BLUE ARCHIVE -1.0   作:あたー

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13000字も詰め込んでたら2週間も間が開いちゃいました。
だって中途半端に区切りたくなかったから…。

それでは22話になります。








運命の分岐点

 全部隊集結後の戦闘はおよそ戦闘とは表現できないような一方的なものとなった。

 通常の銃撃は効果が無いと既に判明していたため、初めから一部の生徒以外は撹乱や体勢を崩すことに専念させ、それらで隙を作りレールガンや隕石による大質量攻撃を浴びせるという戦法を確立させたことで不利気味だった戦況は一変、今度は呉爾羅に対してほとんど一方的に攻撃を浴びせ続けることとなった。

 それでも呉爾羅が持つ圧倒的なタフネスそのものは健在だったため時折反撃に出ることはあったものの、元より大戸島での戦闘で死亡したのは先生1人だけ、つまりキヴォトス人をまともに殺害できるだけの力は初めから備わっていなかったのである。

 故に完全な準備を整えた軍団相手にまともに対抗することはできなかった。

 その結果人的被害をほとんど受けずに無力化直前という状態にまで追い込めていたのである。

 

「揺るがぬ意思で…光よ!!」

 

 アリスの光の剣から再びビームが放たれ、呉爾羅の脚部に直撃する。

 脚を掬われる形となった結果その巨体が地面に横倒しに倒れ込んだ。

 そこへ向けてミカの隕石が無防備になった胴体の横腹に直撃する。

 その攻撃を受けた呉爾羅はか細い呻き声を上げながら全身を痙攣させた後、ぐったりと動かなくなった。

 

「…やった?」

「いいえ、まだ死んでないわ。」

 

 映画等でよく生存を保証する場合に言われるようなセリフを発した千鳥ミチルにヒナがそう答えた。

 呉爾羅は倒れ込んだまま浅い呼吸をひたすら繰り返している。

 呼吸の度に口から血が絶え間なく流れ続けていた。

 その体は既に夥しい数の生傷に覆われ、度重なる隕石の直撃を受けた背中の背鰭はいくつか欠けてしまっていた。

 

「まだ倒しきれてないの?もう弾があんまり残ってないんだけど…。」

「ん…ドローンのミサイルも、グレネードも切れた。あとはライフル弾だけ。」

「みんな大分弾少なくなってるね…。」

 

 アビドス学園の面々が呟く。

 この生物の生命力は凄まじいもので、今の倒れ伏した状態に持ち込むまでに大量の弾薬を消費した。

 その為彼女達だけでなくこの場にいるほぼ全員が弾薬切れ一歩手前まで追い込まれていた。

 

「みんな弾無くなったちゃった?なら私だけで続きやらせてもらおうかな。」

 

 ミカは銃を地面に置くと指をボキボキと鳴らしながら呉爾羅に近付いていく。

 彼女も他の皆と同様に弾が残っておらず隕石攻撃を封じられている状態になっていた。

 するとミカは呉爾羅の大きな腹部に目掛けて全力でパンチを叩き込んだ。

 呉爾羅が大きく吐血する。

 

「はは、痛い?」

 

 殴る。

 

「オマエが」

 

 殴る。

 

「死なせた」

 

 殴る。

 

「先生は」

 

 殴る。

 

「もっと」

 

 殴る。

 

「もっと」

 

 殴る。

 

「ずっと」

 

 殴る。 

 

「痛かったん」

 

 殴る。

 

「だから」

 

 殴る。

 

「それよりも」

 

 殴る。

 

「ずっと」

 

 殴る。

 

「痛くて」

 

 殴る。

 

「苦しい」

 

 殴る。

 

「思いを」

 

 殴る。

 

「してから」

 

 殴る。

 

「死ななきゃ」

 

 殴る。

 

「釣り合いが」

 

 殴る。

 

「取れない」

 

 殴る。

 

「じゃんか」

 

 殴る。

 

「ねっ☆」

 

 渾身の力を込めて最後の殴りを食らわせる。

 いつしか呉爾羅はピクリとも反応しなくなっていた。

 

「あれ?死んだ?」

 

 動かなくなった体をゲシゲシと蹴り飛ばす。

 反応のないサンドバッグ状態になったことでミカは不満げだった。

 そこへ近付いてくる人影がいた。

 

「この怪物が生きているかどうか確認する方法はまだありますよ。お見せしましょうか?」

「へ?そんなのあるの狐ちゃ…わーお☆」

「狐ちゃんではなくワカモです。まあ見ててくださいな。」

 

