この辺りが計画性の無い所……
今回から流石に残酷な描写タグを追加しました。
「助かったわ、キャサリン……」
まだ若干ふらつくのか、頭を振りながらアルミナが立ち上がる。キャサリンは柔らかく微笑んで首を振ると、同じように立ち上がってスカートをはたいた。
「キャサリンは? 身体の調子はどうなの?」
「もう大丈夫です。十分休ませて頂きましたから。全力でメイスを振っても大丈夫です!」
「ああ、うん、分かったからメイスは握らなくていいわよ? ちょっと今は避けられる自信がないわ」
頭を抑えつつ、柘榴は勘弁よ、とげっそり肩を落とすアルミナの姿に、キャサリンはバツの悪そうな顔をしてそっとメイスの柄から手を放した。
「──お二人とも、回復されたようですね?」
少し部屋を離れていたノーラが部屋に戻ってくる。彼女はアイアンゴーレムに刺したままになっていた三徳包丁を回収しに行っていたのだ。
「どうだった?」
「アルミナさんが上手く壊してくれたので、隙間が広がって何とか回収出来ましたよ? 流石に造りが頑丈ですね? 刃が潰れた以外は何ともないですよ?」
ノーラが回収してきたらしい三徳包丁を手元でくるりと回す。成る程、確かにその装飾のある刃は真っ直ぐで、多少傷は目立つが表面上問題はなさそうに見える。
「刃が潰れたら使えないじゃないの」
「いえ、パリィに使う位なら関係ないですよ? 刺突する位なら十分出来ますしね?」
そう言いながらノーラは三徳包丁をホルスターへ戻した。
「所で、先程渡した指輪は見て頂けましたか?」
「これね」
アルミナが腰のポーチから指輪を一つ取り出した。先程ノーラが開けた宝箱に入っていた物で、銀色のシンプルなリングに濃い赤褐色の輝石が象嵌されている。アルミナが倒れた後、ノーラが部屋を見て回ったのだが、結局アルミナが触れた大剣以外はその指輪位しか目ぼしい物は発見されなかったのだ。
受け取ったはいいものの、さっきまで満足に動けず調べることが出来なかった彼女は改めてその指輪を目の前に掲げてキャップライトの明りの前に置くと、目を眇めて観察する。
「んー……多分これ、ジュエルリングだわ。地属性の。身に付けていると地属性の魔法に対する抵抗力を高めることが出来るみたいね」
「つまり?」
「地下の扉を開けるには役に立たなそうってことね。まぁ、指輪自体は本物だし、変な罠とかも無さそうだから身に付けて起きましょう」
何があるか分からないし、とアルミナは自分の右手中指にその指輪を嵌めた。
「となると、怪しいのはこの大剣でしょうか?」
「いえ……この大剣はパワーソードという剣で、その名の通り、戦士が力を込めて振った時に切れ味が上がるように呪文を刻み込んだ剣ですね」
訓練の時に似たような大剣を見たことがあります、とキャサリン。
「大した技術も使われていない数打ち品だしね。効果は分かりやすくて使いやすいから、それなりに今でも人気があるみたいだけど」
そこは良いんだけど、とアルミナは剣の腹を拳の裏で軽く叩く。罠は一度発動したら動かなくなるタイプだった為、彼女を再び衝撃が襲うことはなかった。
「さっきも少し言った気がするけど、この剣は結構使用感があるじゃない? これは多分、元はここに来た冒険者の持ち物だった奴じゃないかと思うのよね」
「ありそうですね。そうなると……地下の扉とは関係なさそうですね」
キャサリンの出した結論に、アルミナも頷いた。
「他には何も無かったんですよね?」
「わたしがざっと調べた限りでは、無いと思いますよ? アルミナさんと比べると、どうしても精度は落ちますけどね?」
