冒険記録~ギルド『疾風の狼』~   作:弧埜新月

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初戦闘です。


ミドルフェイズ・遭遇

 三人は冒険者通りを抜けると、ログレス第二区を護る灰色の壁沿いに西へ向かい、ログレス西部に広がる耕地を抜けて西門を潜った。アンデッドが出没すると報告のあった墓地は西門を出てから街道を外れ、門が見えなくなるくらいの場所にあるのだ。低い石塀と簡素な門で区切られたそこは、まだ日は高いものの、場所が場所だけに人気がなく、周囲にはじめじめした陰鬱な雰囲気が漂っている。辺りに生物の気配は無く、広い敷地を無機質な墓石がいくつも並び立って埋めているのが見えた。

 

「ふふ、流石に墓地と言うだけあって陰気臭い場所ですね?」

「あまり長居はしたくない場所ね。いくら墓地と言っても死臭が酷過ぎる」

 

 強気に笑うノーラの隣で、鼻がいいアルミナが顔を顰めた。その視線の先には無惨に倒れた墓石がいくつも見える場所がある。入り口からは少し遠いが、彼女が立つ場所からも掘り返されたらしき様子が見て取れた。視線の先を追って同じものに気付いた二人と頷き合い、そちらへ歩を進める。

 

 近づいてみると、穴はどうやら元々墓石があった場所の下に開いているようだった。乱暴に掘り返されたそれは、かつてここに眠っていた死者がアンデッドとして復活させられたのではないかと嫌でも想像させる。

 

「これは……酷いですね」

「そうね……あっちを見て」

 

 アルミナが顔を向けた先にも崩れた墓石がいくつか転がっていた。こちらは先ほどの墓石と異なり、半ばから砕けていたり焼け焦げたりしているものも見受けられる。どうやら出没したらしきアンデッドと、派遣された冒険者の戦いの跡であるらしい。破壊された墓石は大ぶりの攻撃が避けられた結果で、倒されたアンデッドの残骸と思われる、骨の欠片や折れた剣が散らばっている。

 

「骨……やはり情報の通り、スケルトンがいるみたいですね」

「そうね。彼のくれた情報は正しかったみたい。これは報酬を払わないといけないかしら」

 

「あら、払わないつもりだったんですか?」

「正しければもちろん払うわ。ただ、情報に何かしら嘘があれば、彼への報酬は私の笑顔だけ、ということになった訳だけど」

 

 アルミナは一瞬黒い笑みを浮かべたが、すぐに消して肩を竦めた。

 

「聞いた後で報酬を払えるなんて、いい情報もあったものだと思ったのだけどね」

 

 まだ情報の全ての真偽を確かめたわけではないが、アルミナは真だと考えているらしい。気のない様に小さくため息を吐くと、彼女は真顔に戻って辺りを再度見回した。

 

「それで、件のアンデッドはどこかしら」

「うーん……これ以上目立った痕跡はなさそうですし、取り合えず奥に進んでみるしかないんじゃないでしょうか」

「そうですね……不意を突かれないよう、注意して進みましょうね?」

 

 言いながら短剣を手にしたノーラが率先して前に出る。その後にやや硬い表情のキャサリンがメイスを握りしめながら続き、アルミナは最後尾に回った。これは三人が事前に決めていた隊列であった。シーフの技能も持つノーラが先頭で罠などの危機に集中し、ドルイドとしての鋭い洞察力と、獣人特有の優れた勘を持つアルミナが周囲を広く警戒するのだ。その手の行動が苦手なキャサリンは、二人が何か反応した時にすぐにフォローに入れるよう、二人の動向にだけ注視している。

 

 だから、次第に嫌な雰囲気が強まる中それに気付いたのは二人だけだった。

 

「あら、早速お出ましのようですね?」

 

 ノーラが、遠くからカタカタと音を立てながら骸骨たちが近寄ってくるのを発見した。遠目からも錆びてまるで手入れされていないと分かる長剣を携え、見た目の割にはしっかりとした足取りをしている。アルミナの方も感知していたらしく、そちらを見ながら短剣を引き抜いていた。

 

「アレが依頼書にあったスケルトンね……向こうもこっちに気付いたみたい」

 

 全員が気づいてすぐに襲い掛かっていれば或いは先制攻撃ができたかもしれないが、生憎とキャサリンはまだ見つけれていないらしくわたわたと視線を彷徨わせていた。スケルトンたちはすでに剣を振り上げながら彼女達に襲い掛かろうとしている。奇襲の機会はすでに逸していた。

 

「ほら、キャサリンさん、あちらですよ? 早速お出ましのようですね?」

「あ、はい! 数は……三体! 情報の通りです」

「そのようね……っ!」

 

