そろそろ何とかしないと不味い……もうすぐ落ち着くと思っていたのですが……
「すいません、少々お話があります」
村へ帰還したキャサリンは、その足で真っ直ぐに村長宅に向かい、その門戸を叩いていた。幸い彼は在宅だったようで、すぐに扉が開く。
「おぉ、お戻りになられ──っ!?」
顔を出した村長は、訪ねて来た冒険者の姿を見て目を見開いた。目を向けられたアイビスは、自分の半身を染める、明らかに首から出血したと思しき夥しい血の跡をこれか、と指し、
「大丈夫だ、問題ない。一つ下手を打ったが、既に此奴から治療を受けている」
淡々と応える彼の姿は出立前と何ら変わらないように見える。その揺るぎない様子に安堵しつつも、村長はその出血から予想される怪我の深刻さから被害に遭った家族のことを思い出し、少し顔色を悪くした。同時に彼は、一人数が足りないことに気がつく。
「あの……もうお一方は?」
「彼女も無事ですよ。今は少し、別行動をしています」
「別行動……ですか?」
首を傾げる村長に、キャサリンは少し言葉を詰まらせた。どう答えたものか、と思案する内に、アイビスがさっさと説明してしまう。
「彼奴も攻撃を受けてな。俺同様、身体は治療を受けたのだが、衣服が駄目になってしまった。人前に出れぬ故、村の外の水場で待機している」
「あ、アイビスさん」
「言い淀んで何になる。服を調達するのだろう。であれば何も事情を話さん、という訳にもいかんではないか」
「それは……そうですけど」
キャサリンは少し口をもごもごと動かしながら目を逸らした。正論ではある。が、同性のノーラが人前に出られない格好であると、さして親しい訳でもない
どうやら自分のギルドはデリカシーの教育から始めねばならないようだ*1、とキャサリンが決意を固めている間に、アイビスは話を進めていく。
「そういう訳だ、村長。可能であれば、彼女が着ることの出来る服を一着、都合しては貰えまいか。極力動きを邪魔しないものが良い。金なら出そう」
「それは、構いませんがな」
村長は落ち着かない様子で外──森の方へ不安げな視線を投げた。
「魔物は、もう討伐してくださったので?」
「いや」
アイビスはきっぱり首を横に振った。村長は目を見開いてわなわなと身体を震わせる。
「何ですと……! それでは」
「あいや、待たれよ。俺達は魔物から逃げ帰って来た訳ではないのだ」
「そうです。私達は、村の皆さんに話があって戻って来ました」
「話?」
村長は猜疑の目を二人に向ける。分からないでもないキャサリンは一つ頷いて問い掛ける。
「貴方は、この森に住まう妖精を知っていますか?」
「妖精ですと?」
村長は一瞬目を丸くするが、すぐに眉根を寄せて首を捻った。
「この森にそんなものはいない筈……いや、そう言えば、依頼を託した学者がそんなことを言っていたような。まさか、あんな空話を真に受けたので?」
「空話……確かにな」
あの言動ではさもあらん、と頷くアイビス。無理もない、と思うキャサリンも一瞬苦笑いを浮かべると、すぐに表情を戻して話を続けた。
「それが、あながち作り話でも無かったようなのです。私達は森で、その妖精と思わしき存在に遭遇することが出来ました」
「何ですと……いやしかし、信じられません。森で妖精など見たことがない。見たという者も聞いたことが……」
「彼女達の言葉から察するに、普段は休眠しているようですから……二十年で少し寝過ぎた、位の感覚みたいですから、十年に一度位しか目覚めていないのかもしれません。十一番にある祠はご存じですよね?」
「祠……あぁ、あの朽ちた遺跡のことですかな。存じておりますが……まさか、あんな小さな遺跡に潜んでいたと?」
「妖精は霊的な側面も持ってますから。物理的な大きさはあんまり関係が無いのだと思います」