 ミカが振り向いた先にいたワカモは自分の背丈以上の大きさがある大木を担いでいた。

 その形状はまるで鉛筆かドリルのように先端が鋭く削られており、何かに突き刺すのに適したものに加工されていた。

 そしてひょいっと呉爾羅の頭上まで飛び上がるとそのまま頭部に向けて落下する。

 

「ふんッ!!」

 

 彼女の抱えていた大木はそのまま抉れていた右目部分に突き刺さった。

 呉爾羅が呻き声をあげながら頭をモゾモゾと動かす。

 鈍い反応だがその痛みは計り知れないものだった。

 

「なーんだ、まだ生きてるじゃん♪」

 

 眼前で起きる凄惨な出来事とは裏腹にミカは楽しげな笑顔を浮かべる。

 それを見ていた周囲の生徒達も特にそれを諌めるようなことはしない。

 むしろもっとやれと言わんばかりだった。

 だがその空気に乗れない者も中にはいた。

 

「アリスちゃん、見ちゃ駄目よ。」

「ユウカ?どうして目を塞ぐんですか?」

「ちょっとだけ我慢してて。ほら、あなた達もよ。」

 

 ユウカがアリスの両目を塞ぎ、モモイ達にもそれを促す。

 彼女は後輩達にこんな残虐な現場を見せようとはとても思えなかった。

 自身も先生を殺害した怪物のことを憎んではいるが、それとこれとは別である。

 もうこれ以上は痛みを与えるための攻撃などやめて、早くトドメを刺してやれというのが今のユウカの心境だった。

 

「ねーねー!ゲヘナの人!爆薬とか持ってない?」

「爆薬?」

「あれ?ゲヘナって爆薬くらい下着と同じような感覚で身に着けてるんじゃないの?」

「私達をなんだと思ってるんだ!?」

 

 ミカがさも当然でしょとばかりにそんなことを言うのでイオリはプンプンと怒りだす。

 だがその質問に答える声があった。

 

「爆薬なら持っていますわよ。」

「おっ、いいねー!」

「持ってるのか…ってお前らなら確かに持ってるよな。」

 

 ハルナがミカに向けてそう話す。

 声の主が誰かを理解したイオリは呆れながらも納得したような態度をとりながら溜息を吐いた。

 そしてハルナの発言を聞いたミカはウキウキしながら説明を始めた。

 

「私が口をこじ開けておくから持ってる爆薬をありったけ仕掛けてもらえない?そしたら口の中でドカーンってさ!」

「あら、それは良いですわね!」

「でしょー?」

 

 ニコニコしながら物騒な会話を続ける。

 見守る者達は少しうげえと思いながらもそれを止めようとはしなかった。

 そんな様子を眺めていたホシノが隣にいたヒナ達に向けてボソッと一言呟く。

 

「コイツ、あとどれくらいで殺せると思う?」

 

 ここまで散々攻撃を行って、更にほぼ全弾命中という状況で尚生命を保っている呉爾羅に彼女は軽く畏敬の念すら抱き始めていた。

 ホシノやヒナ達ですらここまで一方的に銃爆撃の直撃を受けて意識を保っていられる自信は無かったのだから当然といえる。

 口の中で爆発を試すのはけっこうだが、果たしてそれで本当に効果があるのかと彼女は次第に疑問を持ち始めていた。

 その時、突然無線機から声が聞こえ始める。

 

『ラゴス島上陸部隊、及び司令部の皆さん、私の声が聞こえますか?』

 

 ここにはいないとある生徒の声。

 それはミレニアムサイエンススクールに所属する者達にとってはとても聞き馴染みのあるものだった。

 

「ヒマリ先輩?」

『はい。先程からドローンでことの成り行きを見させていただいていたのですが、私から怪物1号への攻撃に新兵器の使用を提案したいと思いまして。』

「新兵器?」

 

 ヒマリの語った『新兵器』という単語に皆の注目が集まる。

 疑問にお答えしましょうとばかりにヒマリは説明を始めた。

 

『はい。端的に言ってしまえば熱線砲です。ただし、発生させるのは数万度に達する超高熱の熱線になりますが。』

「すうまんっ…!?」

 

 説明を聞いた面々からどよめきが上がる。

 熱線砲自体はキヴォトスにおいて決して珍しいものではないのだが、数万度という高温を発生させるものなど聞いたこともない。

 それどころかそこまでの温度となればキヴォトス人であっても欠片すら残らず蒸発してしまうような規格外のものである。

 本来ならば『そんなものあるわけないだろう』と一蹴してしまうような荒唐無稽な話だが、それを一笑に伏さない人物がいた。

 

