冒険記録~ギルド『疾風の狼』~   作:弧埜新月

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このセッションは2021年09月11日に行われたものです。



『闇然紅煌』
プリプレイ・翼人の傭兵


「ぐぬぬぬぬぬ……困ったことになったわ」

 

 ログレスにある冒険者の酒場、『鋼の猟犬亭』。そのカウンターに腰掛け、一人の少女が頭を抱えていた。腰に掛かる艶やかな黒髪に、毛並みの良い三角の猫耳。腰から伸びる黒い尾は、彼女の心情を示すようにくるくると先を絶えず巻き直している。ヴァーナの猫族(アウリク)のメイジ、アルミナである。

 

「おう、どうしたい嬢ちゃん。ついさっき依頼を受けて出て行ったばっかじゃねえか」

 

 コップを磨いていた酒場の店主が、見かねたように声を掛けてくる。その声は多分に呆れが含まれていた。幸か不幸か、今酒場に客はこの猫娘しかいない。無視しても良かったのだが、暇な現状ではどうしてもその鬱陶しい姿が目に入ってくるので相手にすることにしたのだ。どうせ暇だし。

 

「なんだ、仲間の嬢ちゃん達に見せたら拒否られたか? 条件見て仲間に相談せずに飛びつくからそうなるんだよ」

「うぐ……そこは今猛省してる所だけれども。でもそうじゃないのよ」

 

 そもそも、今日はノーラもキャサリンも用事とかでいないし、と呟きながら、アルミナはのろのろと頭を上げる。

 

「あの依頼、依頼人が神殿に滞在してるじゃないの。だから話を聞きに行こうと思ったんだけど……そこにいたのよ」

 

 勿体を付けるように言うアルミナに早くも面倒に感じた店主だったが、暇なので先を促すことにした。

 

「いたって……何がだ?」

「ドルイド。現役の」

「あー……そう言えば嬢ちゃん、自称ドルイドだったな」

「せめて見習いって言ってくれない!?」

 

 耳と尻尾を逆立てて怒るアルミナ。店主は投げやりな仕草でどうどうと宥める。

 

「で?」

「……話掛けたら随分と話が弾んで。明日から数日、修行を付けてくれることになったのよ」

「……お前さん、アホだろう」

 

 依頼には期日が設けられていた筈で、移動時間を考えれば修行なんてしていては確実に間に合わない。アルミナは再び頭を抱えた。

 

「だから困ってるんじゃないの……流石に二人だけで行ってこいとは言えないし。でも、こんなチャンス逃したら二度と来ないわ」

「……依頼、キャンセルするか?」

 

 うにゃーっ、と頭を掻きむしるアルミナに、店主は見かねたように──或いは面倒臭くなったようにそう提案する。アルミナはハッ、と顔を上げ、藁にもすがるような面持ちで店主を見上げた。

 

「……出来るの?」

「キャンセル料を払って貰うぜ。色々手続きがあるからな。どうしてもって事情があるなら考えてもやるが、流石に今回は情状酌量の余地がねぇ」

 

 そう言われ、アルミナはカウンターにぐんにゃりと突っ伏した。自覚はあるのだろう。こういう正直なところとか、自分の失点を素直に認めるところとかは良いところなんだけどな、と店主は思う。彼が彼女を気に掛ける理由の一つであるが、それとこれとは話が別だ。むしろいい薬になるだろうから、キャンセルするならきっちり請求してやろうと思っている。

 

「はぁ……せめてもう一人、私の代わりがいればいいんだけど……」

 

 アルミナが再び頭を抱えたところで、酒場の扉が開く音がした。

 

「おう、いらっしゃい……っと、見ない顔だな。新人かい?」

「そうだ。元々東の方で傭兵をやっていたのでな、全くの素人と言うつもりは無いが」

 

 店主の質問に、若い男が応える。背の高い男であった。短い灰色の髪に赤い瞳。その背には一対の翼が生えている。彼がドゥアンの有翼族(セラトス)である証だった。体格は筋肉質で立派なものであるが、剛力自慢のドゥアンとして見ると引き締まって細身に見える。どちらかと言えばパワーよりスピードとテクニックを重視するタイプの戦士なのだろうな、と店主は男の携えた使い込まれた様子の槍を見ながら結論付けた。