 ノーラの指の先を追い、ようやく敵を認めたキャサリンが楯とメイスを構える。アルミナは頷きを返すと、乱戦を避けるべく後ろに跳び退った。

 

「先ずは私から行くわ!」

 

 僅かに乾いた唇を舌で素早く湿らせると、アルミナは短剣を前に突き出し、反対の手で刀印を切る。

 

「風よ、切り裂け……! 《エアリアルスラッシュ》!」

 

 叫びながら短剣を振り抜くと、その視線の先で生まれた風が逆巻いて、不可視の刃としてスケルトンの一体に襲い掛かった。スケルトンは反応する素振りを見せはしたものの、剣を持たない左腕が風に巻き込まれてバラバラに砕け散る。

 

「……さて」

 

 そこへ飛び込んでいったのが、だらりと下げた両手に短剣を握ったノーラだ。

 

「得物が不利なのは承知の上……ですが行くしかありませんね?」

 

 大勢を崩しているスケルトン目掛けて短剣を横薙ぎにするノーラ。だが、その刃は微妙に身体を反らしたスケルトンの胸骨の隙間を抜けてしまい、ダメージを与えられなかった。

 

「あら……仕方ありませんね?」

 

 それに気を取られることなく、短剣を振るままに流れた体勢を逆に利用して、反撃に振るわれた長剣の下を潜るように躱す。

 

「甘いですよ? ……!」

 

 嗤うノーラだったが、先頭のスケルトンの影に隠れるようにして飛び出してきた二体目のスケルトンに身体が硬直した。ほんの一瞬の間ではあったが、それは剣が振り下ろされるには十分すぎる。

 

「ひっ……」

「守護を!」

 

 咄嗟に腕で身を庇おうとしたノーラの眼前に淡く輝く光の楯が現れる。キャサリンが唱えた《プロテクション》だ。実体のない楯ではあるが、それは確かに長剣の勢いを弱め、ノーラの胸当てを強打するに留めることができた。

 

「ちょっと、大丈夫!?」

「うぅ……まだ大丈夫です」

 

 衝撃に顔を歪めるノーラは、それでも何とか振るわれる追撃を避けてアルミナに返事を返した。全てのスケルトンが攻撃で流れた体勢を立て直す間に一歩身を引いて小さくため息を吐く。

 

「ふぅ……ちょっと調子に乗りすぎたでしょうかね……?」

「ノーラさん、後は私が!」

 

 《プロテクション》を唱えた直後から真っすぐ走り出していたキャサリンが、入れ替わるように前に出て隻腕のスケルトンにメイスを叩きつける。振り抜いた槌頭が下顎を粉砕し、肋骨を全て吹き飛ばす――だがスケルトンは背骨に右腕と上顎をくっつけたような姿で尚も一歩を踏み出してきた。顎のない頭が、それでも嘲笑うようにカタカタと揺れる。

 

「な、これでもまだ動くんですか!?」

「流石にアンデッド、しぶといわね……ノーラ、ソイツの相手は任せたわ。見た目ボロボロだけど、足取りは変わってない。気を引き締めなさい。キャサリンはノーラの援護を」

 

「分かりました。痛いのはこりごりですしね?」

「了解です!」

 

 二人の返事に頷きを返すと、アルミナは先程ノーラを傷つけたスケルトンに短剣の切っ先を向ける。

 

「私は無傷のスケルトンを削る! 千里掛ける風よ、打ち払え!《エアリアルスラッシュ》!」

 

 キリリと眦を決して刀印を切るアルミナ。だが、ひょい、と軽い動きで首を傾けて躱すスケルトンの動きにすとんと顎を落とした。

 

「よ、避けられた!?」

「大丈夫です、アルミナさん! 私達はまだ余裕がありますから!」

「そうですね? ではわたしは指示通り、手負いを狙いますね?」

 

 キャサリンに頷いたノーラが、逆手に構えた短剣を前にして一気にスケルトンへ肉薄する。

 

「ふふ、決めますよ?」

 

 そのまま横へ一閃、下顎が無くなって見えやすくなった頸椎の関節に短剣を叩き込む。首を吹き飛ばされたスケルトンは、そのまま横倒しに倒れて砕け散り、動かなくなる。

 

「まずは一体、ですね? ──おっと」

 

 突出したノーラを目掛け、二体のスケルトンが剣を振り下ろすが、ノーラは軽やかに後ろへ跳んで空振らせる。くすりと微笑んでキャサリンと場所を変わった。

 

「先ほどのようにはいきませんよ?」

「続きます! せぇぇぇぇえい!」

 

 隙を晒したスケルトンへ向けて、キャサリンが全力でメイスを振り下ろす。しかし、若干入りが浅く、スケルトンの左胸を壊すに留まった。

 

「汚名挽回よ! 今度こそ!」

 

