冒険記録~ギルド『疾風の狼』~   作:弧埜新月

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突然ですが、皆様は狩りはお好きでしょうか?
私は既に一線を退いた身ですが、現役時代は主に大剣と槍と弓をメインに使い、サブで片手剣、双剣、槌、笛、剣斧、軽弩を使って遊んでました。


ミドルフェイズ・魔物の爪痕

 港のある最寄りの町で下船し、ほぼ死人状態だったキャサリンを乗合馬車に積み込んで四半日。終点の宿場町で一泊した三人は、朝から徒歩で目的の村に向かっていた。

 村はなだらかな丘陵地帯にあり、そこまでは荷駄車の車輪が作る轍で出来た道が伸びている。道の側には進行方向から流れる穏やかな川があった。おそらく村から何かを運ぶ時には荷船を利用しているに違いない。だから道が川に沿って出来ているのだろう。

 幸いなことに注ぐ日差しは柔らかく、時折吹く風は暖かい。歩くには申し分のない天気だが、一行、というか、二人の後をやや遅れて歩く彼女だけどんよりと鉛色の雲を背負うかのような姿を見せていた。

 

「酷い目に遭いました……」

 

 暗い表情をしたキャサリンが、もう何度目になるか分からない悲嘆を溢した。一晩寝てすっかり酔いからは回復した筈だが、未だに解放されていないかのような酷い顔をしている。前を歩いていたノーラが、態とらしく重い溜め息を吐いた。

 

「良い加減にしてくださいね? もう終わったからいいじゃありませんか? 鬱陶しいですよ?」

「だって……こんなんじゃもうお嫁に行けないです……」

 

 両手で顔を覆うキャサリンに、ノーラは面倒臭そうに首を捻った。

 

「キャサリンさんは、あの船頭さんに気があったんですか?」

「いえ、そんなことはありませんけど……」

「じゃあ別にいいんじゃないですか? あの人は幻滅してたみたいですが、彼以外にゲロリンさんを見ていた人はいませんよ?」

「げ、ゲロリン……」

 

 絶句したキャサリンに、それとも、とノーラは見えざる手で引き抜いた短剣をちらつかせながらにやりと嗤う。

 

「それとも、彼から噂が広がることを恐れているんですか? だったら、少し戻ってわたしが彼を消してきますよ?」

「こらこら。その程度で軽々しく人を殺すでない」

 

 アイビスが嗜めるようにノーラの頭を軽く小突いた。ノーラは短剣を仕舞いながら頬を膨らませる。その半眼の矛先はキャサリンに向いた。

 

「だいたいですよ? あんなに酔うなら酔うと、予め言っておいてくれればもう少し何とかしたと思うんですけどね? アイビスさんが」

「俺がか」

「わたしは船に乗った経験がないですからね? そんな知識はありませんよ?」

 

 言外に、お前は助けてやらんのか、と問うアイビスに、当たり前ではないか、という顔をしてノーラはふふりと胸を張る。

 

「私も、あんなに酔うとは思って無かったんですよぅ……」

 

 軍用船の時は平気だったのに……とますます暗い空気を積み上げるキャサリン。

 

「軍用船ということは、海か」

「はい……キャラベル船*1になら演習で乗ったことが……一回だけですけど……」

「筏とは全く違う船ではないか。勝手が違うのも無理はない」

 

 呆れ声で首を振るアイビスに、そのようです……とキャサリンは肩を落とす。軽く溜め息を吐いたアイビスは川を一瞥すると、慰めるようにキャサリンに声を掛けた。

 

「この流速ならば、復路は船に乗らずとも大差はない。先程の町からログレスまでは乗り合い馬車だ。もう船に乗る必要はないから安心するといい」

「それは……助かりますけど……」

 

 アイビスの言葉は心に刺さらなかったのか、キャサリンはますます肩を落とす。む、と片眉を上げるアイビスに、ノーラが咎めるように指を振った。

 

「全く、乙女心が分かっていませんよ? デリカシーが足りないとか、よく言われませんか?」

 

 いいですか? と、

 

「ゲロリンさんは公衆の面前でゲロリンしてしまったことを悔いて落ち込んでいるのですよ? 帰りのことなんてどうでもいいですからね?」

「ノーラさん……デリカシーって言葉の意味、知ってます?」

 

 額に青筋を浮かべたキャサリンが腰に差していたメイスの柄を握りしめる。ヒェッ、と情けない声を上げたノーラは慌てて飛び退って弁明を始めた。

 

