BLUE ARCHIVE -1.0   作:あたー

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10話です。




各々の『対策』

-1日目-

~非常対策委員会終了後~

 

~ミレニアムサイエンススクール 会議室~

 

「以上が連邦生徒会から私たちに要請があった内容よ。」

 

 ユウカは集まった面々に向けて説明を行う。

 会議室にはセミナーの他にエンジニア部、C(クリーニング)&C(クリアリング)、ヴェリタス等、ミレニアムサイエンススクールにおける実力者集団達が揃っていた。

 

「了解だ。例の装置の完成を急ごう。しかし…。」

「ウタハ先輩、なにか気になることでも?」

 

 エンジニア部の部長、白石ウタハはユウカからの説明に対して気がかりなことがあるようだった。

 

「私達の作っていた『オルカ』は、本来クジラ等に対して使うことを目的に作っていた装置だ。未知の生物相手に効果があるかなんてわからないぞ。」

 

 ユウカが連邦生徒会へ提供しようとしていたのは、特殊音波発生装置『ORCA(オルカ)』。

 元々は沿岸に接近して座礁の恐れがあるクジラを沖へ遠ざける為にシャチ(ORCA)等複数の生物の鳴き声を合成して生成した特殊な音波を発生させてエコーロケーションに似た現象を起こすことで進路を変更させることを目的とした装置である。

 故に本来対象となっていない正体不明の生物相手の使用では期待通りの働きをする保証などなかった。

 

「効果が無くていいのよ。今回使う目的は数十メートルクラスの移動物体がいた場合、それがクジラか、それとも他の生物か判別する為に使うわ。反応して進路を変更するようであればそれはクジラ、反応しなければそれ以外の何か、というようにね。」

「成る程ね。」

「と言っても、そもそも普通に発見できる可能性もあるから、あくまで不安視されている可能性の一つに対する対応策ということになるわ。こればかりは実際に探してみないとわからないわね。」

 

 ユウカがウタハにオルカの使用目的を説明する。そして使用目的自体が現在懸念されている不確定なことへの対応であり、必ず役に立つかはわからないとも。

 今回の作戦は仮定と予測と想定だらけで確定といえるものは非常に少ない。相手がまともに写真一枚残っていないような相手では仕方ない面もあるが、そんな中で新たな疑問が湧く。

 

「そもそもちゃんと犯人の生物を見つけられるかな?普通の生き物なら必ず複数個体が生息している筈だから別のやつが見つかる可能性もあるよ。まあ今まで全く発見されなかったなら個体数は相当少ないと思うけど。」

 

 ヴェリタスのメンバー、小鈎ハレがそう発言する。確かに相手が今回限りの特殊発生したものではなく、何年もかけて生息し続けてきた生物種であればこれが最後の一匹、と考えるのはあまりに都合がいい話だろう。

 だがそれに対するユウカの答えはおよそ普段の彼女らしくないものだった。

 

「そんなの、全部倒せばいいのよ。」

 

 感情の籠っていない声でさも当然のことのようにそう話す。

  

「一匹でも見つけたら倒す。もしまた見つかったらまた倒す。一匹も見つけられなくなるまでね。」

 

 ユウカは普段の彼女らしくない乱暴な主張をする。さらに話は続く。

 

「相手は先生の命を奪った。こんなの、どれだけ償いをしても償いきれないことよ。少なくとも私は絶対に許さない。まして、その犯人は今も海の中で普通に生きている。先生を殺したような奴が、なんで何の報いも受けずに平然としているの?」

「…。」

「もし同じ生き物が何体もいるならそれらは全て駆除対象よ。個体数が少ないならむしろ好都合だわ。それに調査報告では相当凶暴な生物みたいだもの。そんなの、放置してたらこの先どんな被害をもたらすかわからないわ。駆除の命令は既に発令されている。なら容赦する理由なんかない筈よ。みんなはどう思ってるの?この巨大生物のことを。」 

 

 ユウカがその場にいた全員に問いかける。

 その問いに対する皆の答えは既に決まっていた。

 

「そうだな。今の私達が考えていることは皆同じだ。確かに容赦する理由なんか一つもないね。」

 

 ウタハの返答に皆がウンウンと頷く。

 やることは決まった。

 

「それと連邦生徒会が編成する駆除部隊へはC&Cのメンバーを選出しようと思っているわ。いいわよね?」

「まあ、それが妥当だよね。」

 

 C&Cは表向きはメイド部という扱いだが、その実ミレニアムサイエンススクール最高の武力組織であり*1、所属している生徒は皆高い戦闘能力を持った者たちばかりである。故にこのような案件への推薦は当然といえた。