遭遇した妖精達は子供位の背丈でしたね、と言うキャサリンに、村長は小さく唸った。どうにも得心してはいない様子だったが、このまま分からないことに一々問いをぶつけ続けても話が進まないと感じたのか、最終的に口を噤んだ彼は目線で続きを促して来る。キャサリンは頷いた。
「彼女達は、この森の穢れを祓ってきたのだそうです。何でも、この森は穢れが溜まりやすい性質なのだそうですが、その穢れが溜まり過ぎると、今回のような強力な魔物が生まれてしまうのだと言っていました」
「なっ……それは、本当なのですか!?」
「真偽は分かりません。ですが、明言こそしませんでしたが、彼女達の行いによって、普通の魔物の発生も抑えられているようでした。この森の魔物の少なさは、正直異常です。彼女達の言っていることが真実でなければ、普通あり得ません」
「それは……むぅ」
彼も村長として、周辺地域の魔物の分布程度は把握しているのだろう。今まで都合がいいから目を瞑って来たものの、その異常性自体には気付いていた彼は、理解が及ばないながらもその理由付けをされたことで妖精の存在を信じたようだった。一つ唸った彼は、そこではたと顔を上げる。
「では……では、その妖精達がこれまで通り穢れとやらを何とかしていれば、今回のことは起きなかったということですかな!?」
看過できないのだろう、目を見開いて詰め寄ってきた村長の血走った瞳を見上げ、キャサリンは黙って肯定した。
「何故そんなことに……妖精共は何故今回に限って穢れを祓わなかったのですか!?」
「盟約を破られたから、であろうな」
泡を飛ばして捲し立てる村長に、アイビスが少し強い口調でそう口を挟んだ。
「彼奴等は穢れに対処するのは古い盟約の為だと言っていた。一方が履行しなくなったのであれば、もう一方もそれに倣うは道理だ」
「盟約……? 何ですか、それは……」
勢いを削がれた村長は、すとんと表情の抜け落ちた顔をアイビスに向ける。突然想像の埒外の言葉をぶつけられて理解の追いつかない顔だった。答えようとしたアイビスは、詳しい内容を思い浮かべようとして、ふと気付く。
「……そう言えば、結局彼奴は盟約の中身を口にしなかったな?」
「……確かに。ですが、クレイオさんの口振りだと恐らく、祠の維持管理と花を供えるとか……若しくは周りに植えるとか……その辺りではないでしょうか?」
「ふむ。あの様子からするとおかしくはない条件だ。少なくとも、無体な要求ではなかろう」
頷き合うキャサリンとアイビス。若干
「し、知らなかった! そんな盟約があったなど……!」
「そんなことは言い訳にもならん。確かに、盟約を交わしたのはお前達では無いのだろうが」
口を戦慄かせながら後退る村長に、アイビスはぴしゃりと言う。
「この土地に移ってきた時に、よくこの地の伝承を調べるべきだったな。ましてや、あれ程あからさまな遺跡があるのだ。此度の件、調査を怠り放置したお前達に責がある」
「そんな……! この辺りには長いこと人が住んでいなかったんだ! そんな昔の盟約など、調べられる訳が……!」
「だが、あのネルという娘は妖精を知っていたぞ。あの娘の家族は何かしら知っていたのではないか?」
「っ……!」
アイビスの言に、村長は言葉を詰まらせて目を逸らした。何か心当たる節があったのかも知れない。
「アイビスさん、どうかその辺りで」
追い詰められた様子の村長を見て、キャサリンがアイビスを制止する。
「何か思うことがあったのかも知れませんが、この人を責めても何にもなりませんよ。それに、この地に移って来たのが百年程前ということなら、当時この人はいませんでした。特に問題も無いのに、住み慣れた土地に最初からある物を疑う人はいません」
「……ふむ。そういうものか」
アイビスは小さく呟くと、もうこれ以上言うつもりはないとの意思表示のつもりか、腕を組んで一歩退いた。その様子を横目に、キャサリンは村長へ言葉を向けた。