 

「へぇえ。まぁ確かに、その様子を見るに多少は出来そうだな、兄ちゃん。仲間は?」

「いない。今日は俺以外冒険者登録する者が居なかったようでな。今日はここに様子を見に来ただけだ」

「成る程なぁ……」

 

 店主が顎をさすっていると、頭を抱えていたアルミナが耳をピクピクと動かし、ばっ、と顔を上げた。

 

「聞き覚えがある声がすると思ったら……貴方、アイビスじゃないの。久しぶりね」

「む……何やら見覚えのある毛並みだと思っていたが、やはりお前だったか。こんな所で会う筈も無いと思っていたのだが……」

 

 男、アイビスはとんだ偶然もあるものだ、と頷いてる。

 

「なんだ、お前さん達、知り合いか」

「うむ。以前、こやつの親父殿には世話になったことがあってな。どうだ、アルミナ。親父殿は息災か?」

「知らないわよ、あんなクソ親父のことなんて。どうせまた酒でも飲みながら魔物をぶち転がしてるに違いないわ」

 

 憤懣やる方ない顔で頬を膨らませてそっぽを向くアルミナ。どうやら先日*1のことをまだ赦していないらしい。事情を知らないアイビスは相変わらずのようだな、と小さく頷いた。

 

「しかし、その口振りではやはり親父殿はここにはいないのだな。ここ(冒険者の酒場)にいるということは、冒険者になったのか」

「ええ。今はここ、ログレスを拠点に活動しているわ。ギルド『疾風の狼』のギルドマスターをしてる」

「ほう、ギルドマスターか」

「何? 意外?」

 

 首を傾げるアルミナに、アイビスはいや、と頭を振った。

 

「納得しかない。お前は誰かの下につく女ではないからな」

「どういう意味よ、それは」

「お前は頭でいるのが最も輝く、と言っているのだ。ちなみに褒めているぞ」

「あら、そう……」

 

 アルミナは耳を伏せると、微かに頬を染めて目を逸らした。指先で僅かに毛先を弄るアルミナの姿は気にせず、アイビスはふむ、と顎に手を当てる。

 

「一つ、提案があるのだが……俺を、しばらくお前のギルドに置いて貰えないだろうか?」

「え?」

「知っての通り、俺は各地を巡って修行をしている。一段落付いた故、ログレスには長めにいるつもりだが……いつまた次の修行に出るかは分からん。先程神殿でもギルドの話を聞いていたのだが、立ち上げ時のメンバーが途中で抜けては迷惑だろうと思ってな」

 

 それならば、何処かのギルドに居候する方が良い、とアイビスは言う。

 

「その点、お前のギルドならば申し分ない。先程の言から察するに、出来たばかりのギルドという訳ではないのだろう。途中で俺が居なくなっても然程困らない筈だ。何より、お前は信頼出来るからな」

 

 傭兵にとって、上が信頼出来る人物かどうかは死活問題だからな、と締め括った。

 

「成る程な。そういう考えなら、確かにこの嬢ちゃんのギルドは割とアリだ」

 

 暫く話を聞いていた店主がそう口を挟んでくる。

 

「嬢ちゃん達はまだまだ駆け出しもいいとこのギルドではあるが、駆け出しの中じゃ相当マシな部類だ。ギルドマスターはしっかりしてる方だし、メンバーも少ないがちゃんとマスターを信頼して支えてる。まぁ経験不足なところとか足りないところとかも多いが、そこは今後に期待だな」

「ふむ。中々評価が高いのだな」

「まぁ、駆け出し連中ってのはロクでもない奴らも多いからな。そういうのに比べたらってのはあるが……でもまぁ、嬢ちゃん達ならすぐに中堅以上には上がれると思うぜ」

 

 髭を蓄えた顎を摩りながら店主は自分の考えを述べる。それは彼の本心だった。冒険者はなるハードルが低い分、破落戸紛いの者も多い。様々な新人冒険者とその破滅を見てきた彼にとって、責任感が強くて仲間の安全を確保しつつ、周りの意見を聞いて冷静に判断が出来るアルミナは、かなり有望なギルドマスターなのである。

 

「……そうかしら」

 

