冒険記録~ギルド『疾風の狼』~   作:弧埜新月

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ミドルフェイズ・情報収集と出発

「早速向かってみる? それとも情報を集めてからにする?」

 

 カウンターを離れたアルミナは、二人に振り返りながらそう問い掛けた。もっとも、彼女の中では既に答えを出しているような表情ではあるが。

 

「情報は大事だと聞いていますよ?」

「……私も、情報を集める方に賛成です。私達はこれが初仕事なんですから、情報は集めて然るべきだと思います」

 

 ノーラは揶揄うような笑みを浮かべて、キャサリンは深呼吸を一つして気を落ち着かせてから毅然として、それぞれ答えた。

 

「決まりね。じゃあ手分けして話を聞いてみましょう」

 

 言うなり、さっさとアルミナは手近な冒険者へ声を掛ける。一人で麦酒を片手に半ば出来上がっているその戦士風な冒険者の男の肩を叩くと、さっさと要件を切り出した。

 

「ちょっといいかしら。私達、これから共同墓地の調査に行くんだけど」

「ああ……あの墓地に行くのかい嬢ちゃん?」

 

 赤ら顔の割にはしっかり受け答えする冒険者にアルミナは頷いた。

 

「ええ、そうよ。それでちょっと話を聞きたいんだけど」

「そうだな……じゃあ、酒でも一杯奢ってくれたら教えてやるよ」

 

 冒険者がくいっと麦酒のジョッキを持ち上げる。ちらりとアルミナは壁に視線を走らせると、混ぜ物の少ない麦酒なのだろう、一杯1Gの文字が。もちろん、値段など確認したところで無一文の彼女は何も奢ることができないのだが。視線を男に戻したアルミナは勿体を付けるように緩く握った拳を顎に添えた。

 

「そうねぇ……私達が戻ってきたら二杯奢るわ。それでどう?」

 

 アルミナの言葉に、冒険者は改めて彼女の頭の先からつま先までを眺め、その装備の真新しさと貧相さに内心で頷いた――コイツ、さては文無しだわ。だが、改めてアルミナの顔を見て、まだあどけなさを残すが凛然とした美貌に、しょうがねぇな、と相好を崩す。

 

「二杯な。それじゃ、教えてやる。実は、俺は以前それと同じ依頼を受けて西の共同墓地に向かったんだ」

「どうやらいきなり当たりを引いたみたいですね?」

 

 後ろで様子を窺っていたノーラがアルミナをつつく。アルミナも口元に笑みを浮かべた。

 

「退治したのは、スケルトンっていう動く骸骨のモンスターだったな。嬢ちゃんらでもそんなに苦戦はしないだろうけど、数が多いと手こずるかもしれないな」

「スケルトン、ね。何か気を付けるべき点はある?」

 

「そうさなぁ、厄介な点としては、長剣、槍、短剣、弓の攻撃は、ちょっと当てづらいことかな。よほど腕に自信があるならいいが、あまり自信が無いならいっそ、他の武器を持っている奴に任せた方がいいかもな。魔法やハンマー、両手剣や斧を持ってるならそんなに苦戦はしないだろうし」

「つまりハンマーで殴り倒せば良いという事ですね?」

 

 ノーラがハンマーを振り下ろす真似をする。冒険者もあえて真面目腐った顔で、その通りだとハンマーを振り下ろす真似を返した。

 

「数……その時はどれ位いたの?」

「そうだな、三体ほどだったな。まあ、俺たちからしたら雑魚も同然だった」

 

 男は傍らに立てかけてあった使い込まれた風なクレイモアを拳で叩いた。だが、とすぐに首を捻り、

 

「ぶっ倒した後に妙な気配を感じたんだ。すぐ消えちまったけどよ。怪しいと思ってその後探し回ったんだが、全く正体を掴めなかった。まあ、そいつが嬢ちゃんらの依頼の目的である"黒幕"なのかもしれねえな」

「妙な気配、ね。気を付けてみることにするわ。情報ありがとう」

 

 礼を言うアルミナに、男は姿勢を正すと緩んでいた目元を引き締めた。

 

「アブねえって思ったら、すぐ逃げるんだぞ。命あっての冒険者だ。俺も何度死にかけたことか」

「ええ、分かったわ。足には自信あるのよ」

「ふふ、ご忠告痛み入りますね?」

 

 アルミナはウィンクを、ノーラは意味ありげな微笑を残して男の前を辞した。すぐに合流しようとキャサリンを探すが、

 

「お嬢ちゃん、見ない顔だね~」

「新人? 仲間いないの? オレ達が色々レクチャーしてやろうか? 手取り足取り、色々と」

「いえ、あの、その……」

 

 キャサリンは話し掛けたらしい冒険者グループに絡まれて目を回していた。言葉とは裏腹に下卑た所は無く、純粋に揶揄って遊んでいるだけらしいと、直感で察したアルミナはため息を吐くとキャサリンの襟首を引っ張る。ちょっと強く引き過ぎたらしく、ぐえっと乙女らしからぬ声が漏れているが、アルミナは努めて無視した。

 

「ほら、行くわよ。情報は手に入ったわ」

「げほっ、こほっ……そうですか。こちらは成果ゼロです……」

「でしょうね」

「うう、面目ない……」

 