「明星ヒマリ。その新兵器、一体どこで入手したの?」

『入手?』

「ええ。そんな規格外の兵器となると、私達が捜索を続けているゲヘナの雷帝が残した遺産の一つである可能性が捨てきれないの。教えて貰えるかしら?」

 

 ヒナが真剣な面持ちでヒマリに尋ねる。 

 彼女が懸念していたのは以前アビドス砂漠に残置されていた列車砲のようなゲヘナ製の超兵器が今作戦で使用されている可能性だった。

 

『ああ成る程。ご心配されているところは理解しましたが、ご安心ください。これは私が自分で作成したものです。と言っても、とある経緯で入手した設計図から再現したもので独自設計ではございませんが。』

「…設計図?」

『はい。古代のオーパーツの一種、といったところです。過去のゲヘナに関係あるもので無いことだけは保証しますよ。』

「…そうなのね。わかったわ。」

『それで、どうされますか?私が見た限り、今の皆さんには怪物1号を駆除できるだけの火力が足りていないのではとお見受けしたのですが。』

 

 通信が終わると沈黙が訪れる。

 ヒマリからの提案は確かに魅力的なもので、ここまでに使用した弾薬量と呉爾羅の状態を見るに今のやり方で戦闘を続けた場合相当な時間を要することは間違いなく、それどころか倒せるかどうかの雲行きすら怪しくなってきていた。

 だが彼女の言う数万度の熱線による攻撃となれば100パーセントといえる確立で呉爾羅を抹殺することができる。

 そんな高温に耐えられるような生物など存在する筈が無いのだから。

 だがそんな特徴であるが故に話を聞いた面々は彼女の提案にすぐに飛びつくことができなかった。

 

「おいヒマリ、その熱線ってのは正確にはどんな性能だ?」

『性能、というと?』

「数万度の熱線を使った影響なんて、絶対にコイツを殺すだけで終わる訳がねえ。この島の周りにも相当な被害がでるんじゃねえか?そこんところどうなんだよ?」

 

 ネルが懸念していることを尋ねる。

 不良じみた性格や態度からは想像できないが、彼女はミレニアムでトップの学力を持つインテリの一人であり、ヒマリの語った断片的な情報からその兵器がもたらすと考えられる影響を即座に指摘したのだった。 

 

『そうでしたね。ではご説明します。この兵器、私達は『放射熱線』と呼んでおります。特徴としては先程お話した通り、熱線を発射するものなのですが、最も相手に打撃を与えることができるのは着弾点に発生させる爆発です。』

「爆発?」

『はい。計算上の爆発力はTNT爆薬16キロトン相当、爆心地から半径2キロメートルの範囲を壊滅させる性能があります。』

「TNT爆薬16キロトン!?」

 

 ユウカが声を荒げる。

 彼女以外の皆も大げさな反応こそしないものの、その驚異的な数値に驚かされていた。

 加えて効果範囲が半径2キロメートルにまで及ぶということにも。

 

「そんな危険なものを使うなんて認められる訳ないでしょう!?」

 

 ユウカが抗議の声を上げる。

 彼女は学園を統括する生徒会(セミナー)の一員としてどこまでも冷静に呉爾羅への対処法を考えていた。

 そんな彼女にとって、明らかに標的の駆除だけに留まらない程の破壊力を持った危険な兵器の使用など断固として認められるものでは無かった。

 だがそんなユウカの抗議に対するヒマリの答えは不気味な程に冷徹なものだった。

 

『ユウカさん、使用するかどうかを決めるのは非常対策委員会の司令部です。貴女一人で決定するものではありませんよ。そうですよね、『首席行政官』?』

『…はい。』

「代行…!」

 

 今度は通信を聞き続けていたリンに話が振られる。

 ヒマリの言う通り本作戦における最終決定権を持つのは非常対策委員会、その最高責任者であるリンだ。

 放射熱線を使用するかどうかの判断は彼女の決定によって決まる。

 

「代行!!こんな危険なもの使用するなんて駄目!!もっと他に方法があるはずよ!!それこそ今の攻撃を続けていればいつか…」

 

 ユウカがリンに向けて必死に訴える。

 だがそこで事の成り行きを見ていたホシノがある異変に気付く。

 人が集まっていた呉爾羅に僅かな動きがあった。

 まるで立ち上がろうとしているかのように脚をたたみ始めていたのである。

 そして作業に没頭するミカ達はそれに気づいていない。

 悪い直感がした。

 

「みんな!ソイツから離れて!!」

 