 アルミナが少し自信なさげに目を伏せる。ある程度吹っ切ってはいるようだが、まだ多少は前回の依頼のことが尾を引いているのだろう。こういうタイプには変に気を遣うよりも問題点を指摘してやる方がいいと分かっている店主は忌憚なく意見を述べてやる。

 

「お前さん達に絶対的な足りないのはそもそもの実力と経験だ。それと、出来るならもう少し頭数は増やした方がいい」

 

 冒険をするなら、人数は四人か五人いた方がいい、と彼は思っている。三人だと人数的な余裕がなくて一部の役割を兼任しなくてはならないのだ。話を聞く限り、彼女達には斥候役(シーフ)を専門とする者が居ないので、探索や警戒をアルミナが、罠の解除などの実働をノーラが担当して分業している。幸い一番肝心な警戒についてはアルミナの感知能力が本職が裸足で逃げ出すレベルなので問題になっていないようだが、専任がいた方がいいのは間違いない。

 

 ──一番頭が良いのがあの神官の嬢ちゃん(キャサリン)*2ってのも不安要素ではあるんだが、そいつを言ってもしょうがねぇしな。

 

 普通はパーティの頭脳役となるメイジが知的ぶってるだけの超感覚派(魔法はフィーリングで使う)メイジなので、知識とか深い思考能力が必要とされる場面には弱いのである。今回の一件もそうだ。平時はいいのだが、何か咄嗟の判断を迫られた時、良さげに見える(少し考えれば悪手な)選択肢に飛びつきやすいように見える。人の話は聞くのでブレーキ役がいれば問題は無いのだが、一人の時はその悪癖がモロに出るのだ。

 

 まぁ、下を見れば全員戦士(オール知力2)みたいなギルドもいるのでそれに比べればマシではある。仲間を増やす過程で改善されることを願う他ない。今は目の前の翼人の戦士のことである。方々を渡り歩いている傭兵だと言うのだ。彼女達に足りない部分を沢山持っていることだろう。

 

「そういう意味でも、この兄ちゃんをギルドに入れるのはお前さん達にとってもメリットだと思うぞ。どうだ?」

「そうね……そうだわ」

 

 考え込んでいたアルミナが顔を上げる。その顔は心なしか輝いて見えた(嫌な予感を覚えた)

 

「アイビスが居てくれたら解決するじゃないの。ちょっと頼みがあるんだけど──」

 

  ◇◆◇             ◇◆◇

 

「──は?」

 

 話を聞いたノーラの第一声であった。

 

「耳が遠くなりましたかね? 今、そこのよく分からない人と一緒に冒険に行ってこいと言っているように聞こえたのですが?」

 

 額に青筋を浮かべたノーラが底冷えのする笑顔で、顔を引き攣らせるアルミナを見据えた。キャサリンはおろおろと二人の間で視線を彷徨わせ、アイビスは一歩引いた位置でむっつりと腕を組んで黙っている。

 彼女達が今いるのは昨日と同じく『鋼の猟犬亭』。朝の人が活動を始める時間帯であることもあり、それなりの数の冒険者が依頼を探して犇めいている。ノーラとキャサリンは次の依頼について話があるというアルミナの話を受け、装備を持ってここに集まった訳なのだが、そこで待っていたアイビスを見て二人は説明を求めたのだった。結果が先程のノーラの台詞である。

 

「しかも、それを決めたアルミナさんは別行動すると? そんな無責任な話がありますか?」

「そ、それは申し訳ないと思ってるけど……で、でもほら、アイビスは優秀な戦士なのよ! 腕は保証するし、人格だって信頼できるわ」

 

 冷や汗を浮かべて弁明するアルミナに、ノーラは青筋を増やして詰め寄った。その手にはいつの間にか手品の様に三徳包丁が握られている。

 

「そんなことは今問題にしていませんよ? むしろどうでもいいですからね? わたしは、今、そんな重要なことを、わたし達に何の相談もなく、勝手に、決めたことの、是非を、問うているんですよ? どうなんですか、ギルドマスター?」

「ちょ、ちょっとノーラ!? 謝るから! 謝るから包丁は仕舞って欲しいのだけど!?」

 

 言葉を短く区切りながら、アルミナの胸当てを包丁の先端でつついてくるノーラに後退りながらアルミナは焦りで上擦った声を上げる。一応刺さらないようにはしてくれているみたいではあるが、やられる方は堪ったものではない。流石に見かねたキャサリンが仲裁に入った。

