翌朝、アルミナとノーラの二人は神殿の食堂で向かい合うようにして朝食を摂っていた。二人の前のトレイにあるのは固い黒パンが一つに、
「物足りないわ……お肉食べたい」
「そうですね? でも、それは素寒貧が言っていいセリフじゃないですよ?」
ゆっくりとスープを飲むノーラの言葉に、アルミナは露骨に目を反らして応じた。
彼女達が食べている食事は、神殿が冒険者へ無料で提供しているものだ。もっとも、明らかにコスト最優先で、品質も量も、ついでに味も最低レベルではあるが。他にも神殿は寝床や毛布の貸し出しなども行っており、まだ金銭に余裕のない新人冒険者達の強い助けになっている。現にこの食堂にも、明らかに神職にそぐわない身なりをした若者たちが粗食を貪るようにしているのがちらほら見受けられた。
このログレスに流れてきたばかりの二人もその例に漏れず、昨夜は神殿のお世話になったのだった。
無料で食事を提供してもらえることには感謝しているが、この味と量はいただけない。この最低の食事から脱出することが、新米冒険者の最初の目標の1つであり、冒険に向かう原動力だった。
アルミナは空になった器の底を所在無げにスプーンでつつくようにしながら、おずおずと視線を戻す。
「違うの。冒険者になる前に防具とかを揃えたら、ちょっとお金が残らなかっただけなのよ」
「冒険者になれてよかったですね?」
揶揄うように言うノーラだが、アルミナの反応は目を瞬かせるだけだった。
(冒険者になれないだなんて、考えたこともないんでしょうね?)
根拠のない自身に満ち溢れる彼女の姿を無意識に自分と見比べかけて、ノーラは何でもないですよ? と苦笑を浮かべて見せる。
「そう言えば、そろそろキャサリンさんが来る時間じゃないですか?」
ノーラはそう、思い出したように話題を変えた。この街に自宅のあるキャサリンとは、この後神殿の外で落ち合うことになっている。
「あ、そうね。急がないと」
残った黒パンを口いっぱいに詰め込むと、アルミナはトレイを引っ掴んで下膳口へ駆けていく。トレイを下膳口へ戻した辺りでパンを飲み込んだ彼女は、ノーラへ向けて手を振って見せた。
「先に行くわ。ゆっくりでもいいからしっかり食べてから来なさい」
言うなり、返事を待たずに走り去るアルミナ。その背中から手元に視線を落として、ノーラは笑みを浮かべる。
「本当に、変わった人ですね?」
鬱屈とは疎遠になりそうだと、ノーラはまだ半分残っている朝食を見つめ、いつもより少し大きめに黒パンをちぎった。