 ホシノの叫びが響き渡ると同時に呉爾羅は右手を大きく動かし油断していたミカをはじめとした生徒達を吹き飛ばした。

 そのまま傷だらけの体をゆっくりと起き上がらせる。

 立ち上がることはできたものの今にも倒れそうな程にフラフラしていた。

 そんな中でも口に仕掛けられていたプラスチック爆薬を噛み砕くとそのまま吐き出して無力化する。

 爆薬による攻撃はもうできない。

 

「くっ!!」

 

 間一髪で攻撃を躱したワカモも慌てて飛び退く。

 普段の彼女らしからぬ対応の遅さだった。

 怒りと憎しみに塗り潰され周囲への注意を疎かにしていた結果だった。

 

「おい!!全員下がれ!!」

 

 ネルの言葉で周囲にいた生徒達が慌てて呉爾羅から離れる。

 それとは逆に彼女やホシノ達4人は猛スピードで相手に接近していった。 

 

「はあッ!!」

 

 グロッキー状態の呉爾羅の頭部目掛けて飛び上がったヒナとホシノの二人が蹴りを叩き込んだ。

 頭が大きく揺さぶられ、目に突き刺さっていた木が抜けて飛んでいく。

 だが飛び蹴り程度では最早なんの障害にもなっておらず、呉爾羅は揺さぶられた頭を勢いそのままにホシノ達に向けて一気に振りかぶり頭突きを仕掛けてきた。

 ホシノは咄嗟にヒナの体を引き寄せると盾を構えて反撃を防御する。

 だが空中にいたこともあり二人の体は派手に弾き飛ばされることとなった。

 

「があっ!?」

 

 二人は先程のツルギのように木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされていく。

 どれだけ傷付いていてもその巨体から繰り出されるパワーは健在だった。

 

「ターゲット、ロックオン!光よ!!」

 

 ホシノ達に気を取られている隙にチャージを終えたアリスの光の剣がビームを発射する。

 立っているのがやっとな状態の呉爾羅がそれを回避することは不可能だった。

 光線の直撃を受けて巨体が吹き飛ばされる。

 倒れ込んだ呉爾羅は再び動かなくなった。

 

「もう動けるようになるなんて…。」

「全く油断ならねえな。おい、全員大丈夫か?」

 

 驚愕を隠せないユウカの隣でネルは最初に吹き飛ばされた面々を気に掛ける。

 彼女が視線を配るとハスミに心配されながらも何事も無かったかのように立ち上がるミカの姿が目に入った。

 噂半分だった話だが、どうやら美園ミカという人物がツルギに匹敵する程の武闘家というのは決して誇張ではないらしい。

 他にも爆薬を仕掛けていたハルナ達をはじめとした複数名が「いてて…」と言いながら起き上がっている。

 どうやら皆軽傷程度で済んでいたようだった。

そして吹き飛ばされていたホシノ達も何食わぬ様子で戻ってくる。

 

「いや参ったね。まさかまだあれだけ動けたなんて。」

 

 ホシノは困ったような表情を浮かべながらそう呟く。

 その視界には倒れ込んだままの呉爾羅が映っていた。

 

『これは、もう手段を選んでいる余裕は無いのではありませんか?』

 

 その声を聞いた周囲の皆にも重い空気が漂い始める。

 先程まで抗議の声を上げていたユウカも今度は何も言い返すことができなかった。

 

 これまでの数々の戦闘。

 ユウカ達の不意の接触を除けばホシノ達4人による戦闘、そして全員集結からの総攻撃。

 これらを持ってしても呉爾羅を死に至らしめることはできなかった。

 加えてここまでに相当な量の弾薬も消費している。

 一度倒れ込んだ時は仕留める直前まで追い込んだかと思われたが、先程の復活した様子を見ると果たして本当にそこまで追い込むことができていたのかも最早疑わしい。

 このまま先の見えない戦闘を続けても倒すことはできないのではないかという不安が次第に確信へと変わりつつあった。

 

「私はその新兵器を使うべきだと思います。」

「ツルギさん…?」

「私はあの生物を倒すのにどれだけの火力が必要か見当もつきません。正直、最初はネルさん達と4人でも倒せると思っていました。ですが結果はこの通り。だから、『倒せる筈だ』という考えだけではこの先間違いなく失敗すると思います。それなら確実に倒せる方法を選ぶべきです。」

「確実な、方法…。」

 

 ツルギが自分の考えをユウカに伝える。

 そしてそれを皮切りに皆がヒマリの案に賛同する声を上げ始めた。

 