「違うんですよ? わたしは、察しの悪さが壊滅的なアイビスさんに、端的に事実を伝えようとですね?」

「……お前は、人に講釈を垂れる前にまず、口は災いの門という言葉を学ぶべきだな」

 

 処置なし、とばかりに重く溜め息を吐いたアイビスは、キャサリンに向き直った。

 

「お前も、余り失敗を引き摺るな。失敗は誰にでもあるものだが、落ち込むばかりでは先には進めん。前を向き、次はどうすべきかを考えるべきだ。一人で上手く行かないのであれば、俺が力になろう」

「アイビスさん……」

「そう言えば先程、嫁がどうこう言っていたな。案ずるな。嫁の行き先が無ければ己を鍛えれば良い。強くなれば嫁ぎ先が無くとも一人で充分生きていける。修業ならば俺が存分に付き合おう」

「ありがとうございます、アイビスさん。でも、ちょっとだけあなたが嫌いになりました」

 

 む……と僅かにたじろぎを見せるアイビスを、口許に手を添えたノーラがうぷぷ、と嘲笑う。

 

「アイビスさん、貴方は──」

 ノーラは何かを言い掛けるも、

「ノーラさんは、後で、お話しがあります」

 

 パシリ。

 

「ピェ」

 

 メイスを引き抜いたキャサリンが、凄みのある笑顔でその柄を掌に叩き付ける。その妙に耳に付く音に、ノーラは短く悲鳴を上げて竦み上がった。キャサリンは大きく息を吐いて腰にメイスを戻す。

 

「何だか色々とどうでもよくなりました……先を急ぎましょう」

 

 二人を追い抜いてずんずんと歩き始めたキャサリンを見送り、二人は顔を見合わせる。

 

「……世の中には、決して怒らせてはならぬ御仁がいる、ということだな」

「アイビスさんが悪いんですよ? 貴方が的外れなことを言うからです。反省してくださいね?」

「何を言う。彼女を怒らせたのはお前の言動ではないか」

「いいえ、それだって元はと言えばですね──」

「二人とも?」

 

 丘を少し登った先で、仁王立ちしたキャサリンが笑顔で首を傾ける。二人は口を引き結ぶと、黙って足を動かすことに勤しむのだった。

 

  ◇◆◇             ◇◆◇

 

 丘陵地帯の半ばから姿を現すその森は、森と言うよりも丘とそこに散在して密集する木々、という様相を呈している。その森の外れ、少し突き出すような形の小高い丘の上に、その村はひっそりとあった。丘の一面は大きくカーブして流れる川に面しており、古びた小舟が一艘係留してあるだけの簡素な桟橋が設けられている。川に面した斜面には土留めに丸太を据えた階段が見え、水を利用しやすくするためか、小規模な畑がその左右に広がっていた。村の外周には何度も補修された跡のある獣避けの柵が外を向く様に斜面に突き立てられており、入り口には簡単な櫓まで作ってある。それなりの歴史と暮らしの余裕振りが感じられる村だった。

 三人が村の入り口に続く坂を登っていくと、櫓に立つ暗い顔で物思いに沈んでいるように見えた若い男性がはっ、と気付いて顔を上げる。

 

「も、もしかして冒険者か!? 助かった!」

 

 彼は持っていた木槌──櫓にぶら下げられた半鐘代わりのひしゃげた鍋を叩く為のものだろう──を放り投げると、櫓から身を乗り出して叫んだ。

 

「あのおっさんが呼んでくれたのか、それともたまたまか……どっちでもいい! 助けてくれ!」

「何かあったんですか!?」

 

 先頭を歩いていたキャサリンが走り寄りながら叫び返す。男性は大きく頷いた。

 

「強力な魔物が出たんだ! 村の狩人もみんなやられちまった!」

 

 男性は後ろを振り返ると、丁度作物の入った籠を持って俯きがちに歩いていた女性に声を掛ける。

 

「マリー! 冒険者だ! 冒険者が来てくれたぞ!」

「冒険者が!?」

 

 マリーと呼ばれた中年の女性は、その場に籠を取り落とすと、作物が散らばるのも気にせず放置して転がるように村の出入り口へ駆けてきた。縋り付くようにキャサリンの手を取って懇願する。

 

「お願いです! 村を救ってください!」

「はい。私たちは、そのために来ました」

 

 女性の手を両手で優しく握ると、キャサリンはふわりと笑みを浮かべて見せた。

 