 よろめいたスケルトンに向けてアルミナが再度魔法を放つ。だが、風はふらりと急に身体を起こしたスケルトンの脇の下を吹き抜けていってしまった。

 

「なんでよ!?」

「ふふ、次は名誉を挽回してくださいね?」

 

 憤慨するアルミナに苦笑して、ノーラは再びスケルトンへ向かう。

 

「引き続き手負いを狙いますね?」

 

 腰溜めに溜めた短剣を思い切り横に振り抜くが、スケルトンは骨の身体の細さを利用して上手く躱してしまう。

 

「むぅ、うまくいきませんね?」

 

 余り悔し気ではなさそうに首を傾げ、後ろへ跳び退く。その影を斬る様に剣を振るったスケルトンがたたらを踏んだ。それを狙ってキャサリンが飛び込み、自身に振るわれるもう一方のスケルトンの剣を楯でいなしながらメイスの一撃を叩きこむ。

 

「貴女もやりますね?」

「これくらいなら、何とか」

 

 ノーラに目線だけ向けて微笑みを返すキャサリン。固さの取れてきた表情からは余裕が伺える。その様子を見ながらアルミナは一瞬思案した。視線の先にあるのは腰に吊ったMPポーション。

 

(思った以上に長引くわね……魔力は後大体魔法2回分……余裕がある内に飲むべきかしら)

 

 彼女の頭を自分の財布が過ぎる。MPポーション一本で、お肉にコーンスープとサラダ、柔らかい白パンまでついた豪勢な食事が10回は食べれるのだ。新米冒険者には痛い出費なのである。

 

「いえ、飲むべきね。コイツ等で最後な訳じゃないのだし」

 

 刹那で悩みを振り切ると、MPポーションの封を指で飛ばして一息に呷り、

 

「げっほっ! ごほっ!」

 思いっきり咽た。

 

「あらあら、大丈夫ですか?」

「まっず……! 何でこんなのがお魚やお肉より高いのよ!?」

「食料とお薬を一緒にされても……というか、MPポーションは薬としては破格のお値段だと思います」

「まあまあ、素寒貧のアルミナさんにはどれも高値の花でしょうしね?」

 

 二人の生暖かい視線を振り払う様にアルミナは刀印を切った。やけくそ気味に声を張り上げる。

 

「今度こそ! 風よ、我が前の敵を斬り倒せし、無限なる刃となれ!」

 

 勢いよく迸る風が今度こそスケルトンを捉え、その体を頭から両断する。

 

「よっし! やった……うぷ、さっきのポーションのえぐみが……」

「では残りを」

 

 舌を出して嘔吐くアルミナを無視してノーラが残るスケルトンに飛び掛かる。両の短剣を頭蓋に突き立て、

 

「これは」

 

 タンッ! と着地した地面を強く蹴りつけながら肘を畳み、勢いを乗せた膝をスケルトンの鳩尾に叩き込む。

 

「どうですか?」

 

 衝撃で引き抜けた短剣をくるりと器用に回して逆手に持ち替えながら上体を捻る。ノーラは口元に笑みを乗せると、身体をくの字に折って無防備を晒すスケルトンへ回転を乗せた3連撃を叩き込んだ。左腕を粉々にされたスケルトンはそれでも無理矢理剣を振ってきたが、そんなものが当たる訳もない。ステップを踏んで身体を返すと、ノーラは気取った風に一礼した。

 

「こんなものですよ?」

「流石ですね、私も負けていられないです!」

 

 追撃に振るったキャサリンのメイスが剣ごと右腕を叩き折る。両腕を失ったスケルトンは、しかし背を見せることなく両足を踏みしめ、半壊した顎をカタカタと打ち鳴らした。

 まだやるのか、と武器を構える二人。その間を矢のように抜けた黒い影が一つ。

 

「ここまで来たらもう魔法は必要ないわ」

 

 それは短剣を腰に戻したアルミナだった。メイジである筈の彼女は、何故か両の拳を強く握り締め、スケルトンに向かって振り被る。

 

「短剣が当たりにくいなら殴ればいいのよ!」

 

 素早い動きで腰の入った正拳突きを叩き込む。強い衝撃に脆くなっていた胸骨が砕け、スケルトンは仰向けに倒れこんだ。

 

「すごいですアルミナさん! モンクとしても戦えま……アルミナさん?」

 

「手……痛い……」

 

 掲げた左手を戦慄かせるアルミナ。それを横目にやれやれと、ノーラがもがくスケルトンに歩み寄る。

 

「どうしてこう、いつもいつも締らない人なんでしょうかね?」

 

 首を傾げながら、ノーラは短剣を頭蓋に振り落とした。




主にアルミナの出目が腐って割とグダグダな戦闘回に……
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