「私もツルギさんに同意します。今の戦力でゴジラを駆除できる確実な手段は、現状これしかありません。」

「ミヤコちゃん…!貴女までこんな危険な武器を使おうっていうの!?それでもSRTなの!?」

「本作戦の最優先事項はゴジラ…怪物1号の駆除です。そして今の我々には時間の余裕がありません。標的がいつ再び動き出すか分からない中で確実に抹殺する為には、この兵器の使用は正しい選択です。」

 

 更にミヤコ以外にも大勢が放射熱線を使用すべきという意見に同意し始める。

 

「私も同意見です。この怪物を殺せるならば周囲への被害など関係ありません。」

「ワカモ…貴女はまたそうやって無責任なことを言って…!」

 

 無責任な態度を示すワカモにユウカが怒りを滲ませる。

 だがその会話にリンが割り込んだ。

 

『本作戦の全責任は私にあります。皆さんは私の指示に従って行動したに過ぎません。』

「代行…!一人で全部背負い込もうっていうの!?」

『これは非常対策委員会設立の時点で定められていた決定事項です。異論は認めません。』

 

 動揺するユウカに対してリンは冷徹に告げる。

 そして最後にこう言い放った。

 

『非常対策委員会より作戦行動中の総員へ通達します。現時刻を持って怪物1号に対する攻撃に明星ヒマリさんの製作した放射熱線の使用を決定します。回収用のヘリを送りますので上陸中の全隊員はラゴス島より退避してください。』

「ちょっと待ちなさいよ!!そんなすぐに決めなくてもいいじゃない!!それなら対艦ミサイルの攻撃を行って様子を見てからでも…」

 

 司令部の決定にユウカは食い下がった。

 そんな彼女に声が掛けられる。

 

「ユウカ。」

「ネル先輩…先輩からも何か言ってよ!!こんな危険なものを使おうだなんて…」

「悪いがあたしも放射熱線を使う方に賛成だ。」

「そんな…最初にこれの危険性を指摘したのは貴女でしょう!?なのにどうして!!」

「ああ。確かに最初は使うべきじゃないって思ってたよ。けど、さっきの見ただろ?ここにいる戦力であれだけやったにも関わらずコイツは死ぬ気配がねえんだ。」

「それは…」

「あたしだってその放射熱線ってのがどんな危険なものかくらい想像できる。だけど、コイツをここでみすみす逃がすなんてのも絶対にゴメンなんだよ。先生を殺した奴に復讐してやろうって息巻いてたのはお前だってそうだろう?」

 

 ネルの言うとおり、これまでユウカは先生の仇を討つことに執念を燃やしてきた。

 呉爾羅討伐の為の装備品を非常対策委員会へ惜しみなく提供していたのがその証左だ。 

 それこそ今回呉爾羅を発見できたのもミレニアムサイエンススクールが提供していたオルカとソナーの存在があったからである。

 だからこそネルはここで突然方針を切り替えるようなことはできないだろうと言っているのだ。

 しかしユウカはすっかり当初の勢いを失ってしまっていた。

 思わず倒れ伏したままの呉爾羅へ憐れみの目を向ける。

 視界に映ったその姿は思わず同情を感じざるを得ない程にズタズタになっていた。

 彼女の心に一瞬、この怪物を許してもいいのではないかという気持ちが湧き上がる。

 しかし、その考えを否定する意見が突きつけられた。

 

「どの道、この怪物はここで確実に殺しておかなきゃならねえ。ここまで派手にやりあった以上、コイツは人間のことを『自分に攻撃を仕掛けてくる敵』だと認識した筈だ。となると、生かしておいたらこの先人間に無差別に襲いかかる可能性が高いんだよ。」

 

 ネルが自分の考えを伝える。

 だがそれを聞いたユウカが感じたのは彼女の考えに対する憤りだった。

 

(危険な存在だと認識したって、一体誰のせいだと思って…)

 

 そこでユウカはあることに気付く。

 

(誰の、せい…?)

 

 呉爾羅をここまで追い詰めたのは人間達、そして自分もそれに加担していた一員だったのだと。

 今更善人ぶったところで自分がこれまでしてきたことは、ユウカが呉爾羅を追い詰めた人間の一人であるという事実は消えない。

 事態は既に取り返しの付かない段階まで来てしまっているのだ。

 ならば、もう進むしか道はない。

 

「わかっ…たわ。」

 

 ユウカの同意を確認すると、いよいよ作戦が実行へと移される。

 

「それじゃあ手筈通り、ヘリが到着したら全員島から退避、安全圏で待機よ。」

 