「今回のことは不幸なことでしたが、起きてしまった以上誰を責めても無意味です。それよりもこれから出来ることを考えましょう」
「これから……?」
救い手を見るような目で自分を見返してくる村長に、キャサリンははい、と頷いた。
「幸いなことに、彼女達はこの村のことを見限ってはいません。祠を再建して、定期的な手入れと、花を捧げることを忘れなければ、再び盟約に従って穢れを祓うと言っていました」
「お、おお……!」
「細かいことは私達が魔獣を倒した後に、直接彼女達と話をしてください。クレイオ、という赤い髪の妖精がいるので、彼女と話をするといいと思います」
「分かりました。必ず……!」
すっかり生気を取り戻した様子で頷く村長に、キャサリンも笑顔で頷きを返す。話が纏まったのを見て、アイビスが腕を解いた。
「では、先程頼んだ衣服を頼む。それから、この村で採れる花はないか? 妖精達から魔獣討伐への助力の条件に花を頼まれているのだ。種類は多ければ多い方が良い」
「分かりましたぞ! 暫しお待ちを」
言い置いて、村長は外へと駆け出していった。それを見送ったキャサリンは、アイビスの顔を見上げて表情を緩める。
「上手く話が纏まりましたね」
「うむ。良い話振りだったぞ、キャサリン」
「そんな、煽てても何も出ませんよ……ところで、アイビスさんは何故先程あのようなことを?」
「あれか。村長の態度が少し気に障ってな。あれではまるで自分達がただの被害者であるかのような言い様ではないか。彼奴らは言わばこの森の土地神のようなもの。知らぬで粗略に扱えば災いが降り掛かるなど当然のことだというに」
「それは……言われてみれば、そうですけど」
キャサリンは難しい顔をした。
「村の受けた被害は酷いものです。その原因が、聞いたこともない約束を知らない内に破った所為、なんて、いきなり言われればああいう態度にもなりますよ」
「そうは言うがな……」
「今回のことで、彼女達と盟約の存在は村人の知るところとなりました。今後はきっと、良い関係を築いていってくれるでしょう」
「……だといいが」
アイビスは嘆息すると、それで、とキャサリンに問い掛ける。
「これからどうするのだ」
「服をいただいてから、ノーラさんに合流ですね。その後は真っ直ぐ祠を目指しましょう」
花もある程度は集まりましたし、とキャサリンは懐に触れる。四番には複数の花が群生しており、彼女達は村に戻るまでに五色の花を摘むことが出来ていた。
「ふむ。確かに、彼奴をいつまでも一人で置いておく訳にもいかぬし、獣も放置出来ん」
頷いたアイビスはしかし、と、
「あの、ネルという娘御のことは、どうするのだ?」
「……村を出るまでに出会えば、話をします。出遭わなければ、依頼が終わった後にでも……」
「……まぁ、俺は構わんがな」
露骨に目を逸らしたキャサリンに、アイビスは白い目を向けた。
「
キャサリンは目を逸らしたまま僅かに肩を落とす。分かってはいるのだろう。ややして、
「……もう少し、時間をください」
か細い声で返ってきた言葉に、アイビスは再び溜め息を重ねると腕を組んで待つことを選んだ。時間があればいいがな、などと考えながら。
◇◆◇ ◇◆◇
少し傾きつつも未だしっかりと地上を照らす陽射しを反射する穏やかな川の流れに、一人の少女が身を沈めていた。ノーラである。用をなさなくなった服を半壊した革鎧ごと脱ぎ捨てた彼女は、穏やかな水面に口元まで沈み込み、静かにぶくぶくと泡を吐きながら、その泡の弾ける様を昏い瞳で見詰めていた。
──わたしは、役立たずだ。
ノーラは沈む思考のまま、自分の身体を抱き締める。服に隠れて見えなかったその背には、小さな古傷が沢山刻まれていた。
このギルドにおける、自分の役割は、何だろうか?
──決まっている。前衛で、攻撃役で、探索役だ。
では、自分はその役割を果たせているか?