キャサリンの言葉にノーラが答える。そうですか、と残念そうに溜め息を吐いたキャサリンの肩を、アルミナが軽く叩いた。
「気にすることはないわ。この奥に行く以上、あのゴーレムを放っておく手はなかったもの。何も無いことは分かったんだし、奥に進みましょう」
「そうですね」
キャサリンは頷いて気合いを入れ直した。その姿に頷いて、アルミナはさっきの戦いで半壊してしまった扉を潜る。アルミナの魔法の余波で回廊の一部が壊れているのが見えたが、部屋と壁の穴を経由すれば安全に通行できそうであった。アルミナはその状態を横目に確かめると、廊下の奥へ歩いて行く。ノーラとキャサリンも周囲を警戒しながらその後に続いた。
しかし、警戒していた罠は何も無く、廊下の奥に着いてしまった。アルミナは廊下の両側にある二つの扉を見比べる。どちらも普通のこれといった特徴の無い木の扉だ。何気なく右の扉を選び、罠の有無を確認してから扉に耳を当てた。
──ぐぅ……あぁっ……ぁぁぁぁぁぁぁ……ぁ……
「ッ!」
アルミナは反射的に扉から飛び退る。彼女の耳に届いたのは骨同士がぶつかり合う軽くて硬質的な音に混じる、何者かの急速に萎むような悲鳴だった。突然の行動に驚いた二人が声を出す前に、アルミナは渾身の蹴りを扉に放つ。
「そこまでよ!」
そこは、これまで見てきた中で一番広い部屋だった。だと言うのに一つの窓も無いその部屋は、ここまでの部屋に比べれば精緻な装飾が施され、小洒落た絨毯が敷かれている。しかしそんな瀟洒な雰囲気を、噎せ返るような鮮血と死の臭いが塗り潰していた。思わずアルミナは左袖で鼻を覆う。彼女を追って部屋に突入したノーラも顔を顰め、キャサリンが息を呑んだ。
彼女達のキャップライトに照らし出されたのは、侵入者に反応して動き始めた三体のスケルトン。行手を阻むように立つ骨の戦士達はそれぞれ右の上腕骨に布を巻き、左の腰にはブロードソードを差して顎をカタカタと鳴らしている。
そしてその奥、一段高くなった所に据えられた豪奢な椅子に腰掛ける姿があった。
「あら、お客様かしら?」
艶かしい女性の声と共に、その影は右手で保持していた何かを放り捨てる。長さ2m程の枯れ木のようなそれは、女性の膂力の為か、或いはその軽さの所為か、大きさに反して真っ直ぐ壁に飛んでいくと、がさりと乾いた音を立てて床に落ちた。
「ここまで来れた、っていうことは、わたくしの下僕たちをみんな倒してきた、ってことでいいのかしら?」
勿体を付けて組んでいた足を解き、暗闇の中から優雅に歩み出てきたのは背の高い妖艶な女性だった。青ざめて見える程白い肌を、豪奢な金の髪と華美な装飾で上品に着飾ったその美女は、嗜虐的な笑みを浮かべながら真紅の瞳を細める。その瞳はナイフの刺し痕の様に細く裂けていた。
「ヴァンパイア……!」
「ふふ、この前来た冒険者は、ゴーレムにやられちゃったようだから……骨のある子が来て嬉しいわ」
「骨ならそちらにいますけどね?」
「そうね、そこにいっぱいいるわね」
額に滲む汗を誤魔化す様に軽口を叩き合うアルミナとノーラの言葉に、ヴァンパイアは含み笑いを漏らす。
「彼らはわたくしが誘い込んだ冒険者の成れの果てよ。皆中々わたくし好みのいい男でね。こうして、わたくしを護る騎士様になっていただいているというわけ」
「そんな……エディさんとロバートさんはどうしたんですか!?」
キャサリンの上げた悲痛な叫びを聞いて、女は片眉を僅かに持ち上げた。
「知らない名前ね? まぁ覚える気もないのだけど。貴女達だって、食べる肉がなんて名前だったか、なんて、気にしたこともないでしょう?」