 ヒナが皆に指示を送り、全員が撤収を行うべく準備を始める。

 一方で散乱していた呉爾羅の肉片や血液の回収作業をしている者もいた。

 ミヤコに至っては手のひらに入り切らないような大きさの背鰭の破片を拾い上げていた。

 それが研究目的なのか、それとも何か別の目的なのかは周りの者達には分からない。

 そんな中ホシノやミカ等一部の生徒達は再び呉爾羅へとにじり寄り始めていた。

 不審に思ったヒナが彼女らに尋ねる。

 

「何をしているの?」

「いやーまだヘリが来るまでまで時間があるじゃない?だからさ…」

 

 そしてホシノは残っていた弾を銃に込めて装填を完了させると、光を失った瞳のままこう呟いた。

 

「コイツが逃げないようにもう一回痛めつけておかないと安心できないんだよね〜。」

 

 

 

 

 

「おいヒマリ、お前今何処にいる?」

『…答えなければなりませんか?』

「あん?教えたくないってか?」

『正直に言いますと、そうです。』

「おいおい、お前危険な兵器使おうってのに一人でこっそりやる気かよ。今更リオの真似事なんてしようとしてんじゃねえ。」

『あら、これは随分傷つくことを言われてしまいましたね。』

「ったく、そういうのは一人いれば十分だっつの。とにかく、あたしとユウカをお前のところまで案内しろ。」

「お二人をですか?」

「新しい兵器を試射するならセミナーの監視下で行うのが本来の決まりだろ。まさか忘れたわけじゃねえだろうな。」

『…そうですね。分かりました。無人機をそちらに送ります。お二人と…ワカモさんも一緒に連れてきてください。』

「ワカモを?」

『はい。あの人とはとある約束を交わしていていまして、それを果さなければならないんです。』

 

 そんなことを話していると、ヘリの飛行音がいくつも近付いているのが聞こえた。

 あらかじめ木を破壊して確保していた着陸地点にヘリが降下すると生徒達が撤収の為に次々と乗り込んでいく。

 その中にパイロットの乗っていない不審な機体があった。

 

『そこに無人の機体があるのがわかりますか?』

「ああ。これに乗ればいいんだな?おい!ユウカ、ワカモ、早く来い!」

 

 ネルは二人に声を掛ける。

 すぐに駆け寄ってきたワカモとは対照的に、ユウカは更にズタズタに傷つけられて死んだように動かなくなった呉爾羅を茫然と眺め続けていた。

 

「ユウカさん。」

 

 ワカモが話しかけるが、気付かないのか無視しているのか、ユウカは自身を呼ぶ声に反応を示さない。

 

「参りましょう。」

「…ねえ、ワカモ。」

「何か?」

「貴女は何か思うことはないの?こんなことまでして、この生き物の命を奪おうとしていることに。」

「何を仰るかと思えばそんなことですか。こんな生物に同情する余地なんてありませんよ。先生を殺したような奴にのうのうと生きている権利はありません。一刻も早くこの世から消滅させるべきでしょう。」

「…貴女に聞いたのが間違いだったわ。」

「何を言いますか。先生のことを好いていたのはユウカさんも同じだったのではないですか?」

「それは…そうだけど…。」

「それならこの怪物へ復讐することに躊躇いなど無いはずではありませんか?」

 

 ワカモの言葉でユウカの感情は余計に掻き乱される。

 先生を殺した憎い相手への復讐というずっと待ち望んでいた瞬間にも関わらず、今の彼女はどうしてもこの怪物に対して非情になりきれなかった。

 

「おいさっさと来い!!他のやつら、もう行っちまったぞ!!」

「時間がありません。早く行きましょう。」

 

 その言葉に対して返事をすることもなく、黙ったままユウカはヘリに向けて歩きだす。

 

(本当に、これでいいの?もしここに先生がいたら…どうしていたのかしら…。)

 

 依然として納得はできていなかったが、最早自分にできることは何も無いとユウカは諦めるしかなかった。

 

(そういえば、さっきミヤコちゃんが言ってたゴジラって何なのかしら。怪物1号の名前…?)

