「さて、先ずはギルドの名前を考えないといけないのよね」
ギルド設立のための申請書を前に、アルミナは手にしたペンをくるりと回した。
ギルドは冒険者の相互扶助を目的とした組織だが、少数で作れる上に手続きが難しくなく、またギルドならではの様々な特典を受けられるようになるため、彼女達のような何のコネもない新米冒険者はパーティを作ると同時にギルドを設立することが多い。
「それもそうですが、ギルドマスターも決めないとですよね?」
テーブルの上に組んだ手の上に顎を乗せたまま、ノーラが首を傾げる。
「ギルドマスター、ですか……」
キャサリンが少し困ったように眉根を寄せた。その消極的な様子に、アルミナが小さく肩を竦める。
「ギルドマスターは私がする」
「あら、引き受けてくださるのですか?」
「それが適任でしょう。そうそう、言い忘れていたけど、私の知力は4よ」
さらさらと責任者の欄に自分の名前を書き込むアルミナの様子に、ノーラは満面の笑みを浮かべる。
「あら、賢いんですね? 頼りにさせてもらいますね?」
「ええ、頼るといいわ」
(……あれ、知力4ってそこまで賢くないような*1)
満更でもなさそうな表情で胸を張るアルミナの姿に目を瞬かせながら、キャサリンは内心で首を捻った。なんなら彼女の知力も4である。
少し考え、キャサリンは今の考えをそっと心の引き出しにしまうことにした。それを口に出さない分別と善良さを、彼女は持っているのだった。
「さて、ギルドマスターはこれで決まったから、次は名前ね。案がないなら『ヴォルフ・デア・シュトゥルム』はどう?」
まるで予め用意しておいたかのように、淀みの無い口調でさらりとアルミナは口にした。
「あら、素敵な響きですね?」
「でしょう?」
アルミナがまたも胸を張る。それにノーラはにこにこと、
「ところで、それにはどのような意味が?」
「え゛っ」
アルミナの表情が一気に引き攣った。猫耳がピン、と張りつめ、額に脂汗がにじむのが見える。その様子にノーラはなおも笑みを深めながら小首を傾げ、
「さぞ、良い意味があるのでしょうね?」
「え、そ、うね……」
だらだらと滝の様に脂汗を流し始めるアルミナと、楽しそうに金の瞳を光らせて煽るノーラ。どちらが猫か分かったものではない。
(確か、古い言葉で『疾風の狼』だったような……アルミナさん、意味を知らないんだろうな)
キャサリンは助け船を出すタイミングを掴み損ねたままぼんやりとそんな思考を回した。猫族のアルミナに狼は全く関係ない。二人の間をうろうろと彷徨わせている間に、脂汗を流すばかりだったアルミナの眦がキッと持ち上がった。
「格好いいでしょう!? 響きが!」
完全に開き直った勢いで何故かドヤ顔を決めるアルミナ。ここだな、となんとなしに思ったキャサリンは、ノーラが口を出す前にいい笑顔で頷くことにした。
「いいですね!」
「でしょう!?」
そのまま勢いのままにギルド名を書き殴り、まるでかっぱらいでもするかのような勢いで用紙を鷲掴むと、シーフ張りの素早さ*2でアルミナは受付へ駆け込んでいく。その姿を見送って、キャサリンが視線を横へ向けると、彼女の予想に反してノーラは笑顔を浮かべてアルミナの
「……意外です。もっと不満そうな顔をしてるかと思ったんですが」
「不満はないですよ? ギルドマスターも引き受けてもらえましたしね?」
ノーラは片目を瞑ってキャサリンを見やる。
「なかなか、リーダーシップがありそうな人じゃないですか? 少々、頭は残念みたいですけどね?」
その言葉に、キャサリンは苦笑する。否定するところは無かった。
「彼女となら、上手くやっていけそうな気がしませんか?」
「そうですね」
キャサリンは頷いて言葉を返す。
「あなたとも、上手くやっていけそうな気がします」
ノーラは一瞬目を見開くと。一転破顔して小さく頷いた。
――なお。受付に、ギルド名が長い、と一喝されたアルミナが、耳をしおしおにしながら『疾風の狼』に書き換えさせられたのは余談である。
~このシーンの該当ログ~
アルミナ:「ええ、よろしく。そうそう、言い忘れていたけど、私の知力は4よ」
ノーラ:「あら、賢いんですね?頼りにさせてもらいますね?」
アルミナ:「ええ、頼るといいわ」
アルミナ:「ギルドの名前を考えないといけないのよね」
アルミナ:「なら、ヴォルフ・デア・シュトゥルムはどう?」
ノーラ:「あら、素敵な響きですね?」
アルミナ:「でしょう?」
ノーラ:「ところで、それにはどのような意味が?」
アルミナ:「え、そ、うね……」
アルミナ:「格好いいでしょう?響きが」
アルミナ:(開き直った)
キャサリン:「いいですね!」
GM:……そんなわけで君たちは、先日"疾風の狼"という冒険者ギルドを結成したばかりの新米冒険者だ。