「あぁ……ありがとうございます!」

 

 見る人に安堵を与えるその顔に、救いを見たかのように表情を輝かせた女性は、大きく頭を下げると村の奥の方を指し示す。

 

「こちらへ! 村長が皆様をお待ちです!」

「落ち着いてください。ちゃんと着いていきますから……」

 

 そのまま彼女を引き摺って行きそうな女性の勢いにキャサリンは苦笑を浮かべてそう言うと、それを聞いて少しバツの悪そうな顔で先導を始めた女性について歩き出す。

 

「……事態は深刻なようですね?」

 

 その後ろを歩きながら、ノーラがアイビスをちらりと見上げ、肩を竦める。大袈裟過ぎません? とでも言いたげなその視線に、彼は小さく頷いた。

 

「余程切迫しているのか……何にせよ、話を聞いてみなければ始まらん」

 

 言いながら、アイビスは村の様子を観察する。十数戸程度の小さな村だが、見かける村人達の表情は一様に暗く、俯いている。中には座り込んで頭を抱えている者もいる始末で、本来であれは警戒を向けるべき冒険者(余所者)には見向きもしない。柵の側には見張りのつもりか、何人かの青年が農具を手に疎らに立っているが、誰も彼も及び腰であり、悲鳴を上げる鳴子の役が出来れば上等位の状態であった。アイビスは眉間に皺を寄せて小声で呟く。

 

「……これは、想像以上だな」

「……そのようですね?」

 

 その小声を拾ったようで、ノーラが返事を返す。歩く間に村の雰囲気を察したのか、彼女も表情を固くしていた。

 

 三人が連れて行かれたのは村の奥にある、周囲より多少大きな家だった。女性は到着するなり玄関の扉を開けて中に駆け込んでいく。

 

「……私達も入っていいんでしょうか?」

「入らねば先に進まんだろう。行くぞ」

 

 先程までの堂々とした姿は何処へやら、躊躇いがちに首を傾げたキャサリンの横を素通りし、アイビスは少し身を屈めて開けっぱなしの扉を潜った。ノーラも遠慮なく続き、最後に一拍遅れたキャサリンが慌てて中に入り、扉を閉める。

 入るとそこは広い板間になっており、干し草の上に敷いた麻袋が円状に並べられていた。どうやら村の集会所を兼ねているらしい。キャサリンが扉を閉めたタイミングで、丁度向かい側にある扉から、一人の壮年の男性が先程の女性に引き摺り出されてきた。少しつんのめる様にして三人の前に立った彼は、目に見えて濃い隈を作っており、この数日まともに眠れていないことが分かる憔悴振りである。しかし彼は、三人の姿を目に留めると、頬のこけた顔に一握の精気を宿して先頭にいたアイビスに縋り付いた。

 

「おお、おお……! 貴方方が冒険者の方々ですな……! あの依頼を受けてくださった!」

「如何にも」

 

 アイビスは頷くと、軽く村長の両肩を軽く叩いた。はっ、と顔を上げる村長にもう一度しっかりと頷いてやると、彼は小さく咳払いをして一歩後ろへと下がる。

 

「──。これは、大変見苦しい姿をお見せした。わしはこの村の村長をやらせていただいてる者です。依頼書を確認しても?」

「はい、こちらです」

 

 用意していたキャサリンが依頼書を取り出すと、少し村長は面喰らった後、少し決まりの悪そうな顔をしてそれを受け取った。素早く目を通し、彼女に返却する。

 

「確かに。では、早速話をさせていただきましょう。そこへお座りくだされ」

 

 三人は村長が指し示した麻袋へ思い思いに腰を落ち着ける。それを見てから対面に村長が座り、自分はどうしようかと視線を彷徨わせる女性に黙って自分の斜め後ろを指して座らせると、三人に向き直った。

 

「わしらはこの村の横に広がる森で狩りをしたり、採集をしたりで生計を立てていましてな。しかし、最近になって森に強力な魔物が現れてしまったのです」

 

 悄然とした顔で、村長は話を始める。

 

「魔物は森に潜んで背後から襲い掛かり、一撃を加えた後は深追いせずに去って行くのだとか……複数人でいる場合は、傷付いた相手を狙うとか、そういうことは無いそうです。完全に無差別だったと聞いております」

 

 村長は膝上で固く組んだ手に視線を落とすと、手が白くなる程に握りしめながら、ぽつりと言った。

 

「……六人です」

「六人?」

「魔物の犠牲になった者の数です」

 