前衛。敵の攻撃を一番前で受け止める者を前衛というならば、あの魔獣の爪を最も受けた自分は成る程前衛だ。避けることも耐えることも出来ずに無様に転がっただけではあるが。案山子でいい。
攻撃役。先制攻撃を受けたとはいえ、それでも痛烈な逆撃を与えるのが攻撃役というものだ。だが現実、自分の投じたナイフは簡単に躱され、手傷を与えたのはアイビスのみ。彼は自分の攻撃のおかげで隙が出来たと言ってはくれたが、その後はそれすら出来ていない。何の貢献も出来ていなかった。
探索役。元々このギルドには
だが実際は。
──
結果、アイビスは──
「……アイビスさんが助かったのは、キャサリンさんがいたから。結果論でしかない」
その後も最悪だった。アイビスが攻撃されたことに激昂し、魔獣を追おうとしてしまった。追ってどうするのというのだ。一人で勝てないのは分かっているのに。動けない二人の傍を離れてまで。
もう自分は、独りではないというのに。
「……もう、アルミナさんを責められませんね」
前回の依頼でつい風呂に飛び付いて敵を見落としたアルミナを責めたが、自分もこうして似たようなことをしてしまっている。いや、その後の対応を考えれば、自分は彼女以下だろう。自分に、偉そうにとやかく言う資格など無かったのだ。ログレスに戻った時、どんな顔をして彼女に会えばいいのだろう。
「……そもそも、会えるでしょうか」
ノーラはのろのろと村のある方へ顔を向けた。二人は今、村へ交渉に行っている。妖精達との盟約を再び村人に履行させる為に。そのついでに、自分の服の調達もしようとしてくれている。
しかし……こんな役立たずの自分を、二人は迎えに来てくれるだろうか?
自分だったら見捨てている。二人がそんな人では無いと思いつつ、ノーラは不安を拭い去ることが出来なかった。
「次こそは……次こそは、必ず役に立ってみせます。だから……」
ノーラは胸の前で抱き込むように両手を握り締めると、ぎゅっ、と瞳を瞑る。普段よりも過剰に研ぎ澄まされた聴覚が二人分の足音を捉えるまで、彼女はその姿勢のまま動くことはなかった。
◇◆◇ ◇◆◇
目的を達し、村長の家を辞した二人はノーラと合流しようと村の外へと向かおうとしていた。キャサリンの腕には村長を通じて入手した服が抱えられている。花もあったのだが──それこそ背負い籠一杯位あったのだが──色合い的には既に集めていた花と大差無かったため、魔獣討伐後、村人達が妖精の元を訪れる時に持っていくのが良いだろう、という話をして置いて来ることにした。村長には悪いが、魔獣のことを考えると余り大荷物を抱える訳にはいかなかったのだ。
結局、村長を通じてネルを呼び出して貰うようなことはしなかった。村の近くとはいえ無防備に近い状態で外にいるノーラとの合流を急ぎたかった、というのも理由だが、一番はつまるところ、キャサリンの決心が付かなかったからという一言に尽きる。リーダー代行として頑張ろうとはしているものの、彼女の本質はヘタレな小市民。気の進まないことはなるべくなら後回しにしたい、というのが正直なところであった。
そして、来て欲しくないことというものは得てして来て欲しくないタイミングで来てしまうもので──
「──あ、お姉ちゃん達!」
村を出ようとしたところで背後から掛けられた少女の声に、キャサリンは思わず肩をびくりと跳ねさせた。
「……ネルさん」
少し引き攣った笑みを浮かべて、ぎこちなく振り返るキャサリン。アイビスはその様子に小さく溜め息を吐くと、一歩身体を後ろに引いた。ネルはしかし、彼女達の様子に気付いた様子もなく笑顔で駆け寄って来る。
「戻って来たんだね、お姉ちゃん達! あれ? もう一人のお姉ちゃんは?」
「……ノーラさんは、少し別行動してるんですよ」
「そうなんだ。ねね! 妖精さんには会えた? お母さん達はいつ帰ってくるの?」