堪え切れない様子で高笑いを上げる女に、キャサリンは息を呑み、アルミナは眉を顰める。
「醜悪な……」
「あら、失礼ね」
アルミナが漏らした言葉に、心外だとばかりに鼻を鳴らす。だが女はすぐ様思い直したように顎に手を当て、品定めするように三人娘を見回した。
「そうね、久しぶりにお風呂にでも入ろうかしら」
「何、貴女お風呂入ってないの?」
鼻を摘むアルミナを見ながら、女はええ、とにたりと笑った。
「中々いい素材が手に入らなくてね。その点今日は運が良いわ。まだ食料の在庫はあるから、遠慮なくお風呂に回せるもの」
「どういうことです……?」
意味が分からず首を傾げるノーラ。意味を察したアルミナは顔をはっきりと顰め、キャサリンは顔色を失っている。女はその様子を見て楽しそうに嗤った。
「手足を一本ずつゆっくり捥いでから、少しずつ肉を切るのよ。たっぷり鳴かせて、声も出なくなってきたら、魔法で『お湯』になるまで斬り刻むの」
「……本当、悪趣味だわ」
「あら、理解して貰えなくて悲しいわ。女の子の血肉は美容にいいのよ?」
吐き捨てたアルミナに嗜虐心を唆られたのか、女は愉悦に歪んだ瞳で彼女を見下ろした。
「そこの神官の子なんて、いい『お湯』になると思うのよ。貴女もお風呂が好きみたいだし、最期に堪能させてあげても……」
「黙りなさいッ!」
頬を憤怒に染めたアルミナが杖を抜き放ち様に風刃を放つが、常より収束の甘いそれを女は横に一歩動くことであっさりと避けてしまった。嘲るような笑みを手で隠し、反対の手をすっ、とアルミナ達に差し向ける。
「まぁ、怖い。さぁ、わたくしの可愛い騎士様達。わたくしを護ってくださいな」
女の命に応じ、次々と剣を抜き放ったスケルトン達が距離を詰め始めた。舌打ちと共にアルミナは後ろに下がる。
「骨は苦手ですね……?」
泣き言のようなことを言いながら、裏腹の不敵な笑みを浮かべてノーラが三徳包丁を両手に構える。キャサリンも歯を噛み砕かんばかりに噛み締めて表情を引き締めると、楯を前に突き出した。その様子に笑みを深めた女の鮮血色の唇が、詠う様に言葉を紡ぎ出す。
「……虚飾と欺瞞の女神よ、その恩寵を今賜らん……」
「ッ!? この気配は!」
「蒙昧共よ、神の威光に跪け! 《フェイス:ブレーグ》!」
その出自故か、降り掛かるような重い気配を鋭敏したノーラが咄嗟に横に飛び退いたが、他の二人はそうは行かなかった。圧倒的な上位者に睥睨される感覚に、身体が勝手に居竦んでしまう。
「これは、邪神の……!」
幸いにして影響は直ぐに薄れたが、機先を潰されたことは間違いない。その隙に接近しようとするスケルトン達を、一人影響を逃れたノーラが止める。
「行かせませんよ?」
威嚇するように振るった刃は簡単に避けられてしまったが、スケルトン達の足は止まった。
「あら……ふふ、中々勇敢なお嬢さんだこと。では、こういうのはどうかしら……大地よ、刃に宿りて力と成せ! 《エンチャントウェポン》!」
女の魔術を受け、左右のスケルトンの持つ剣が赤褐色の輝きを纏う。同時に二体までにしか掛けられないのか、中央のスケルトンはそのままだ。
「さぁ、やっておしまい」
女の号令に従い、スケルトン達がタイミングをずらしてノーラに斬り掛かる。しかし彼女はその全てをステップを踏んで軽々と躱してしまった。
「ふふ、その程度の連携で当てられるとでも? 甘々ですね?」
「……これは思ってたよりも厄介な相手みたいね」
ノーラの余裕ある態度に、女は表情に初めて苛立ちを載せる。そこに、
「あら、後ろで高みの見物とか随分余裕そうじゃ無いの……! 風よ、切り裂け! 《エアリアルスラッシュ》!」