 

「でも、最終的に選ばれるのは一人だけだろう?となると…」

「ええ。そうね。」

 

 一応今回はチームで選出するが、連邦生徒会は各学園から一人選ぶ、と言っていた。そうなるとこの学園で一番の実力者といえば…。

 

「…言いたいことはわかったからこっちジロジロ見んな。」

 

 皆の視線が一人に集中する。

 C&Cのリーダーにして、現在ミレニアムサイエンススクールで最強である美甘ネルへと。

 

「まだ決まったわけじゃねえだろうが。まあ、もし選ばれてそのデカトカゲを殺してこいってんなら、あたしが絶対に仕留めてきてやるよ。」

 

 そう言うと、ネルは何時にも増して好戦的な笑顔を見せる。目が全く笑っていない笑顔だったが。

 

「そうなったら頼むよ。コールサイン00(ダブルオー)。」

「ああ。任せとけ。」

 

 ウタハとネルが言葉を交わす。なんだかんだで同級生らしい、親しげな会話だった。

 

「それじゃあ、エンジニア部はオルカの製作を進めてちょうだい。早急に完成させないとならないからヴェリタスもそっちに協力してほしいわ。C&Cはひとまず現状待機。正式な召集命令が来次第連絡するわ。」

 

 ユウカが最後に今後の活動を指示し、会議は終了となった。

 解散し、持ち場へと戻っていく生徒達。

 そんな中でヴェリタス部長…もとい特異現象捜査部の部長、明星ヒマリは本来戻るべき部室ではなく、彼女だけが知る秘密の工房へ向かっていた。

 

「先生を殺害した未知の巨大生物の駆除、ですか…。」

 

 噛み締めるようにそう呟く。

 彼女もまた、先生という人物に好意を寄せていた生徒の一人であり、今回の報告に強いショックを受けていた。

 そこで彼女は巨大生物を確実に葬る為に新型兵器の開発を独自に行うことを考えていた。

 

「まさか、あのビッグシスターの遺産を再び頼ることになるとは思いませんでしたね。」

 

 ヒマリ達は、以前アトラ・ハシースの箱舟攻略作戦の前哨戦にてセミナー会長の調月リオが秘密裏に建造した、要塞都市エリドゥに秘匿されていた古代のオーパーツを複数回収し、その中にあった巡航ミサイルを箱舟攻撃に使用したことがあった。

 発見されたオーパーツの中には現行のものを大きく上回る性能を持った兵器の設計図が複数含まれており、それらを行方を眩ませた元の持ち主に替わって今まで保管していたのである。

 

「どれがいいでしょうかね…。おや?これは…。」

 

 工房に辿り着いたヒマリは数ある設計図の中から一つを手に取る。

 設計図には古代文字も使用されていたと思われるが、ヒマリが回収した時点でリオによってほぼ完璧に翻訳されており直ぐにでも活用できる状態だった。

 

「成る程。この火力なら申し分なさそうですね。」

 

 虚ろな瞳で装置の設計と能力を確認していく。

 そこに記載されていた性能は、どう見ても生物一体を抹殺する為に用いる威力としては過剰すぎるうえに使用後には周辺の環境へ著しい悪影響をもたらすことが間違いないようなものだったが、自制心のブレーキが壊れてしまっていた今のヒマリは、装置が持つ攻撃能力しか気にしていなかった。

 

「それにしても、昔の人はこんな恐ろしい道具に随分洒落た名前を付けたものですね。このセンスをリオにも見習ってもらいたいものです。」

 

 ヒマリはそう呟くと新兵器を開発するべく準備を始める。

 その名称は…。

 

 

 

 

『Atomic Breath』

 

 

 

 

 

 

 

-2日目-

 

 先生が亡くなった知らせはキヴォトス中に大きな混乱を引き起こしたが、同時に多くの悲しみももたらしていた。

 多くの生徒が悲しみに暮れ、以前までの日常を継続できない程のショックを受けた者も多い。

 

「…」

 

 便利屋68の社長、陸八魔アルは新品のオフィスチェアーに深く腰掛けながら無気力に天井を眺め続けていた。

 彼女もまた、先生へ強い信頼を寄せていた生徒の一人であり、今回の事件で大きなショックを受けた者達の一人だった。 

 便利屋68の事業を心機一転するべくオフィスを新調し、先生(経営顧問)も呼んで事業成功の決起会を行おうとしていた矢先にこんなことが起きてしまったのだった。

 今ではすっかり覇気を失ってしまっており、仕事どころではない状態である。

 そして、覇気を失っていたのは彼女だけではなかった。

 