無邪気な顔でそう捲し立て、首を傾げるネル。キャサリンは一瞬空を仰ぐと、小さく息を吐いた。そうして視線を戻すと、片膝を突いて正面からネルの顔を見据える。
「──お母さん達は、帰って来ません」
「……え?」
「貴女のご家族は、亡くなったんです。死者はもう帰って来ません。何をしても」
キャサリンは真剣な顔でそう言い切った。目を見開いたネルは、微かに唇を振るわせて、縋る様に瞳を揺らす。
「……妖精さんは? 妖精さんが、守ってくれるんじゃないの?」
「彼女達は万能の存在ではありません」
そう、キャサリンは首を振った。
「確かに強い力を持っているようでしたが、彼女達にだって出来ないことはある。手の届かないことも、あるんです」
「……」
ネルは、キャサリンの言葉を、表情の抜け落ちた顔で聞いていた。しかし、すぐに惚けたように開けていた口をぎっ、と引き結ぶと、両の拳を握り締めて叫ぶ。
「嘘つき!!!」
「っ……」
顔を真っ赤にして、見開いた瞳から涙を零して、声の限りに叫んだ彼女の姿に、キャサリンは息を呑む。
「お父さんとお母さん、帰ってくるって、言ったのに!!」
──そんなことは言ってない。
反射的にキャサリンはそう思ったが、正面から叩き付けられた想いに、幼いながらも強い感情を込めた視線に、言葉が出なくなった。何か言わなければならない。しかしそんな幼子の想いを頭から否定するようなことは言えないと、彼女の思考が空転を始めた頃、その隣に誰かが立った。
「言った覚えはないな、そのようなこと」
アイビスだった。彼は激昂するネルをいつもの冷然とした目で見下ろし、淡々とした口調で告げる。
「お前は、両親が早く返ってくるようにして欲しいと妖精へ伝えるよう俺達に請うた。俺達はそれを請け合い、妖精へ伝えた。妖精は断った。それだけの話で、嘘は何処にもない」
「でも……!」
「でもも何もない。そもそも、妖精に願えば両親が帰ってくる、というのはお前の都合の良い妄想に過ぎん。彼奴らは森を守るものであって、森で死んだ者を黄泉還らせる存在ではない。出来ぬことを願えば出来ぬと返されるのが当然だ」
「……!」
淀みない口調で整然と言葉を並べるアイビスに、今度はネルが言葉を詰まらせる。
「死者は黄泉還らぬが世の摂理だ。家族を喪くし、辛いのは理解出来るが──」
「だ……」
「む?」
「大ッッッ嫌い!!!」
ネルは喉も裂けよとばかりにそう叫ぶと、引き止める間もなく泣き喚きながら走り去ってしまった。キャサリンがその姿を呆然と見送っていると、ふむ、とアイビスが嘆息する。
「嫌われてしまったか。子供に言い諭すのはやはり難しいものだな」
肩を竦めたアイビスは、腰を落としたままのキャサリンに視線を向ける。
「……お前が返答に窮したようだった故、つい口を挟んでしまった。余計なことをしただろうか」
「……いえ。むしろ、言ってくれて助かりました」
キャサリンは大きく溜め息を落とすと、ゆっくりと立ち上がった。
「やっぱり、こうなってしまいましたね……」
「致し方無かろう。道理は道理だが、それで納得できるものではあるまい。あの歳では尚更だ……そういう意味では、最初に受けたのが間違いであったかも知らぬ。すまなかった」
「いえ……アイビスさんが頷かなかったら、私が頷いていましたよ」
軽く頭を下げてくるアイビスに、キャサリンはそう言って苦い笑みを浮かべた。ネルが去って行った村の中心の方へ目を向ける。
「変なことにならなければいいのですけど……」
「ここから先は村人に任せる他あるまいよ。今はノーラを迎えに行ってやらねば。あまり放置していては、またぞろ膨れて面倒なことになりかねん」
「そうですね」
アイビスの言い様にもう一度苦笑すると、キャサリンは村の出口に視線を向け直す。その向こうには魔獣の潜む森が見えた。柔らかい日差しが差し込んではいるものの、生き物の気配の薄いそこは何処か目に寒々しく映る。
「では、急ぎましょうか」
「うむ」
静かな森を横目に、二人はノーラの待つ水辺へと向かうのであった。