冒険記録~ギルド『疾風の狼』~   作:弧埜新月

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今回書いてみて、前回区切る所を間違えたなぁ、と感じています。
2024/07/27を目処に前半部分を前話に移動予定です。

2024/07/27:12話前半を11話後半に移動しました。


オープニングフェイズ・捜索依頼

 アルミナとノーラが定宿にしているアーケンラーヴ神殿には、冒険者向けの依頼を仲介する依頼所が設置されている。しかし、ここに来る冒険者は余り多くない。この神殿で扱っているのは、主に神殿からの依頼(薬草採取など)や依頼者が貧困等の理由で酒場にマージンを払えない依頼など、あまり金にならない依頼が多いからだ。熱心な信徒以外には、怪我などでまともに戦えなくなった冒険者や、正義感に溢れた物好き(金持ち)などが依頼を受注する位で、大抵の冒険者は最初に冒険者登録を行った後、ここには寄り付かないことが多かった。

 なんとなしに依頼の貼り出された掲示板を眺めていたアルミナは、小さく溜め息を吐くと振り払うようにその場を離れる。

 

「どうかされましたか、アルミナさん」

 

 尋ねて来たキャサリンに、アルミナはいえ、と頭を振った。

 

「……ここに冒険者達が来たがらない理由が、分かった気がしただけよ」

「来たがらない理由……ですか?」

「報酬が低過ぎるからでは? 見てください、このゴブリン退治の依頼なんて、ポーションを一本飲んだら赤字ですよ?」

 

 ノーラが冷たい目で貼られている一枚の依頼書を指差す。少し色褪せたそれは、長いことそこに貼られたままになっているようだった。

 

「そう、報酬が低過ぎるのよ。とてもじゃないけど、こんな依頼は受けられない……けれど、この依頼を出した人は、この程度の報酬しか用意出来ない程、困窮しているってことなのよね」

 

 やりきれないとでも言うように重い息を吐き、アルミナは視線を上に投げた。

 

「報酬を理由に、そういった人達を見捨てている。そんな自分の姿に気付くのが嫌で、ここに来たがらないんじゃないかって、ね」

「そうですか? 普通に、お金にならないからだけだと思いますけどね?」

 

 ノーラが肩を竦める。キャサリンも内心でそれに頷きながら、アルミナに柔らかい微笑を向けた。

 

「アルミナさんは、優しい人ですね」

「……私は、優しくなんか無いわよ。結局私も、お金を理由に彼等の依頼を受けないのだし」

「もっと余裕が出来たら、受けてみますか?」

「余裕……余裕ね。今は想像が出来ないわ。どれくらいの余裕が必要で、どのくらい時間が掛かるのかも」

 

 アルミナは少し肩を落とすと、気を取り直す様に歩き出した。

 

「脇道に逸れて余計なことを言ったわね。本来の目的に戻りましょう」

「……面倒くさい人ですね?」

 

 ノーラが、言葉とは裏腹に何処か嬉しそうな声でキャサリンに耳打ちする。キャサリンも小声で応じた。

 

「そうでしょうか……私は、やっぱり凄い人だと思いますけど」

 

 自分はきっと報酬額の少なさにしか目が行かなくて、その背景のことなど想像もしないだろうから。

 キャサリンはそう思うが、ノーラの考えは少し違う様で微かに首を傾げている。

 

「結局受けないのですから、余計なことまで考えなければ良いのにと思いますけどね? 人として好感は持てますが、どうにも出来ないことに頭を悩ませて、良いことなんてありませんしね?」

「そういうものでしょうか……」

「その方が楽じゃないですか? まぁ、アルミナさんは割り切りのできる方ですし、大丈夫だと思いますけどね?」

 

 そう言ってノーラもアルミナを追って受付の方へ歩いて行く。キャサリンは一度掲示板を振り返り、二人の後に続いた。

 

 キャサリンが受付の前に来ると、丁度背の高い男性の神官が奥から顔を出した所だった。彼は冒険者の捜索依頼を担当している神官であるらしい。

 

「今回は、『小さな闘犬』のお二人の捜索依頼を受けて頂けるようですね。では、既に御存じのこともあると思いますが、確認も兼ねてお話させていただきます」

「よろしくお願いするわ」

 