 思わず訊き返したキャサリンは、その返答に息を呑んだ。この村の規模に対してはかなりの数だ。表情を険しくしたアイビスは村長に問い掛ける。

 

「詳細は聞けるか?」

「はい……襲われたのは、採集に出ていた家族でした。わしらの村では、採集などで森に出る時は必ず、五、六人で固まって行動させ、狩人を一人付けるようにしておるのです。猪などの獣に遭遇することもあり得ますからな」

 

 村長の言葉にアイビスは頷く。その対応は平時に安全を確保するならば妥当なように思えた。

 

「当時、森に入ったのは、狩人の若者とその妻、それからその妻の親族達でした。山菜を採りに出ていたのですが……戻って来た彼女達は酷い有様でした。狩人の妻はおらず、帰ってきた者も全員傷を負っていて……一目見て、妻の母と下の妹は助からないと思いました。それ程の怪我だった」

 

 その時のことを思い出してか、村長は片手で両目を覆った。

 

「狩人は家族と自分の手当をするなり、ベテランの狩人二人を連れて討伐に出ました。妻の仇が取りたかったのでしょうな。だが、帰って来たのは一人だけ。その者も、村に着くなり倒れて、今も目を覚ましません」

 

 村長はそこまで言うと悲壮に塗れた顔を上げ、身を乗り出した。限界まで見開かれた目に三人の顔が映っている。

 

「今、この村には戦える者がいない。幸い魔物は森から出て来ませんが、何時襲われるか……わしらには最早、貴方方しか頼れる者がおらんのです! ですから、何卒……!」

 

 そのまま床に額を擦り付けんばかりに叩頭いた村長に、キャサリンは即座に頷いた。

 

「微力を尽くします」

「早急に、其奴を退治すればいいのだな。任せるがいい」

「やれる限りのことはやりますよ?」

 

 他の二人も続けてそう頷く。話を聞いても浮足立つ様子のない彼女達に安心感を覚えたのか、村長は少し落ち着きを取り戻した様子で礼を言うと、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

 

「こちらを。この森の簡単な地図です。この森は木が密集している所と開けている所が別れていましてな。開けているところを道として使っておるのです」

「なるほど」

 

 村長が広げた地図を、三人が覗き込む。村長の言葉通り地図は適当な丸を線で繋げた簡単なもので、明らかに専門の知識が無い素人が作ったと分かる物だった。丸には一から十一までの番号が振られている。

 

【挿絵表示】

 

 

「この、数字の振られている丸は何だ?」

「はい、丸は特に道の開けている所でしてな。移動や情報伝達の際などの目印に都合が良いので、分かりやすいように番号を付けておるのです。魔物は木々の間を移動し、襲い掛かってくると聞きます。この番号を振った場所のように、開けた場所で戦う方が良いでしょう」

「道理だな。奇襲を受けにくくなる」

 

 村長の説明にアイビスは納得して頷いた。入れ替わるようにノーラが手を挙げる。

 

「この、丸と丸を繋ぐ線は道ですよね? 道を見失ったりはしませんか?」

「大丈夫だと思います。わしらも日常的に使っておるので、はっきりとした獣道が出来とりますからな。通りにくい場合は手も入れておるので、まず分かるかと」

 

 他の二人に比べて幼いノーラの質問にも、村長はしっかりと視線を合わせてそう答えた。頷いたノーラが手を下ろしたのを見て、村長はキャサリンに視線を移す。彼女は首を小さく横に振った。後は現地を見てみるしか無さそうだと感じたからである。

 

「それから、こちらもお持ちください」

 

 その様子を見た村長は更に別な物を取り出して地図の上に載せた。

 

「これは……?」

「木の実と、葉で包んだ鉱石、か?」

 

 ノーラとアイビスが首を傾げる。それはアイビスの言葉通り、握り拳大の巨大なクルミと、大きな葉で包んだ灰色の鉱石だった。葉からは長いこよりが一本はみ出ている。首を傾げはしなかったが二人と同じくこれが何か分からなかったキャサリンは視線で村長に説明を求めた。

 

「村の狩人が狩りに使っているものでしてな。こっちは爆裂クルミ、こっちは閃光石と呼んでいます。音や光で獲物を怯ませることが出来るとか……」

「こんな物で魔物が怯えるものなのか?」

 

 アイビスは訝しげに爆裂クルミを拾い上げ、矯めつ眇めつしながら観察する。

 