 

 

 

 

 

 無人機に乗せられて辿り着いた先にあったのはクルーズ船のような風貌と大きさをした船だった。

 とても軍艦には見えない見た目で、民間の船を改造したもののようである。

 

「あれは…?」

 

 船の艦首付近には何か見たことの無い機械が取り付けられていた。

 その見た目は分厚くなった巨大な一眼レフカメラのようで、レンズに当たる部分が船の右舷方向、島の方へと向けられている。

 発射機本体に当たる部分はとても洗練された見た目とは言えず、大量のケーブルや部品が剥き出し状態で、良い言い方をすれば手作り感が強く伝わってくる外観をしていた。

 そして発射機後部にはまるで送油用パイプのように極太の管が連結されており、その管には謎の棒状の突起がV型エンジンのシリンダーのような形で何列も並んでいた。

 そんな物々しい見た目をした管の先は巨大なガスタンクのような物に繋げられている。

 この時点でこれが話にあった放射熱線なのだろうと察することができた。

 新兵器に目を奪われていると、突然船体のど真ん中にあった艦橋部の屋根が開き、そこへ機体が降下していく。どうやらこんな見た目でもただのクルーズ船ではないようだ。

 ヘリが着陸し、船内へ脚を踏み入れると無線機からヒマリの声が聞こえてくる。

 

『皆さんお疲れ様でした。部屋の正面に見える扉が作戦指令室への通路になっております。どうぞそちらへ。』

 

 案内に従い、三人で通路へ歩き出す。

 そこそこ長い廊下を歩いていくと、様々な機材とモニターでごちゃごちゃに埋め尽くされた部屋に辿り着いた。

 

「ようこそ、皆さん。」

 

 機材を弄くるヒマリが声を掛ける。

 見渡す限りこの船には彼女一人しか乗っていないようだった。

 

「ハッ、驚いたな。こんな凝った船いつ造ったんだよ?」

「とある組織が闇市場に放出していた工作船が安く入手できましたのでそちらに改造を加えました。初めから設備が備えられていたので早く準備を整えられましたよ。急ごしらえだったので全く整理ができていませんが。」

 

 秘密基地としか表現できないような部屋の景色を眺めながら尋ねるネルにヒマリは答える。

 どうもこの船や無人機はあまり表沙汰にできない経路から入手したもののようだった。

 

「ヒマリ先輩、さっき説明していた放射熱線の性能は本当なのよね?」

「まだ私も実際に使ったことはありませんので、設計書に記されていたものをそのま鵜呑みにすればそうなりますね。」

「だとしたら、これは私達ミレニアムだけで収まる問題ではなくなるわ!キヴォトス全体のパワーバランスが大きく変わってしまうはずよ!どうするつもりなの!?」

「ええ。なのでこれをたった今セミナーに提出させていただきます。」

 

 そう言うと、ヒマリはユウカに一枚の紙を手渡してくる。

 

「これは…退学届!?一体何を考えてるの!?」

「いいですか?これから起きる出来事は、全て明星ヒマリというどこにも所属しない一人の人間によって引き起こされたもの。ミレニアムサイエンススクールには一切関係の無いことなんですよ。」

「まさか、これを渡す為に私達をここへ!?」

「ええ、そうです。最初は陸に戻ってから渡そうと思っていたのですが、攻撃前の今渡すほうが筋が通っていると思いましてね。ネルさんからの要望もありましたのでお二人にここまで来て頂きました。」

 

 淡々と事情を話すヒマリ。

 だが彼女の行おうとしている『退学』とは、キヴォトスの生徒にとっては人権そのものの放棄に等しい。

 学生でなくなった子供の行き着く先などヘルメット団のような毎日の寝食すらままならない生活だけである。

 ヒマリの頭脳であれば大きな組織に取り入ることもできるかもしれないが、それでもすることといえばほとんど犯罪、下手をすればそれらの駒として使い捨てにされる未来が待っている可能性が高い。

 キヴォトスにおける子供の扱いなどそんなものである。

 というより大量破壊兵器の作り方が頭に入っている彼女のことを悪い大人達が黙って放って置くとはとても思えない。

 そんなことが容易に想像できるというのにそれを一切気にしていない様子の彼女がユウカには信じられなかった。

 

「そんな…こんなの駄目よ!この後にどんな未来が待ってるか分かりきっているのに一人で孤立しようだなんて絶対に間違っててるわ!!先輩はそんなことをするような人じゃなかったでしょう!?」

「未来のことならこの先どうにでもできます。ですが先生の復讐を果たすチャンスは今しかありません。あの生物には私達が考えうる中で最も強い苦痛を与えてから地獄に送ってやるんです。やめる気はありませんよ。皆さんもそれを期待されていたようですから。そうですよね?ネルさん。」

 

 妖しい笑みを浮かべながら確認を取るように尋ねる。

 島でのやりとりのせいもあってか話を振られたネルはバツが悪そうに目を逸らした。

 

(ああ…駄目だ…。)

 