 神官の男性が書類を取り出したのを見てアルミナが頷く。神官は頷きを返して手元の書類に視線を落とした。

 

「今回行方不明となったエディ、ロバートの二名は、この神殿で寝泊りしている冒険者です。二人は三日前の夜、飲み比べをした勢いで、最近発見された洋館に度胸比べという形で向かったそうです」

「の、飲み比べですか?」

「はい。ですが、そのまま夜が明けても帰って来なかったため、捜索依頼が作成されました」

「……おバカなんですか?」

「それ、酔い潰れて寝てるだけとかじゃない?」

 

 三人娘の呆れ果てた視線を受け止めるが、神官は目尻を下げて小さく鼻を鳴らした。

 

「まぁ、それならそれでこちらとしてはいいんですけどね」

 

 言いながら、神官は三人の前に依頼書を提示する。

 ──先程も述べたように、神殿からの依頼は基本的に報酬額が低い。しかし、そこには勿論例外も存在する。

 

「二人の救助に成功すれば、謝礼として一人当たり1,000Gをお渡しします。更に、前金として、全員にMPポーションを二つお渡ししましょう」

 

 それが、この行方不明になった冒険者の捜索依頼であった。

 

「あら、気前がいいんですね?」

 

 教会は、登録した冒険者の動向をある程度監視している。監視といっても、どの冒険者がいつどのような依頼に出掛けたとか、ログレスの街を出て何処へ向かったとかの情報を、酒場の店主や門番を通じて知る程度であるが。そして、もし未帰還などの情報があれば、こうして神殿が捜索依頼を出しているのだ。冒険者保護の一環であるらしい。そしてそういった依頼は依頼の受注率を上げるためか、依頼料が他に比べて高めに設定されているのだ。その絡繰は実に単純である。

 

「報酬は当然彼らの財布から出るので、ご安心ください」

 

 財源を救出される冒険者の懐から賄うのである。万一の保険として有り難がられる制度である反面、特に駆け出し冒険者には手痛い出費となるため、ログレスでは行き先と戻り予定を門兵に告げてから出発する冒険者が殆どだった。嘘か真か、行き先を告げるのを忘れて近隣の村へ飲みに出掛けたら、その半日後には大規模な捜索隊が組まれて破産した、などという噂がまことしやかに囁かれているのもその風潮を後押ししており、ログレスの治安維持に一役買っている。

 

「……いなくなったのは三日前なのよね。さっき、救助に成功したら……って言っていたけれど、もし、二人が亡くなっていた場合はどうなるのかしら?」

「あまり考えたくはないですが」

 

 あまりそう思ってはいなさそうな顔で、彼は淡々とアルミナに応える。

 

「彼らが死亡していた場合は、遺体を持ち帰れば100Gの報酬をお渡しします」

「そう。その場合、遺体は一部でもいいのかしら」

「アルミナさん? 依頼は彼らの救出ですよ? 彼等の討伐証明部位を持ち帰ることじゃないですからね?」

「……だから、私を何だと思ってるのよ」

 

 茶々を入れてきたノーラをじっとりと睨む。

 

「遺体が一部しか見つからないことだって考えられるし、そうでなくても状況によっては五体満足で連れて帰れないことだってあるじゃないの」

「……遺体に故意に傷を付けて欲しくはありませんが……やむを得ない事情があれば構いません。但し、その場合は詳細の報告をお願いします」

「分かったわ」

「彼らが何かの悪事を企んでいた場合はどうなります?」

 

 アルミナが頷いたところで、ノーラが口を挟んだ。神官は初めて少し困った顔をし、

 

「ええと……その場合は、何らかの形で報酬を出しましょう」

「そうですか」

「一体何を想定しているのよ……」

「だって、三日も帰ってきていないんですよ? 何か悪いことを企んでいてもおかしくはないですよね?」

「うーん……まぁ、ねぇ」

 

 アルミナは口をへの字に曲げると、ぎこちなく頷いた。

 

「いずれにしても、現地を確認してみないとわからなさそうですね? そう言えば、屋敷については何か情報はありますか?」

「そうですね……」

 

 神官は顎に手を当てると、少し資料を捲る。

 

「"幽霊屋敷"と渾名がついている割には、かなりきれいな外装をしているそうですね。ですが、窓のカーテンは締まっていて、夜もまったく灯りをつけていないらしい、という点が不気味だそうです」