 

「まぁまぁ、ノーラさん落ち着いて……」

 

 キャサリンの声に、ノーラは露骨な舌打ちをして三徳包丁を仕舞う。アルミナは胸を撫で下ろした。

 

「キャサリン! 助かったわ!」

「あぁ、アルミナさんには後で私からもお説教がありますので。いいですね?」

「……はい」

 

 べたりと猫耳を伏せてアルミナは項垂れる。そこで、そのやり取りを見守っていたアイビスが口を挟んだ。

 

「……やはり、迷惑だっただろうか?」

「はい」

「ノーラさん、そんなことを言っては駄目ですよ」

 

 綺麗な笑顔で首肯いたノーラを、慌ててキャサリンは嗜める。ノーラはぷいっ、と頬を膨らませてそっぽを向いた。キャサリンはその様子に苦笑いを浮かべると、アイビスへ向き直った。

 

「ええと……アイビスさん、でしたよね」

「うむ」

「ノーラさんはあんなですけど……私は貴方を歓迎しますよ、アイビスさん。あ、私はキャサリンと言います。見ての通りアコライトです」

 

 穏やかに微笑むキャサリンに、アイビスもまた微かな笑みを返した。

 

「ノーラさんも、今は怒って拗ねているからあんな態度を取ってますけど、決して貴方のことを拒んでいる訳ではないんです。許してあげてください」

「キャサリンさん? 勝手にわたしの気持ちを代弁しないで欲しいんですが?」

「すいません。でも、合ってますよね?」

 

 笑んだまま首を傾げたキャサリンに、ノーラは心外だと言うように大きく首を振った。

 

「全然違いますよ? そもそも、彼はシーフだとのことですが、シーフは既にわたしとアルミナさんがいるじゃないですか? 過剰ですよ?」

「貴女の本職はウォーリアじゃないの。それと、私はメイジであってシーフでは」

「アルミナさんは黙っててくださいね?」

 

 強い圧を感じる笑顔で威嚇され、アルミナは再びぺたりと猫耳を伏せた。ノーラはこれ見よがしに溜め息を吐く。

 

「全く……折角前回反省したと言うのに……これは、帰って来たらみっちりと言い聞かせ直さないといけませんね?」

「え? ノーラ、それって……」

 

 顔を上げたアルミナに、ノーラの冷え切った流し目が突き刺った。

 

「仕方なくですよ? わたしとキャサリンさんだけで依頼を熟せると自惚れるつもりはありませんし、どうせアルミナさんにはキャンセル料の支払い能力なんてないでしょうしね?」

「ちょっと、私が貧乏みたいな言い方やめてくれない?」

「あるんですか? 支払い能力」

「……ないけど! ないけれども!」

 

 ノーラの突き刺すナイフのような目にアルミナが悔しそうに項垂れる。その頭を見て蔑むように目を細めたノーラは、ふん、と息を吐いてアイビスに視線を戻した。

 

「まぁ、修行が大切なのも理解はできますしね? 今回は、わたしが折れてあげますよ? 感謝してくださいね?」

 

 そう言って薄い胸を張って腕を組み、ふんぞり返るノーラに、アイビスはそっと二人の表情を盗み見た。困ったように苦笑いを浮かべるキャサリンと、必死に拝み込むアルミナの姿にそっと溜め息を落とし、アイビスは手を差し出す。

 

「……有翼族(セラトス)のアイビスだ。しばらく厄介になる」

「ヒューリンのノーラです。宜しくお願いしますね?」

 

 差し出された手を、笑顔のノーラは両手でがっちりと握る。その手には彼女の容姿にそぐわない程の力が込められていたが、アイビスは僅かに片眉を上げただけで大人しく握り返したのだった。

*1
15話参照

*2
アルミナではない




登場PC紹介
⚪︎アイビス・バリオス(ドゥアン)シーフ/ウォーリア
有翼族(セラトス)の軽戦士。素早い身のこなしを武器に強力な一撃を放つ槍使い。修行の為に各地を転々とし、傭兵として活動している。実直な性格。
パーティにおける役割はアタッカー兼探索役。
プレイヤーは前までのGM。もう片方のギルドで言うとフレディ先生の中の人。
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