「!? 風よ、矢弾逸らす壁となれ! 《ウィンドバリア》!」
体勢を立て直したアルミナの放つ風の刃に、女は咄嗟に飛来物を受け流す風の護りを作って対抗する。しかし、頭を冷やして冷静に魔力を練り上げたアルミナの風刃は、そんな場当たり的に作られた風の膜に突き刺さると、抵抗すら許さずに引き裂いて女の左足を存分に斬り刻んだ。
「ああァッ!? おのれ……!」
「まだまだァ! 風よ、風の刃よ、破魔の腕よ! 無窮の彼方より来たれ、《エアリアルスラッシュ》!」
「ぎゃああアアッ!?」
連続して放たれる風の刃を、足を切り裂かれて膝を着いていた女は避けられなかった。左肩を大きく抉られて汚い絶叫を上げる。
「もう一発……ちっ!」
アルミナがもう一度手を振り上げたところで、ノーラを振り切って後退したスケルトンの一体が射線を遮った。ノーラの方を見れば、彼女を攻撃していたスケルトン達が左右に散開し、彼女を迂回するようにしてこちらへ向かってこようとしている。敢えて分散しつつ、背後を攻撃しようとする動きを見せることで迷いや動揺を誘おうとしたのか。それに対してノーラは──
「はっ」
嘲るように鼻で嗤うと、女を護るように後退したスケルトンに飛び掛かった。その行動には一切の迷いはない。左右を気にするそぶりすら見せず、両手に携えた三徳包丁でスケルトンに息もつかせぬ猛攻を仕掛けていく。瞬く間に両腕を破壊されたスケルトンは大きくよろめいた。
「アルミナさんの元へは、行かせませんよ……!」
そのノーラの信頼に応えるように前に出たキャサリンが、右側から剣を振り上げて突っ込んでくるスケルトンに全力でメイスを叩き付けた。肋骨の破片を撒き散らしながらスケルトンがよろめくのを横目に、反対側から振り下ろされる魔力の付与された長剣を、障壁を貼ったカイトシールドでいなす。
「助かるわ、キャサリン! 今の内に──」
そうして、仲間達の状況の確認に、一瞬意識を外した、その瞬間だった。
「小娘ェェッ! 八つ裂きにしてやるッッ!! 《エアリアルスラッシュ》!!」
痛みに蹲っていた女が、それまで装っていた上品さをかなぐり捨てて激昂すると、アルミナへ向けて風の刃を放った。
(──ま、ず……!)
激しい怒りの為か、彼女の放つそれよりも巨大な刃は。アルミナの頭の先から胯座までを、綺麗に分割する軌道を描いていて。避けられない。そう悟ったアルミナの頭は、思考を限界まで引き伸ばし。大きく見開いた瞳は、引き伸ばされ遅くなった世界の中で……キャサリンが楯でスケルトンを押し退けながら、胸元に下げていた聖印を強く握り締めるのを捉えていた。
「──神よ。《アフェクション》!」
キャサリンの願った奇跡が、アルミナの命を救った。風の刃が霧散したのを目の当たりにしたアルミナの世界が元に戻る。アルミナは自分が助かったことを理解すると、震えそうになる足を左手で殴り付けながら杖を突き出した。
「風よ、吹き飛ばせ! 《エアリアルスラッシュ》ッ! ノーラッ!」
アルミナが杖を向けた先は、ヴァンパイアを護るスケルトンだった。ノーラの猛攻により半壊していたスケルトンは、風の刃に耐え切れず粉々になって散らばった。
「道が開けましたね……行きます!」
口元を強く引き結んだノーラが、今だに立ち上がれないでいる女に向かって携えた三徳包丁を身体ごと回転するように振るう。右手の潰れた刃が防御に掲げられた女の右手の手首を叩き折り、左手の刃が骨の折れた手首を斬り飛ばす。更に死角から首筋を狙って『見えざる手』の刃を振るうが、女はしかしそこへ右肘をぶつけて防御した。明らかに《インビジブルハンド》が露見しているその動きに、構わずノーラは最後の一太刀で女の脇腹を深く切り裂く。