「……人は住んでいないのよね?」

「誰かが住んでいる、という報告は受けていませんね。ちなみに発見されたのはついこの間の2週間ほど前でした」

 

 神官の話を聞いてアルミナは頭を捻った。

 

「……うーん。聞くだに良く分からない屋敷だわ。突然現れたの?」

「ログレス付近の林を探索していた新米冒険者がたまたま発見しました。突然現れたというよりは、誰も近寄らないような場所にあったと報告書には書かれています」

「そう……そうなると、野盗の巣窟になっている可能性も考慮した方がよさそうね」

「そうですね?」

「あの、場所はどのあたりにあるんでしょうか?」

 

 これまで黙っていたキャサリンが懐から取り出した地図を神官に差し出す。神官はそれを受け取ると、カウンターに置いてあった羽ペンを手に取って丸を書き込んだ。

 

「林のこのあたりにあると思います。一見分からないとのことですが、あると分かっていれば見つけられるかと」

「ありがとうございます」

 

 礼を言ってキャサリンは受け取った地図を懐にしまう。その様子を見ていた神官が、ああ、と思い出したように言った。

 

「報告の通りなら、館の中は真っ暗だと思われます。ランタンやキャップライトをお忘れなく」

「明かりか……」

 

 アルミナは自分の装備を思い返した。松明程度は一応持っているが、室内の探索には適していない。そもそも片手を開けておかなければいけないドルイドの闘法に、手で持たなければならない松明は適していなかった。

 

「よし、キャップライトを用意しましょう」

 

 キャップライトは頭に付ける機械式の明かりだ。ランタンよりは高価であるが、手で持たなくて良いので重宝する。高価と言ってもMPポーション一本分よりは安いのだ。今後も使えるものでもあるし、ちゃんとしたものを買おうと心に決める。

 

「私もキャップライトを買うことにします。戦闘になった時に、メイスも楯も持っておきたいですから」

「そうね。それがいいと思うわ。ノーラも買いに行くでしょう?」

 

 双剣使い──実際は四刀使いだが──のノーラも必要だろうとアルミナが振り返ると、ノーラは珍しく乾いた笑みを浮かべたまま固まっていた。

 

「……ノーラ?」

「わたしは……買うお金がありませんね……?」

「ちょっと!? 散々人を素寒貧素寒貧言っておいて、本当は自分が素寒貧じゃないのよ!?」

「まぁ……そういうことも、あります……かね?」

「はぁ……全く」

 

 目を逸らすノーラに、アルミナは頭痛を堪えるように額を抑えて溜め息を吐く。

 

「分かったわ、今回は私が貸してあげるから」

「あら、別に……プレゼントしてくれても、良いんですよ?」

 

 ノーラは軽く握った拳で口元を隠し、態とらしくあざとい仕草でちらちらと視線を向けてくる。アルミナは耳と尻尾を逆立ててガン、とブーツの踵を神殿の床に叩き付けた。

 

「甘えるんじゃない! こういう所をなぁなぁにするとその内不和を招いてギルドが駄目になるのよ。お金関係はきっちりやっていくわ」

 

 きっぱりしたアルミナの声に、キャサリンは首を竦めて取り出しかけていた財布をそっと戻した。ノーラは姿勢を戻してつまらなそうに口を尖らせる。

 

「ケチですね?」

「誰がケチか」

 

 鼻を鳴らすと、アルミナは尻尾の先をへにゃりと緩めて片目を瞑った。

 

「……まぁ、必要なら貸すくらいはするし、報酬の分配の時だって相談には乗ってあげるわよ」

「むぅ……その、ですね?」

 

 ノーラはしおらしい様子でアルミナを見つめる。

 

「何よ?」

「……トイチは、勘弁して欲しいのですが?」

「だ、かっ、らッ! 私を! 何だと思ってるのよッッッ!?」

 

 アルミナの尻尾は、再び天を貫かんばかりに逆立ったのだった。

 

 




今回出て来たログレスの神殿周りの冒険者事情は私の捏造設定になります。

毎回こんな感じのアルミナですが、普段はクールなんです。本当です。なのに誰にも頷いてもらえません。
おかしい……私の手持ちでは1、2を争うクールキャラの筈なんですが……。
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