 アルミナの返事にしょぼくれるキャサリン。その後ろではノーラが彼女を揶揄っていた冒険者達にそれでは失礼しますね? と軽く会釈している。男たちはぞんざいに返事を返すとまた元のように騒ぎ始めた。

 

「おーう、頑張んなよー」

「親父ー、唐揚げくれよー!!」

「もう少し待てっつってんだよ、今揚げてるとこだ!」

 

 賑やかな酒場を後にして、三人は直ぐに壁際に寄って得られた情報を共有する。

 

「……スケルトン、ですか」

「ええ。風魔法を使う私やメイスを使うキャサリンはともかく、短剣が主体のノーラには厄介な相手ね」

「そうですね? でも、これでも戦士の端くれですし、何とかして見せますよ?」

 

 それに、とノーラがキャサリンの隣へするりと潜り込んでその左手を取った。

 

「危なくなったらキャサリンさんに護って頂けば良いですね?」

「はい、《プロテクション》でしっかりお二人をお護りしますよ!」

 

 キャサリンはぶんぶんと右手に持ったライトメイスを振って快活に頷いた。スウェーで自然にそれを躱したアルミナが苦笑する。

 

「そうね、頼りにしてるわ。あと、街中でメイスは振り回さないこと」

「あ、その、すいません……」

 

 メイスを両手で掴んで小さくなるキャサリンに思わず二人で噴き出す。キャサリンはますます小さくなった。

 

「……。ところで、アルミナさん、貴女はドルイドだったんですね?」

「ええ、そうよ。……まぁ、自称なんだけど」

 

 アルミナは照れ臭そうに頬を掻いた。

 

「私は元々エリンディル大陸東方の南の方の出なんだけど。ある日、私の父が怪我をしたドルイドを拾ってきてね。怪我が治るまでの間、世話をしていたことがあったの。その時に色々教えてもらったのよ」

 

 そう言って、少し擽ったそうに微笑うアルミナ。ほぇー、と胸の前で手を組んだキャサリンが首を傾げてずいっと顔をアルミナへ近づけた。

 

「では、もしかして、アルミナさんはその人に逢いに霧の森まで!?」

「に゛ゃっ!? な、なんでそうなるのよ!?」

 

 反射的に1m程跳び退ったアルミナが顔を真っ赤にして吠える。だがキャサリン怯まない。キラキラした顔でずいずい距離を詰めていく。

 

「だって、東方の、しかも南の方のご出身なんですよね? つまり無限の砂漠を越えて来たってことですよね? それって中々大変というか、むしろ無謀ですよそんなこと! にも関わらずこのエリンディル西方まではるばる来たということは……」

 

「ちょ、ちょっと、邪推は止めなさい! 私はちょっと外の世界が見たくなっただけで、ついでに折角だから本物のドルイド達が集まる霧の森も行ってみようかなーとかちょっとだけ、ちょーっとだけ思ってはいるけど、それとあの人とは全然、全然全くこれっぽっちも関係ないと言うか! 遇ったら少しくらい話したいだとか修業の成果を見て褒めてもらいたいだとか全然全然全ッ然思ってないんだからね!」

 

 うにゃー! と往来であることを忘れて目をぐるぐるさせたまま両手を振り上げて威嚇するアルミナ。完全に頭は沸騰しきっており、もはや自分が何を口走っているのかすらわかっていないような惨状である。ノーラがキャサリンの肘を軽く引く。

 

「まあまあ、アルミナさんも限界みたいですし、今はこれくらいで勘弁してあげた方がいいと思いますよ? 街中で魔法を乱射されるようなことになったら大変ですしね?」

「そうですか? まぁ確かにそうですね、またの機会にします」

「またなんてないわよ!」

 

 ふしゃー! っと威嚇するアルミナに、二人は顔を見合わせて苦笑する。その二人を憤懣やるかたない顔で睨みつけると、アルミナは肩を怒らせて歩き始めた。

 

「ああ、アルミナさん、そっちは反対方向みたいですよ?」

「~! 分かってるわよ!」

 

 方向を修正したアルミナの隣にノーラが並ぶ。

 

「アルミナさん。貴女は正式なドルイドではないと言いましたが。貴女も、魔族や……妖魔を狩るのですか?」

「……。そりゃ、まぁ。ドルイドを目指している訳だし」

 

 普段とは違うノーラの声の調子に面食らいながらもアルミナは返した。

 

「妖魔や魔族の企みを看破、監視し、そして倒すこと。それがドルイドの使命な訳だし」

「例え、その妖魔が、何の企みもなく、ただ人に交じって平穏に暮らしたいと願っていても、ですか?」

「……」

 

 アルミナはその問いに目を瞬かせ、次いで視線を上向かせ、首を右に傾けた。考えたこともなかった様子だったが、割とあっさりと答えが出たのか彼女は頷くとノーラを見る。

 

「その時にならないと分からないけど。多分、そっとしておくと思うわ」

「……。そうですか」

 

 ノーラは小さく笑うと、視線を前に向けた。それきり黙ってしまったノーラにアルミナは小さく首を傾げ、そしてそれ以上は考えないことにした。何となく、今は考えなくてもいい気がしたのだ。

 目指す共同墓地はまだまだ先。視線の先には灰と白の城壁に護られた銀嶺城が見えていた。

 




言い忘れていましたが、私は一番残念な娘(アルミナ)の中の人です。
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