 彼女の返答を聞いてユウカは確信した。

 今のヒマリは復讐心で完全に壊れてしまっている。

 ユウカ自身も相当壊れてしまっていたと自覚していたが、ラゴス島に上陸してから出会った者達は彼女を上回る程に壊れきった人間ばかりだった。

 怪物1号を殺すことだけがヒマリの、ひいては壊れた彼女達全員の生きる目的になっている。

 周囲に与える被害や影響など最早眼中に無い。

 それを気にして正気に戻れたユウカは全く壊れてなどいなかったのだ。

 

「CP、こちら明星ヒマリです。ラゴス島からの退避状況はどうなっていますか?報告を願います。」

『CPより明星ヒマリへ、ラゴス島からの全員退避を確認。繰り返します。全員退避完了です。現在無人偵察機で怪物1号の監視を継続中。依然目標に動きなし。』

「こちら明星ヒマリ、了解しました。ではこれより攻撃体勢に入ります。全ての船舶はラゴス島より半径6キロメートル以上の距離を取り、乗員は全て艦内へ退避させるようにしてください。絶対に屋外に人を残してはなりません。」

『こちらCP了解。全部隊へ情報を共有します。』

 

 連絡を終えたヒマリは各種端末を操作し攻撃準備を整え始める。

 

「放射熱線、作動開始。発動機作動確認。動力充填完了まで残り1分。」

 

 その言葉と共にエンジンが起動したと思われる低い駆動音と、充電を行うかのようなジジジジ…という音が船外から聞こえ始めた。

 

「スタビライザー正常作動確認。照準開始。目標、ラゴス島沿岸部。距離4000メートル。波による照準への影響、無し。」

 

 指令室には窓が無く、外の様子は大量に設置されたモニターで確認するようになっている。  

 その画面の一つに、放射熱線本体が映っているものがあった。

 画面に映る短い砲身が僅かに上下左右に駆動し、照準を合わせているのが見える。

 

「ワカモさん。こちらへ。」

 

 するとヒマリはずっと沈黙していたワカモに声を掛ける。

 呼ばれた彼女は黙ったままヒマリの隣へ移動した。

 

「これが発射ボタンになります。私の指示に従って押してください。いいですね?」

「わかりました。」

 

 そう言う二人の目線の先にはプラスチックのカバーで覆われた真っ赤なスイッチがあった。

 如何にも重要なボタンといった見た目である。

 

「ユウカ、ちょっと耳貸せ。」

 

 ネルは呆然としていたユウカを自分の側へ引き寄せると、耳元へ向けて小声で話を始めた。

 

「動力充填完了。砲身への出力置換を開始。」

 

 そんなヒマリの報告と同時に、発射機本体に繋がっていたパイプにV字型に取り付けられていた棒状の突起がタンク側に近いものから順にガシャン、という音を立てて突き出し始める。

 さらにどういう訳か突き出しの動作に連動するかのように謎の青白い光がパイプから迸り始めた。

 

「砲身への出力置換50パーセント…60パーセント…」

 

 状況を知らせる淡々とした声に呼応するかのように次々と突起が突き出していく。

 

『CPより明星ヒマリへ、作戦行動中の艦艇全ての安全圏への退避、及び全隊員の屋内退避を確認。』

 

 無線機から報告が入る。

 それとほぼ同時に突起の突き出し動作が発射機本体のものにまで到達し、砲口部も青白く光始めた。

 

「明星ヒマリ、了解です。こちらも全ての準備が完了しました。攻撃の許可を願います。」

『こちらCP了解。放射熱線による攻撃を許可します。』

 

 その言葉を聞いたヒマリは安全装置を解除し、カバーを開いて赤いボタンを露出させた。

 

「出力置換100パーセント。カウントダウンを開始します。ワカモさん、用意を。」

 

 発射ボタンにワカモが指を掛ける。

 世界を変えてしまう瞬間が刻一刻と近付いていた。

 

「攻撃10秒前。」

「9…」

「8…」

「7…」

「6…」

「5…」

「4…」

「3…」

「2…」

「1…」

 

「発射。」

 

 次の瞬間、突き出ていた突起達が一斉に引き込むと同時に砲口から巨大な青白い光線がラゴス島へと放たれた。

 放たれた放射熱線は島の海岸部に直撃し、直後に超巨大な爆発を発生させる。

 夜の闇に包まれていたラゴス島とその周辺が太陽に照らされたかのような明るさに呑み込まれた。

 




-登場兵器(オリジナル設定)-
◎放射熱線
 古代のオーパーツの一種とされる強力な熱線砲。
 既に設計図を残すのみとなっていたが明星ヒマリの手によって現代に蘇ることとなった。
 使用者の身を守る為に効果範囲の2倍以上となる4000メートル超えの射程を持っている。

 突起が突き出す動作は例のあの動きがモチーフ。



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