…その…」

 

 この設計のための知識はとっくに消えている。何とか誤魔化そうとして─

 

「ねぇ、発明すると記憶喪失になるの?」

 

 ─ホシノの真剣な顔が俺をとらえる。ゲームで何度も見た表情だ。誤魔化したり茶化したりなんて出来ない。

 

「アビドスのために頑張ってくれるのはすごく嬉しいよ。でも、そのために自分を犠牲にしないでほしいな」

 

「アビドスのためでも、犠牲でもありません。俺の夢を叶えたいんです。それだけです」

 

 見つめあい無言の時間が続く。言い訳のない直球の発言だ。

 

「はぁ、わかったよ。無理があるわけではないんだよね?」

 

「知識だけです。記憶は、過ごしていく時間は消えませんから」

 

「うん、なら時々私達の思い出を聞くから、答えてね?それが発明を続ける条件!」

 

「えっ、そんな大変な…」

 

「別に大変じゃないよ。日常の話題の一つっていうだけ。その時に正直に答えてくれればいいんだよ」

 

「わかりました」

 

 俺の返答に一安心というようにうんうんとホシノは頷く。

 

「君は後輩なんだから私達にどんどん頼っていいからね?」

 

 にぱーっ、と優しく包み込むような笑みを浮かべている。ユメ先輩モドキのエミュとわかっていなければ惚れていたかもしれない。

 

「そ、そういえばこれを使って発電も出来るので」

 

 意識をそらすために、つっかえながらも話題を変える。

 

「発電?何の話ぃ~?」

 

「えっと、連邦生徒会長いるじゃないですか」

 

 ホシノはスマホを取り出しポチポチとタップした後こちらに画面を見せてくれた。

 

「これ、昨日の動画だけどこの人のこと?」

 

 うつっていたのは水色に所々ピンクの混じる長髪の女性。ブルーアーカイブのアイコンをヘイローに持つ連邦生徒会長その人であった。

 

「そうです、そうです。彼女が失踪して半年で完全に電気が送られてこなくなるのでどこの自治区も限界になるんですよ」

 

「うえぇ!?それは予言?」

 

「そうです。絶対の予言ですね。だから電気を売ろうって訳です。困った時は助け合いでしょってね?」

 

「いや、先にだなんて騙してることなんじゃ…でもまだ起こってないことだし…」

 

 悩んでいるホシノ先輩を横目に口を開く。

 

「ちなみに収入を得ても借金返済には使いませんからね?」

 

「ええ!?なんで!?」

 

 さも予想外という顔をされる。

 

「半年だけ収入がアップして戻った後にアップした分割返済額に届きませ~んとかなったら困りますから。使うとしたら開拓資金として、ですね。大丈夫ですよ、元々は俺が居なくても先輩達は半年耐えられる返済をしていましたから」

 

 俺が励ますように微笑みを浮かべたのに、先輩はパチパチと目をしばたかせ決意したような顔になった。

 

「その予言、信じるよ!実現しなくても私がなんとかするから!だから元々なんて関係なくウォズ君はここにいていいんだよ?」

 

「えっ?はい、頼りにしてますホシノ先輩」

 

 よくわからないが頷く。そしたらわなわなとホシノ先輩が震えだして─

 

「うおおおぉぉおおお!ウォズく~ん!可愛い後輩だよウォズはー!!」

 

 ─両手を広げて抱きついてきた。俺の腰がビシビシと腕力で悲鳴をあげ、乳ベルトがむちゃくちゃズボンを擦ってきて痛い。おまけになんか良い匂いが…。

 

「な、なんすか!?離れ、ちちち近すぎますって!!」

 

 な、なんだ急に!?ブルーアーカイブ(隠語)か!?

 

「良いじゃないか~。可愛い後輩を堪能させておくれよ~」

 

 ぐりぐりと頭まで腹に押し付けてくる。

 

(ヘイロー持たないこっちは肉体脆いんだからな!?あんた基準に絶対すんなよ!)

 

「いや、ホントに!マジで!!離れt」

 

 格闘(一方的敗北)していると屋上の扉が開かれる。

 

「電話中ですか~?皆登校したのでせっかくということで4人で来ちゃいました☆」

 

 ぞろぞろとアビドスの制服に身を包んだ4人がこちらに視線を向けている。

 

「あれ?人ですね」「だ、誰でしょうか?」「ホシノ先輩の知り合い?」「もしかして誘拐!?」

 

「あ~、ノノミちゃん!新しい後輩だよ!はい、自己紹介どーぞ!」

 

 パッと俺から体を離したおかげで完全に4人の視線が集中しする。

 

「エッ…イッ…あっ、ウォズです。一年です。」

 

 まるでモブのような声がでてしまった。い、いや準引きこもりに急な挨拶は高等テクニックだし…。

 

「こっちが素でしょうか?アビドス1年生で書記とオペレーターをしてます、奥空アヤネです」

 

 赤いふちの四角いメガネ、耳は尖ってるタイプのエルフ耳だ。これが後のアビドス生徒会長かぁ。怒られないようにしよう…。

 

「さっきの大声はなんだったのよ?!1年生、会計担当の黒見セリカよ」

 

 長いツインテールに黒い猫耳、きゅっと睨むような眉が特徴的だ。つり上がった目が勝ち気さを助長してより猫っぽい。

 

「ん、気合いは十分そう…。行動班長をしてる。アビドスの2年生、砂狼シロコ」

 

 肩付近まで伸びた銀髪に狼耳、首には水色のマフラーを巻いている。拾われた時にホシノ先輩から貰ったやつなんだっけ?そのマフラー。

 

「ギャップってやつですね☆同じく2年生の十六夜ノノミです」

 

 軽いウェーブがかった髪にセーターのブレザーが巨乳を覆い隠している。で、でかい!シャツの上に直にブレザーだから余計に大きく見える。

 

「よ~し!おじさんは書類を書かなきゃね!連邦生徒会やBDで授業するためのタブレットや男の子用のアビドスの制服も頼まなきゃだし!」

 

 たったったっ、と俺から離れたホシノ先輩はドアに向かっていった。あ、そうだと振り向いて、

 

「おじさんはアビドスの3年生小鳥遊ホシノだよ~。私達5人でアビドス廃校対策委員会」

 

 5人が正面から俺を見る。腰に手を当てて片手をこちらに伸ばしたホシノ先輩がやけに様になっている。

 

「アビドス高等学校へようこそ!」




「あれは何ですか?☆」

 浮いている砂を指さしている。

「あー、新しい発電機ですね」

「砂を使うなんて画期的…」

「要は振動させてるだけので素材は何でも良いんですけどね」

「し、振動!?それってこの磁気ネックレスと同じ効果ってこと!?これなら金運アップや健康面の向上をいっぱい量産できてウハウハになれるんじゃ…!」

 取り出されたポスターは怪しいにも程がある謳い文句の書かれたネックレスの広告紙。

「それ、詐欺ですぅぅううう!詐欺ですからね!?」

「セリカちゃん。また変な広告に騙されたんですか…」

「おお!突っ込み役が増えて賑やかになったねぇ~」

「俺は予言者であって、ツッコミ役じゃなーい!!」
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