「なんでも、このクルミは中にガスが溜まっているとかで、この尻の窪んでいる部分に傷を付けて叩き付けると大きな音が鳴るのだとか。石は火を付けると強い光を出して燃えるとかで」

 

「……よく分からんな」

「私も、クルミのことは分かりませんけど……でも、どんな生き物でも耳元で突然大きな音がしたら驚くと思います。石の方も、火を付けると白い閃光を出して燃える石があると聞いたことが……多分、このこよりの部分に火を付けてから投げるんだと思いますよ」

 

 閃光石を手にしたキャサリンがこよりの部分を指しながらアイビスに自分の考えを説明する。村長もキャサリンの言を肯定するように頷いたのを見て、アイビスは感心したようにキャサリンに礼を述べた。

 

「成る程、そのように使うのか……感謝する、キャサリン」

「いえ、多分そうなんだろうなぁ、と。石の方は、そんな話をお父様から聞いたことがあっただけで、大したことではないですよ」

「謙遜せずとも良い。聡明な仲間は貴重だ」

「聡明だなんて……私はアルミナさんと同じ位でしかないですよ」

 

 気恥ずかしそうにキャサリンはそう言うと、クルミと石を一番投擲が得意そうなノーラに手渡した。自分が適任だと考えていたノーラは、キャサリンのアルミナの知力の認識が自分と同じ(そんなに良くない)であることににまにましながらそれらを受け取る。

 

「クルミは地図で言うと三番で、閃光石は材料が八番で取れる筈です」

「使い切ったらここで補充しろと言うことだな」

「では、それなりに気軽に使って良さそうですね?」

 

 地図上を指差しながら、アイビスとノーラが頷く。特に使用を任されたノーラは使い所についてはあまり悩む必要がないと分かって気が楽になったようだった。

 

「他に、気を付けなければいけないことはないか?」

 

 アイビスの問いに、村長はそうですな、と顎鬚に手を伸ばす。

 

「……そうだ、森には狩人が仕掛けた罠が残ったままになっておる筈です。気を付けてください。申し訳ないがどこに仕掛けてあるかまでは分からんのです。狩人が目を覚ませば聞くこともできるのですが……」

「ふむ。では、後はその狩人から話を聞くとしよう」

 

 アイビスは頷くと村長にキャサリンを示した。

 

「我々のギルドには神官がいる。その狩人の治療を手伝っても良いだろうか」

「おお、本当ですか! それは是非お願いしたい」

 

 アイビスの提案に村長は喜色を浮かべる。狩人が復帰してくれれば多少は今の村の状況も好転するからだろう、勢い込んでキャサリンに頭を下げた。

 

「気にしないでください。私も怪我をした皆さんを放ってはおけませんから。初級ではありますが、回復魔法は一通り使えます。出来る限りの治療をしますので、狩人の方以外の怪我人の方々の所にも案内して貰えればと」

 

 安心させるように微笑みを浮かべてキャサリンは言うが、そこで村長はふっ、と表情を再び暗くして首を振った。

 

「いえ、お気持ちはありがたいですが、狩人だけで充分です」

「そんな……魔力のこととかなら気にしないでください」

「俺達も善意だけで提案しているのではない。話が聞けるなら多い方がいいからな。案内してもらえまいか」

 

 キャサリンとアイビスがそう言い募ると、村長は深く溜め息を吐いた。

 

「違うのです。言い方が悪かったですな……その狩人以外、怪我人はもうおらんのです」

「怪我人はいない……まさか」

「はい。皆、怪我が元で亡くなりました。一人、その妻の祖母が生き残っていますが……目の前で娘と孫を次々に亡くしたからでしょうな。完全に気が触れてしまいました」

「そんな……」

 

 絶句したキャサリンに、村長は無理矢理微笑むと首を横に振った。

 

「貴女が気に病む必要はない。どの道助けようがない程の怪我でしたからな」

 

 そう言うと、村長は後ろの女性の方を振り返った。

 

「マリー。彼女達をシンディの所へ案内してやってくれ」

「分かりました、村長」

 

 女性は頷くと、立ち上がってこちらです、と先導しようとする。まだ動けない様子のキャサリンに、村長は深々と頭を下げた。

 

「頼みましたぞ。是非、彼女を救ってやってくだされ……依頼を受けていただいたのが、貴女のような人で良かった」

 

*1
全長二、三十mの小型帆船。速力と機動力に優れる。




もう少し書くつもりでしたが思いの外長くなったので分割しました。中々クエストに出れません。
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