「社長、お昼ご飯どうする?」

「…ごめんなさい。今は遠慮するわ。」

「もう昨日からずっと何も食べてないでしょ。少しでいいからお腹に入れないと駄目だよ。」

 

 アルは同じ便利屋68のメンバー、鬼方カヨコからの質問にそう答える。

 一方カヨコはその返事に対して子供を叱る母親のように呼び掛ける。

 が、アルも負けじと言い返した。

 

「そう言う貴女だって何も食べてないじゃない。」

「そう。だから皆で少しでも何か食べないと。このままじゃ本当に倒れちゃうよ。」

 

 カヨコもアルと同じく、先生の訃報によるショックで昨日から殆ど食事が喉を通らなかった。しかし、今の状態を放置するのは流石に危険だと思い他の社員達にご飯を食べようと呼び掛けを始めたのである。

 アルも、今の空腹が精神面で良くない働きをしている自覚はあった。これ以上社員(大切な人)達に迷惑をかけることをする訳にはいかない、と頑張って自分を奮い立たせる。

 

「そうね、ごめんなさい。少し強い言い方をしてしまったわ。」

「別にいいよ。ほら、ムツキとハルカも呼んでくるから。みんなでカップ麺分けて食べよう。」

 

 便利屋68は過去に生活が困窮した際、一つのカップラーメンを4人で分けて食べていたことがある。

 普段であれば当然好き好んで行うことではないが、皆が食欲を失っている現状では、最低限飢えを凌ぐ為にうってつけな選択だ。

 そんな時、事務所のインターホンが鳴り出す。来客だ。

 

「あ、しまった休業中の貼り紙しておくの忘れてた。断ってくるよ。」

 

 カヨコはそう言うと玄関へ向けて覚束ない足取りで歩いていき、扉を開ける。

 

「すみません。今は休業していて依頼はお断り…」 

 

 この時、カヨコは普段の彼女ではまず犯さないようなミスをいくつもしていた。貼り紙のし忘れも、こうして相手の確認もせずに不用心に扉を開けることも。それだけ平常心を失っていることの現れだろう。

 そしてその結果、意外な人物と合間見えることとなる。

 

「あら、やっぱりいるじゃないですか。来客をこんなに待たせるなんて感心しませんね。カヨコさん?」

 

「…アコ?」

 

 事務所の前にはゲヘナ学園風紀委員会の行政官、天雨アコが立っていた。

 普段アコは後方支援が中心で前線にいないうえ、便利屋68は基本的に風紀委員会相手の対応は逃走一択なので*2、こうして顔を会わせるのは久しぶりである。

 そもそもオフィスを新しくしたばかりなのに既に居場所を特定されていること自体がとんでもないことのはずだが。

 

「…うちは今休業中で悪いことしてないからね。それじゃ。」

 

 そんな久しぶりの再会をさらっと流したカヨコは今しがた開けた扉を無情にも閉めようとする。

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい!!」

 

 しかし、アコは閉まろうとする扉に足を挟み込んで阻止する。対するカヨコも面倒事は御免なので必死で閉めようとしていた。

 アコは扉を抉じ開けながら話を続ける。

 

「ちょっと話を聞いて下さい!貴女達に依頼をしにきたんですよ!」

「今は休業中だって言ったでしょ!わかったら帰って貰える!?」

 

 今の彼女は風紀委員会の行政官としてではなく、あくまで一人の依頼主として来たようだが、今の便利屋68に依頼を受ける余裕は無いため断ろうとする。

 

「あああっ!!!もう!!!」

 

 アコは完全にキレてしまったのか、怒鳴り声をあげるとと同時に今度は凄まじい力で扉を蹴破った。自分の知る彼女らしからぬ行動にカヨコは思わず後退りしてしまう。

 

「カヨコ!?今の音は何!?」

「何?どうしたの?」

「て、敵ですか!?」

 

 玄関で起きた騒ぎの音を聞いた他の3人が慌てて部屋から飛び出してきた。

 事務所内へ入ってきたアコと便利屋68が対面する。

 アル達の目に入ったアコは、ハァハァと荒い息づかいを繰り返し目元は赤く腫れ、今にも泣き出しそうな表情している。

 

「お願いです。力を貸して下さい…。このままではヒナ委員長が…。私達だけではもうどうにもできないんです…。」

 

 アコはアル達に向けて深々と頭を下げながらそう言うのだった。

 

*1
内外には既にバレバレの事実

*2
主に最強の風紀委員長が原因

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