「あアァッ! このッ! フォモールの分際でぇ!!」
「だから、フォモールではなくグライアイと呼んで欲しいんですがね?」
女が苦し紛れに払った左腕を、少し体勢を崩していたノーラは飛び退って回避する。吸血鬼の女は、よろめきながらも自分の足で立ち上がった。
「夜の貴種たるこのわたくしを、家畜の分際でェ……よくも……!」
当初の余裕と驕りに満ち溢れた様子からは想像出来ない程に消耗した女は、落ち着きのない血走った視線を三人の間で走らせる。
「殺してやる……殺してやるわ……!」
呪詛を吐きながら残った左腕を向けた先、そこにはスケルトンに集られながら楯とメイスで防ぎ続けるキャサリンがいた。全くの無傷である他の二人と比べ、障壁で防いでいるとはいえ、叩き付けられる刃によって多少なりともダメージが蓄積されていたからか、それともその状態でも周囲へ援護を続ける姿が一等邪魔に映ったのか。女の悪意は奮闘する彼女に牙を剥く。
「風よ、切り裂け……《エアリアルスラッシュ》ッ!!」
「ッ! 《プロテクション》!」
やはり消耗しているのか、先程アルミナへ向けて放たれた物程ではないが、それでも強力な風の刃がキャサリンに叩き付けられる。スケルトンに邪魔されて回避を選択出来ない彼女は、楯を構えて障壁を張った。
「ッ! ぐぅ……くッ!」
襲い掛かる衝撃に、キャサリンは歯を食い縛った。キャサリンの張った障壁を砕いた風刃は、楯を砕き、彼女の全身を傷付ける。
しかし倒れない。障壁は風刃の威力を鎧下を抜かない程度まで弱めてくれた。きっと腹は酷い痣になっているだろうし、強く鞭で殴られたようになった頬は皮膚が裂けて腫れ上がっているのが分かる。細かく砕けて周囲に吹き荒れた風の所為で手足も傷だらけになった。
だが同時に、風に押されて取り囲んでいたスケルトン達が少し身を引いたのも、分かった。
「ッ!」
キャサリンの目が女の姿を捉える。手首を失った右腕で溢れそうになる腸を抑え、砕けそうになる膝を気力で支えながら肩で息をするその姿は、自身よりも遥かに重体だ。だが、その紅い瞳はまだ折れていない。覚束無い動きで、それでも左手をもう一度持ち上げようとしているのが見える。
しかし、女を護っていたスケルトンは斃れ、遮る物は何もない。他のスケルトンが立ち塞がるには、もう一呼吸掛かる。
ここだ、と思った時にはキャサリンの足は前に踏み出していた。ノーラやアルミナの様な瞬発力は無いが、それでも騎士の娘として鍛えられた足で力強く前に出る。追い縋るように振られた剣が背中を浅く裂いたが、痛みは無理矢理意識の外へ追い出した。楯を失った左手が懐から液体の入った筒を掴み取る。ポーションではない。火酒の入ったスキットルだ。片手で栓を開けて一息で煽り、投げ捨てる。胸に熱い火が灯った気がした。身体中から痛みが消える。動ける。女はもう目の前だった。
「風よッ──!」
「させませんッ!」
女が持ち上げた左手を、メイスで強かに打ち払う。肘からへし折れた左手の先から、制御を失った風の刃が明後日の方へ向かって吹き荒ぶ。それを確認しないまま、キャサリンは両手で力強くメイスの柄を握り締め、衝撃で倒れ込んだ女へ向けて大上段に振り上げた。
「人の命を弄ぶその所業! 絶ッ対に、赦しません!」
「待ッ──!」
「死して詫びなさいッ!!」
爆発するかのような轟音が鳴り響き。振り下ろされたメイスは、吸血鬼の頭を粉微塵に打ち砕いたのだった。